高橋(英) 後藤(慶) 金澤各選手インタビュー

2008.10.17

 チームのために闘える人間を選ぶ――。

 今季のリコーブラックラムズの、試合に出場できる選手の基準だ。

 ワンプレーごとに一喜一憂するより、常に安定してフォア・ザ・チームの姿勢を貫ける人間を――。そんな基準を前提にコーチ陣、主将らが議論を交わし、最後に、トッド・ローデンHCがリストを発表する。

 その候補に挙がるための前提として、選手には妥協なきハードワークを課す。キーワードを"attitude"とした。ノーサイドの瞬間まで、チームの勝利に何が必要かを考え、それを実行できる姿勢を求めたのだ。

 2008年6月以降、新指揮官のもと変貌を遂げたチームで、その当事者たちは何を思うか。9月のトップイースト(TE)の開幕以来、公式戦のフィールドに立つ3選手が語る。

 入団以降、公式戦出場はゼロ。シーズン開始当初、「そろそろ出ないとやばいですよね」と危機感を募らせていた。が、プロップ(PR)高橋英明は今季開幕以降の2試合、常に背番号1を背負ってグラウンドに立つ。

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 日本大学時代は3番、すなわち右PRだった。リコー入りを経て1番、左PRにコンバートされる。以降、「1番のスクラムが組めていなかった」。

 左右が変われば、スクラムの時に見える景色は変わる。たとえば組み合った瞬間、いつも相手の顔が自分の左側に来ていたのが、右側になるのだ。それに伴い、腕の使い方など、求められるスキルも微妙に変化した。今季は、その変化にようやく慣れたという。

 ローデンHCの来日から、練習でかなり走るようになった。「今が5だとしたら、去年までは1くらい」と言えるほどだ。スクラムでの格闘やラインアウトのサポートなど、ポジション特有の仕事に加え、守備で貢献したいと考える。「(労を惜しまぬ守備は)チームとしても、個人としてもやってきたところ」。かねてから"運動量豊富な第1列"と評価された者として、矜持を見せたい。

 決して多弁ではない。ただ、今後の決意を問われれば、「全部の試合に出たいと思う」と即答する。

 先発出場を続ける要因のひとつには、同ポジションに怪我人が多いという事情も絡んでいる。しかし高橋は、すべての顔が出揃った後も、試合でしか得られないもの――たとえばキックオフ直前の緊張感、ピンチを背負ったときのプレッシャー――を味わいたい。そこに、すっかりチームの暗号となった"attitude"をぶつけるのだ。

 彼にとって"attitude"の定義は。

「試合に臨む時の姿勢。負けたくない気持ちが行動に変わること」

 なお、筑井賢二ストレングスコーチは、高橋の強みを「頑丈さ」と表現する。怪我が少なく、それゆえフィールドに立たせる計算が立てやすいというのだ。多少の疲労こそあれ、常にほぼ万全でいられる――。そう、その姿は、指揮官の描く「常に安定」というビジョンにぴたりと繋がる。

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「殺されると思いました。目がやばかった」

 ローデンHCとの初対面時の印象を、FL後藤慶悟は笑って振り返った。状況説明の折には、真面目さと遊び心を交える。興に乗れば、吉幾三の『俺ら東京さ行ぐだ』を歌う。

 HCの目から感じたものについては、「"今、選手は疲れているから・・・"とかの理由で練習メニューを変えることは絶対にしない感じかな、と思いました」と続ける。実際、その通りだった。"新しいコーチには走らされる"との噂は元々あったが、結果、その予想以上に走った。

「去年とかは(試合の)後半、乳酸がたまったら運動量がガタっと落ちたと思うけど、今は乳酸がたまっても走れる。もちろん落ちているとは思うけど、急激にじゃなくて、ゆるやかに落ちていく感じ。練習で走り込んでいるから。今は練習がゆるいと不安です」

 秋、TE序盤の2試合、高橋と同じく先発出場を続ける。背番号は7。運動量を要するオープンサイドFLだ。TL13試合中3試合のみの出場に終わった昨季と、プレースタイルや心境を大きく変えたつもりはない。

「ボールを持っている奴に早くサポートをする。これがアピールポイントだと思っているので、ボールの近くに常にいたいですね」

 ただ、その思いを実際にどれだけ遂行できるかの度合いが、少し違うという。"attitude"というキーワードが、随所に現れている、と。

「前は、外国人が突っ込んできたら、(タックルしに)行きますけど"ああ・・・"という(少し憂鬱な)感じがあったと思う。でも、今はどの選手が来ても、そこにいる奴にタックルに行き、横にいる奴がカバーする、と、決められた動きをやれるようになっている」

 そう、外的要因に惑わされずに、責任を全うできるようになったのだ。その背景に、猛練習をしのいできた自信があることも強調する。「練習はウソつかないですね」。

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 CTB金澤良。今季、心境を最も大きく変えたであろう選手に挙げられる。昨季までは不動のレギュラーも、今季からその手形は奪われた。明確な選考基準のもと、毎回、競争を強いられている。メンバー発表直前にはより緊張感を覚えるようなった。

 6月4日から17日まで、関東代表のニュージーランド(NZ)に遠征していた。帰国後、本格始動から約2週間が経過したローデンの姿を見て、こう感じた。「この人、リコーを本気で変えようとしてる」と。

 NZでは試合中心のスケジュールだった。そのため、最初は日本でトレーニングをしていたチームメイトと、大きな体力差があったという。しかし、時間を重ねていくなかで徐々にフィット。夏には「トッド(ローデンHC)が来てから痩せた」と振り返った。余分な脂肪が削られた証拠だった。

 昨年までは、「相手をキレイに抜くこと」を考えてプレーをしていた。スペースへの鋭いランニング、そのスペースへのパスに快感を覚えていた。が、今は「泥臭いプレー」に心血を注ぐ。どちらかと言えば苦手だった守備や、ボールを持った選手への堅実なサポートなどを第一義としている。これらは、新指揮官が理想とする、チームのための安定したプレーだ。

 背番号12を背負って先発の開幕節、秋田ノーザンブレッツ戦後、金澤は言った。

「(当初はHCに)守備のことばかり言われて迷った時期もあったけど、悩んでも仕方ないな、と」

 守備では決められた組織に沿って果敢にタックル、攻撃時は周囲がサポートをしやすいようにコンタクト。常に自分の仕事を探し、必死に走り回る。昨年とは様変わりしたプレー哲学に、"attitude"を滲ませる。

 次いで行われた釜石シーウェイブス戦ではスタメンを外れるも、第3戦のメンバーには名を連ねた。

 まもなくTEが再開する。第3戦、リコーは熊谷ラグビー場で栗田工業と闘う。高橋は1番、後藤は7番、そして金澤は13番を付けて先発出場予定だ。
執念と運動量を基盤とした、好不調の波が少ない選手――。そんな指揮官の描く理想を、それぞれのバックグラウンドをぶつけることで表現する。

(文 ・ 向 風見也)

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