【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2023-24 第16節 vs.トヨタヴェルブリッツ
2024.05.10
泥臭く、粘り強く。若手を交えた布陣で、接戦を演じる
リーグワン最終第16節は、開幕戦で戦ったトヨタヴェルブリッツ(トヨタV)を秩父宮に迎えてのホストゲーム。ブラックラムズ東京(BR東京)の主催試合では過去最多となる16,951人の大観衆に見守られてのゲームは、結果はもちろんながら、チームの目指すラグビーに沿ったプロセスへのこだわりも伝わってくる、小気味よい一戦となった。
開始直後、BR東京は自陣でのジャッカルを狙ったディフェンスで反則。ゴール前ラインアウトを与えると、右中間のモールからのサイドアタック、さらに狭い右隅への展開でトライを許し0-5(前半3分)。しかし、再開直後に得たスクラムで反則を奪い敵陣深くでラインアウトを得ると、モールを押したあと、HO大西将史が中央でキャリー。さらにNO8ネイサン ヒューズがゲインラインを破るとSH髙橋敏也が左にパスアウト。9-12-13と繋いで、CTBロトアヘアアマナキ大洋がディフェンスを貫き、左中間にトライ(8分)。5-5の同点に。
BR東京は追い風を活かした蹴り合いで押し込み、敵陣ラインアウトから展開。HO大西のキャリーに対し、守る相手が反則。右中間、25mほどの距離のPGを決め8-5とリードを奪う(18分)。強力なランナーを擁するトヨタVのアタックを粘り強く止めていくBR東京だったが、前半終了間際に左サイドタッチライン際でタックルを2つ外されて抜かれると、内に返され左中間にトライを許す(34分)。CVも決まり8-12。終了直前にも猛攻を浴びるが、WTB栗原由太やCTBアマナキ大洋のゴール間近の位置での好ディフェンスで切り抜け、そのままハーフタイムへ。
後半も互いに高い集中力を保った入りに。好調のCTBアマナキ大洋が、ハーフウェイ付近で相手の15番に鋭いタックルを決め、ノックオンを誘ってスクラムにすると、FKを得てNO8ヒューズがリスタート。FL木原音弥のキャリー、SO中楠一期のグラバーキックとCTB池田悠希のチェイスなどでディフェンスラインを脅かすと、相手にラインオフサイド。ゴール前ラインアウトからモールを押し、前方が空いたところで、ボールを持っていたNO8ヒューズが低く飛び出しグラウンディング。左中間へのトライ(後半12分)で13-12と逆転する。
しかし、ハーフウェイ付近のスクラムから左サイドを攻めたトヨタVは、折り返すと中央のギャップを13番が突破。ゴール前でサポートした18番に繋ぎポスト左脇にトライ(18分)。CVも決め13-19と再逆転する。
23分、BR東京はSO中楠のキックを追ったFB伊藤耕太郎が、ルーズボールを足にかけ、相手に当ててタッチに出し、敵陣でのマイボールラインアウトを獲得す。伊藤は直後にも自ら蹴ったキックを追い、キャッチした相手SOボーデン バレットにプレッシャーをかける。やや精度を欠いたボーデンのキックをSH南昂伸がスペースに蹴り返し押し込むと、HO小池一宏がギャップを抜ける。22mラインを越えチャンスを迎えたが、ラックからこぼれたボールをターンオーバーされ、チャンスを活かせなかった(24分)。
モメンタムは相手に向かう。28分にグラバーキックを左中間インゴールで抑えられたトライを皮切りに、一挙4トライを奪われ試合を決められた。終了直前、FL木原の低いタックルがノックオンを誘い、スクラムからSH南が仕掛ける。木原が豪快なクリーンアウトを見せてキープすると、左中間のポイントからNO8ヒューズがピックゴーで裏に抜け出しトライ(41分)。直後にホーンが鳴り、CV(不成功)のあとにノーサイド。後半中盤まではクロスゲームを演じたBR東京だったが、後半に突き放され18-45で敗れた。
自分を磨き続け、自分を信じて、その日を迎えられるか
先発が予定されていたPR中村公星のアクシデントにともない、リーグワン初出場を先発として果たすこととなったPR津村太志や、後半20分からFBのポジションで出場した伊藤耕太郎、今季初出場となったFL山本秀、2021年以来の公式戦出場となったWTB山村知也といった選手を加えた布陣で挑んだ最終節。チームがやろうとしていることはとてもシンプルだった。
SO中楠らのキックを使ってエリアを獲得し、安定させたセットプレーからアタックを重ねていく。ディフェンスは泥臭く、抜かれたとしてもあきらめず、複数の黒いジャージが、ランナーを追いかけて後方へと走り、インゴールに入ってもなおトライを阻もうとした。ピッチの中では常に声が飛び交い、コミュニケーションを通じコネクトを保った。
「(WTB山村をメンバーに選んだのは)練習試合や練習でのパフォーマンスもあるが、性格もある。泥臭さを持っているので」(ピーター ヒューワットHC)
大きなケガを経て復帰を果たした才能の持ち主を、このタイミングでピッチに戻したことは、ヘッドコーチからのメッセージのようにも思える。
前半20分、トヨタVの中央へのキャリーで、ディフェンスを集められた直後、外に振られ、山村は3人のランナーをケアしなければいけない場面を迎えた。ここで迷わず南アフリカの世界的プレーヤー、NO8ピーターステフ・デュトイに挑み、1人で倒し、オフロードパスも阻んだ。すぐさまSO中楠が相手の後方に空いたスペースに蹴り込みエリアを奪ったシーンは、泥臭い闘志と確かなタックルスキル、冷静な判断がクロスする、胸のすく瞬間だった。
来たるべき日に向けた正しい準備。それを信じてピッチに立つ。山村が2年以上のブランクが空いた公式戦で力を発揮できた背景には、そうした行いがあったことだろう。チームがこれから挑む入替戦でやり遂げるべきことも、これと重なる部分があるように思う。
「不安やプレッシャーはない。僕らは今年1年、ちゃんとやってきた部分があるので、結果としてこういう順位になってしまったが、僕ら自身が D1でしっかり戦えることは証明できていたと自負している。(略)自分たちにフォーカスする。今年1年やってきたことを見せ、勝ちたい」(FL松橋周平)
自分を磨き続け、自分を信じて、その日を迎えられるか。すべてはそこに懸かっている。
NECグリーンロケッツ東葛との入替戦第1戦は、5月18日(土)14:30より柏の葉公園総合競技場で開催される。
「トレンドマイクロ ウイルスバスター マッチデー」として開催。試合終了後には特別表彰も
この試合はトレンドマイクロ株式会社の協賛による「トレンドマイクロ ウイルスバスター マッチデー」として開催した。試合終了後には、トレンドマイクロ株式会社より、この試合でチームに貢献した中楠一期選手に「Best Blocker賞」を贈呈した。
監督・選手コメント
ピーター ヒューワットヘッドコーチ
まずはトヨタさんの勝利に、おめでとうございますとお伝えしたいです。60分付近までは13-12。最後の20分は相手のSHアーロン スミスなどが変化をもたらした。ゲームのテンポが上がり、うちの選手たちにも疲れが見えていた。(相手にとって)いい状態で、スペシャルなプレーヤーが入ってきたというゲームだった。
60分までは本当によく戦い、僕の隣に座っている彼(FL松橋)も素晴らしかった。若い選手たちにとってはいい学びになったと思う。勝つためには80 分間ずっと高いレベルを続けなければいけないが、できなかったときにどうなるか。辛い思いをしながら、それを経験することも必要なこと。
LOロトアヘアポヒヴァ大和が100キャップを達成しました。彼にとっての今年1年は簡単ではなかったが、その中でレジリエンス(弾性・回復力)を見せ続けた。よくファイトして、このチームが自分にとってどれだけ大切なものであるかを行動で示してくれた。SO/FB伊藤耕太郎とPR津村大志はファーストキャップ。大志は想像していたかたちではなかったかもしれないが、その中でよくやってくれた。
—伊藤耕太郎をFBで起用した
今週は1秒もFBでは合わせていなかったが、状況的にそうなった。カバーの可能性はあるとは伝えていた。センスのある選手なのでどこでもプレーできるかなと。これからが楽しみな選手であることを見せられたのでは。
—同じ明治大学出身のLO山本嶺二郎より遅いデビューとなった
加入が嶺二郎より少し後だった。若い10番がチームを動かしてリードするのは簡単なことではないというのもある。練習試合に2試合プレーしてもらって、いいパフォーマンスを見せてくれたのでいけると。将来的にはSO中楠(一期)などといい競争をしてくれると思う。そこにSO/FBアイザックルーカスもプラスできると、面白いんじゃないかと。
—“BREAKTHROUGH”というスローガンを掲げてきた。どんなところにチームの成長を感じたか
若い選手たちは、ブレイクスルーというかたちは取れたのかなと。ここ最近はルーキーやアーリーエントリーの選手がメンバーに絡んできていて、すごくポジティブなブレイクスルーストーリーができている。今は痛みをともなっているが、彼らがこれから成長していき、それをマツ(FL松橋)や日向(HO武井)のようなリーダーが引っ張るかたちで前進していければ、すごくいいチームのベースがつくれるんじゃないかと思う。
ここからの3週間は、とにかく自分たちが日々成長していくことが大事。個人レベルでそれぞれが成長を果たしていくことで、チームにとってのプラスとなり、チームを強くしていくことに繋げていければ。
今日は16000 人を超える方々がグラウンドに来てくださったことに感謝しています。すごくいい雰囲気の中でプレーができました。本当にありがとうございました。
—WTB山村知也が復帰を果たした
それもブレイクスルーストーリー。彼は2年半ぐらいプレーしていなくて、その間に膝の手術を2回している。暗く長いトンネルから抜け出して、今日みたいに実際にグラウンドに立って、パフォーマンスしてくれたことを誇りに思う。(選んだのは)練習試合や練習でのパフォーマンスもあるが、性格もある。泥臭さを持っているので。あとは、明治大学出身の選手なので(同じ明治出身の)松橋が「絶対に使ってほしい」と言ったからかな(笑)。
FL 松橋周平
ありがとうございました。やはり、負けるのは悔しいです。たくさんの方々に来ていただいた試合でもあり、勝ちたかったです。勝つチャンスもあったと思うので。残り20分で相手に勢いをもたらしてしまい、ああいうかたちになってしまったのは本当に悔しいし、そこの差は大きい。ラスト20分というのは、リザーブ含めた選手たちが集中して、自分たちのやるべきことにもう1回戻れるのかが、すごく大事なのだと思う。
今週はチームとして、相手よりも自分たちにフォーカスした。ディフェンスでも、アタックでも、僕らが相手に対し何をするか。そのための正しいプロセスはどういうものなのかを常に言い聞かせながら準備した。相手のプレッシャーもあったが、そこについては切れずに対策できていたとは思う。
若手が入ってきて、チームにいい勢いをもたらしてくれたというのも今日のポジティブな要素。ただ80分通して勝たなければいけない。そこはしっかりブラックラムズとして変えていかなければいけない。残り2試合は、80分間容赦なくやり続けたい。
—上位チームとして参加する入替戦をいかに戦うか
不安やプレッシャーはない。僕らは今年1年、ちゃんとやってきた部分があるので、結果としてこういう順位になってしまったが、僕ら自身が D1でしっかり戦えることは証明できていたと自負している。それをしっかり見せる。フィジカルだったり、スキルだったり、プレッシャーの中でもこういうことができるのだというのを見せることが大事だと思っている。もちろん相手はD1が懸かっているので、100%でくる。でも、自分たちが相手に何をするか。自分たちにフォーカスする。今年1年やってきたことを見せ、勝ちたい。
PR 津村大志(公式戦初キャップ)
アクシデントがあってスタートから出場することになり、一瞬緊張が走ったり、不安になったりもした。でも自信はあったので、思いきって自分のプレーをしようと。スクラムもそういう思いで組んだ。「どうしよう、どうしよう」と思うのではなく、「自分はできる」と思ってピッチに立った方がチームのためにも、自分のためにもなる。
—アーリーエントリー組からは、そういう強気の姿勢を感じる
そうですね。同期はLO山本(嶺二郎)とサム(NO8サミュエラ ワカヴァカ)がもう試合に出ていて、すごいなと思う反面、悔しいなという部分もあった。そんな思いでがむしゃらに食らいついて、今日は結果がついてきたのかなと。
—チームのスクラムにフィットするにはある程度時間がかかりそうだが
やっぱり、そこには少し難しさはある。練習はパディー(PRパディー ライアン)から、これは良かった、これは悪かったというレビューをもらいながらやっている。試合では、HO大西(将史)さんが「俺についてこい」っていってくれて心強かった。
—接点の印象は
初めてのリーグワンの公式戦で、フィジカルの強さを肌で感じて、自分に足りないところがたくさん見つかった。ブレイクダウンのパワーが大学とは全然違う。このままじゃあかんなと。
LO ロトアヘアポヒヴァ大和(公式戦通算100キャップ)
—100キャップを達成。おめでとうございます
ありがとうございます。最初の頃は順調に達成できそうだなと思っていたけど、簡単にはいかなかったなと。今シーズンで達成できたことは、自分自身も嬉しいです。
—今日の試合について
前半からみんなスイッチオンしていて、試合にフォーカスしていた。後半の最初の10分、15分くらいまでもうまくいっていた。その後の時間の戦い方は修正しきれていない。相手の9、10番がそろってテンポを上げてきて、それについていけていなかった。
—いいディフェンスを見せていた時間帯もあった
みんな自信を持って前に出ることができていて、一人ひとりの気持ちが表れたディフェンスだった。ゲインラインを切られる場面もあったが、よく戻って止めた。それは今日のよかったところ。
—入替戦経験者は少ない
リコーらしいラグビーをやれば大きな問題はない。みんながどれくらい落ち着いてプレーできるかだと思う。
FL 木原音弥(公式戦初先発)
いつスタートで出てもいいように、しっかり準備はしてきていた。今回チャンスをいただいて、ディフェンスでも、セットプレーでも、自分らしさを出せたと思う。
—ラインアウトもよく獲れていた。前節もよかったが引き続き安定していた
結構よかったと思います。(ラインアウト)ディフェンスもイメージ通りにできていた。みんなでバラバラにならないように、同じ絵を見られるようにしっかりコネクトして臨むように心がけてきて、それが遂行できた。どちらかというと、僕たちの方が相手よりも自信を持ってやれている感じがあった。
—フィールドでのディフェンスは、苦労したが粘りは見せた
相手はスペースの使い方が上手だった。僕も1本抜かれてしまってトライを獲られてしまった場面があった。ディフェンスの部分は個人というよりはチームとして、組織でディフェンスできるように、もっとレベルアップしていきたい。
—アタックの感触は?
個人的にはあまりボールをもらうチャンスはなかったが、外のスペースにボールを運ぶところで、WTB山村知也さんからいいコールがかかり、いいコミュニケーションがとれてうまくいっていた。FWからするとありがたかった。
—身体が大きくなったようにも
コーチからのアドバイスをもらい、栄養士の方々と話しながら体重を増やしてきた。シーズンが始まってから5キロ増えた。パワーが課題だったので。
WTB 山村知也
—長くケガで苦しんだ。精神的に大変だったのでは?
きつかったが、家族や今まで一緒にやってきた友達、同期の言葉が自分の背中を押してくれた。
—強みとするスピードは戻ってきているか
戻ってきている。スピードとカット(ステップ)のところは、別に不安はないのでそこは自信を持って戦えるかなと。リーグワンのレベルでは簡単にいい状況はできないので、自分から生み出していくというか、見つけていくというか、ワークレートを高くしてやっていかなければと実感した。あとはやっぱりフィットネスのところは課題です。
—リハビリに励んでいた2年の間に、チームのラグビーも進化していたと思うが
スタッフとミーティングをしたり、映像をしっかり見たり、同じポジションの選手にどういう感じでチームが進んでいるか話したり、結構しっかりコミットしてきたので、復帰してからも疑問なく馴染んでいけたと思う。
—今日の試合では、外からコミュニケーションをリードしていた。
それは自分がターゲットしているところ。ディフェンスは少し課題となっていた部分もあったので、そこは自分がコントロールして、自分のエリアは絶対に抜かせないという気持ちでやっていた。ただ、ディフェンスはいいところもあったが、終盤は崩れてしまった。そこにフォーカスして課題を見つけ、修正していきたい。
—数では不利な局面での、ビッグタックルも
ディフェンスは自分の強み。自信を持ってディシジョン(意思決定)して入れた。ミスパスになったんですかね? 気がついたらターンオーバーしていたので。
FB 伊藤耕太郎(公式戦初キャップ)
—FBの準備はしていなかったとのことだが
チームに合流してからまだ短いので。FBの部分は自分のナレッジを活かしてやった。ルーキーらしく思いっきりいったろうかなって。それはできたと思う。ただ、劣勢を変えるプレーは何もできなかったので、次はチームにフォーカスしたプレーができれば。チームがどういうラグビーをしたいのかをもっと理解したい。
—チームへのアジャストはうまくいっているか
キックの使い方だったり、ディフェンスのシステムだったり、チームの方針が大学とは違う部分もあり少し戸惑うところもあったが、最近は慣れてきた。
—ずっとバックアップメンバーに入り、練習試合にも出場していた。そろそろかなという思いも?
そういうのはなかった。でも、練習試合でいいパフォーマンスができていたので、早く使ってくれとは思っていた。
—相手のSOボーデン バレットへのタックルは貴重な経験となったのでは?
キックを蹴ったあと思いっきりいって、まずは触ったろうと(笑)
■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=394
文:秋山健一郎
写真:川本聖哉