第38弾:選手がみせた、その横顔 28
Inside the RICOH BlackRams
2012.04.20
リコーブラックラムズ(リコーラグビー部)を支える選手たちの、ラガーマンとしての思いや、これまでのキャリアに関するエピソードをご紹介します。リコーというラグビーチームは、彼らの個性と歩んできた道程、積みあげてきた経験が混ざりあって、今の姿があります。
一対一で、勝つことに夢中だった。兄弟の夢を懸けたシーズンは、またはじまる。(横山健一)
約一年前。2011年5月29日に開催されたセブンズフェスティバルで、横山健一はケガからの復帰を果たした。
短い時間に多くのトライが生まれる7人制ラグビーの試合。しかも試合の序盤に、喜びを全身で表現しながらインゴールエリアに駆け込む健一。それを見て何事かと思った観客もいたかもしれない。だが、さらに一年前の2010年。同大会で、膝靭帯を切る大ケガに遭い治療とリハビリに多くの時間を費やしてきたことを知っていると、むしろ"抑えた"喜びの表現にも映った。
「完璧ではなかったけれど、あそこから徐々に感覚を取り戻していけました。焦り?(双子の弟の横山)伸一が心配性でしょう(笑)。だからやり過ぎないように声をかけてくれました。自分がどれくらい戻ってきているかは、伸一がいたおかげでわかりやすかったです。一緒に走って負けたら、まだだってことだったから」
トップリーグでプレーするようになって伸一が4年目、健一が3年目。見た目そっくりで、ともにスピードを武器とするプレースタイルの兄弟。キャリアを積むうちに互いの個性がはっきりとしてきた。
「高校の時から、伸一はいろいろなことを考えて、常にプレーしていたけど、自分は一対一に勝つことに夢中だった」
中学、高校、大学と共にプレーし続けてきた兄弟のそれぞれの力が、最大限に生きるようにと、自然と伸びたものなのだろうか。伸一の視野を広く保って判断する技術。健一の目の前の相手を抜き去る際の闘志と集中力。強いて挙げるなら、2人の個性の差はこの点で存在する。お互いに、そうした長所を順調に伸ばしていることの証ということになろう。
例えば今年2月、健一は7人制日本選抜の一員として「HSBCアジアセブンズシリーズ タイセブンズ」に参加した。
その感想。
――代表や選抜に選ばれて、いつもとは違うメンバーとプレーしたり世界と闘うことでラグビーに対する考え方が深まったり、広がったりするものですか?
「そういうことは当然あるんですが、トップレベルの選手からさまざまな技を教えてもらえることがうれしかったです。あるコーチからは新しいステップを教わったし、年上のメンバーも聞きに行くと何でも教えてくれるのでありがたいです。そういう意味で、"貴重な機会"という思いが先ですね」
WTBとして、一対一で相手を抜き去るための知恵と技術を貪欲に求め、自らの武器を磨くことに集中する姿勢。それは"健一らしさ"としてこれまで以上に前面に表れてきている。どことなく感じた無邪気さも、"腹を決めた"者がよく漂わせる強さへと変わりつつある。
「一年目、自分が試合に出られていた時期は伸一がケガをしていて、今度自分がケガをしたら伸一が試合に出るチャンスをつかんだ。なぜかチグハグなんです。ケガをして練習に参加できない時期も期待し続けてくれた人のためにも、今年こそ2人で試合に出たいです。
トップリーグはもちろん、ゼブンズ代表も狙っていきたい。セブンズはやっぱり好きです。見ていてわかりやすいからか、盛り上がるでしょ(笑)。試合に勝つこと、トライを決めることが最優先ですが、観ている人が盛り上がるラグビーをみせたいという気持ちがあります。そういうプレーができる選手になりたい」
弟・伸一は、家庭を持ち長男も生まれた今も、健一の寮の部屋を訪れテレビゲームを楽しむこともあるそうで、まるで中学生のような兄弟の関係は健在だ。「家族でラグビーの話はしない」という選手がいる中で、練習後に互いのプレーについて、遠慮なく指摘しあえる兄弟の関係はなかなか珍しい。
「前に、同じチームに兄弟(弟・紘二)がいる、相(亮太)さんに『お前たち本当に何でも言いあえるんだね』と不思議がられました」。試合や練習の後、グラウンドの端で議論を続ける兄弟の姿は、リコーラグビ―部の日常となっている。
お互いの力を信じ、伸ばした個性をトップリーグの舞台で融合させる――兄弟の夢を懸けたシーズンがまたはじまる。