【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2023-24 D1/D2入替戦第1戦 vs.NECグリーンロケッツ東葛

2024.05.24

BR東京が選んだ“決戦”に臨むためのマインドセット

3季目のリーグワンを10位で終えたブラックラムズ東京(BR東京)は、ディビジョン1残留を懸け、ディビジョン2の3位、NECグリーンロケッツ東葛(GR東葛)と2試合制の入替戦を戦うこととなった。入替戦への出場はリーグワンの前身、トップリーグ時代の2015-16シーズン以来。だが、全16チームのうち4チームが臨んでいた当時と、全12チームのうち3チームが臨む現在では、入替戦のレベルは全く異なるというべきだろう。

「いいラグビーができるときは楽しいとき。だからそういうラグビーをしようと」(PRパディー ライアン)

タフな戦いに向かっていくチームから聞こえてきたのは、楽しもうという声だった。少し意外かもしれない。“決戦”にいかなるマインドセットで臨むべきかは、チームの置かれている状況に合わせて決まってくるものだろう。自分たちに明確な課題があれば、徹底的にそこへフォーカスするべきだし、戦う相手が明確な個性や強みを持っていて、対処が必要なのであればそこに集中するべきだ。BR東京は、リーグ戦16試合でいいラグビーができていたとき、どんなマインドでラグビーをしていたかをレビューし、それに従った。決戦を「楽しみなもの」としてとらえることにした。

第11節、東芝ブレイブルーパス東京(BL東京)戦を前にした会見を思い出す。ゲームに向けてのコメントを求められたFL松橋周平は、絶好調のBL東京を「楽しみな相手」と表現した。翌週の試合では、グラウンドで自分たちらしいパフォーマンスが発揮されるほどチームは勢いに乗り、BL東京をあと一歩まで追い詰めた。自分たちのやってきたラグビーを信じ抜ければ、それを強いライバルたちにぶつける機会は、自ずと楽しみなものになる、ということか。

HO武井の続けざまの果敢なプレーで、均衡を破る

強い日差しの中で始まったゲームは、互いに手堅く、キックを基軸にエリアの確保を狙ったバトルで幕を開ける。最初にスタンドを沸かせたのはGR東葛。前半6分、15番が放ったドロップアウトがハーフウェイ付近に落ち、これを追った相手BKに入る。BR東京は対応が遅れ後退。しかし、折り返しての展開に対し、右のエッジでWTB山村知也が低いタックルを決めてランナーを倒す。すかさずFL松橋がジャッカルを決めてピンチを脱出する。

好プレーがチームに熱を与えていく。13分、ハーフウェイから少しBR東京側に入ったポジションでパスアウトを狙った9番にHO武井日向が襲いかかりボールをもぎ取る。アタックに移行。SH髙橋敏也が左足から放ったキックが、敵陣深くに飛びタッチを割る。50:22成功で、敵陣ゴール前のラインアウトを得る。このゲインがHO武井のトライ(19分)の足がかりとなった。

「硬くなっているというよりも、よく我慢しているなと。そういう過程があって、(前半の)後半にスコアが生まれたと思っている」(FL松橋)

緊迫感の漂った序盤。ここでミスを恐れ消極的にならずにプレーできていたのは、これまでの試合で得た学びの成果か。迷いのないプレーを見せ続けたHO武井、自らのフィジカルを信じ、愚直に縦に挑んだCTB池田悠希らの強気の姿勢が、チームを鼓舞していたように映った。

HO武井はトライ直後に負傷交替することになったが、チームは動じない。2本目のトライは再開のキックからノーホイッスルで奪う。CTB池田の相手を十分に引きつけてからのパスでWTB山村が左のエッジをゲイン。中央をSO中楠一期、PRライアン、FBアイザック ルーカスとつなぎ裏へ。ここでルーカスは前方のスペースを狙わず、ステップを切り互いに選手が多くいる左へ向かう。ゴールまでの距離、味方の数、FWの状態などを冷静に判断した結果か。

獲り急がなかった判断は正しかったようにも映った。ラックからLOマイケル ストーバーグ、PR西和磨、LOロトアヘアポヒヴァ大和とキャリーを続け、PRライアンがついにグラウンディング。2本目のトライ(22分)。

3本目のトライは、蹴り合いを経て自陣から攻めようとした相手の落球で得たスクラムから。ペナルティを獲ってラインアウトにすると、モールはボールが出せず相手スクラムとなったが、これも押し勝ってもう一度スクラムを得る。NO8サミュエラ ワカヴァカのサイドアタックからフェイズを重ねていくと、FWのピックゴーに備えラックの近場を固めた相手ディフェンスを見て、FL松橋が右側の少し離れたCTB池田にパスアウト。背後からサポートを受けた池田は、ディフェンスをなぎ倒して中央にトライを決める(33分)。

再開のキックで相手にミスが出て、センタースクラムに。SH髙橋が左に出すダミーを入れてから右に出すと、FBルーカスが鋭いランで右サイドを破る。外をフォローしたWTB西川大輔につなぐと、内に返しスクラムから40m走り追ってきていたFL松橋が受けてゴールに迫る。ボールを奪いにきたディフェンスの手からボールがこぼれると、詰めていたFBルーカスがこれをインゴールに押し込むようにしてグラウンディング(36分)。ラインブレイクという決定的な仕事をしたあと、さらにもう一つ仕事を果たすプレーで、チャンスを確実にスコアにつなげた。

前半終了直前、自陣でノットリリースザボールを犯し与えたラインアウトから、モールを組むと見せかけてパスを出すサインプレーで1トライを許したが、26-7とリードして試合を折り返す。

迎えた苦しい時間を乗り越えさせた“DNA”

後半最初のトライもBR東京に入る。ハーフウェイ付近でアタックを仕掛けたGR東葛が蹴った、裏へのキックにLOストーバーグが反応。チャージでこぼれたボールがLOアマト ファカタヴァに入る。ここから攻め、CTB池田の強いキャリーとSH髙橋のキックで敵陣ラインアウトを得る。これをキープし、冷静にフェイズを重ねゴールに迫ると、最後はSH髙橋がラックから一度外に持ち出し、そこから内側に切れ込んで中央インゴールへトライ(後半3分)。

33-7としたBR東京だったが、ここからややモメンタムを失う。再開のキックを確保しテポイントをつくり、SO中楠が蹴ったキックがダイレクトタッチとなる。自陣深い位置で与えたラインアウトから中央方向に展開されると、ディフェンスがランナーに引き寄せられる。空いたタッチライン方向のスペースに戻され、エッジでゲインを許す。ゴールラインにディフェンスラインを敷いたが、ラックから鋭いフラットなパスを出され、スピードに乗って走り込んだ13番を止めきれずトライ(6分)を許す。

「GR東葛が奪ったトライは、こちらのミスからというよりも自分たちでクリエイトしたものだった」(PRライアン)

次戦に向け、ライアンが脅威だと話す“クリエイトした”トライにより、33-14と再び点差が縮まる。再開後も敵陣でのノックオン、スローフォワード、ノットロールアウェイとミスや反則が続き、自陣ゴール前でラインアウトを与えると、モールを止めることができず、連続トライ(15分)を許す。スコアは33-21、12点差に。

16分にFLブロディ マクカラン、NO8ネイサン ヒューズ、20分にLOジョシュ グッドヒュー、SH南昂伸を入れて流れを引き戻しにいくBR東京。キックを使い、改めてフィールドポジションを確保しようとする意識もうかがわせた。ただ、規律の乱れやハンドリングエラーが出て、落ち着かない時間が続く。

25分、自陣で展開しFBルーカスとWTB西川が外のスペースを使って前へ。SO中楠がタッチキックを蹴り、敵陣ゴール前で相手ボールのラインアウトに。このゲインを足がかりに敵陣に入ると、ラインアウトモールでNO8ヒューズがトライ(29分)。

ボーナスポイントを獲得しての勝利に必要な3トライ差をつけたBR東京。さらにトライを重ねてボーナスを確実なものとし、さらに点差も拡げたい局面だったが、GR東葛の激しい闘志に苦しめられる。

31分、敵陣でのディフェンスで15番にギャップを破られ、内側をフォローした9番につながれ、一気にゴール目前まで運ばれる。ここでFBルーカスとSO中楠が食らいつき、グラウンディングを阻む。アタックでのひらめきや華麗なスキルでスタジアムを沸かせる両者が、土台にある泥臭さを見せチームのピンチを救う。

「自分たちを助けてくれたのは自分たちのDNAだったのかなと」(ピーター ヒューワットHC)

その後も、思いきりのいいランで仕掛けてくるGR東葛のアタックに、振り回される時間が続いた。だが、組織的でプラン通りのディフェンスはできずとも、走って当たり、蹴って、また走った。

主導権は奪い返せなかったものの、ボーナスポイントを死守してノーサイドを迎える。プレイヤーオブザマッチには、フィジカルなプレーでチームを牽引したCTB池田が選出された。

ディビジョン1残留を懸けて挑む入替戦第2戦は、5月25日(土)、14:30よりBR東京のホストゲームとして、神奈川県・相模原ギオンスタジアムで開催される。もがき続けたBR東京が、今季最後の試合で目指す“ベスト”を、この目にしっかりと焼き付けたい。

監督・選手コメント

ピーター ヒューワットヘッドコーチ

こんにちは。5ポイントを獲って勝てたことはハッピー。前半の35分は、よくできた。そこから自分たちがうまくいっていた状態から少し離れ、そこからGR東葛さんに得点され、自分たちの勢いを止めてしまう流れになった。後半は自分たちがやりたいことをやるという一貫性を保ちきれなかった。

そんな中で、自分たちを助けてくれたのは自分たちのDNAだったのかなと。隣にいる彼(FL松橋周平)はこの6週間、素晴らしいパフォーマンスを見せ続けている。今日も早い時間帯からキャプテン(HO武井日向)が退場することになったが、そこからしっかりとチームをリードした。80分にわたりDNAを見せ続けてくれて、本当によかった。でも、まだ半分しか終わってない。また来週ゲームがあることもしっかり認識している。

—デビューから4ヵ月。SO中楠一期への評価を

本当にいい経験が積めているのかなと。若い10番は、常に学んで、常に成長し続ける。一方でオーナーシップをとって、チームのことをしっかりリードしてくれている。今季は求めている結果は出せなかったが、こういった若い選手がキーポジションに生まれて、彼らが一緒に、いい時間を過ごし、いい経験を積んでいければ、いい未来が待っている。経験のある選手の中に1人か2人、すごく若い選手が入るということはあるが、多くの若い選手が一緒にプレーするというのは多分レアなことだと思う。プレッシャーのかかるゲームで経験が積めているのはいいこと。完璧ではなかったが。

—レギュラーシーズンとは違ったプレッシャーのかかる入替戦で、どういったところにフォーカスして臨んだか

「自分たちらしく」というところにフォーカスしている。いつもとは違うプレッシャーはあるが、マツ(FL松橋)が言ってくれたように、2週間、自分たちらしくいいゲームをして、いい経験にして、次に向けて勢いをつけていこうと。シーズンを振り返ると、試合の中ではいいところもたくさん見ることができた。そういうプレーを80分にできる限り近い時間見せて、お互いのために、ファンのために、ブラックラムズらしい試合をする。そう思って入替戦に臨んでいる。あと1試合チャンスがあるので、それをしっかりお見せしたい。

FL 松橋周平

ありがとうございました。勝てたことだけがよかったのかなと個人的には思っている。この2週間、ベストの試合をしようという話をしていた。前半はある程度できていたが、後半にGR東葛さんに隙を与えてしまい、彼らにいけると思わせた状態で試合を終わらせてしまった。個人的な意見だが、こういうゲームをするために入替戦に臨んでいるわけじゃない。今シーズンは(試合を通しての)一貫性のなさ、(試合終盤を)締めきれないところがあったが、それがこういうゲームにつながっているのかなと思っている。来季もっと上のレベルでしっかり戦いたいなら、80分間一人ひとりがその瞬間瞬間のことを理解して、遂行力を上げ、自分たちのラグビーをする必要がある。来季のプレーをいいものにするためにも、1週間後の試合は、自分たちとしてのベストを目指してやっていきたい。

—HO武井が、トライ直後に退場。あれがきっかけで火がついたようにも

試合では何が起こるかわからないものなので、HO大西(将史)も準備していたと思う。(HO武井)日向が抜けてしまったとしても、自分たちがやるべきことをやるだけだったので、それがきっかけでプラスになるとかマイナスになるというのはなかった。ただ「引き締めて、1つひとつのプレーをしっかりやろう」という話はして、それができているときはスコアにつながった。

—最初のトライが生まれるまでの20分弱。チームに硬さはあったか?

もちろん相手も元気な状態ではあるので、すぐに点数が獲れるとは全く思っていなかった。しっかり我慢することを意識してやっていた。硬くなっているというよりも、よく我慢しているなと。そういう過程があって、(前半の)後半にスコアが生まれたと思っている。

PR パディー ライアン

—スクラムは1本目こそ取られたが、以降は主導権を握った

ペナルティを取るのか、普通に勝負しにいくのか。そういう話をキャプテンとかフロントローとの間ではしていた。いいバトルだったと思う。GR東葛のプレーもしっかり構築されていると感じた。しっかりコーチングを受けていて、しっかりドリルもされているという感じは受けた。今日の結果は嬉しいが、来週はもっと見せられるように。

—スクラムは次戦に向け、さらに警戒を要する

(スクラムだけではなく)どのエリアでも脅威を感じた。GR東葛が奪ったトライは、こちらのミスからというよりも自分たちでクリエイトしたものだったので。

—日差しが強かった。暑さなどの影響は

蒸し暑くなかったので、問題なかった。(もっと長い時間のプレーもできた?)はい。風もあったが、キックやラインアウトに影響するほどの風ではなかった。

—若い選手も多いチームでプレッシャーのかかる試合に臨んだ。正しいマインドセットに持っていくために、どんな働きかけを?

自分たちが今できることにフォーカスしようと。ほかのことは気にしない。またいいラグビーができるときは楽しいとき。だからそういうラグビーをしようと。

SO 中楠一期

—重要な試合。緊張は?

緊張はあった。いつもはあまり緊張しないが、今日はした。意識しすぎず、いつも通り準備をしてやるべきことをやろうと思っていたが、当日になったら結構プレッシャーを感じた。

—前半は我慢して、流れをつくり、スコアを重ねた。あのあたりは思い通りできていた

どんなシチュエーションになることも想定内ではあった。そんな中で自分のキックのスキルの部分のシンプルなミスがあった。自分の未熟さが出てしまった。もっと自信を持って実行できるぐらいの準備が必要。パニックになっていたわけではなかったが…。

—もう1試合あるので話しにくいかもしれないが、どんなプランで試合に臨んだか

特別なプランがあったわけではない。試合をやりながら(対応していく)。FWが頑張ってくれて優位性があると感じたので、そこを使っていこうとはした。

—後半は少し苦しい時間もあった

あの時間帯も、(ピンチを)つくったのは僕のキックのところだった。チームとして悪かったわけではなかった。(次の試合では)自分がちゃんとやります、っていう。みんながいいプレーしてくれて、ディフェンスで身体を張ってくれて、踏ん張れたと思う。DNAを見せるという部分は遂行できた。

—泥臭い戦い方は、どうしてもフィットネス的にはきつくなるもの

チームとして、捨て身ではないがエネルギーを使うラグビーをしている。でも、そういうラグビーをできるくらいのプレシーズンを過ごしてきているので、最後足が止まるのは相手だという考えのもとで戦っている。ただ80分、最後までエネルギーを残すためのチョイスも、10番としてはすべきだとも思っている。

 

■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=401

文:秋山 健一郎

写真:ブラックラムズ東京

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