第56弾:選手がみせた、その横顔 46
Inside the RICOH BlackRams
2012.09.05
リコーブラックラムズ(リコーラグビー部)を支える選手たちの、ラガーマンとしての思いや、これまでのキャリアに関するエピソードをご紹介します。リコーというラグビーチームは、彼らの個性と歩んできた道程、積みあげてきた経験が混ざりあって、今の姿があります。
絶対に手を抜かない"速い"先輩たち でも、負けたくないんです。(渡邊昌紀)
「だいぶ慣れました」
話を聞いたのは7月。入社から4ヵ月足らずのルーキーながら歯切れがいい。
小吹祐介、ロイ キニキニラウ、小松大祐、星野将利、横山伸一、横山健一、長谷川元氣など、個性あふれる選手たちが居並ぶWTBというポジションに、新たな色を加えることを期待される“1ピース”だけある。
「(大学時代には)複数のチームから声をかけていただきました。リコーのバックスリーには若い選手も多く、競争に勝たないと試合に出られません。WTBが30代の選手中心で、世代交代が近いチームからのオファーもあったんですが、厳しい環境で自分を高めたいと思ったんです」
また、それ以上に大きかったのが、関東学院大学の同ポジションの2つ上先輩・長谷川元氣の存在だ。
「進路については元氣さんに相談したこともあります。ずっとよくしてもらってきた、本当に尊敬している先輩です。上下関係が厳しいラグビー部でしたが、元氣さんには何でも話せる。一緒にプレーしたいという気持ちは強かったです」
慣れたといっても、もちろん社会人のレベルの高さは感じている。コンタクトの強さは当然のこと、シンプルなラグビーを磨き上げる関東学院大学とは異なる、高度な戦術の理解もまだ途上にある。
「アタックなら、ショートサイドを攻め続けて、相手の選手を引きつけてオープンに展開しつないでいく。そんな基本の精度を高めていくのが関東学院のラグビーでした。だから、今は覚えることがたくさんあってなかなか大変です」
幼少時代は、とにかくやんちゃな子供だった。
「3才下の弟を連れて、高いところから飛び降りる度胸試しをやって、親に怒られていました。それ以外にもいろいろと無茶な遊びをしては怒られていました」。
ラグビーを始めたのは小学校3年。いろいろなスポーツに興味を持っていたが、小学校のラグビークラブの練習に参加すると、しっくりきたのだという。刺激的な遊びが好きだった渡邊を満足させる魅力が、ラグビーにはあったのだ。
「みんなでつないだボールを持って、相手をかわして走る。かわしきってトライを決めると、チーム全員が喜んでくれる。それがうれしかった。みんなで力を合わせる楽しさ? そういうものを感じていたと思います」
中学ではSH。高校ではいろいろなポジションに挑戦し、走力がつくとWTBに定着した。大学でラグビーをする道に進んでいなければ、消防士になりたかったのだという。「やんちゃで度胸試しが大好きだった子供時代からのあこがれだったので」。だが、大学で才能はさらに開花。3年生の頃にはトップリーグのチームから声がかかった。
5月に東京・秩父宮ラグビー場で開催された“セブンズフェスティバル2012”では、横山兄弟や長谷川らとともにピッチに立ち、快足で相手を抜きさるランニングでチームの準優勝に貢献。初トライもしっかり決めた。
「初トライを決めた前の試合で、すごくいいパスをもらいながらミスしているんですよ。それで(横山)伸さんと健さん、元氣さんに喝を入れられて(笑)。結構丁寧にいきました」
存在感のある先輩たちに尻を叩かれた渡邊が、明るさと元気のよさではリコー随一のバックス陣の一員となった瞬間だった。
「足の速さには自分も自信があります。先輩たちはすごく速い上に、絶対に手を抜かない。大学時代には感じられなかった刺激を受けています。絶対に負けたくない」
社業でも、わからないことばかりといいつつも、オフィスの先輩たちのフォローに支えられながら奮闘中だ。「ラグビーだけではない人間になる」ことも渡邊のテーマだ。
網走合宿序盤のパナソニック・ワイルドナイツとの試合では、それまでのパフォーマンスが評価されメンバー入りした。しかし“気合いが入り過ぎて”直前にケガ。アピールのチャンスを逃し悔しそうな表情を見せていたが「悩んでいてもしょうがない。切り替える」と前を向く。
悩むこともあるが、最終的に進む道は感性やひらめきで切り拓く――。自らをそう評する渡邊がリコーの“ワンダーボーイ”になったとき、トップリーグ優勝の目標は、大きくたぐり寄せられているはず。ルーキーらしい、胸のすくような思い切ったプレーに期待したい。