2016-2017シーズンスタート! 神鳥監督インタビュー

2016.05.17

今シーズンは、2012-13シーズン以来となる総当たり制で実施されるトップリーグの日程が公表されました。リコーの初戦は8月27日(土)のNECグリーンロケッツ戦(東京・秩父宮ラグビー場)となります。開幕に向けてスタートを切った新たなチームはどんなラグビーを目指すのか。今年で4シーズン目を迎えた神鳥裕之監督に聞きました。

苦しんだ昨シーズンの中でつかんだもの

––2015-16シーズン最後のゲーム、大阪府警との入れ替え戦から約3ヵ月半。新たなシーズンが始まりました。

この期間、いろいろな面で少しずつ歯車が狂ってしまった昨シーズンの振り返りを続けてきました。今も続けている最中です。連敗は苦しいものでしたが、得たものもありました。選手たち一人ひとりが見せてくれた負けから立ち直ろうとする強さや、自分たちで考え何かを変えようとする姿勢などです。もがく選手たちに対し、的確な方法論をうまく提供できなかったことには責任を痛感しています。

特に反省しているのは、監督やコーチと選手、また選手同士といったチーム内のコミュニケーションを不足させてしまったことですね。これはシーズンが深まるにつれて改善されていき、終盤の勝利を引き寄せたとは思います。ただ、それでは遅すぎたと。

––コミュニケーションの不足は、グラウンド上での、どういった問題につながっていたのでしょうか?

まず、選手たちの実行力は非常に高かったといえます。伝えたメッセージに対し、応えようとする姿勢を常に見せてくれる。提示したゲームプランの遂行に愚直に取り組んでくれるチームだと自負しています。

ただ、相手の戦術が予想したものと違った場合や、相手が試合の途中に対応を図り状況が変わったとき、それでも自分たちのペースに持っていける力。そこにはまだ未熟さがある。一人ひとりの気づきをリーダーシップによって取りまとめて、立て直すことができないと、今のトップリーグでは勝ち残れない。そうしたところで、日頃から密なコミュニケーションがなされていたかの影響が出たと考えています。

例えば、「ゲインラインに近いところにボールを集めて、ダイレクトなアタックをしよう」というゲームプランがあったとします。でも、相手のディフェンスのプレッシャーを受けるケースが長く続くなら、外側のスペースにボールを出すことも考えないといけない。

昨シーズンは当初のプランに固執しすぎているように映る場面が何度かありました。もちろんそこにも我々の責任があって、相手の出方を見ながら、どのように切り替えればいいのか、その理解を促す選手とのコミュニケーションや練習が足りていなかったとも考えています。15人の判断にばらつきがでない、一定の幅の中で、判断の選択肢を提示するような準備がもっと必要でした。

––そういう判断は、経験に基づき的確にできる選手もいれば、そうでない選手もいますよね。

そうですね。それを同じレベルに持っていくところに難しさがある。だからリーダーを中心に、試合前にどれだけ考えを共有できるか。そこはメンバー間のコミュニケーションレベルが影響してくる部分だと思います。

––そうしたコミュニケーションは、昨シーズンどういう理由で減少していたのでしょうか?

振り返ると、チームの調子が悪くなるに従って、自分自身の余裕がなくなっていたなと反省しています。作戦上の問題を解決するためにコーチ陣とのコミュニケーションに時間を使うことが増え、選手たちと向かい合い心境を汲み取ることができていなかった。今シーズンはそうなることがないように、昨シーズンの終盤のようなコミュニケーションを徹底していきます。

––シーズンが終わってからの選手と話す機会はありましたか。

まさに今、選手とじっくり話す時間をつくっているところです。面談していて気づかされたのは「入替戦が初めて」だという選手が大半になっていたことですね。僕の現役でプレーしていた頃はかなりの頻度で入替戦に出場していました。その時代を思えば、このチームは少しずつですが成長を果たし1つのフェイズを抜けていたんだと感慨深くもありました。

でも、だからこそ入替戦への出場は、彼らにとって大きなショックで、インパクトがあったようですね。僕としては、その思いをこの一年にぶつけてもらい、プラスに持っていけるような働きかけをしていきたい。「あんな思いはしたくない」。「あんなことになるとは思わなかった」。そう話す選手は多いのですが、それぞれにああなった理由を考えてほしいと伝えています。そこを忘れさせないように1年間務めていきたい。何よりも自分が、あのような思いをしたくはないですから。

「先に動くこと」で得られるアドバンテージを奪っていく

––ほかに今季取り組みたいテーマとして、考えていることはありますか?

昨シーズンのビデオを見ながら、例えばパナソニックのようなチームと自分たちは何が違うのか? そんなことを2ヵ月くらい考えてきました。その結果、現場でチームとして活動する自分たちがコントロールできる範囲で一番違うのは、いわゆるワークレートだろうという考えに至りました。常に相手よりも早く起き上がりオンサイドに立つ。相手よりも多くの人数で守り、多くの人数で攻めるということです。

フィジカルやスキルのようなパーソナルな部分の差ももちろんあります。ですが、それだけが差になっているわけではない。もっとラグビーの原点に近いところの意識の差が力の差になっている。でも、それは自分たち次第ですぐに改善できるところだと思うんです。

ご存知の通り、ラグビーという競技はグラウンドに片膝をつけば、プレーに参加できなくなります。ディフェンスの局面でいうなら、誰かが倒れている時間は、残りのメンバーがその選手の守るエリアをカバーしているわけです。それぞれが責任を持って自分のスペースを埋め、仲間に負荷をかけないようにすること。そういう意識を徹底させていきたい。ラグビーは基本、陣取りのスポーツなので、プレー可能な人数を多く保てば、自然と有利な状況ができるんですよね。

結果的に試合のパフォーマンスに生まれる波というものは、選手がこなす仕事量と深くつながっているとも考えています。持てる実力を安定して100%を出し続けるには、ワークレートを保つことがとても大事になる。とてもシンプルなテーマではありますが、そこにコミットできる選手を育てていくことをターゲットに、トレーニングを積んでいきたいと思っています。

––そういった意識づけの状況は、試合のどのあたりのプレーを見て計るものなのでしょうか?

端的にはタックルのあとですね。自分がタックルを決めて、もう一度オンサイドに戻って、またタックルに行こうとする意欲があったかどうか。もっと言えば、確率としてはそこまで高くありませんが、タックルしたあとにスペースを奪ったときも、その後もう一度オンサイドに戻り、ボールの奪取に関われているか。もちろん起き上がれないシチュエーションもありますが。「起き上がり、戻るまでがタックル」という考え方ですね。一発決まっても、それで終わりじゃない。そういう姿勢を、改めてリコーに植え付けたい。

あとは、相手のランナーにラインブレイクされたあと、自分がタックルの届く位置にいなかったとしても、まっすぐ後ろに戻り続けているかどうか。ランナーに近いポジションの選手が、タックルを決めて止めれば、次のフェイズは自分が止められるかもしれない。そうやって次を見越して、ランナーに向かってではなく、まっすぐ下がる。もちろん自分の近くにボールが来るとは限らないし、そのままブレイクされトライを許すかもしれない。それでもあらゆる可能性を信じて、愚直に戻り続けられるか。

アタックでは、ボールキャリーして、寝て、ダウンボールする。そして、ブレイクダウンを経てボールが出たあと、タックラーとアライビングプレーヤーがごちゃごちゃとしているなかで、誰が最初に立ち上がってポジションに戻ろうとしているか。地味な部分ではあるのですが、評価する者としては、そういうところを見ます。

チャンピオンチーム、パナソニックのようなチームは、そういうところでもずば抜けていると思います。追いつかなければいけない部分は多くありますが、まずはこのようなところから近づいていきたい。

自分たちから仕掛けるということですね。相手がやってくることを受けと止めるのではなく、すぐに立ち上がって準備して、こちらからアクションを起こす。まず先に動くことで得られるアドバンテージを奪っていく。

そういうラグビーについては、うちにはマイキー(FLマイケル ブロードハースト)のようなお手本もいます。彼がラグビーW杯の南アフリカ戦で見せていたような、仕事量へのこだわりをチームに浸透させられれば。

––意識づけに加えて、さらなるフィットネスの強化も必要に?

そうですね。昨シーズンは後半20分以降、試合の山場でゲームが壊れることが多かった。その時間にトライを奪うことができず、逆に獲られることが多かった事実があります。明らかに足が止まっていたという印象はありませんし、選手たちからも、きつさを伝える言葉はあまり聞かれなかったのですが、それでもこの時間帯に苦しんだ試合が多かったということは、やはり走れていなかったということなのかもしれません。それを考慮してトレーニングの計画は立てています。まあ、ただ走るばかりでは身体にダメージも出るので、レスリングのトレーニングを採り入れてコンタクトフィットネスの強化を図るようなものも行っています。

新主将・馬渕武史は、今のチームに必要な姿勢を体現する選手

––キャプテンはLO馬渕武史選手に。

今お話ししたような、リコーが選手に求めるスタイルを体現してくれるのが馬渕だと考えています。常に100%の力を出し切って自らの存在価値を伝える選手。雄弁ではないですが。彼しかいないと思いました。

昨シーズン、バイスキャプテンを務めたSH山本昌太やCTB小浜和己も、苦しいシーズンの中でもリーダーとしての役割を果たし成長してくれたと思います。彼らの中からキャプテンを選ぶことも考えましたが、チームに意識の変化を強く求めるにあたっては馬渕だろうと。

––馬渕選手は入団以来コンスタントに試合に出続け、プレーの波を感じない選手です。

昨シーズンはケガで出遅れましたが、安定感があり苦しいところでも安心して送り出せる信頼感がある。期待を裏切らないスタンダードを高く保ってくれる選手。もちろんボールキャリーのような苦手な領域もありますが、それでも使いたくなる選手ですよね。今回、SH山本、FL武者大輔とCTB牧田旦にバイスキャプテンを任せましたが、馬渕を見て学んでほしいという部分はあります。特に武者は一発のタックルのインパクトはすでにあり、次の課題としてそれをいかに増やしていくかというのがあるので。

––そのほか、ポジション変更などの予定はありますか?

今のところ大きなものはありませんが、春シーズンはいろいろなポジションを経験させて、チームとしてのオプションを増やしておきたいと思っています。バックローとHOを兼任していたジョシュア(マウジョシュア)は、苦手なセットプレーの強化に取り組み、HOに専念してもらいます。あとはBKではWTB松本悠介にCTB、13番に挑戦してもらおうかと思っています。ウイングでもいいディフェンスパフォーマンスを見せていたので。

––昨年はW杯の盛り上がりがあり、スーパーラグビーも日本にやってきました。代表の存在が、選手の間でも大きくなっているのではないでしょうか?

選手との面談のなかで、自分から目標として挙げる選手もいれば、こちらから話を振ると思いを語る選手もいて、意識は高まっていると思います。

このチームがトップリーグで成功するには、日本代表もしくはサンウルブスで活躍する選手が、最低でも5人以上は出てくる必要があると思っています。トップ5のチームはどこも4、5人は出していますよね。もちろん、代表選手を出せれば勝てるという甘いものではないですが、代表で世界と戦って力を伸ばしていくような選手がチームの中枢に4、5人いれば、チームの意識は高まるでしょう。

とはいえ、まずトップリーグで結果を残さなければ、なかなか目を向けてもらえないという現実もあります。どちらが先かという難しさはありますが、今シーズンの終盤には、候補となれる選手が出てくるといいですね。

––最後に、今シーズンのチームスローガンをお聞かせください。

「ALL OUT」です。これまで3シーズン、スローガンは僕からのチームへのメッセージとして自分で考えてきたのですが、今シーズンは初めて選手たちと話し合って決めました。選手たち自身が1年間こだわっていく象徴となるものなので、選手とつくろうかと。結局一番シンプルなものに決まりました。

リコーは全てを出し切れば強いんだという思いはある。でも出し切れていないという思いも同時にある。その歯がゆさを解消したい。日々の練習のテンションだったり、グラウンド外の決めごとをしっかり守ることであったり、全てに対しての心がけとして「ALL OUT」という言葉を意識していき、引き締めていければと思っています。

––具体的な目標はありますか?

パナソニック、東芝、神戸製鋼、ヤマハ発動機、サントリーの5強から勝利を挙げること。そしてもうひとつは、今シーズンの開幕戦、8月27日(土)のNEC戦での勝利です。5強からの勝ち星と開幕戦の勝利は僕が監督になってからまだ一度も実現できていないこと。今シーズンは成し遂げたいと思っています。

––今日はありがとうございました。

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