【Review】第15節 vs.トヨタヴェルブリッツ
2025.04.17
LOハリソン・フォックスの2トライなどで引き離す。プレーオフに望みを繋ぐ勝利で8位に浮上
リーグワン第15節、9位のリコーブラックラムズ東京(BR東京)は、10位のトヨタヴェルブリッツ(トヨタV)と千葉県市原市・ゼットエーオリプリスタジアムで対戦。必ず勝たなければならない一戦。ウォーミングアップからはいつも以上の緊張感が漂ったが、チームにとってそれはポジティブな影響を与えたとみられる。
試合開始から接点でフィジカリティを見せ、また巧みなキックも織り交ぜて敵陣に入っていくと、中盤のラインアウトからトヨタVが蹴ったキックをSO中楠一期がチャージ。ポスト前で止まったボールを丁寧に拾ってトライ(前半7分)。CVもWTBメイン平が決めて7-0と先制する。
直後に自陣深くに攻め込まれ、モールから飛び出した2番がトライを狙うが、SH TJ・ペレナラとFLリアム・ギルが反応し身体を入れセーブ(12分)。その後も反則が重なり守勢に回ったが、なんとか我慢してピンチを脱する。
相手のターンを失点せずに終わらせたBR東京は再び敵陣へ。ラインアウトからフェーズを重ねプレッシャーをかけると、トヨタVのタックラーがリリースせずにボールに仕掛ける反則。PGを成功させ10-0とする(20分)。さらに23分、27分にトヨタVからBR東京へのヘッドコンタクトが続けて発生。2枚のイエローカードによる数的有利と2PGによる6点を加え、試合の主導権を握る。前半のラスト10分も敵陣に入りよく攻めたが、結束して守るトヨタVのディフェンスも堅く、追加点は生まれないまま試合を折り返す。
後半の入りは、試合の流れを完全に手中に収めるべくBR東京が先に敵陣に入ったが、ミスもありトヨタVの守りに跳ね返される。直後に自陣に入られたが、NO8ファカタヴァアマトとPR西和磨の好守で落球を誘い、さらにスクラムとモールで反則を奪って再び敵陣へ。
ラインアウトモールを押しゴールに迫るとキャリーを繰り返す。中央を力でこじあけにいったNO8ファカタヴァアマトからFLリアム・ギルに繋ぎ、ポスト左にトライ(後半10分)。CVも決めて23-0とした。
ここで第3節以降ゲームから離れていたSO/FBアイザック・ルーカスが登場。大きな歓声で迎えられる。SH TJ・ペレナラが挑んだハイボールキャッチの争奪でトヨタVに反則。再び敵陣に入ると、ここもキャリーを繰り返し、ギャップを突いたLOハリソン・フォックスがディフェンスを弾いて抜け、左中間にリーグワン自身初となるトライ(17分)。フォックスは同じようなアタックからピックゴーでもうひとつトライ(26分)を奪う活躍。37-0として試合の行方を決定づけた。
最終盤(38分)に1トライを返されたが、3トライ以上の差をつけたままノーサイド。ボーナスポイントを加えた勝ち点5を獲得した。プレーヤーオブザマッチにはLOフォックスが選出された。これで通算成績は5勝10敗、総勝ち点は27。順位を8位に上げた。プレーオフ圏内の6位・東京サントリーサンゴリアスとの勝ち点差は4に。残り試合は3。
わずか2つだったノックフォワード
「今日はFWがすごくよかったです。今日だけではないですね。ここまでずっとFWはいいプレーを続けています。ああいうパフォーマンスをFWがしてくれると、僕や(SO中楠)一期や(SO伊藤)耕太郎はゲームをコントロールしやすくなります」(SH TJ・ペレナラ)
FWがフィジカリティを見せ、シンプルなボールキャリーを繰り返して崩し、着実にスコアを重ねての快勝。相手にはほとんど攻め手を与えなかった。だが、勢いに乗って荒々しく押しきった印象はない。粛々と自分たちのプランを実行する冷静さ、丁寧さも感じた。
試合を通じてノックフォワードはわずかに2つ。そのうちの1つはイーブンボールの処理で発生したもので、アタックの中での落球は1つのみ。雨の中でのゲームだけにパスの数は少なめだったが、それを考えたとしても少ない数だ。この精度が、チームから聞こえるようになってきている“continuity(継続)”というテーマの実現を支えた。
「今日はディフェンスというよりは、アタックの時間を長くして、テリトリーの部分で敵陣にいる時間を長くできたのはすごいよかったなと思います」(FB伊藤耕太郎)
FB伊藤は「攻撃は最大の防御」ととらえる。敵陣にいれば失点のリスクは下がり、それ自体が防御となる。ボールを保持できていればなおさらだ。エリア獲得では、BKの適切なキックも効いた。シーズンが深まる中で、アタックの指導を担当する有賀剛アシスタントコーチからも「キッキングゲームは成長してきていると思う」と評価の言葉も聞かれたが、SO中楠一期、FB伊藤、WTBメイン平といった広い視野を持った若きBKたちの正確な判断も、快勝を支える要因となった。
「シンプルなほうに方向転換していることはよかった」
HO大内真はスクラムがよい状態にあることについて、こんな言葉を。
「毎週言っているのは、センターラインにこだわろうっていうところ。やっぱりヒットがよければ見え方も変わると思うので。シンプルなほうに方向転換していることはよかったのかなと」
細かく考えることもしてきたが、少しシンプルな考え方に振った結果、より手応えを感じられるようになってきたという。
必要な試行錯誤を経て、貫くべきものを見出し、それをシンプルにやり抜く。スクラムに限らず様々な要素でそうした段階に入ってきていると感じることは多いが、それがチームに安定をもたらしているようにも映る。FB伊藤も「クリアにプレーができているとは思う」と、プレーする上で迷いを感じることが減ってきている感触を語る。選手たちが頭の中をクリアにしてプレーできる状況は、チームとしてのミスの減少にも繋がっているはずだ。
リーグワンのレギュラーシーズンは残すところ3試合。シーズンを試合を例えるなら、第15節終了時点の現在は、後半27分。ここから一気に試合が動く勝負どころだ。BR東京は2週間のインターバルでしっかりと休養と調整を行い、埼玉パナソニックワイルドナイツ(埼玉WK/ビジター)、東京サントリーサンゴリアス(ビジター)、三重ホンダヒート(ホスト)の順に最終局面に挑んでいく。
次節第16節は4月26日(土)14:30より埼玉・熊谷スポーツ文化公園ラグビー場でのビジターゲーム。埼玉WKには第3節で対戦し16-39(前半9-17)で敗れている。堅いディフェンス、ターンオーバーなどからつくりだす好機での決定力に長けた強者だが、この日のようなエリアマネジメントとフィジカリティを礎としたボールキープ、そして守り抜くのだという固い決意を見せられれば、勝機はある。
監督・選手コメント
マット・テイラー コーチングコーディネーター
選手、スタッフ、チーム全体として、今日はすごく誇りに思えるパフォーマンスでした。みんな本当にここ1ヵ月ぐらいすごいハードワークをし続けてきて、そのハードワークが今日、実を結んだかと思います。アタックのいいスキルの部分だったり、ディフェンスでの守り抜こうという意思だったり、全体的にいいゲームだったと思います。シーズンをストロングフィニッシュさせることを期待させてくれる、いいかたちになったんじゃないかと思います。
SH TJ・ペレナラゲームキャプテン
僕もアグリーです。今日はいい仕事をたくさんできたと思いました。ディフェンスはすごく良かったと思います。トヨタVは最近の試合でいいパフォーマンスを見せていました。先週のパナソニック(埼玉WK)戦でもプッシュしていました。脅威を与えられる選手が多くいるいいチームだと思います。そういう相手との戦いでしたが、ディフェンスでよいものを見せられた。今日はFWがすごくよかったです。今日だけではないですね。ここまでずっとFWはいいプレーを続けています。ああいうパフォーマンスをFWがしてくれると、(SO中楠)一期や僕が……
(テイラーCCのスマホに着信音)
なにしてんねん(日本語で)。すみません。僕や一期や(SO伊藤)耕太郎はゲームをコントロールしやすくなります。あとは、今日勝利したことによって、またプレーオフのチャンスというものも繋いだのかなと思います。
質疑応答
— 前半はテリトリー%(敵陣でプレーしていた割合)が70%あまりあったというデータが出ていた。ゲームマネジメントについての振り返りを
TJ・ペレナラ:前半15人対13人という時間帯があったので、それもプラスに働いたのかなと思います。またコーチ陣からポイントを獲るようにって指示があったので、そういったところの指示もよかったかなと。(テイラーCCが笑顔)
TJ・ペレナラ:相手は13人だったので、グラウンドにいた僕としては、コーナーを狙ってキックしたり(ラインアウトにしたり)、スクラムをしたりしたかったんですけど(笑)。でも、自分が火の中にいたとして、その熱気の中で外にいる人と同じようには考えられないもの。だから、試合中に外からアドバイスや指示があった場合は聞き入れるようにしています。その判断に助けられています。あとは、BKのキッキングゲームもよかったのかなと思います。
— 勝ち点を伸ばしプレーオフ進出の可能性が出てきた。バイウィーク明けの試合はかなり重要になってくる
TJ・ペレナラ:レギュラーシーズンの残り3試合は、すごく大事なゲームになりますね。自分たちの上にいるサントリー(東京サントリーサンゴリアス)と戦えるのは、プレーオフを目指す上で助けになる。どのチームがどのチームと戦うのかなど、細かいことはわからないんですけど、ある程度は自分たちで自分たちの運命をコントロールできると思うので、チャンスは掴めると思っています。
—「なにしてんねん」は誰から習ったのか
TJ・ペレナラ: (同じ9番の)南(昂伸)さんです。
— どういうときに使う言葉かは
TJ・ペレナラ:誰かがこういうちょっとしたミスをしたときに使うものだと。でも、少し真面目に怒るときにも使えるし、ジョーク的な感じでも使えるんですよね。
テイラーCC:なんて言葉の話?
TJ・ペレナラ:なにしてんねん。(テイラーCCに教える)
— メイン(平)は、後半になるとゴールキックで苦しんでいたが、今日は100%キックを決めた。彼のテクニック、またメンタルについて、一緒にプレーしていてどう感じるか
TJ・ペレナラ:ゴールキックのテクニックの部分は僕が言うのはちょっと違うかなと思いますけど、彼が発している自信というのはチームに伝わっていくようなところがある。先週か先々週か、彼が試合の終盤でペナルティゴールを外したシーンがあったと思うのですが、それで自信を失ったり動じたりすることはなくて、ボールを求めていたし積極性を全く失わなかった。彼の自信というのはすごいなと思っています。
テイラーCC:ゴールキッカーはそういうメンタリティが大事ですし、ミスをしたとしても、そこに引きずられずにやるのは大事かなと思います。
— 中楠一期もゲームコントロールにおいて引きずらないように映るが
テイラーCC:そうですね。それは彼の資質のひとつ。ミスがあったとしてもそこに引きずられず、すぐ次へと切り替えられるのはいいところ。若い選手がそういうことをできるのはポジティブなことだと思います。
— ディフェンスが素晴らしかった。何か修正をかけたこと、この数試合を振り返り反省して、それが活きたことなどあれば
テイラーCC:コリジョンに勝つこと。相手にしっかりチョップする(低くタックルする)ことにフォーカスしていました。それは前節のクボタ(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)戦から得た学びで、特に身体の大きな選手に対してもう少しそれをやろうと。雨の日のゲームではスキルを実行しにくいのでディフェンスはより目立ちやすい。最後までゼロに抑えたいなと思っていましたが、点差が開いてからも、お互いのためにラインブレイクを阻んでボールを奪い返そうとハードワークを続けてくれて、いいディフェンスを見せ続けてくれました。
ディフェンスはチームのカルチャーを映すものだと思います。「お互いのために」っていうところも大きく関わってる部分だと思います。TJ(SHペレナラ)もディフェンスグループをリードしてくれています。SHですがタックルも大好きな選手。今日も試合を通じていいチョップを見せてくれたと思います。
HO 大内真とFB 伊藤耕太郎
HO大内:FWとしてはセットプレーがすごく安定していたんで、チームを勢いに乗せる要因になったかなと思ってます。今日は天候も悪かったんですけど、フィジカルのところ、接点に勝つというところで、 自分たちの流れをつくりだすようなアタック、ディフェンスができたかなと。もちろん完封したかったんですけど。ただ、ゴール前には入られてもそこでどれだけ我慢できるかっていうところが今日のような天候の試合の鍵だったので、(それができたことは)みんなすごく嬉しいんじゃないかと思います。
FB伊藤:FWに助けられた部分があって。セットプレーで優位に立ってくれたことでいいほうに流れを持っていけたんですけど、BKは獲りきれなかったところとかミスがあったので、雨の中ではあってもスキルの部分を。
— ディフェンスは素晴らしかったが、準備段階での話を
HO大内:この1週間、ノンメンバーが仮想トヨタを務めてくれた練習がすごくよくて、その中ですごくコミュニケーションをとれていました。外に振ってくるチームだから、FWだったら幅を意識しようとか、そういう意識づけもよくできていたと思います。
— BKは練習ではチップキックへの対応を意識していたようにも
FB伊藤:そうですね。何本か蹴られたんですけど、しっかりそれも取れました。今日はディフェンスというよりは、アタックの時間を長くして、テリトリーの部分で敵陣にいる時間を長くできたのはすごいよかったなと思います。
— 短い時間での出場が続いていたがインパクトは残していて、思いきりのよさがさらに出てきたというか
FB伊藤:悔しかったですけど、自分の役割にフォーカスしてプレーしていました。その期間にやってきたことが、今日のプレーにも繋がったかなと。クリアにプレーができているとは思います。
— シーズンの初めと今とで自分自身として変わったと思うのは
FB伊藤:……ディフェンスですかね。
HO大内:謙虚だな。
— スクラムも一貫性を出せている
HO大内:PRパディー・ライアンという存在もあって、シーズンの途中からチームのウィークポイントがストロングポイントに変わってきて。なんで変わったのか…… 今日の試合も小さなミスはあるんですよ。「当たったあとにこう動いて」みたいな感じの話をしているんだけど、結局落ちてフィフティ・フィフティになって相手にペナルティがいってしまったりとか、少し早く組んでしまったりとか。そういうところを(個別に)どう改善するかというのもあるんですけど、ここのところ毎週言っているのは、センターラインにこだわろうっていうところ。やっぱりヒットがよければ見え方も変わると思うので。シンプルなほうに方向転換していることはよかったのかなと。
FB アイザック・ルーカス
今日は前半のメンバーがすごくよいプラットフォーム、ベースをつくってくれて。天候はチャレンジングな感じで、正しいエリアでプレーしてビルドプレッシャーしなきゃいけないと思っていたんですけど、それをみんながよくやってくれて。後半も引き続きしっかりやれました。このコンディションでもうまくマネジメントしたなと。それに大きく関わるのがFWで、すごくよいベースをつくってくれました。そしてBKが正しい場所にチームをガイドしたのかなと思います。
— 試合から遠ざかっていたが
“リコーラグビー”を皆がやる姿を見るという立場だったんですけど、そういう時間もあってよかったかなと思っています。 それ(リコーラグビー)ができている時間は多くて、本当にファイトしていましたね。今シーズンは負けた試合も含めてファイトし続けられていたので、そういったところは素晴らしい。見ていると自分も戻りたい、貢献したいっていう気持ちが湧き上がってきていました。ここから復帰して、そこに自分も参加できるのが本当に楽しみです。
試合ハイライト
■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=421
文:秋山 健一郎
写真:川本 聖哉