【Review】第14節 vs.クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
2025.04.09
厚いオレンジの壁に向かい、チームとして攻める姿勢を貫いた80分
リーグワン第14節、9位のリコーブラックラムズ東京(BR東京)は3位のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(S東京ベイ)と東京・秩父宮ラグビー場で対戦。フィジカリティと精度の高い試合運びを武器に上位をキープするS東京ベイに対し、粘り強いディフェンスと堅固にボールを守りながらクイックボールをつくり、速いアタックに活路を見出そうとしたBR東京だったが、前半はよくファイトしながらも3つのトライを奪われ追いかける展開に。後半は14人で戦う苦しい時間にトライを奪うなど奮闘したが、隙を見せないラグビーをやり抜いたS東京ベイから主導権を奪い返すことはできず、14-42(前半0-21)で敗れた。
前半は風下陣ということもありボールキープへの意識を感じさせたBR東京に対し、S東京ベイが堅いディフェンスでそれを跳ね返しながら、チャンスをつくりだしていく展開に。ただ、BR東京もディフェンスに回った際はよくコネクトし、集中力を切らすことなく戦った。S東京ベイはラインアウトからのアタックで1本(7分)、ゴール前スクラム後のFKからのリスタートで1本(14分)、中盤のモールを押してからのアタックで、エッジを狙ったランナーがタックルを続けて外すランで1本(29分)と、チャンスを確実に活かすかたちで3本のトライを奪う。
BR東京は36分、敵陣に入るとラインアウトから、相手のプレッシャーをリサイクルのスピードでかわすアタックを見せる。テンポアップを牽引したSH TJ・ペレナラが自らギャップを抜けトライエリアに持ち込んだが、映像で反則が確認されトライはキャンセル。スコアを奪えないまま前半を終える。
後半は風上陣からの反撃を狙ったが、2分にディフェンスラインの裏へのチップキックを直接キャッチされ、ゴール前で繋がれてトライを許しさらに点差を拡げられた。
11分に2試合連続の先発出場となったWTB山村知也のキックとランで敵陣深くに入ると、替わって入ったばかりのNO8ファカタヴァアマトのキャリーとパワフルなレッグドライブ、またFLブロディ・マクカランの巧みなキャリーで1トライを返し7-28。 その後、好調のFWが敵陣でのスクラムで反則を奪い、ゴール前ラインアウトを得て連続ポイントのチャンスを迎えたが、惜しくもスコアを逃す(18分)。
22分、SHペレナラにハイタックルがあったとして加入後初のイエローカード。FBメイン平がSHに回る緊急事態となる。14人で戦うこととなった10分間は1トライを許したものの、我慢強く守って敵陣に侵入すると、スクラムから猛然とアタックを仕掛け、最後はNO8アマトがこじあけてトライを決め14-35とした(32分)。
しかし、S東京ベイからさらなる得点は奪えず、終了間際にラインアウトモールからトライを奪われ、14-42とされたところでノーサイドを迎えた。
BR東京が勝ち点を獲れずに敗れたのは第7節以来。順位は9位をキープしたが、プレーオフ圏内の6位・東京サントリーサンゴリアスとの勝ち点差は9に拡大。入替戦圏内の11位につける三重ホンダヒートとの勝ち点差は4となった。
「スコアボードが全てを表してはいない」
試合後は、多くの選手がS東京ベイのディフェンスブレイクダウンの印象を語った。
「チョークタックル(ボールキャリアのボールに絡んでいくタックル)から、少し持ち上げるようにしてプレッシャーをかけ、ラックをスローラックにする」(SHペレナラ)
「ブレイクダウンもちょっとほかと違って、下にタックルっていうよりは、結構チョークしてきたりしていた。そういうところにも苦戦させられたかなと思います」(PR笹川大五)
通常のディフェンスでは、ボールキャリアをタックルで倒し、ボールをリリースしなければならない状況をつくってボールの争奪戦を仕掛けることが多い。だがS東京ベイは、ボールキャリアの手中のボールに絡むようにしてボールのコントロールを阻むプレーもよく選んだ。スムーズにラックをつくったりパスを出すことができなくなり、テンポを上げ次のラック、次のラックとリサイクルすることが難しくなるシーンも増えた。倒さずに止めることは誰にでもできることではないが、S東京ベイの擁する身体の大きなFWの強みが活かされたかっこうだ。
ただ、S東京ベイを率いるフラン・ルディケヘッドコーチは試合後の記者会見で、ブレイクダウンを「プレッシャーをかけきれなかった」と振り返り課題とした。
「クイックボールを出してくることを脅威と考えていたが、テンポを出されてしまったところは課題。判断の間違いというかミスというか、エキサイティングしすぎていたところもあった。ブレイクダウンでのチャレンジは求めているが、バランスの部分はうまく修正したい」
これらの言葉からも、ボールの奪取以上にアタックのスローダウンにフォーカスしていたことはうかがえる。そして、言葉を通じてチームを引き締めたいという思いを差し引いても、BR東京のアタックは一定の脅威を与えられていたとみてもいいはずだ。攻め込んだシーンは、相手の明確なミスを突いたものやアクシデンタルなものは少なく、テンポで先手をとり、しっかりとモメンタムをつくっていたように映った。
「自分たちがクボタ(S東京ベイ)さんにかけたプレッシャーに関しては、スコアボードが全てを表してはいないかなと思います」
タンバイ・マットソンヘッドコーチの所感も、おそらくは敵将と近い視座からのものだろう。
正しく実行すれば、いつでもダメージを与えられるプレー
「(チップキックで)1本きれいにいかれてしまった。コミュニケーションが取れていて、わかっていた分、悔しかったです」(CTB礒田凌平)
後半の巻き返しを狙ったBR東京にとって大きなダメージとなった後半2分のトライは、風下に回ったS東京ベイが用いた短いディフェンスライン裏へのキックによって生まれた。こうしたキックはその後の数回蹴られたが、いずれも対応に苦しんだ。ただ、これは事前に想定し対応する準備はなされていたという。前述のチョークタックルも同じで、十分スカウティングされており、ボールキャリーする際の身体の高さなどには注意が払われていたようだ。ただ、この日はS東京ベイが高い実行力を見せ、強みで押しきるかたちとなった。
手の内が相手にわかっていても、正しく実行さえすれば確実に効果が得られるプレー。再現性をもって相手にダメージを与え続けられるプレー。そうしたものが勝利を強く引き寄せる。そしてそれはおそらく、S東京ベイに勝負強さをもたらしている自信の源泉でもある。BR東京としては素直にこれに学び、さらなる成長につなげていくほかない。
レギュラーシーズンは残り4試合となった。次節第15節は初めて試合を行う千葉県市原市・ゼットエーオリプリスタジアムで、現在10位のトヨタヴェルブリッツと戦う。1月の第4節での対戦は前半は10-0とリードして終えたが、後半早々にBK陣にアクシデントが生じたタイミングで、相手がキックを使った攻勢を仕掛けると流れが変わり、18-32と手痛い逆転負けを喫した。ここまで互いに必死に戦い続け、活路を探り続けてきたチーム同士だけに、激しい戦いになるのは間違いない。自分たちを信じて戦い、プレーオフ出場への望みを繋ぐ勝利をつかめるか。チームは全てを出しきって走りきる、ラストスパートへと入る。
「CSTマッチデー」として開催。試合終了後には特別表彰も
この試合は株式会社コンピュータシステム研究所の協賛による「CSTマッチデー」として開催した。試合終了後には、株式会社コンピュータシステム研究所より、この試合でチームに貢献した、リアム・ギル選手に「CST賞」を贈呈した。
監督・選手コメント
タンバイ・マットソンHC
また悔しい結果となってしまいましたが、自分たちがクボタ(S東京ベイ)さんにかけたプレッシャーに関しては、スコアボードが全てを表してはいないかなと思います。もっとプレッシャーをかけられていたと思います。今回もトライが認められない場面がありましたが、それでもハーフタイムの時点ではポジティブでした。クボタさんのディフェンスはリスペクトします。本当に崩すのが難しいディフェンスだと思いました。彼らが試合をコントロールできれば、本当に倒しづらいチームだと思います。エフォート(努力・尽力)だけじゃ足りない。トップチームと戦うときは、全てにおいて高いレベルのプレー、正しいプレーをしていかないといけないと学びました。
SH TJ・ペレナラゲームキャプテン
繰り返しになるかもしれないですが、クボタさんが本当によかったと思います。特にディフェンス。自分たちもかなりアタックしたんですけどうまく対応されました。ですが、今回の結果に関してはがっかりしています。自分たちは勝つためにプレーしていますし、そういう試合を見せたかったけれども、それが見せられませんでしたから。でも、今回わかったのはクボタさんのようなチームを相手にするときは5%、10%、足りなかっただけでも点を獲られてしまうということ。ただ、自分たちの向かっている方向性に関してはポジティブに考えてますし、私たちのチームをすごく信頼していますし、私たちはできるんだという思いは変わっていません。でも、やっぱり負けたことに対する残念な気持ちは消えません。
質疑応答
— 前半終了間際(36分)、トライキャンセルがあった
SHペレナラ:クロックロール(ブレイクダウンにおけるクリーンアウトで相手選手を横に回転させて排除する行為)だと言われましたが、ルール通りペナルティだと思います。そういうプレーで脚をケガをする人が出ているのは知っていますので、必要なルールだと思います。
— 自身がハイタックルになりカードが出た場面(後半22分)もあった
SHペレナラ:そこもルールブック通りカードだと思います。今週はチョップ(低い)タックルにフォーカスしていたので、そこは残念でした。コンタクトが起こる前に、どちらかというと僕の方が消極的というか後ろに押されていたかなとは思ったんですけど。でもルール通り、“ヘッドオンヘッド”なので。タックラーがそこ(頭部と頭部がぶつかってしまう場所)にいてはいけないということだと思います。
— 次のトヨタヴェルブリッツ戦はSHアーロン・スミスともう一度対戦となる。今度は相手にFLマイケル・フーパーも加わっている。そのことについて
SHペレナラ:今はそんなに、特別な気持ちはないです。まだ、この試合に負けたっていう気持ちが残ってるので、その先はちょっとまだ見ていない。数日後に聞いてもらえれば、もしかしたらいい答えができるかなとは思うんですけど。あんまり考えていなかったんです。もちろん、いつでも(彼らと)対戦できるのは楽しみにはしてます。でも、今はちょっと僕の中での優先順位として高くないので、あまり特別な答えはないです。
— 今聞いてしまって申し訳ない
SHペレナラ:(気にしないで!と笑顔)
— プレーをしてみて、S東京ベイのどこに強みを感じたか?
SHペレナラ:今シーズン、前シーズンと彼らが何をやってきたかはチェックしていました。彼らは大きいですね。そこが強みではあります。チョークタックル(ボールキャリアのボールに絡んでいくタックル)から、少し持ち上げるようにしてプレッシャーをかけ、ラックをスローラックにする。(アンプレアブルなどに繋げることのできる)モールにされなかったとしても、そこで時間が稼げるんですよね。そういうプレーがすごく上手です。もちろん自分たちもそこに対策して、(ラック形成が)遅くならないようにしていたのですが、自分たちが割といいかたちでキャリーしても、クボタさんはその強みを出してきたかなと。
あとはすごく広くグラウンドをカバーしているし、大きなパックでしっかりとシステムを守っている。前半は、トライとしては認められなかったですが相手を少し崩しました(36分)。自分たちがアタックでイメージしていたのはああいうものです。前半はゲームプランを本当によく守れていましたし、ハーフタイムの時点でも自信はたっぷりありました。後半始まってすぐにソフトなトライを獲られてしまい(2分)、こういう流れになってしまいました。
— 自分たちのディフェンスについての印象を
マットソンHC:相手がうまく裏にキックを飛ばしてきて、そこからトライを獲られていました。3回はやってきたと思うが、それに対し自分たちはアジャストできなかった。相手のモールが強いのも知ってましたので、そこから2トライを獲られていますが、そこについては驚きはないです。スクラム、ラインアウトはよくできたかなと思います。ただそれでも42失点というのは多いですね。(そこに)彼らがトップ4にいて、我々が下位にいる理由があるようにも感じます。
PR 西和磨
前半少しペナルティが多かったり、ブレイクダウン周りとかでターンオーバーが多かったりして、自分たちがやろうとしてたことができなかったっていうところは少し残念でした。ま、でもそういうところを修正できれば、またハードワークとか、エフォートとか、そういうのは、できている部分はあるので。次に繋げていきたいなと。
— やろうとしていたこととは
身体が大きい選手が多いので、ディフェンスでわずかに持ち上げるかのようなタックルをしてきたり、ブレイクダウンも激しく絡んでくるよ、みたいな話をしていたんですけど、そういうところで(準備していた対応を)見せられなかった。そこはこういう結果に繋がった要因のひとつじゃないかなと。
— 相手がしてくるディフェンスに適したコンタクトをしようと。
そうですね。結構プレッシャーを受けたかなと。個人のボディハイト(高さ)だったり。これまでの相手をプレーから分析して準備したのですが、そこがなかなかうまくできなかった。
— こういうチームに勝っていくことが、目指すポジションに到達するためには求められる
本当にすごくいいチームでリスペクトもあります。ハドルでTJ(SHペレナラ)からも話があったんですが、自分たちはやっぱりベストに近いパフォーマンスを出していかないとこういうトップ4に入ってくるチームにはなかなか勝てない。今日の自分たちは足りなかったかなと思います。どうやってそれを引き出すのかっていうところは、また来週話しあっていきたい。
— よかった部分は
PRとして、相手のすごいビッグパックに対して、スクラムではやろうとしたことができたところはあったのかなと。自分たちの結束であったり、まとまりだったりは、よい部分があったと思います。
— スクラムは試合をまたいでも一貫性があり、前半と後半の一貫性も出てきている
そうですね。シーズン中盤にガタガタと崩れたときもあったんですけど、スタートの津村(大志)、大内、あとパディーさんがすごくいいスクラムを組んでくれていて、後半もギャップをつくらずにしっかり持っていけたのかなと。セットプレーがよい試合はよい結果で終わっているので、そこでプレッシャーをかけられるようなFWパックになっていきたいと思います。
PR 笹川大五
自分たちのエフォートっていうところは、悪くはなかったと思うんですけど、少しやられすぎたかなっていう感じですね。
— 難しさを感じたのは?
フィジカルですね。ブレイクダウンもちょっとほかと違って、下にタックルっていうよりは、結構チョーク(ボールに絡むようなかたちのタックル)してきたりしていた。そういうところにも苦戦させられたかなと思います。
— こういうチームに勝っていくために何が必要だと感じたか
ゴール前でのチャンスをどれだけ生かせるか。ピンチのゾーンでどれだけしのげるか。ほんとにそういう場面での一つひとつの結果がすごく大事になってくるので。今日はサインプレーのミスもあったので、そういうものを無くしていかないと強いチームには厳しいっすね。
— 後半は1人少ない時間帯もあった
自分はリザーブとして、エナジーを加えて盛り上げることを意識していました。あとは(PRとしての)自分の仕事ですね。感覚的には、1人いないっていうのをそこまで感じずにすむくらいのプレーができていたかなと思いました。
— ロッカーではどんな話を
エフォートを見せてくれたことは認めるけれども、スコアはスコアだと。前を向いて、次に向けてさらにハードワークしようと。
— スクラムは
よかったと思います。安定していましたし、感覚的にも悪くなかったねという話をしていました。自分たちは今、スクラムは押すっていうよりも安定を意識しているので。
CTB 礒田凌平
勝ちたかったです。勝てなかったので悔しい気持ちです。どんな試合でも、リザーブで出るっていうときはインパクトを残したいし、チームにいい勢いを与えたいっていう気持ちをずっと持っているので、それが3分でも、20分でも、今日は30分ぐらいあったんですけど、そこは変わらないので、エフォートのところやったりとかプレーもそうですけど、全体的に勢いを与えたいなっていう気持ちでやっていました。
— 前節(第13節・後半41分)などはまさに、そういう姿勢が生み出したトライがあった
そうですね。普段通りというか、やってきたプレーをやっただけなので。リザーブだとどうしても合わせる時間が少なくなるので、どれだけ集中してやれるかだと思っています。準備してきたことがしっかり出せたのでよかったです。
— 今日は後半は14人で戦う時間もあった
1人少ないっていうところで難しさはありましたけど、でもそこは補いあえたし、皆でコミュニケーションもとれていたと思います。(メイン)平も(SHを)よくやってくれたし。
— BKとしてしていたトークで印象的なものがあれば
順目に回るチームなので、逆サイドのアタックがチャンスになってくるということや、スカウティング通りチップキック(ディフェンスの頭を越すように蹴る短いパントキック)を蹴ってくるということ。チップを蹴ってくることについては、1本きれいにいかれてしまった。コミュニケーションが取れていて、わかっていた分、悔しかったです。
— 後半は風上だった
あえて風下の陣地をとって、前半はボールキープをして後半はキックで入っていくプランだったんですけど。少し前半でペイシェンスを保ちきれなかったというか、我慢できなくて点数を奪われすぎてしまった。TMOもあったんですけどね。
— 残り4試合。やるしかない
一貫性が大事だと思うんで、この試合頑張ってこの試合頑張らないとかっていうのは違うので、残り何試合だろうが、全力出してやっていきたいですね。
WTB セミシ・トゥポウ
タフゲームでした。トップ4に絡んでいるチームなのでチャレンジになるっていうのはわかっていました。ディフェンスがしっかりしていて、アタックも正確で本当にいいプレーを見せられたっていう感じです。
— 通用した部分もあったのでは
自分たちがしっかりアタックを継続できたときには、プレッシャーをかけることができて、いい流れをつくることができたと思います。前半にアンラッキーもあって結果的に2トライしか獲れず、思い通りにならなかったのは残念です。でも、たくさんあったわけではなかったものの、部分的にはいい場面もありました。ああいったプレーをもっとできれば、上のチームとも戦えるということは証明できたとは思います。
— どちらかというとボールをキープして攻めていくことを目指していた
自分たちはボールを持っているときにベストに近づけると感じています。でも、クボタさんはクイックボールを出すことを阻むプレーをとても上手にやっていました。ボールキープはできていましたが、スローボールになってしまっていた。そういった部分が試合に影響したと思っています。ボールキープしてさらにテンポよくプレーできているときは、相手チームがついてくるのが難しいと思っていますが、今日はそれができなかったですね。相手の大きなFWパックを活かしたラックまわりの戦術が素晴らしかった。
試合ハイライト
■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=420
文:秋山 健一郎
写真:川本 聖哉