【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2023-24 第14節 vs.花園近鉄ライナーズ

2024.04.25

2トライを先取も、規律の問題などから主導権を失い、逆転負け

リーグワンは第14節へ。残り3試合で勝ち点差9をはねのけて、入替戦圏内(10〜12位)からの脱出に望みを繋ぐには、この12位の花園近鉄ライナーズ(花園L)とのゲームでの勝利がなんとしても必要だった。強い気持ちとスピードをトレードマークとするSH南昂伸が先発。SO中楠一期と若いハーフ団を組んで挑んだ一戦は雨の中でのゲームとなったが、一度は握った主導権を規律の乱れなどから相手に渡してしまい23-34で敗れた。

先制したのはブラックラムズ東京(BR東京)。SH南のクイックスローインから攻め、敵陣で相手の反則を誘っていくと、アドバンテージが出た状態でCTBマット マッガーンが左中間から右サイドへキックパス。WTB西川大輔が競り勝ちボールを確保し、右中間インゴールに入りトライ(前半7分)。PGで3点を返され(16分)7-3となるが、再開後まもなく相手10番のキックチャージにいったSO中楠が直接ボールを確保し、そのまま裏に抜け出す。LOマイケル ストーバーグに繋いで右中間にトライ(18分)。CVも決まり14-3とする。

さらに、ラックからのパスアウトを受けたSO中楠がギャップを抜けて敵陣に入ったが、直後の密集でボールを奪われ長いキックで自陣に戻される(BR東京がキックアウト)。これを足がかりにされてトライを奪われ(24分)14-10。PGで3点を加える(29分)が、自陣ディフェンスのセットのミスで生じたギャップを突かれ反則。ラインアウトからのアタックでゴールを割られ(37分)、17-17に追いつかれて前半が終わる。

後半もPGでBR東京が先にスコアし(後半3分)、20-17とする。しかし直後、自陣浅めのスクラムをタッチライン側に押し込まれて展開されると、大きく空いたスペースを走られる。9番にギャップを突かれトライを許し(6分)、20-24と逆転される。さらにWTBセミシ トゥポウのタックルが高く入ってしまい、イエローカードが出て数的不利となる(11分)。

しかし、この時間帯はモールなどを使って時間を稼ぎ、さらには敵陣でもらったペナルティでPGを決め、点差を1点差に縮め流れを引き寄せていく。しかし、WTBトゥポウが戻ったすぐ後、自陣深めの位置からの脱出を狙ったWTB西川のキックに対し、チェイサーの飛び出しが早くオフサイド。ゴール前ラインアウトからのアタックでゴールを割られ(24分)、23-31と引き離される。

リザーブメンバーを入れてなんとか反撃したいBR東京だったが、焦りからかチームとして意思を共有したアタックの形をつくることができず、攻撃を仕掛けてもペナルティで行き詰まるケースが続く。終了直前にもPGを決められ(41分)、23-34とされてノーサイド。花園Lとの今季2度目の対戦は黒星で終わった。

花園Lが見せていたこのコンディションにおける「正解」

「どうするべきか(の答え)は、近鉄さんがしっかり見せていた」(CTBマッガーン)

「何も恐れることはない状況。普通に自分たちのフォーカスポイントに基づいてシンプルにやればよかった」(FL松橋周平)

経験の豊富な選手たちの言葉は、この日のグラウンドで起きていたことをわかりやすく教えてくれるものだろう。この日勝者となった花園Lは、特別なプレーは1つもしていないといっていい。とにかくエリアを確保し、セットプレーを安定させ、愚直に強いキャリーをする。それを続ける中で生まれたディフェンスの乱れを丹念に突いていくことを、高い精度で80分やり抜いた。多くのパスをつないだり、ステップを切ったりして攻めることが難しい雨の中でのゲームの基本を貫いた。対するBR東京は、自分たちの強みでもあるそうしたラグビーから離れてしまい、戻ることができなかった。

「今この瞬間にフォーカスする」という姿勢においても、勝利に明確にフォーカスしてきた相手のほうが上手だったかもしれない。BR東京のラグビーに、入替戦回避のためにのどから手が出るほど欲しかったボーナスポイントというもののが与えた影響はゼロとはいえないだろう。ただ、この状況でより上の順位を目指そうとすることは全くおかしなことではない。置かれた状況を冷静に認識する姿勢とグラウンド上で目の前にプレーに全集中すること。その両立の難しさを感じた一戦でもあった。

LO山本嶺二郎とNO8サミュエラ ワカヴァカが22歳。SO中楠とPR中村公星が23歳。WTBトゥポウとFL木原音弥が24歳。PR大山祥平、SH南、FBルーカスが25歳。23人中9人が25歳以下という若いラインナップは、可能性に懸けてピックアップされたものではない。トレーニングで力を示し、現状のベストメンバーとして選ばれた面々だ。彼らが若さを言い訳にすることは絶対にないことは断っておく。ただ、雨というコンディションの中で、勝利を渇望し猛然と向かってくる相手と、順位の決定というプレッシャーのかかるゲームでのプレーは、多くの経験を持つ選手であっても難しいものだったはずだ。

「出場していたベテランの選手は、何ができていたかというのもある。若い選手をどれだけ引き上げられていたか。そこも考えなければいけない」

FL松橋の反省も込めた振り返りからは、過渡期にあるチームがここからのゲームで挑む課題も示唆しているように感じた。ゲームを終え、メンバーの間には様々な思いが沸き起こっていることだろう。それを整流し、残り試合にまっすぐぶつけられるか。それがここからの生き残りを懸けた戦いを勝ち抜くためのカギとなる。

「でも、必ず抜け出せると信じている。みんなで一緒に」

FBルーカスの言葉を信じたい。

次節第15節は4月27日(土)、12:00から相模原ギオンスタジアムで開催される三菱重工相模原ダイナボアーズとのビジターゲームとなる。

監督・選手コメント

ピーター ヒューワットヘッドコーチ

必死さを見せて戦い勝利した近鉄(花園L)さんに、おめでとうございますとお伝えしたい。最初の20分はプラン通り進んでいたが、そこから簡単なペナルティをいくつか与えてしまって、相手に3点を獲られ、その後はトライにも繋がった。前半の20分から40分の間、そこは本当に自分たちにとってダメージが大きく、モメンタムをつくられた。FWのセットピースバトルも、今日は近鉄さんが勝っていた。

―いいパフォーマンスを見せていたSH南昂伸を先発させた

ベンチを6-2(FW6、BK2)にする必要があった。9番はメンバーに2人入ってくるが、現状は南が長い時間プレーする資格があるかなと。でも、9番がいいパフォーマンスをするためにはセットピースの質が重要になってくる。今日はスクラムでプレッシャーがかけられたりしていたが、その中ですごくハードに頑張ってくれた。

CTB マット マッガーン

こういう雨の降る日は、「何をするか」というより「どうやるか」が大事になる。60分間、相手がすごくレベルの高いアティチュード(姿勢)でシンプルなことをやり続けた。どうするべきなのかを、(相手に)見せられたかなと思いました。

―一番うまくいかなかったのは?

ディシプリンのところ。ディフェンスで一歩下がるとか、タックルで高くいかないとか、そういったどうやるかの部分。ドライな日であればそんなに大きな問題にならないかもしれないが、今日みたいな雨の日にはかなり響いた。そういう部分も、どうするべきか(の答え)は、近鉄さんがしっかり見せていた。

―イエローカードが出たあとは粘った

その時間帯はうまくマネジメントしたと思う。ショートラインアウトをスイッチオンしていなくて前に運ばれたり、レイトなオフロードパスをしてしまって、そこから50:22を成功されたり。やっぱり「やり方」というのがうまくいかなかったところ。

PR 大山祥平

僕らが負けるパターンというか。自滅ですね。前半の20分まではよかった。ディフェンスのコリジョン(衝突)のところもよかったと思う。でも、そこからの時間は自分で自分の首を絞めてしまい、ペナルティも増えていった。

―規律が乱れたのは、相手のプレッシャーから?

規律意識については、ずっと言い続けてきているが、少し苦しい状況になるとそれが薄れてしまうのが今シーズンの弱さ。そこでPGでスコアされたり、エリアを獲られてトライされたり。本当に毎回同じ。

―接点でのバトルは対抗できていた?

前半、20分以降の時間帯はあまりよくなかったように思う。

―流れが変わっていく中で、パニックとまではいわずとも、バタバタしてしまった

終盤はパニックといってもいいと思う。自分たちでも何をしているんだろうと思ったぐらいなので。ミスは出てしまうものだけど、必要のないミスが多すぎた。

―後半はリードを許したものの、十分追いつける点差ながら焦りが見えた

(順位を上げるために必要な)ボーナスポイントを獲らなければという気持ちが焦りに繋がっていたのかもしれない。

―スクラムの感触は?

前半の1本目で自分が受けてしまったのは反省したい。3本目以降は、個人的には修正できたところがあった。そこはよかった。

FL 松橋周平

言い訳するつもりもないですし、近鉄さんが僕らよりもいいプレーをして勝ったというだけ。それを受け入れて、僕らが次どうするかということ。何を学んで何を改善するかが大事。入替戦に進むことになるかもしれないですけど、もう受け入れるしかないので。でも、ここからどう成長していけるかは、僕らにしか変えられないこと。どうシーズンを終えていくかはすごく大事だと思うので。個を磨くこともできるし、チームとして成長することもできる。一人ひとりが自分自身を見直して、プロフェッショナルとして、また次のプレーをいいものにするために頑張ってやるだけです。

―この試合から学ぶべきことを挙げるなら?

ここを抑えておけば何も問題ないっていう時間帯で、ペナルティをして相手にチャンスを与えた。そこを守りきれればいいんですけど、簡単にスコアされてしまった。個の判断であったり焦りであったりがチームへのプレッシャーになっていたが、(本来は)何も恐れることはない状況。普通に自分たちのフォーカスポイントに基づいてシンプルにやればよかった。そこに立ち返るべきなのだということ。

―同点や少ないビハインドの時間帯も焦りがうかがえた

何を焦っていたんだろうと思うのですが、早くトライがほしいという欲が出て、正しいプロセスに戻れなかった。最初に2本トライが獲れてしまったことが、そうさせたのかもしれない。ポイントを狙うにしても、やることが変わるわけではないのに。

―試合中に3本指を立て声を出していた。セットピースからの3フェイズを正しくという意味?

そうです。でも、そこはできていた。少しプレッシャーがかかると反則が出てしまった。相手のセットピースからのアタックに対するディフェンスは、ある程度止めていたと思う。

―焦らず戦う。若い選手もたくさんいる中で、チームとして成長していく領域

若い選手が多いのはありますけど、出場していたベテランの選手は、何ができていたかというのもある。若い選手をどれだけ引き上げられていたか。そこも考えなければいけない。

FB アイザック ルーカス

向こうのほうがコンディションに対するマネジメントがうまかった。自分たちのディシプリンがすごく悪かったので、相手にチャンスを与えすぎてしまった。こういうコンディションの日に、簡単に自陣に侵入させてしまってはいけない。

―いい流れで始まった試合だった

集中力を欠いてしまった瞬間が何回かあって、やらなくていいことをやってしまった。個々のミスだったり、ディシプリンだったり。

―リードされて、イエローカードも出たが、そこで引き離されなかった

イエローカードは残念でしたが、その時間帯はお互いのためのハードワークができたと思う。フィットネスにはプライドを持っているので、ここを耐えられればと思っていた。ただ、最後の10分は残念ながらシンプルにエラーが多すぎた。ちょっとバラバラになってしまった感じがした。

―入替戦を回避するには、トライを多く獲って勝つ必要があった。そんな意識はチームの中にあった?

それはない。自分たちのラグビーをしっかりやってリードして、あくまでいいタイミングが来たらボーナスを考えようとはしていた。それよりもインパクトがあったのは天候。フィールドポジションを意識したり、キックを増やしたりと、準備してきたゲームプランを少し調整する必要があった。それは相手も同じなので言い訳にはできないけれど。

―前を向くしかない

勝つこと、それに貢献することを目指してプレーしているので、勝てていない今の状況はきつい。でも、必ず抜け出せると信じている。みんなで一緒に。

 

■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=392

文:秋山健一郎

写真:川本聖哉

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