【Review】第4節 vs.トヨタヴェルブリッツ
2025.01.14
苦しんだ後半、ルーキー・伊藤耕太郎の独走トライで逆転成功。しかし、流れを引き戻しきれず
リーグワン第2節を終えて1勝2敗、8位のリコーブラックラムズ東京(BR東京)は第4節、岐阜メモリアルセンター長良川競技場で同10位のトヨタヴェルブリッツ(トヨタV)と対戦。開幕戦に先発したFB伊藤耕太郎が今季2度目の先発。前節はメンバーから外れていたFWの柱・ファカタヴァアマトも復帰した。さらに盤石なものとなりつつあるフィジカリティをぶつけ、今季2勝目を目指した。しかし、前半は攻守で良さを見せリードを奪ったが、後半は負傷退場が相次いだこともあり、フィールド後方へのキックを使った攻撃でトライを重ねられ、18-32(前半10-0)と試合を引っ繰り返された。
試合の入りは積極的なディフェンスでリズムをつくっていく。5分、敵陣の密集でターンオーバーに成功すると、HO武井日向のブレイクでゴール前へ。フェーズを重ねるとトヨタVに反則が出てPGで先制。10分にも強いボールキャリーとキックで前進し、NO8リアム・ギルの突破からトライが生まれ10-0とする。しかし、15分、17分に迎えた決定機を逃すと流れはトヨタVへ。それでも自陣でのピンチを堅いディフェンスで弾き返し、スコアを許さずに前半を終えた。
後半2分、SO中楠一期がハイボールの競り合いで負傷し交替。ルーキーの伊藤がSOに回り、やはりルーキーのCTB PJ・ラトゥなどを加えた布陣で試合を再開させたが、直後の4分、外のスペースを突かれトライを許す。
BR東京は8分、PGで3点を返し13-5とし、さらにFWを縦に走らせるアタックを繰り返しフェーズを重ねたが、トヨタVも粘り堅守を見せる。12分、長い攻撃の後、キック処理で後手に回り相手BKにスペースを与えると、トヨタVに再び外側のスペースを走られトライを許す。16分にもセンタースクラムからのアタックでディフェンスを中央に寄せられ、外を破られるかたちでインゴールに運ばれ、13-15と逆転される。
BR東京は20分、自陣に蹴り込まれたキックに追いつき、これを確保したSO伊藤がスピードとステップワークを見せ、独走トライで5点を返し18-15 と再びリードを奪う。
終盤の我慢比べの時間の中で、もう一度流れを引き寄せたいところだったが31分、ハーフウェイ付近からのキックを捕球して抜けたトヨタVがトライを決めて再逆転。さらに38分にはPG、39分にはインターセプトからトライを奪われ引き離された。第4節を終え、通算成績は1勝3敗。勝ち点は5のままで、順位を10位としている。
適切な準備、適切なマインドセットで打ち込んだ“ファーストパンチ”
「バックフィールドのところは整備が必要かなと。来週のゲームの相手もまたタフなチームなので、自分たちの弱みを狙ってくると思う。しっかり取り組んでいきたい」(タンバイ・マットソンHC)
最終的な点差はやや開いたものの、後半37分までは4点差で追った。接戦といってよいだろう。BR東京はここまで前に詰めスペースを奪うディフェンスでプレッシャーをかけ、キックチャージも何度か成功させスコアにも繋げてきた。この日のトヨタVはやや深めのアタックラインを敷き、スペースを確保した上でキックを活用しているようにも映った。組織的でフィジカリティのある守備が安定していて、規律やセットプレーに大きな隙がない相手に対し、キックに活路を求めるのは当然といえば当然だが、そこをしっかりとやり遂げられた印象を受ける。リーグワンも第4節まで進み、各チームのストロングポイントがどこにあるかが、互いにしっかり像を結び始めているということかもしれない。
ゲーム終盤の展開はどうしても印象に残りやすいが、先制しよく守ったBR東京の前半の戦いぶりは一貫性があった。ここまでの4試合で先制したケースが3試合、先にトライを奪ったケースも3試合。チームからよく聞こえてくるテーマ“ファーストパンチ(先手)”をしっかり打ち込むことができている。これは適切な準備、適切なマインドセットでキックオフを迎えられていることの証といっていいだろう。強者を倒すために、大きなアドバンテージとなる一撃を放っていくことは、このまま継続していきたいところだ。
CTB PJ・ラトゥとSO/FB伊藤耕太郎。2人のルーキーが残したインパクト
難しい戦いでゲームタイムを得た2人のルーキー、CTBラトゥとSO/FB伊藤にとっては悔しくも大きな経験となったのではないか。
CTBラトゥは昨季、アーリエントリーでの出場こそなかったが、トレーニングマッチでずば抜けたフィジカリティを見せていた。今季のプレシーズンマッチでは6試合中5試合にメンバー入りし3試合に先発。CTB池田悠希が日本代表に帯同する中、レギュラーの座を狙うポジションにまで成長を果たしていた。
この日の試合では縦への強さに加え、横への動きのレンジの広さをうかがわせ、想定よりもひと伸びしてランナーに迫るディフェンスを何度も見せた。惜しくもキャッチはできなかったが敵陣ゴール前でパスのインターセプトを狙ったプレー(後半19分)や、終了目前のキックオフ(後半38分)後のブレイクダウンで相手からボールをもぎ取るプレーなどでは、反応やパワーにおいても強い印象を残した。
「コミュニケーションが取りづらい展開になったとき、相手にそこ(バックフィールド)を使われてしまった。あそこで、試合中の改善というのがもう少しできていれば」(SO/FB伊藤)
伊藤はしっかりとチームを背負った。試合の流れが相手に向かい、ディフェンスでは今季初めてといってもいい混乱が少し生じた。そんな中で、SH TJ・ペレナラとも何度も言葉を交わしながら、もう一度チームを動かそうと奮闘した。一瞬の隙をトライに繋げてみせる個人技も見せたが(後半20分)、その喜びよりも、ダイレクトに攻め長いフェーズを重ねたアタックでトライを獲りきれなかった(後半9分)場面などに悔しさをにじませる。
「しっかりビデオを見て、チームとしていいアタックができるように」
若き司令塔が求めるのはチームトライだ。そしてこうも言う。
「(SO中楠)一期さんがアウトしたときに、コントロールできていなかったのが一番悔しい。でも、自分の今後の伸びしろでもあると考えたい」
激戦の様相をみせるリーグワンにおいて、BR東京にとっての最大の強みは伸びしろだ。自分の成長こそがチームを押し上げる——。そう信じて前を向く選手たちの力を結集し、難敵たちからの勝利を目指す。
リーグワン第5節は、第4節を終え5位のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(S東京ベイ)との対戦。1月18日(土)12:00から、東京・スピアーズえどりくフィールド(江戸川区陸上競技場)で開催されるビジターゲームとなる。S東京ベイとの戦いでは昨季は17-18、一昨季は38-40といずれもラストプレーで勝敗が決する大接戦が続いている。あと少しのところで跳ね返されてきた相手にもう一度思いきってぶつかり、勝利を掴みたい。
監督・選手コメント
タンバイ・マットソンヘッドコーチ
最後のスコアですね。かなりダメージがあったかなと。特に最後の20分のところ。リーグのレベルが高い分、ミスをすればかなり大きなダメージがある。それでも前に進み続けなければいけない。部分的にはよいパフォーマンスもできました。いくつかいいトライも獲れましたし、隣にいるFL松橋(周平)のように、よいパフォーマンスを見せてくれた選手はたくさんいた。バックフィールドのところは整備が必要かなと。来週のゲームの相手もまたタフなチームなので、自分たちの弱みを狙ってくると思う。しっかり取り組んでいきたい。とても残念で負けた後はネガティブになりがちですが、コーチとしてこの先もポジティブなマインドを保っていきたいと思っています。
— 後半うまくスコアを挙げられなかった要因は
トライライン付近までいったときに、2回ヘルドアップされた。前半もトライラインの近くでエラーがありましたが。ああいうエラーはクリティカルなものになり、勝つか負けるかに影響を与える。そういったシーンでポイントを重ねていければ、結果は違っていたかもしれないですね。
— SO中楠一期がアクシデントで退出後、バランスが変わったようにも
10番が出られなくなると当然難しくなる。彼とTJ(SHペレナラ)とのコネクションはよくなってきていたので。ただラッキーなことに、同じく若く将来性のある10番である(SO/FB伊藤)耕太郎もいるので、彼に15番から10番に回ってもらった。
FL 松橋周平バイスキャプテン
岐阜という地で、多くの皆さんの前で試合をさせていただき、今日は本当にありがとうございました。今週、自分たちはここで勝つ権利を得るためにすごくいい準備をしてきたつもりではあったんですけど、タンバイ(マットソンHC)が言ったように後半20分くらいから、徐々にそれが崩れてきてしまった。簡単なミスをしてしまったり、簡単にトライを与えてしまったりして、コネクションが切れていったと感じています。
前半はすごいフィジカルにプレーできていて、もっとスコアを重ねていくことができたかなというシーンもあったんですけど、やはり後半にトヨタVにやりたいラグビーをされたというか、相手が僕らの弱みをしっかり突いてきて、それが敗因だったかなと思っています。
でもすぐに次の仕事が始まるので、明日しっかりリカバリーして、また月曜日から強いマインドセットで、クボタ(S東京ベイ)を倒すために全力を尽くすだけです。僕もリーダーとしてチームを引っ張っていけたらと思いますし、全員がそういうマインドセットで向かっていけるように働きかけていきたい。今日はありがとうございました。
— 後半のディフェンスは、これまでの試合とは少し違った状態にあった
相手がダイレクトに来る分には問題なかったんですけど、後半、ボールを回され始めて、回しながら裏にキックを蹴られたときにうまくカバーできなかった。そのまま相手にボールを獲られて、ゲイン切られて、トライを獲られてしまったというシーンがほとんどだったとは思うので、そこを修正していきたい。
PR パディー・ライアン
勝ちたかったですね。フィジカリティはレベルアップしているし、セットピースも精度を出せていたと思う。ただ、それ以外の部分でミスが多かったことが結果につながったのかなと。トヨタVのスクラムは開幕からぐっとレベルアップしてきていると感じました。それに対応できていたのはハッピーです。そういうポジティブなところはたくさんあったのですが、やはり負けてしまったのは残念ですね。来週もビッグチャレンジがあるので頑張りたい。楽しみにしています。
— フィジカリティでは相手を上回っていたように映った
キープしていきたいと思っています。いい練習の成果が試合に出ていると感じるので、そういう練習を続けていきたい。フィジカリティはFWにとって重要な部分なので。でも、ディシプリンは必要だね。相手がいいディフェンスラインを敷いているときは、どうしてもペナルティが出てしまうこともあるけれど、来週は同じことをしてはいけない。
— このチームへの思いを強く感じる
このチームで、また新しいコーチたちのもとでプレーすることを楽しんでいます。それが頑張れている理由。いいコーチなんですよ。
— 全体練習後、ヘッドコーチとよくタックルスキルを確認している
そう。僕の意識、ボディヘイト。背が高いから、ローレベルでね。(日本語で)
LO ロトアヘアポヒヴァ大和
— 前節から先発での出場機会を掴み、いいプレーを見せている
このチャンスを生かすしかないぞという気持ちでやっています。心掛けていることは、チームがやりたいプレーを深く知ろうとすること。実際にそのプレーを試合で出すこと。
— タックルも低く、規律意識を感じる
ペナルティをしないことは強く意識していて、皆で声を掛け合っているけど、まず自分がペナルティから離れていけるようにと。
— チームとして、フィジカリティは見せ続けている
チームがやりたいラグビーを理解して、皆が試合中の役割をわかっているから、フィジカリティを出せているというのはあると思う。迷うことが少ないので。
— ラインアウトは修正ポイントの1つだったと思うが、安定感が出ていた
過去3試合、セットピースはあんまりだった。大事なところでミスしていた。今日は修正できたけど、他のところでペナルティを犯してしまった。ちょっとディフェンスでプレッシャーをかけすぎていたかな。それでオフサイドになってしまったりして。
— トライを獲れそうで獲れない場面もあった。フラストレーションも?
特にそこまでは溜まっていない。チャンスを生かしきれなかったのは痛かったけれど、そのあとセイムページを見ようと皆で話し、切り替えていました。
SO/FB 伊藤耕太郎
10番として、(SO中楠)一期さんがアウトしたときに、コントロールできてなかったのが一番悔しいです。でも、自分の今後の伸びしろでもあると考えたい。毎試合、本当にトップレベルを経験できているので、今後の成長に繋がる試合だったのかなと思います。
— チームとして意識していたのは
これまで通り、前半の20分の“ファーストパンチ”のところを意識しました。あとはダイレクトに強くいこうとも話していました。そこについては収穫があったと思います。ただ、それでも後半はあまりトライが獲れていなかったので、それだけではだめなのだと思います。しっかりビデオを見て、チームとしていいアタックができるように。
— SHペレナラとよくコミュニケーションをとっていた
TJからアイデアが出ていたので、(理解が)合っているかを確認していました。
— 後半はバックフィールドを使われた
コミュニケーションが取りづらい展開になったとき、相手にそこを使われてしまった。あそこで、試合中の改善というのがもう少しできていれば。
試合ハイライト
■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=410
文:秋山 健一郎
写真:川本 聖哉