【Review】第1節 vs.三重ホンダヒート

2024.12.25

新生ブラックラムズ東京の初陣は、最終盤に逆転を許し惜しくも勝利を逃す

NTTジャパンラグビー リーグワン 2024-25 ディビジョン1が開幕。第1節、リコーブラックラムズ東京(BR東京)は三重県・三重交通Gスポーツの杜鈴鹿での三重ホンダヒート(三重H)とのゲームに臨んだが、21-23(前半14-6)で敗れた。

序盤は主導権を握った。新加入のNZ代表SHのTJ・ペレナラの巧みな配球とフィジカルを活かしたアタックでよく攻め、インゴールに2度ボールを運ぶ。しかし、どちらもTMO(映像判定)を経てトライキャンセルに。前半18分、スクラムから攻め新加入のNO8リアム・ギルのトライでスコアに成功したが、直後に自陣で反則を犯し、2本のPGで1点差に迫られる。それでも29分に反撃し、敵陣ラインアウトから攻めてLOマイケル・ストーバーグがトライを奪い8点差で試合を折り返す。

後半は三重Hが規律を改善させ、より拮抗した戦いに。7分、相手11番にタッチライン際を破られてトライを許し再び1点差に迫られたが、16分に連続攻撃で中央に空けたギャップをNO8ギルが抜け、再びトライ決めもう一度引き離す。

だが、追加点を奪えずにいると30分、相手21番にミスマッチを突かれビッグゲインを許してピンチを招き、6番にインゴールにねじ込まれる。またも1点差とされると38分、ハーフウェイ付近でPKを与え、自陣22m付近のラインアウトに。最後のアタックに対応していくが痛恨のハイタックル。三重Hがゴール至近のPGの準備に入るところでホーンが鳴り、成功の瞬間に逆転での敗戦が決まった。

 

答えではなく、答えを導き出すためのツールを

プレシーズンの中盤。ここからどこにポイントを置いてトレーニングをしていくつもりかをたずねると、タンバイ・マットソンHCからはこんな言葉があった。

「答えとしてはひどいものかもしれないけど、全部かな。昨季10位に終わった現実を考えれば、全てにおいてレベルアップしようとする姿勢が必要」

返答からは、新たなチームにやってきた指導者に必然的に求められる改革者としての役割への意識も感じた。だが、グラウンドで指導する姿を観察しまた選手やコーチたちに話を聞いていくと、印象は変わる。

「体制が変わったという感じがそんなにしないんですよ。もちろん、新しいコーチたちに改めて自分のプレーを評価されているという緊張感はあるし、SHペレナラのような選手の発想に触れることで、いい刺激は受けているんですけど」(SH髙橋敏也)

リーグワンにおける序列を上げていくためには変化は必要だ。チームは新しい何かを吸収する必要がある。だが過去を否定し、そこに新しい何かを押しつけていくような手法を、今のチームはとっていない。マットソンHCの盟友で、ともにチームにやってきたカール・ホフトFWコーチの言葉からも、新体制のスタンスのニュアンスが伝わってくる。

「僕からの一方通行の指導ではなく、選手が自分たちでプレーを評価して、修正点を見いだし解決していけるような働きかけを意識しています。プレーするのは選手。答えではなく、答えを導き出すためのツールを提供するイメージです」

余談だが、ホフトコーチにスクラムについてたずねると、立ち上がって拳を突き出し、押してみるように促された。スクラムの力学を、腕に伝わる力感を通じて陽気に解説する。教え方や伝え方の引き出しの一つを見せてもらいながら、指導の流儀も教えてもらった気がした。

“しなやかな”移行を経て、コーチ陣がチームにもたらそうとしているものは数多くあると思われるが、選手たちの自分の判断で基づくプレーの領域がやや広がっているのは確かだ。

「昨季のトライはきれいなトライが多かったと思うんです。狙ったかたちにしっかりハマったような。今季はそうじゃないトライも増えていくかもしれないですね」(SH山本昌太)

 

「獲りきれない時間帯はコミュニケーションが少なかった」(FB伊藤耕太郎)

合流まもないSHペレナラが即先発。NO8にはプレシーズンマッチで高いパフォーマンスを見せてきたギルが入り、アーリーエントリーでの出場経験はあるが、今季が1年目となるFB伊藤耕太郎が初先発を果たすなど、新味のある布陣で挑むかたちとなった敵地での開幕戦。80分間にわたりリードを守りながら、ホーン後の逆転PGで試合は決した。BR東京の猛攻にも崩れなかった三重Hのレジリエンスが光るゲームとなった。

幕切れはショッキングなものだったが、SHペレナラは冷静に振り返る。

「試合を通じて、ファイトはできていた。後半は実行できなかったところやシェイプがつくれなかったところは確かにあったが、そこは修正可能な部分。コントロールを失ったという感覚は1回も感じなかった」

「今日見せたフィジカリティは素晴らしく、そこに関してはいい仕事ができていた。クリーンボールを出してくれていたので、それを続けられるように。そうすればトライをつくりだすチャンスを自分たちから生み出せる」

試合開始からの20分はほぼゲームを支配した。アタックにおけるコリジョンでは、その多くで優勢を保ち、繰り返し相手のディフェンスを押し込んだ。プレシーズンでつくりあげてきたフィジカリティが確かなものであることは証明したといえる。相手は前半だけで9つのペナルティを犯したが、PGではなくトライにこだわったのも、そのあたりの手応えがあったからかもしれない。

前半序盤に比べると拮抗した前半中盤以降も、接点で受けに回ることはなかった。アグレッシブに前に出て外への展開を阻もうとするディフェンスも機能し、相手によくプレッシャーをかけた。チームがポイントにしていたというテリトリーバトルへの意識も途切れず、危険なエリアでプレーする時間を短くできていた。許した2本のトライは、アンストラクチャーな状況でWTBにエッジを走られ、ミスタックルが出たもの(後半7分)と、ゴール前で与えたペナルティからのFWを中心としたアタックによるもの(後半30分)。当然止めなければいけなかったが、大きな混乱や問題の存在をうかがわせるものではない。

引き離せそうで、引き離せなかったゲーム。そうなった理由については、FB伊藤が所感を述べる。こちらもSHペレナラ同様に冷静だ。

「本当に、シンプルに、獲りきれない時間帯はコミュニケーションが少なかった。チームとしてまとまって最後までファイトし続けることが大切。試合の途中から入るリザーブの選手とのコミュニケーションも意識していきたい」

次節リーグワン第2節は、12月28日(土)13:00からの東京・秩父宮ラグビー場での東京サントリーサンゴリアス(東京SG)戦。今季最初のホストゲームだ。SHペレナラが「フィジカルバトルになると思う。すごくいいテスト」と話すように、活路は身体を張り続けた先にのみある。チームスローガン“Reboot(再起動)”を体現するゲームに期待したい。

 

監督・選手コメント

タンバイ・マットソンヘッドコーチ

ファーストゲームはどんなときでも重要。シーズンの今後に向けていい印象を残したいし、プレシーズンに頑張ってきたことを結果に繋げたいゲーム。ですので、結果に対してはすごく残念ですが、ポジティブな面も見えたと思う。最後の30分、実行力が落ちてしまったことが結果に影響したと思っています。三重Hはすごくよいラグビーを見せ、最後までファイトし続けていました。そうやって勝つチャンスを得て、それをしっかりつかんだのかなと思います。

—以前、三重Hを指導したと聞いているが、どのように映ったか

そうですね。スポットでコーチをさせてもらいました。だいぶ変わってきているかと思います。キアラン・クローリーHCはインターナショナルコーチですし、今日はテストマッチラグビーをされてしまったかなと。獲れるところでポイントを獲って、キックを蹴り、しっかりプレッシャーをかける。彼がいい影響を与えていると思います。

 

HO 武井日向キャプテン

ヘッドコーチが言ったように、ラスト30分の部分は自分たちの思うようにいかなかったと思います。最後までファイトできなかったし、プランを実行できなかったというところが、この結果につながってしまった。ただ、結果だけを見たら負けなのですが、(内容を)正しくレビューしたい。シーズンは始まったばかりで来週も試合があるので、切り替えていいアティチュード(姿勢)を持って、1週間を過ごしていきたいと思います。

—引き離すチャンスはあったように映った。試合が進むにつれて、うまくいかなくなっていった要素はあったか

それぞれが自分の役割を理解して、一瞬一瞬で自分の仕事をやることが大事。正しく理解ができておらず、実行できなかったら、ああいうチャンスをものにできないと思います。逆に三重Hは僕らがミスをしたところをチャンスに変えていったと思う。リアクションの部分や正しく理解して実行するというところ。そこがよくなかったのかなと。

—前半、激しく攻めたがうまくスコアにつながらなかった。そこで消耗したということは

特にそれはないです。相手のゴール前で何度かチャンスは逃しましたけど、そこに居続けられたっていうところでは、そこまで自分たちにプレッシャーはかかっていなかったです。リーダーとしては、そこのペナルティの判断っていうところは、少し話したい。リーダーズ(グループ)で話したいなと思います。

 

SH TJ・ペレナラ

いいものもたくさんあったんじゃないかなと思います。特に前半はトライを生み出すチャンスを4、5回はつくりだすことができていました。そのうちの2回はトライにならず、いくつかはトライまでいけなかった。それは残念に思っています。ただ、そういう場面をつくりだせていることには、すごくエキサイトできました。

—徐々に流れが相手に向かった。何かうまくいかなくなっていった要素はあったか

試合を通じて、ファイトはできていたとは思います。後半は実行できなかったところやシェイプがつくれなかったところは確かにありました。でも、そこは修正可能な部分だと思っています。コントロールを失ったという感覚は1回も感じませんでした。ただ、三重Hもファイトし続けていました。そこは本当にすごいところ。それで、最終的に勝ちという結果を得られるフィニッシュができたのは三重Hだった。

—東京SGと戦う次節のホストゲームに向けて

今日見せたフィジカリティは素晴らしく、そこに関してはいい仕事ができていたと思います。クリーンボールを出してくれていたので、それを続けられるように。そうすればトライをつくりだすチャンスを自分たちから生み出せるはず。ディフェンスもほとんどの時間はよかったと思います。ミスタックルからラインブレイクを許してしまった場面はあったので、ああいうところは止めていきたい。重要なときに止めることですね。東京SG戦はフィジカルバトルになると思う。すごくいいテストになります。

—FLサム・ケインとの対戦も

すごく仲のいい友達で、オールブラックスのキャリアを一緒に終えた仲間でもある。リスペクトしている彼とバトルするのは楽しみです。

—チームの若い選手とプレーした印象を

たくさんいますね。イチゴ(SO中楠一期)やイケ(CTB池田悠希)。今日はイケのキャリーが素晴らしく、よく前に出てくれた。あとはイソ(CTB礒田凌平)のディフェンスにも関心させられます。若い選手ではないですが、リアム(FL/NO8リアム・ギル)はこのチームで最初のキャップを獲った仲間となりましたね。あとはベンチから出てきたサム(PRサミュエラ ワカヴァカ)も関心して見ています。

 

NO8 リアム・ギル

エキサイティングな気持ちです。残念な終わり方ではあったんですけど、最初の50、60分は、自分たちがしたいラグビーができていたと思います。しっかりゲームコントロールもできていたし、チャンスで獲りきれないところはあったんですが、それはちょっとした差で、50、60分くらいまではいい絵が見えていたかなと思います。でも見てもらった通り、最後の20分はリーダーシップとか冷静さとか、そういうところはまだまだ見直しが必要かと思います。

—チームとして今日の試合に臨むにあたって、一番大事にしたことは

テリトリーバトルをコントロールしたかった。だからディシプリン(規律)をしっかりとやりたくて、ディフェンスのコントロールってところ。最初のほうはそれがしっかりできていたかなと。ただ、それを80分間やり続けないといけない。最後までやりきれなかったですね。

—突き放せそうだったが、それができなかった理由。相手も素晴らしかったが

本当にスモールマージン、ちょっとした差。それで獲りきれなかった。いいチャンスはたくさんつくれていたんですけど。20分でやっと1本のトライ。フラストレーションを感じるようなところもあったのですが、もっとできるかなという感覚はあります。TJ(・ペレナラ)のファーストウイークだったし、復帰間もないメンバーも何人かいた。この試合から、得られたものもあると思う。

—試合後、マットソンHCからのコメントは

残念な結果だが、修正するには1つしかない。いいアティテュードでまた月曜日、グラウンドに来ること。もう一度やっていかなきゃいけない。シーズンがこれ1試合で変わるわけではない。ハードワークし続けて、ディシプリンを保ってやり続けようと。

 

FB 伊藤耕太郎

まず1年目で、開幕戦にスタートとして出られたことがすごく嬉しかったです。ただ結果は悔しいものでした。最後の最後までファイトし続けることができなかったのは敗因の1つだと思うので、そこをしっかり全員で、悔しいですけど受け入れて、次のホーム開幕戦に向けて1週間準備したいなと。

—チームとして、個人として、どんなプレーをしようと考えて試合に臨んだか

僕としては、バックスリー(WTBとFB)の間のコミュニケーションというところと、アタックでの外側のオーガナイズというところを意識していました。ボールキャリーをアグレッシブにいくことも意識していました。

—ゴール前までボールを運ぶ、惜しいプレー(前半34分)もあった

いいかたちでコミュニケーションを取れていたので、あそこまで運べたのだと思う。ただ、あそこで獲りきれる選手にならないといけない。

—プレシーズンは日本代表への追加招集も

代表もそうですし、その前にはニュージーランドにも留学させてもらって、日本にいる時間が少ないプレシーズンでした。外国に行った分、自分の中でも成長できた部分もたくさんあったのですが、今日それが発揮できなかったのは悔しい。

—FBでの出場となったが

求められたポジションで頑張るだけです。ただ、10番はやりたいポジションではあります。

—後半に流れを失ったが、プレーしていた感じたことは?

本当に、シンプルに、獲りきれない時間帯はコミュニケーションが少なかった。チームとしてまとまって最後までファイトし続けることが大切だと思います。試合の途中から入るリザーブの選手とのコミュニケーションも意識していきたい。

 

試合ハイライト

 

■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=408

文:秋山 健一郎

写真:川本 聖哉

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