【Review】第3節 vs.埼玉パナソニックワイルドナイツ
2025.01.06
前半は3PGで肉薄。故障者相次いだ後半、勢いに乗った埼玉WKに引き放される
リーグワン第2節を終えて1勝1敗、7位のリコーブラックラムズ東京(BR東京)は第3節、ホストエリアの東京都世田谷区・駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場に3位の埼玉パナソニックワイルドナイツ(埼玉WK)を迎えた。大ケガを経験し2023年3月以来の公式戦復帰となったFLファカタヴァ タラウ侍、初のメンバー入りを果たしたルーキー、CTB PJ・ラトゥなどを加えたラインナップで臨んだゲームは、互いに磨きあげた強固なディフェンスに挑んでいくハードな戦いに。BR東京は後半の中盤まで食らいついたが、終盤に点差を拡げられ、16-39(前半9-17)で敗れた。
前半3分にPGで先制。しかし11分、ゴール前に攻め込まれ逆サイドへのキックパスのこぼれ球を押さえられて逆転を許す。14分にも自陣でのスクラムペナルティからPGを決められた。だが、CTB池田悠希が再開のキックを直接キャッチしてゲイン。さらに反則を誘うと、17分にPGを決め6-10。敵陣に入りながらスコアできない時間が続いたが、32分に敵陣でスクラムペナルティを奪いPGで1点差に。前半の終盤は我慢の時間となったが、終了直前にゴール前スクラムからの攻撃でトライを許し、9-17で試合を折り返す。
後半は5分にPGで点差を拡げられたが、7分にSH TJ・ペレナラのギャップ突破からCTB池田に繋ぎトライを奪って16-20。さらに追い上げたかったが、ラインアウトでのミスや埼玉WKのブレイクダウンへの圧力、巧みなキックなどに手を焼き、自陣でのプレーやディフェンスの場面が増えていく。15分に外のスペースを突かれてトライを許すと、28分、31分と連続でトライを奪われて突き放され、悔しい敗戦となった。第3節を終えて、通算成績は1勝2敗。勝ち点は5のままで、順位は8位となっている。
自分たちから倒しにいくーー。勝つために戦う姿勢
「パナソニックに食らいついていく。我慢するというよりも、自分たちから倒しにいくというマインドセットを持とうと話し臨んでいた」(HO武井日向)
試合における絶対的な目標は勝利だ。でも、勝利の目指し方、そこに向かっていくときのマインドセットは、様々ありうる。よく聞かれるのは、「自分たちのラグビーをする」というものか。相手がどうやって戦ってくるのかに思いを巡らせ、対応していくことも大事だが、まずは自分たちが磨いてきた強みを意識したラグビーを実行する。そうすることから優位をつくりだしていこうとするものだ。
だが、BR東京は前節、「サントリー(東京SG)を倒す」という明確なメッセージのもとで戦い実際に勝利した。勝利という目標を“肉眼”で見据えて戦う姿勢が、チーム史に残る結果を導いたともいえる。自分たちのラグビーや強み、そこにフォーカスし正しく実行することは当然大事だ。BR東京であれば、泥臭く、我慢強く、必死に戦うことか。だが、そこを徹底した上で少し踏み出し、勝利を明瞭にイメージして戦う段階にチームが入っていこうとしている様子が、武井の言葉からは推測できた。
実際、どんなラグビーで勝利に近づこうとしていたかは、2人の選手のコメントがヒントになる。
「ああいうチームに対して、たくさんのチャンスを与えてはいけない。20回チャンスを与えれば10回は決めてくるチームなので」(LO/FLマイケル・ストーバーグ)
「相手にゴール前のゾーンに入られる回数を9回以内に抑えることがテーマだった。オフサイドなどを減らしできるだけペナルティを出さないように戦っていた」(CTB礒田凌平)
20回のチャンスで10回はスコアしてくる、つまり50%の確率でスコアしてくると仮定すると、チャンス(ゴール前侵入)を9回以内に抑えようというテーマからは、「5回スコアされるか、されないか」がボーダーと見ていたと読み取れる。すべてがトライでCVも決まれば35点。CVの何本かが外れたり、PGに切り替えるケースが出れば30点あたりだろうか。
リーグワンが始まってからの4シーズンで、埼玉WKが30点以上の失点を喫したケースは初年度(2022年)に2度あっただけ。以降はどのチームも30点以上の得点を奪えていない。それ以上の失点が勝利を一気に遠ざけることは疑いようがなかった。勝利の可能性を維持して戦うために、失点のリスクを上げる自陣深くへの侵入回数に目標を置き、そこに意識を向けて戦おうということだったのかもしれない。
改めて数えてみると、集計が難しいものもあったが前半で5回、後半で9回、計14回ほど、ボールを持った埼玉WKに22mラインを越えられていた。そのうちスコアになったのは7回で、やはりチャンスの半数程度はスコアしてくるチームだとわかる。
強く鋭いFW、キッキングゲームやハイボールの処理も強みとするBKを相手にエリアのコントロールを図っていくのは簡単ではないが、シーズン終盤の再戦時、どんな修正を見せてくれるかに期待したい。
LOポヒヴァ大和やWTBヴァカヤリアが見せていた献身的な働き
ゴール前に繰り返しボールを運ばれてしまったことに悔しさをにじませる選手は多かったが、それでもその厳しい場面で見せた身体を張ったディフェンスは、熱くも冷静で質の高さを感じさせるものだった。この点については本当に、第1節から一貫性を見せている。LOジョシュ・グッドヒューやFLストーバーグ、NO8ギル、SH TJペレナラといった面々の貢献はもちろんのこと、この日今季初先発を果たしたLOロトアヘアポヒヴァ大和が繰り出し続けた低いタックルやベテランらしい的確なディフェンス、WTBネタニ・ヴァカヤリアの走力を活かした守りでの貢献も光った。CTBラトゥは、負傷者が出たためスクラムに加わるというイレギュラーなデビュー戦となったが、やはりディフェンスではフィジカルを見せ、チームを支えていた。
すでに点差は拡がっていたものの、試合の最終盤に見せた自陣スクラムからのアタックも印象に残った。NO8松橋が自ら持ち出し、WTBヴァカヤリアとのコンビネーションでゲイン。ハーフウェイ付近からSO中楠のキックパスがCTBシオペ・タヴォに入ったシーンだ。直後にはFB伊藤耕太郎のスペースへのキックによるゲインにも成功した。トライにこそならなかったが、とっさの判断と選手同士のリアクション、若い選手のタレントが噛み合い、一瞬でひとつの絵が描かれたシーンだった。
リーグワン第4節は、第3節を終え10位のトヨタヴェルブリッツ(トヨタV)と対戦。1月11日(土)14:40から、岐阜メモリアルセンター長良川競技場で開催されるビジターゲームとなる。この3試合、「必死に戦う姿勢」というぶれない軸を見る者の記憶に刻んだ。一方で、連携の向上や若手選手たちの成長など、チーム力の伸びしろへの期待を抱かせるプレーもたくさん見せてくれている。選手自身もさらなるビルドアップができると手応えを語る。強敵との試合が続くが、強い気持ちで挑み、今季2勝目をつかみとりたい。
監督・選手コメント
タンバイ・マットソンヘッドコーチ
今日はゲームのパーツについてはいいところが多くあった。エフォートやフィジカリティは一貫性を見せてほしいと言っていましたが、2つに関してはよくできていたかなと。パナソニックさんが見せてくれたパフォーマンスからは、なぜ彼らがこれだけ成功してきたかというのがわかりました。自分たちがちょっと(チャンスを)プレゼントするような形にもなってしまいましたが、それをしっかりと点に繋げてきたなと思いました。どのチームも彼らにリベンジすることを目標にずっとやってきていると思います。私たちもここから学べることはたくさんあると思うので、そこをしっかりやりたいと思います。
— SO中楠一期を起用している。彼の最も評価している部分は
10番は一貫性が重要。一期は若い選手なので、できるだけ安定してゲームタイムを与えたい。彼の誠実にラグビーに取り組む姿勢は素晴らしいですし、スキルも高い。まだ足りないのは経験。今年はすごく重要な年になる。横にTJ(SHペレナラ)がいて、外にはCTB池田がいる。シーズンが深まるにつれてどんどんよくなるだけだと思っています。ミルキー(FBルーカス)は15番の方が10番よりも合っているのかなと。ただ、プレイメーカーが2人いるのはいいこと。
— 反則を抑えることができている
特に、必要のない(判断で減らすことのできる)ペナルティを抑えてくれていると感じる。それは戦いに影響をもたらしていると思う。
— 多くの観客が訪れた。世田谷での存在感が増していると思うが
世田谷を代表したいという思いは強い。東京の中で一番いい区だと思うので。東京でベストラグビーチームになりたいという思いもある。それはなかなか難しいことなんですけど。世田谷にはプロフェッショナルスポーツがあまりないと思うので、みんなが一番好きなプロスポーツチームになるチャンスはあると思っています。チームというのは、コミュニティとの関係性が強い方がやっぱりいいパフォーマンスをする。チームのみんなを代表して言わせてもらうと、素晴らしい街なので、ここを代表して戦っていきたいなと思っています。
— どこか特に好きな場所は
砧公園には週に2回くらい歩きます。妻は馬が好きなので、馬術のセンター(馬事公苑)が近くにあることにも喜んでいます。桜が咲くシーズンが楽しみです。
HO 武井日向キャプテン
ヘッドコーチと一緒で、ハードワークだったり、エフォートだったり、フィジカリティもそうですが、今シーズンはそこの一貫性が見えてきていて、チームとして成長できていると思います。また、パナソニックさんにチャンスを与えすぎてしまって、それはものにされてしまったのは反省点だと思うので、そういう場面を減らす努力すべきだと思っています。よくレビューしたいと思います。
— よく食らいついていたが、途中で離された。何かが足りなかったのだと思うが、実感としてはどうか
いろいろ要因はある。23人全員で同じラグビーをしないといけない。誰が入っても同じプレーができるようにチームとしてレベルを上げなければいけないのはある。まだ終わったところで試合を振り返ることができていないので、わからないことも多いですが、そういうところは1つの要因だと思う。
あとはパナソニックに食らいついていく。我慢するというよりも、自分たちから倒しにいくというマインドセットを持とうと話し臨んでいた。それを80分間持ち続けることができていたかというのはあります。
—多くの観客が訪れた。世田谷での存在感が増していると思うが
地域とのつながりというのは、すごく僕たちも大事にしている部分。ラグビーのパフォーマンスでの結果というのはもちろんですが、それ以外のいろいろな活動も今シーズンは特に積極的に行っています。より多くの世田谷区民の方々にもっとブラックラムズ東京を知ってもらえたら。今日は駒沢での最高観客動員だったと思いますが、もっともっとこの会場が満員になるくらいまで、選手自身もチームを知っていただくための活動に参加していきたいと思っています。
PR 西和磨
いい流れで試合に勝っていきたいというのはあったので、敗戦は悔しい。自分たちのやりたかったことができなかったことも悔しいです。
— ラインアウトでやや安定感を欠いた
セットプレーは先週の試合から改善していこうという部分でしたが、ラインアウトは今日も苦しくなってしまった。うまく噛み合わなかったところはある。ナレッジであったりとかディテールであったり、自分たちのやるべきことができてなかった。そういうのをなくしていかないとこういうゲームはものにできない。改善はできる部分だと思う。
— ディフェンスは我慢強く、雑にならずによく守れているように映る
自陣に食い込まれたとき、粘り強くディフェンスできていた場面もあった。ただそもそも自陣に入れないというところが大事なのかなと。今日もいかに自陣深くに相手を入れないかをテーマにしていたが、前半からかなり食い込まれてしまった。
— ブレイクダウンはよくファイトしていて、クイックボールも出せている
ブレイクダウン周りは昨季から変えてきたことで、それが自分たちにフィットしていると思う。ボールを持っている選手も、サポートする選手も、より速く次のプレーに繋げようという姿勢はさらによくなっていると感じる。まだ3節目ですし、これからもっとよくできると思っています。
LO/FL マイケル・ストーバーグ
60分間はハードに戦えていたし、相手と競っていく姿勢もあった。ディフェンスはすごくよかったと思う。ただああいうチームに対して、たくさんのチャンスを与えてはいけない。20回チャンスを与えれば10回は決めてくるチームなので。
— 相手に流れが向かっていても、辛抱強く守る姿勢を感じた
ディフェンスはチームそのものが反映されるもの。お互いのためにハードワークするとか、誰かがミスしても誰かがそれをカバーするとか、そういうことが大事になってくるので。そこは自分たちがプライドを持ってやっているところです。ラグビーでゲームに勝つときにはベースにはいいディフェンスが必ず存在する。ただ、ディフェンスに慣れてしまってはいけない。ディフェンスが続けば、どうしてもポイントを獲られてしまうので。
— ラインアウトでは少し苦しんだ
30、40分はよかったと思う。ただケガの影響もあり選手の入れ替わりが激しくなってリズムを崩してしまったのはある。ゲームにはすごく重要な時間帯があって、そういうタイミングでミスをしてしまったので、ゲームへの影響が出てしまった。自分たちにプレッシャーをかけてしまった。(小さなズレ?)そう。ほんの少しだけ集中力がパッと切れてしまった。
— ブレイクダウンのスキルも高まっている。
細かい部分ですね。ジムにいくタイミングでテクニックにフォーカスしたスキルセッションをやっている。そういうことの成果がグラウンドで見えるようになっているのかな。
CTB 礒田凌平
60分ぐらいまでは自分たちのプレーができていたんですけど、ケガなども出てイレギュラーもあった中で、コネクトが切れてしまったかなというのはある。そこは改善しないといけない。今日は相手にゴール前のゾーンに入られる回数を9回以内に抑えることがテーマだった。オフサイドなどを減らしできるだけペナルティを出さないように戦っていたが、ノットロールアウェイがたくさん出ていた。タックルのあとの動きはもう少し改善しないといけないと思っています。前半でゴール前に7回くらい入られていたと思う。そこでよく我慢はできていたけれど、やっぱりしんどい試合になってしまう。
— 今季の戦い方への手応えは
戦い方は明確になってきています。あとはTJ(SHペレナラ)が入ったことによって、敵陣深くに入ったときにコントロールしてくれるので、僕たちがそれにコネクトできるかどうか。もっと合わせていければ、もっといいアタックができると感じています。だいぶやりやすくなってきているのはある。あとはもっと敵陣に入れるように、キックゲームにも勝っていく。そこでいいアタックができれば、もっとスコアできると思うので。
FB アイザック・ルーカス
最初の60分くらいは完璧ではありませんでしたけど、我慢強くファイトし続けていい位置につけていたので、終わり方は残念でした。今日はキックを使って、正しいエリアでプレーできるようにすることが重要だった。だから自分のやりたいプレーでチャンスをつくることはなかなかできなかったけど、チームとしてチャンスをクリエイトする機会はあった。そういう日もある。チームの中で自分の役割をしっかり果たしていきたい。
— 試合を追うごとに、アタックの形がスムーズにできるようになっているようにも
チームとしてはまだビルドしているところ。コンビネーション的にも。TJ(SHペレナラ)もまだ加わって間もないし、絶対的によくなっていると思います。いい感じにミックスされてきて、アタックでいいものを生み出せているのかなと。まだまだ改善できると思うので、さらに伸びると思います。
試合ハイライト
■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=409
文:秋山 健一郎
写真:川本 聖哉