【Review】第1節 vs.東京サントリーサンゴリアス
2025.12.18
14,441人が見守った開幕戦。粘り強いディフェンスで試合をつくったが、後半に攻略を許す
ジャパンラグビー リーグワン2025-26が開幕。昨季は順位を上げ12チーム中7位に入ったが、6位までが進出できるプレーオフにわずかに手が届かなかったリコーブラックラムズ東京(BR東京)。就任2季目を迎えたタンバイ・マットソンヘッドコーチ、新たに主将に就任したTJ・ペレナラによるリードのもと、東京・秩父宮でホストゲームとして開催された東京サントリーサンゴリアス(東京SG)との初戦に臨んだが、後半に逆転を許し15-29(前半8-7)で敗れた。昨季20年ぶりの勝利を挙げた相手からの2シーズン連続での勝利はならなかった。
前半は開幕戦らしく、互いにやや硬さを感じさせる立ち上がりとなった。ラインアウトなどでのレフリングへのアジャストにやや時間を要し、互いの陣地をボールが行き来する。スコアが生まれたのは前半22分。BR東京が22m内で得たスクラムでサイドアタックを繰り返すと、東京SGにノットロールアウェイ。SO中楠一期がPGを成功させ3-0とする。
さらに23分、リスタートキックを確保したWTBメイン平がエッジを走りゲイン。SO中楠が深めにキックを蹴り込むと、返しのキックが伸びず敵陣中盤でラインアウトを得る。これを確保し展開。中央にポイントをつくり、そこで折り返すと、LO山本嶺二郎の後方へのパスからSO中楠、FBアイザック・ルーカスと繋ぎ左中間をブレイク。そのままトライエリアに持ち込んだ。CVは不成功だったが、8-0とリードを拡げた。
BR東京はフィジカリティを前面に出した守備で東京SGをよく止めていたが、自陣でのラインアウトでボールを失う。さらにキックでゴール前に押し込まれると、32分にNO8テビタ・タタフにトライを許し(CV成功)8-7と詰め寄られる。前半終盤は反則で与えたPKやキックカウンターで再び自陣深くに入られたが、我慢強く守り逆転は許さずハーフタイムへ。
後半も先にスコアしたのはBR東京。9分、ハーフウェイ付近右中間のスクラムからサインプレー。美しくデザインされたBKの連動から、CTBラズロー・ソードが中央をブレイク。一直線にトライエリアまで走り、リーグワン初トライを決める。SO中楠がCVを成功させ15-7とした。
BR東京はその後も我慢強い守備で失点することなく時間を経過させていく。しかし、タフなディフェンスが長く続いた影響か、要所で相手にかかっていたプレッシャーがわずかに緩む。それを見逃さなかった東京SGは、アグレッシブなアタックを繰り返しモメンタムをつくりだしていく。後半19分、BR東京陣内22m付近のラインアウトから外にできたスペースを突き、WTB尾崎晟也が右隅にトライ(CV不成功)。15-12。
さらに後半23分、BR東京は自陣脱出を図ったキックを蹴るが、直接キャッチされカウンターアタックを仕掛けられる。ここでディフェンスの偏りを見抜いた東京SGはスペースのあった左サイドを破り、途中出場のNO8ショーン・マクマーンがトライ。CVも成功し15-19となり、BR東京はこの試合で初めてリードを許すこととなった。
フレッシュなメンバーを入れ流れを変えにかかったBR東京だったが、ハイボールの再獲得に繰り返し成功するなどさらに勢いを見せ始めた東京SGは、アタックのテンポを上げ主導権を握る。後半29分、BR東京陣内22mエリアに蹴り込んだボールの争奪に勝ちターンオーバー。一気に展開し、左隅にWTBチェスリン・コルビがトライ(CV不成功)。15-24と点差を拡げた。
BR東京は後半33分に途中出場のHO大西将史が、35分にSHペレナラが危険なプレーで一時退出処分を科され、試合の最終盤は13人で戦う苦しい状況に。それでも自陣深くでコネクションを保ち必死に守ったが、後半40分にCTB中村亮土にゴールを割られ(CV不成功)、15-29でノーサイド。
ディフェンスでのファイトではしっかりとアティテュードを見せたBR東京だったが、昨季終盤のプレーオフ争いの中で喫した敗戦の雪辱はならず。1週間後の第2節、昨季の準優勝チームであるクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(S東京ベイ)戦で今季初勝利を目指すこととなった。
ディフェンスは手応えあり。課題はアタックに繋げていく過程
「最後までファイトはした。試合の中盤、チャンスをしっかりつかみきれなかったところ」(タンバイ・マットソンHC)
「ボールを持ったときの精度があれば(もっとボールキープをできていれば)、ディフェンスでプレッシャーを受ける場面を減らせる」(SH TJ・ペレナラ)
「僕はハッピーでした。誇り高くしっかりハードファイトをしたから」(FLリアム・ギル)
「ディフェンスでよく粘ったが、そこからなかなかアタックに繋げられなかった。ラインアウトでミスが出たりハイボールでターンオーバーされたり。そういうのが積み重なってディフェンスの時間が増えた」(LO山本嶺二郎)
悔しい敗戦となったが、選手たちからはディフェンスについての一定の手応えと、それぞれの視点からの修正すべきポイントが聞かれた。
ディフェンスには安定感があった。密集でファイトしてペナルティを奪ったケースは6回(前半3、後半3)ほど。NO8ギルのブレイクダウンスキルは圧倒的だったが、それを引き寄せる上で、他のFW陣が見せていたタックルも適切で質の高いものが多かった。
そのディフェンスで得たPKを有効に使い、より長く敵陣でのアタックの時間をつくりだせていたら、より多くのスコアを生み出し、ディフェンスでの消耗やアクシデンタルなピンチを回避できていた可能性はある。ただ選手間の問題意識は共通するものが多く、目線を合わせることに多くの問題はないはずだ。ここからは修正を図り、つかんだチャンスを確実にアタックに繋げ、相手にプレッシャーをかけていくラグビーを見せてくれるはずだ。
「エリアマネジメントのところ。どこでアタックを始めるのかはうまくいかなかった部分だと思うので修正したい。セットプレーからのアタックではスコアできたんですけど、ナチュラルにフェーズアタックをするシーンが少なかったと思うし、そういうシーンでボールを持てなかった」(SO中楠一期)
日本代表キャップを手にしチームに戻ってきた若き司令塔は、広い視野を感じさせるプレーを続けた。最初のトライ(前半23分)は、リスタートキックを確保したWTBメイン平のランで前進したのち、SO中楠の相手を背走させる巧みなキックでエリアを確保したことが足がかりとなった。直後のラインアウトからのアタックの的確なラン、パスも含め大きな貢献を果たした。
「僕らはクリエイティブで怖いアタックができるチームだと思うので、もっと脅威をつくりだせるように」(中楠)
次節は中楠らしい、思いきりのいい仕掛けとスキルから生まれるトライに期待しよう。
世田谷で成長を果たした有望株がダイナミックなプレー見せる
マットソンHCは、CTBラズロー・ソード(22歳)、WTB高本とむ(24歳)を先発に抜擢し、ハリソン・フォックス(25歳)を昨季は入ることのなかったFLとして起用するなど、若い才能への期待と信頼がうかがえる布陣で開幕戦に挑んだ。ソードは鮮烈なランでトライを生み出し、髙本も思いきりのいいプレーを繰り返した。SH TJ・ペレナラに自ら声をかけボールを要求したとも明かす。フォックスもタッチライン際でのプレーなどで奮闘。持ち前のパワーでチームのフィジカリティの源泉となっていた。
ソードは19歳、フォックスは20歳で日本にやってきた選手だ。ともにスーパーラグビーなどでプレーした経歴はなく、日本の大学でもプレーしていない。世田谷でその才能を磨き続けてきた有望株である。開幕戦は、彼らの確かな戦力化を印象づけるものとなっていた。
「シーズンの終盤にどうやって勝ちたいかというのをイメージしている」と話すマットソンHCの頭の中には、ブレイクを果たした両選手の姿があるのは間違いない。その期待に応えるパフォーマンスを見せてくれたことは、今後への大きな収穫と言えるだろう。
次節第2節は12月20日(土)14:30より、S東京ベイと対戦。千葉・フクダ電子アリーナでのビジターゲームとなる。攻守でパワフルなフィジカリティを見せ圧倒していく昨季の準優勝チームは難敵だ。昨季の対戦後、マットソンHCは「本当に倒しづらいチーム。エフォート(努力・尽力)だけじゃ足りない。全てにおいて高いレベルのプレー、正しいプレーをしていかないといけない」と最大限のリスペクトを込めたコメントを残した。だが、目指す場所にたどりつくためには、倒さなければならない相手でもある。BR東京は最高の準備を行い、全てを研ぎ澄ませて挑んだ先にある勝利をつかみにいく。
「アクセンチュアマッチデー」として開催。試合終了後には特別表彰も
この試合はアクセンチュア株式会社の協賛による「アクセンチュアマッチデー」として開催した。試合終了後には、アクセンチュア株式会社より、この試合でチームに貢献した山本嶺二郎選手に「Greater Than Award」を贈呈した。
監督・選手コメント
タンバイ・マットソンヘッドコーチ
自分たちにとってはとても残念で、スコア自体も残念な結果になりました。特に最後30分のサントリー(東京SG)さんのプレーはすごくよかったと思うので、そこへのリスペクトはもちろんあります。サントリーさんは私たちが与えたチャンスを、しっかりつかみとってきました。プレッシャーをかけられて、そのプレッシャーがイエローカードに繋がったとも思います。その結果、14人、13人で強いチーム相手にディフェンスすることになりましたが、それは簡単なことではない。最後までファイトはしたかなと思うんですけど、(ポイントは)試合の中盤にチャンスをしっかりつかみきれなかったというところだと思います。
SH TJ・ペレナラキャプテン
僕もアグリーです。サントリーさんはすごくいいチームで、試合の一部分で自分たちにプレッシャーをかけ、チャンスをしっかりつかんできたと思います。そこは称えたいと思います。自分たちもいいところは部分的に見えたと思うんですけど、ただそれを十分な長さでやり続けることができなかった。この(レベルの高い)リーグでは、そういうパフォーマンスになるとこうしたスコアになる。こういった試合で勝つ方法をしっかり探って見つけ出していきたい。まだまだやれることはたくさんあると思っています。
質疑応答
——後半の10分ぐらいから、東京SGのプレッシャーを受けてしまった。どうしたら勝つ流れにもっていけたと考えているか
TJ・ペレナラ:ボールを持ったときの精度でしょうか。まだ詳しいスタッツは見ていないのですが、後半はポゼッションもあまりなかったんじゃないかなと思います。ボールを持ったときの精度があれば(もっとボールキープをできていれば)、ディフェンスでプレッシャーを受ける場面を減らすことにも直結すると思うので。今、ぱっと思い浮かぶのはそこかなと思います。それと、イエローカード2枚というのも助けにならないので。
——キックオフから後半途中までディフェンスでは非常にいいプレッシャーをかけていた。自信になったのでは
マットソンHC:もちろんその通りだと思います。セットピースからのトライもすごい実行力で、いい相手にそれができたことは自信になる。長い時間本当にいいディフェンスを続けてくれたと思います。来週のクボタ(S東京ベイ)戦に向かっていく上で大事なものはたくさん得たと思います。修正点で具体的なものとしてはハイボールバトルですね。クボタ戦でも多くあると思うので。
自信を得られた部分もたくさんあったと思いますし、プレシーズンがよいものだったということは見えました。ただ、いいチームを相手にしたときは、こちらはもっとよいプレーをする時間をもっと長くして、相手にチャンスを与えないようにすることが大事。クボタさんは昨季のファイナルまで進んだ、このカンファレンスにおけるグレートなチームの1つ。このリーグの素晴らしいところは、簡単な試合がないということ。毎週がチャレンジで、違った戦いになる。また月曜からクボタさんを相手にどう戦うかというのをやっていきたいと思います。
——キャプテンに。これまですごいたくさんの試合を経験してきたと思うが、開幕戦に感じる難しさは
TJ・ペレナラ:開幕戦はやっぱり違ったプレッシャーがあり、違ったチャレンジを与えられるものだと思います。プレシーズン、ずっとやってきてもリアルなプレッシャーを感じるし、実際のゲームの中でどうなるかっていうのはわからないので。今日は負けましたけど、やってきたことでよかったものももちろんあるので、ハッピーな部分もあります。
——どう立て直すか
TJ・ペレナラ:正直なところ、勝敗関係なく新しい週に向けてやることは同じ。一貫性のある準備を続けていくことでチームは一貫性を持つことができると思うので。戦う相手によって違うことをやったりはしますけど、勝っても負けても、自分たちの準備っていうところはそんなに変わらない。それが一貫性をもたらす方法だと思ってやっています。
——WTB高本とむ、CTBラズロー・ソードと若い選手を先発で起用した
マットソンHC:今すごくいいバランスで、これから来るんじゃないかという状態にある若い選手がたくさんいます。ソードはすごい運動能力がありますし、とむも力を見せてくれました。チームを健康に保てれば、シーズンを通してビルドしていけるんじゃないかとわくわくしています。プランニングにおいては、シーズンの終盤にどうやって勝ちたいかというのをイメージしています。もちろん選手の調子も見ながらですが。若い選手はプレシーズンも素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。とむはJAPAN XVやセブンズ代表でも活躍し、戻ってきてからこちらでもいいパフォーマンスをしてくれていたので。
試合ハイライト
■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=434
文:秋山 健一郎
写真:川本 聖哉