【Review】第12節 vs.静岡ブルーレヴズ

2025.03.27

富士を望むスタジアムでの大接戦。後半、逆転勝利への道を突き進んだが一歩届かず

リーグワン第12節、8位のリコーブラックラムズ東京(BR東京)は、4位の静岡ブルーレヴズ(静岡BR)と静岡・IAIスタジアム日本平で対戦。今季2度目のゲームで、躍進を見せる静岡BRにリベンジするべくフィジカルバトルを挑んだBR東京は、前半に7-24とリードを許したが、後半はディフェンスで粘りながらじわじわと点差を詰め、後半33分に20-24と4点差に迫る。しかし最終盤で反撃を許し、25-31で敗れた。

ボールをキープして攻めるプランで挑んだBR東京は、相手の反則を使って敵陣に入り、強いキャリーを繰り返しながらフェーズを重ね、8分にFLリアム・ギルが先制のトライ。しかし、15分にスクラムのブラインドサイドを9番に破られ同点に。21分にもゴール前のディフェンスでペナルティを犯してPGを決められ、7-10とリードを許す。

その後、イエローカードでFLリアム・ギルが一時退出。直後に1トライを許したものの(25分)、集中力と運動量を見せ、不利に対応しながら苦しい時間を戦っていく。しかし36分、ワイドなアタックでディフェンスの薄くなっていた左サイドを突かれトライを許し、7-24で試合を折り返す。

後半は風上に立ったが、「風自体は自分たちが勝つために何もしてくれない」と言葉をかけあったBR東京はあくまでフィジカリティで勝負していくことを再確認し、静岡BRに力で挑んでいく。FLリアム・ギル、SO中楠一期らのボールキャリーでゴールに迫り、中楠からWTBネタニ・ヴァカヤリアへの鋭いパスを通し左サイドを突破。後半最初のトライを奪い14-24(7分)。

その後、静岡BRの猛攻をギリギリのところで阻む好守を連発すると、17分と33分にPGを決め20-24と点差を縮めたが、直後の34分に深く蹴り込まれた再開のキックオフを静岡BRが確保。一気にトライまで持っていかれ、20-31とされる。

それでも最後まであきらめないBR東京は36分、こちらも再開のキックオフを確保してアタック。反則を誘ってゴール前ラインアウトにすると、モールから飛び出したFLリアム・ギルがトライを決め25-31と再び詰め寄る。最終盤はSH TJ・ペレナラが風を操る。精度の高いキックを立て続けに蹴り込んで敵陣深くに侵入。トライチャンスをつくったが、惜しくも獲りきることができずノーサイド。

BR東京は第10節からの3連勝は逃したが、7点差以内の敗戦で得られるボーナスポイントを確保し、5戦連続で勝ち点を獲得。通算成績は4勝8敗、勝ち点は21。順位は9位となったが、プレーオフ圏内の6位・横浜キヤノンイーグルスとの勝ち点差を5と縮めている。残り試合は6。

「風自体は自分たちが勝つために何もしてくれない」

試合前。ゲームキャプテンとしてコイントスに立ち会ったTJ・ペレナラが風上の方向を指さす。前半を強く吹く風に向かって戦う陣地を選んだ。試合を通して風が吹き続けると予想し、後半の勝負どころで追い風を使う意図を想像したが、重きは別のところにもあったようだ。

「スタートは風に向かっていきたかった。自分たちのゲームプランに沿ってやれるようなかたちで」(SH TJ・ペレナラ)

相手はボールを手にすれば力強いアタックを仕掛けてきて、奪い返すのは容易ではない。セットプレー、特にスクラムは強固だ。であれば、できるだけボールは自分たちで保持し、相手にボールを渡すかたちになることが多いキックはあまり使わずに戦う。そんなゲームプランにこだわろうとしたとき、風下から試合を始めることは悪くないものだったのかもしれない。

SHペレナラは後半もチームに対し「風自体は自分たちが勝つために何もしてくれない」と声をかけ、追い風となってもボールを保持しフィジカルに戦う姿勢を求めたという。この日、首位に勝利し勢いに乗る相手と互角に戦うことができたのは、準備したゲームプランが正しく、多くの時間でそれにのっとって戦うことができたからだろう。

試合を通してのメンバーの姿勢を評価したSHペレナラが唯一悔いたのは、自身からメンバーへの発信だった。前半の中盤、ややプレーがソフトになったと感じていたという時間を振り返りこう話した。

「(メッセージが)自分たちがボールをキープすることについてのものが多かったので、ターンオーバーされたときのディテールをあまり伝えられていなかった。何か大事にすべきことを決めたときには(逆の)片方にも大事なポイントが絶対あるものなので、それも伝えるようにしないといけない。振り返ってみるとディフェンスの話をもう少しすればよかったかなとは思っています」

超一流のプレーヤーであり、超一流のリーダーでもあるSHペレナラはこの日、自分のメッセージがメンバーにどのように伝わり、それがパフォーマンスどのように影響したかについて省みていた。

「自分たちのアイデンティティっていうのもわかってきた」

記者会見でタンバイ・マットソンヘッドコーチは、静岡BRを称える際にこんな言葉を使った。

「彼らは自分たちが成功してきたときのかたちをよく理解している。だから今日も非常に一貫していたのだと思う」

SHペレナラは、自分たち自身を称え、こう言った。

「自分たちのアイデンティティっていうのもわかってきたのかなと。(略)自分たちがどういうチームなのか、どうやって勝つのかっていうのを知ることはすごく大事」

自分たちが成功(勝利)できる方法に理解し、その再現に努めることが一貫性につながっていく。そして、BR東京は成功のかたちを見つけだすところまではきているという認識のようだ。では、BR東京にとっての成功のかたちとは。前節の横浜キヤノンイーグルス戦を終えての会見で、マットソンHCはこう述べていた。

「成功するためには、いいディフェンス、いいアタック、いいセットピース。トランジションゲーム(試合展開の変化への反応)もよくないといけないですね。最終的には、そのうちのどこかで勝らなきゃいけない。そこを含め、ゲームプランのバランスもよくなってきたのかなと。ゲームがスタートしたら重きが変わってくると思うんですけど、それにしっかり対応できるメンバーというか、チームになってきたかなと」

各要素を磨き、局面に合わせ相手を上回れるように繰り出していく。ここ数試合の試合内容、特に終盤の充実は、様々な戦い方を精度をもってできるようになってきたことによっ手実現しているのかもしれない。

次節第13節は3月30日(日)14:30から、東京・秩父宮ラグビー場に5位・コベルコ神戸スティーラーズを迎えてのホストゲーム。熾烈を極めるプレーオフ出場権争いに生き残り続けるために、そして2月の対戦で敗れた相手に雪辱を果たすために、絶対に負けられないゲームとなる。タンバイ・マットソンHCが求め続けてきた“一貫性”が宿りつつあるBR東京は、全てを出しきり80分間戦い続けるラグビーで、今季5勝目を掴みにいく。

監督・選手コメント

タンバイ・マットソンHC

今、ロッカールームでもチームに伝えましたが、ものすごいエフォートは誇りに思いました。試合終盤までまだ勝てるかもしれないという中でしっかりとファイトを続けてくれたので。大事な場面での実行力のところがうまく見せられず、そこは残念で、(試合に)響いたかなと。

また、私にとってブルーレヴズ(静岡BR)は昔所属していたチームで、戦うのは特別なものがあります。静岡に住んでいたこともありますし、キャプテンだった堀川(隆延アシスタントコーチ)さんのようなラグビーフレンドに会えますので。ブルーレヴズは今、本当にすごくいいプレーをしていると思います。それを見ることができたのはよかったです。でも、チームとしてはすごく悔しかったです。

SH TJ・ペレナラゲームキャプテン

アグリーですね。勝てなくて悔しい思いです。ヤマハ(静岡BR)といういいチームを相手に、いいゲームプランを持って挑めたと思うんですけど、自分たちの求めている結果は得ることができなかった。チームに関してはすごく誇りに思います。フィジカルなチームに対し自分たちもフィジカルにいくことができ、ほとんどの時間帯で自分たちのゲームプランをうまく遂行できたと思います。自分たちのアイデンティティっていうのもわかってきたのかなと。そこはすごく大事なポイントだと思うので。レギュラーシーズンは残りあと6試合。しっかりとプレーオフに向けて戦っていきたいと思います。自分たちがどういうチームなのか、どうやって勝つのかっていうのを知ることはすごく大事で。今日は勝てなくて悔しいのはもちろんですけど、ポジティブなこともたくさんあったかなと思います。また来週に繋げられればと。

質疑応答

—静岡BRと対戦するにあたり、どのような指示を出したか?

マットソンHC:私から見るとヨーロッパ系のゲームをするチームだなと。すごくいいセットピースを持っていて、BKにもパワーランナーが何人かいて、ボールキープもすごく上手い。FLクワッガ・スミスは素晴らしいスプリングボクス(南アフリカ代表)で、僕のフェイバリットプレイヤーの1人です。彼らは自分たちが成功してきたときのかたちをよく理解している。だから今日も非常に一貫していたのだと思います。特に前半はチャンスを活かして、そのまま私たちに逆転させずにゲームを締めるラグビーをしました。

—スタジアムの印象は?

TJ・ペレナラ:素晴らしかったです。素敵でした。最初に到着したときから本当にすごいなと思って。雰囲気も素晴らしかったし、ブルーレヴズのファン、僕たちのファン、どちらも素晴らしかった。スタジアム自体もすごく特別な場所だと思いました。

マットソンHC:外国人として、海を見下ろせて、富士山も見えるスタジアムというのは本当に素晴らしい

TJ・ペレナラ:ピッチに出ていくときに、向こう側に富士山が見えました。

マットソンHC:すごくユニークなスタジアムですよね。それと芝生ですね。ベストでした。

TJ・ペレナラ:ビューティフル。このスタジアムは普段誰が……。

マットソンHC:(ペレナラに)清水エスパルスだよ。サッカーチームの。グラウンドキーパーの方々には申し訳ないです。ゴメンナサイ、荒らしてしまって……。本当に素晴らしいグラウンドでした。

—後半、風上に立って追い上げた。フィールドの中でできたこと、できなかったことを

TJ・ペレナラ:風自体は強かったですね。正しいエリアでプレーすることが重要だと思っていて。前半はしっかりボールをキープしていいスタートが切れたと思います。でも、ターンオーバーされると相手もうまくボールをキープしてきてプレッシャーをかけてきましたね。(風上に立った)後半は、「風自体は自分たちが勝つために何もしてくれないよ」と話していました。ブルーレヴズという相手に対し、ボールをしっかりキープしてフィジカルにいくっていうことが(後半も)大事だと。それはよくできたのかなと思いました。FWはいいパックを相手に、しっかりやってくれたかなと思います。

—ゲームプランを遂行できたというのは、まずは前半、風下の陣地からボールをキープして攻めることができたあたりのこと?

TJ・ペレナラ:それはうまくいきました。いいスタートはきれた。最初の10分、15分はしっかりボールキープして、ビルドプレッシャーできていたかなと。(その後は)ディフェンスでいくつかソフトなプレーが出て、相手に自陣の深くまで入られてしまった。ボールをキープしたいというゲームプランを持って試合に臨むと、難しいバランスになることがあります。そこは僕がリーダーとして伝えるメッセージを、よりよいものにする必要があったかもしれない。(メッセージは)自分たちがボールをキープすることについてのものが多かったので、ターンオーバーされたときのディテールをあまり伝えられていなかった。何か大事にすべきことを決めたときには(逆の)片方にも大事なポイントが絶対あるものなので、それも伝えるようにしないといけない。振り返ってみるとディフェンスの話をもう少しすればよかったかなとは思っています。

—前半は風下の陣地を選んだ

TJ・ペレナラ:はい。スタートは風に向かっていきたかった。自分たちのゲームプランに沿ってやれるようなかたちで。自分たちはヤマハを倒せると信じていましたから、僅差で後半に入って、そのときに追い風があれば助けになるかなとは思っていました。実際、終盤にキックを使っていいポジションに入れて、もう少しで勝てるところまで持っていけたとは思っています。

—プレーオフをどれぐらい意識しているか?

TJ・ペレナラ:とても意識しています。

マットソンHC:今、リーグワンは9位から5位くらいまでが結構接戦にあるので、今日の勝ち点1というのはすごく重要だったのかなと思います。すごくエキサイティングなリーグです。

—上を目指していけると感じたのはいつ頃か?

TJ・ペレナラ:負けていた時期もありましたが、いいラグビーができているとは常に思っていました。東芝(東芝ブレイブルーパス東京)戦(第9節)は1点差でしたし、ビッグチーム相手でも全然やれると感じています。ブレイク(バイウイーク)前に三菱(三菱重工相模原ダイナボアーズ)に勝って、先週キヤノン(横浜キヤノンイーグルス)に勝って、そのあたりからでしょうか。まだここから上位のチームと対戦できるので、彼らを倒せば彼らは勝ち点を得られないので、そこをポジティブに考えています。

 

LO 山本嶺二郎

—フル出場。フィットネス的には問題なさそうに見えたが

いや、だいぶ疲れました。試合前には“エンプティ・ザ・タンク”しようという話をしていました。最初の40分でまず出しきって、後半の残り40分も最後まで出しきろうっていう話をしたんですけど、それは全員やりきれたんじゃないかと思います。特に後半、7-24となって(メンタル的に)落ちやすい状況の中で、いいエフォートを見せられたのはすごくよかったと思っています。前半のスコアはある程度想定内だったので、それほど焦ることはなかったです。ただタックルのところで少し受けに回ってしまったりとか、そういうところはネガティブな部分だというのは話しました。トライを獲られるのは仕方がないけど、時間かけてしっかりいいディフェンスをして獲られようという話はしました。

—フィジカリティを強みとする相手だったが

そうですね。やっぱり強かったですけど、自分自身はスキルを使いながらいいフィジカルを出せたかなと思います。

 

SO 中楠一期

—試合を終えての率直な気持ちを

そうですね、負けてしまって悔しいですけど、勝つチャンスも権利もあった試合だったなと思うので、誇らしく思います。

—前半はボールを持って攻める意識が感じられた

自分たちのフェーズを重ねればチャンスをつくれるっていう自信もあったので、それはもう試合通してしっかりテーマとしてもってやりました。

—その後の時間帯、シンビンなども出て少しうまくいかなくなったようにも
別にうまくいかなかったとは思っていなくて。あれだけ強い風下なんで。まあ、ラグビーでは風下で17点ビハインドは全然普通のことなので。特に何も思っていなかったです。

—ハーフタイムはどんな話を

まあ、しっかり24点に抑えているから、勝つチャンスもある。よくやっているというのがみんなの共通認識でした。

—後半は逆にこう仕掛けていく場面も増えた、いいトライを生み出すパスも

まあ、そうですね。いいプレーもできましたが、まだ改善すべきところもある。トライラインの前にいったときに獲りきる部分は、自分の力としてもそうですし、チームとしてももっと必要かなと思いました。

—次の試合もまた大事なゲームだが、意識したいことは

まず明日はノンメンバーのトレーニングゲームがあるので、もう一回チームとしていいメンタルで臨みたい。今回は8日間空くので、しっかりリカバリーしながらいい準備をしたい。プレーオフを狙えるところにいると思っているので、貪欲にみんなで勝ち取りにいきたいと思います。

 

試合ハイライト

 

■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=418

文:秋山 健一郎

写真:川本 聖哉

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