第53弾:選手がみせた、その横顔 43

Inside the RICOH BlackRams

2012.08.10

リコーブラックラムズ(リコーラグビー部)を支える選手たちの、ラガーマンとしての思いや、これまでのキャリアに関するエピソードをご紹介します。リコーというラグビーチームは、彼らの個性と歩んできた道程、積みあげてきた経験が混ざりあって、今の姿があります。

「桜」の文字に込めた思い(カウヘンガ 桜 エモシ)

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 前々シーズンにあたる2010-11シーズンから日本に帰化したエモシ選手。これを機に試合の出場機会を大きく増やした。

この2年、相手ディフェンダーをなぎ倒して前進する迫力満点のエモシ選手の突破力が、リコーにとって試合の流れを変える大きな武器になっていたのは誰の目にも明らかだった。時には密集を力でこじあけ、時にはやや後方より大きなストライドで駆け、ディフェンスラインに突入した。フリーキックやペナルティキックからのリスタートでも果敢な突進をよく見せた。スタジアムはエモシのプレーに何度も沸いた。

「入部してからの3年間、あまり試合に出られず、モチベーションを維持するのがむずかしかった。だから、たくさんの試合に出られるのはうれしい。もっと、もっとやりたいね。本当は、ランナーとしてボールを前に運びたいんだけど、チームにはゲームプランがある。それをよく考えて、自分の気持ちをうまく抑えるように心がけているよ」

トンガ生まれ。
小さい頃はラグビーとバレーボールをやっていた。「バレーボールは、ラグビーがオフシーズンの時期にやっていたくらい。背が高かったから。でも、トンガで人気があるのはなんといってもラグビー」。身長が伸びたのは高校生の時だという。「ぐんぐん伸びて195センチくらいになった。でも、今に比べると身体の線が細かったんだ。身体ができあがったのは、日本に来てウェイトトレーニングする機会が増えてからだと思う。トンガは施設が少ない。クラブチームに入ると多少やるんだけどね」

エモシは、高校時代のプレーで注目を浴びトンガ代表に選ばれた。卒業後は約1年間にわたりクラブチーム"Vaini Doves"に所属。高校で学んだ電気の知識を生かし働きながらプレーをした。"Vaini Doves"では遠征でニュージーランドに行くこともあったそうだ。「電気はとても好きだった。日本とトンガは電圧が違うから、そのまま知識は生かせないけど、今でも配線なんかは多少できるよ」

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 ある代表戦を観た大東文化大学のスカウトマンが注目したことで、エモシの来日が決まる。同じ頃、オーストラリアのチームからもオファーがあり、話を聞きに渡豪していたというから、タイミングが少しずれれば違うラグビー人生を歩んでいたかもしれない。
「日本に行くというイメージはなかった。最初は社会人ラグビーと大学ラグビーの区別もついてなかったくらいだから(笑)。今の若いトンガ選手は自分よりもずっと、日本を意識しているみたいだけどね」

高校にあたる課程が6年間あるなど、トンガは日本と学制が異なる。そのため来日時、エモシは22才だった。同じ歳で同じ大東大出身の相亮太、生沼知裕、山本健太とは、ちょうど入れ違いで一緒にプレーはしていない。
「日本に着いた日、雪が降っていた。生まれて初めて雪を見た。日本の"季節"というのには最初は慣れなかった」

冬が終わり、訪れた春に咲いた桜の花は、エモシにとって日本の象徴として強く印象に残った。「日本といえば桜。お花見にもいったりしたのを覚えている」。帰化した際、自らの名に「桜」を入れたのは、その記憶が下地にある。
「もっと強そうな漢字を入れたいと思わなかったのか? 思わなかったね。だって、強いのは自分を見てもらえれば伝わるから」

ラグビー以外の楽しみといえば、オフシーズンに家族のいるトンガに帰ることだ。帰国時には、将来に向けた準備も進めている。
「家を建てるための土地を購入した。建物も少しだけ手をつけている。家に関する相談はトンガに帰るとよくするね。

 今の家族と住む家になるかもしれないし、結婚したら新しい家族と暮らす家になるかもしれない。場所は両親が住んでいる場所からは少し離れるけれど、クラブチームのあった"Vaini"という街。友だちもたくさんいるし、クラブチームの組織を通じ、子供たちにラグビーを教える機会などもある。トンガはラグビーが人気あるから、代表に入った選手が顔を出すと子供たちは喜んでくれる。日本でできるだけ長く働くつもりだけど、トンガに帰ったら家業の農業をやりながら、子供たちにラグビーを教えたりしたいね」

トンガ代表経験のあるエモシは、現行の制度では日本代表に入ることはできない。だが帰化を果たした今、"ジャパン"への憧れも強い。

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「この間、サントリーとのオープン戦の後、日本代表のエディ・ジョーンズヘッドコーチが声をかけてくれた。見ていてくれたのはうれしかったね。今後、制度が変わる可能性もゼロではないので、チャンスがあれば桜のジャージを目指したい」

"桜 エモシ"の"桜"には、そんな思いも、込められているのかもしれない。

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