神鳥裕之 監督インタビュー

2014.08.23

今シーズンも、2014-2015ジャパンラグビートップリーグの開幕がいよいよ明日となりました。ダミアンヒルヘッドコーチら新しいスタッフと迎える就任2年目のシーズン、神鳥裕之監督がいかなるチームづくりを進めて来たのか、トップリーグをいかに戦っていくか、その展望などを聞きました。

フォーカスしたのは「メッセージを強く、シンプルに伝えること」

——まず、厳しい結果となった昨シーズンを終え、新しいチームをどうつくっていくかをディスカッションしたとお聞きしました。

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神鳥監督 3月頃より、今シーズンに向けていろいろなことを話し合いました。フォーカスすると決めたのは「思っていること、やりたいことを、選手たちに明確に伝える努力」でした。

そうした努力は以前からしてきましたが、グラウンドで体現する選手たちに僕らが何を求めているのか、どういうレベルまで来てほしいのかというメッセージを強く、シンプルに伝えるということを、これまで以上に徹底する。その上で新しいコーチたちの強みを定着させていこうと。そんな方針でチームづくりに着手しました。
非常に具体的な話になってしまうのですが、例えば、ボールを持っている人間が、ディフェンスの選手にまっすぐ当たると、当然相手の力を正面から受けることになる。だからショートステップで相手の力を止めたり、ずらしたりします。そうした工夫が必要なのは、選手ならだれでもわかっています。

僕らがこだわって伝えてきたのは、その先の部分。ステップするための方法にはどのようなものがあるのか。足の置き方だったり、スタンスだったり。「低く」といっても、どう低くするのか。ボールの前に肩を乗せるようにすると自然と姿勢は低くなるんですけど、そういう細かい具体的な技術についてもていねいにコーチングしていくということです。もっと言えば、どこまで低くするのかというその基準も明確にする。それを続けていくと、僕らコーチ側が選手を見るべきポイントも明確になっていきました。

伝えるべきことは、昨シーズンから大きく変わってはいません。ただ、さらにきめ細やかに。シンプルながらも選手たちが理解しやすい言葉を使って発信していこうと。そうやって積み上げていくやり方を今シーズンはやっています。


選手自身でいろんなことを考え、改善していける文化を

神鳥監督 あとは昨シーズンから発信していますが、グラウンド外のラグビー以外の規律面。それは僕だけが発信するのでは、チームに浸透するのに時間もかかりますし、日本人選手でも、外国人選手でも、新しく来たコーチでもみんなが同じ立場でもっともっと発信していける環境をつくろうと。それも話し合いでフォーカスポイントとして出ました。

——昨シーズンも、チームの誰もが何かしらの役割に就き、発信する経験を積んでいくという取り組みはありました。

神鳥監督 狙いは同じです。監督から選手へ、コーチから選手へという一方通行のコミュニケーションだけにならないように。それは今シーズンもチャレンジを続けてきました。
チームの雰囲気、文化づくりという部分では、リーダーがどんな成長を遂げられるかが大切です。今シーズンのキャプテン、バイスキャプテンは当然なんですが、それ以外のメンバーにも成長の機会を与えていきたい。また、これまでリーダーを務めてきたシニアプレーヤーにももう一度顔を出させて、選手自身でいろんなことを考え改善していける、そんな文化をチームにつくりたい。

——キャプテンの小松大祐選手とのコミュニケーションはいかがですか?

神鳥監督 彼自身もキャプテンになって3年目になります。このチームの中では絶対的というか、替わりの効かない存在だと思います。ラグビーのパフォーマンスでも、キャプテンシーでも信頼できる選手です。節目となるキャプテン3年目を集大成としたいと話してもいます。

——リーダーの新しい顔と言えば、SHの山本昌太選手がバイスキャプテンに。

神鳥監督 彼に関して言えば、昨シーズンは後半レギュラーをつかみ、実績も残しました。まだまだ自分のプレーを磨かなきゃいけない立場だとは思うのですが、それだけではなくてチームのことも考えて、リコーを背負ってたてる人材だとも思いました。バイスキャプテンの立場でチャレンジしてほしいと伝えました。

——新任のダミアン・ヒルヘッドコーチとのコミュニケーションはうまくいっていますか?

神鳥監督 最初、シーズンが始まる前の1週間、かなり密に話し合いました。始まってからもよくコミュニケーションできています。
僕からはとにかく自分が大事にしていることを伝え、その上でダミアンはスーパーラグビーの舞台を経験したほどのコーチですので、彼の貴重な経験に基づく考えを聞いて。役割的にはラグビーのセッション、テクニカルな部分については彼のパフォーマンスを十分出してやってもらいたいと思っています。僕自身はチーム全体の規律、文化のところをつくりながら、ダミアンをサポートしていければと。

ダミアンとは、チームを強くしていくためのプロセスについての価値観のベースが近かったと感じています。特に「ハードワーク」へのこだわりの部分です。
選手は1年間厳しい環境の中でトレーニングしていかなければいけないので、局面に合わせ休息をとったり、強度の調整が必要になるのはわかっています。ただそれでも、原則として「厳しいトレーニングを積まないことには成功はつかめない」というダミアンの哲学にはとても共感できた。あとは「ラグビー以外の部分で正しい行動をとらなければチャンピオンにはなれない」という、このあたりの姿勢も一緒ですね。彼にはトレーニングにおける厳しく、妥協しない姿勢はどんどん出していってくれと伝えてあります。


——その表れでしょうか。春先はかなりの量走り込んだと聞いています。

神鳥監督 選手と話をしましたけど、ここ数年では一番厳しかったという声もあり「走ってる!」っていう感じはしましたね。それは選手たちへのメッセージにもなったと思います。

日頃の練習から求めてきた緊張感

——トレーニングの強度というのは、コーチの姿勢が端的に表れるものにも映ります。

神鳥監督 昨シーズンも、厳しいトレーニングを課して成功をつかみとるとは言っていました。それができていなかったわけではありません。ただ、シーズンの最後の最後までこだわりきれたかと言えば反省はあります。
そこを補ってくれることをダミアンには期待しますし、僕も1年ではありますが経験を積めたので、1年間を通してやりきれるようにプランニングをしていきたい。当然試合が始まれば強弱をつけなければいけない場面は出てきますが、それでも1年間、きっちりハードワークを続けていけるように、これからもダミアンと話し合っていくと思います。

——激しいトレーニングが選手のパフォーマンスにどう影響するか。そういった部分の感覚は、監督2年目でつかめてきた部分もあるのでしょうか。

神鳥監督 本音を言えばまだまだわからない部分もあります。難しいです。昨シーズンを振り返ると、夏ぐらいまでは激しいトレーニングを積めたという手応えはありました。
でも、実際にシーズンに入り中心選手にケガ人が出る一方、試合は続いていくという状況の中で、厳しい練習を求めきれなかったのは事実です。ただそうした葛藤は糧になったとは思うので、新しいコーチたちの経験をプラスアルファして、今シーズンの戦い方を考えていきたいと思っています。
強度管理というのはすごく難しい判断ですが、これまで感覚で管理してきた部分を修正することなどでも、正しい管理には近づけると考えます。例えばGPSを使い機械的に選手の運動量を計測するような取り組みを通じてです。データや数値にすべて頼るわけではないのですが、客観的に選手の状態を評価できる環境も整えていただいているので、それを生かしていきたい。

——昨シーズンは11月の休止期間明けなどに「どこかスイッチが入っていない」という言葉を何度か聞きしました。ハードなトレーニングを1年間続け、緊張感を維持できれば、そうした状況も避けられそうです。

神鳥監督 “ムラ”ですよね。結局。昨シーズンも追い込まれ、プレッシャーのかかる試合ではいい試合を見せていました。だから日頃の練習からの雰囲気が重要なのかなとは感じています。これは先ほどのデータ的な認識ではなく、感覚に近いものですが、日々緊張感を持ってトレーニングしていく意識はチーム内で共有できてきていると思います。
その際大きいのは、ダミアンやバリー(リアム バリーFWコーチ)らが、細かいところを見逃さず、できていないところはできていないとはっきりと指摘できていることです。その積み重ねが練習中の緊張感につながっていると思います。

「マイクロスキル(細かな基本的な技術)」の徹底に取り組んだ春

神鳥監督 チームとして目指していく実際のラグビーについては、「コンディショニング」「ディフェンス」「ブレイクダウン」が、こだわっていく3本の柱になります。これらを伸ばしチームとしての強みにしていきたいと思っています。

特にディフェンスについては、ダミアンとよく話し合った部分です。昨シーズンのリコーがトライの数より失トライの数が多かった状況、そして「ディフェンスがしっかりしていないとチームは勝てない」というダミアン自身の哲学、2つの視点からフォーカスされたテーマです。

ダミアンは「極端なことを言えば、ほかのプレーがうまくいかなくても、ディフェンスができていればトライは獲られない」といったシンプルなメッセージを発信することもあります。ラグビーはディフェンスの部分の成長がなければ勝てないと。アタックは必要な領域だけれども、後からでも付いてくる。優先されるのはディフェンスだと考えを持っている。

——ディフェンスの改善を図るということですが、具体的にはどのように?

神鳥監督 コーチングスタッフが変わったので当然システムの変化はありました。ですが、それよりもタックルの成功率の向上など、基本的な技術の修正によって改善していきます。そのために最初にお話しした「正しいタックルの姿勢とは」というような、僕らが「マイクロスキル」と呼んでいる細やかな技術に注意を置いているわけです。

もちろん、試合ではコーチが求めるようなタックルが毎回はできません。それでも「正しいタックルとはこういうものだ」という知識を正しく選手に伝えておけば、選手自身が振り返ってセルフチェックできる。選手が自ら修正を図れるように、細かい部分の落とし込みには時間を使ってきました。

昨シーズンは戦術の理解を早い段階から図り、オープン戦でも勝負に強くこだわりましたが、今シーズンのチームビルディングは、少し異なる流れだったと言えますね。

——昨シーズンをもって引退した河野好光選手、移籍した長江有祐選手などがいたSOやPRなどは、ぜひ競争を通じ高め合ってほしいポジションですね。

神鳥監督 彼らに頼りきっていたところもありますので、若い選手たちには競争、成長の機会としてほしいです。
競争は絶対に必要なもの。競争が生まれてこないと成功はないというのは、昨シーズン監督になってから常に思っていることです。
今シーズン、チームの姿勢(attitude)として「チームのことをすべてに優先する(チームファースト)」「選手同士が競争し高めあう」「技術向上に対する意欲を持つ」という3つを求めてきましたが、ここでも競争はテーマとして掲げています。積極的につくりだしていきます。

——トップリーグでの具体的な目標があれば教えて下さい。

神鳥監督 リコーはここ数年「トップリーグ優勝」という目標を掲げ続けて来たと思います。トップリーグで戦うチームは皆これを目指していて、あきらめているチームはない。ですから最終的なゴールとしては、今シーズンも優勝という目標を掲げます。

ただ、チームにとってのよりリアルなターゲットとしては、ファーストステージを4位以上で通過することに置いています。
昨シーズンは8チーム中7位に終わりグループBに回ることになりました。セカンドステージを下のグループで戦うこと、その注目度の低さは堪え難いものでした。今の制度での、ファーストステージを4位以内に残ることがいかに重要かは身に染みました。これは最低限。必ずクリアします。

——今年は開幕がさらに1週間早くなり、スタートダッシュをかけるには、さらに早い段階でチームを仕上げる必要もありそうです。

神鳥監督 昨年は緒戦で勝てる試合を引き分けてつまずいてしまったので。今シーズンこそは、最初の試合にきっちり合わせていきます。長いシーズンが始まりますが、ご声援をぜひともよろしくお願いします。



(文 ・ HP運用担当)

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