【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2023-24 第13節 vs.埼玉パナソニックワイルドナイツ

2024.04.16

隙を見逃さない攻撃でリード許すも、高い精度で2トライを返す

今季唯一のナイターゲームとなったリーグワン第13節。全勝で首位を走る埼玉ワイルドナイツ(埼玉WK)を秩父宮に迎えて開催されたホストゲームは、前半の猛攻で14-33と主導権を握られ、後半は食らいつくも26-50で敗れた。通算成績は2勝11敗となった。

前節の試合後、ピーター ヒューワットヘッドコーチが示唆していたとおり、LO山本嶺二郎とNO8サミュエラ ワカヴァカのアーリーエントリー2選手が、初のスターティングメンバーに選出。FL松橋周平、SH髙橋敏也、SO中楠一期、CTB池田悠希、WTBセミシ トゥポウらも復帰し、前節から布陣を変えて挑む一戦となった。

試合の入りは、接点に積極的にプレッシャーをかけてくる埼玉WKの姿勢が際立った。接点での2度のボール奪取と50:22で、ブラックラムズ東京(BR東京)のゴール前に入りラインアウトモールで先制する(5分)。しかし、リスタートキックがこぼれ相手が後方に蹴り出すと、迎えた右サイドゴール前スクラムでFKを得る。ここからNO8ワカヴァカがタップで再開。FWで攻め、LO山本嶺がピックゴー。低い姿勢でディフェンスをかいくぐり、右中間にリーグワン初トライを決めた(9分)。CTBマット マッガーンがCVを決め、7-5と逆転する。

しかし、15分に自陣での反則とラックディフェンスの一瞬の隙を突いたトライで再逆転を許すと、埼玉WKは18分にも自陣からのキックと鋭いチェイスでターンオーバーを決め、得意とするアンストラクチャーからのアタックで連続トライ。さらにスクラムペナルティで与えたゴール前ラインアウトからのアタックでのトライ(25分)、ハーフウェイ付近のこぼれ球を拾い、キックを交えながら前進し、ラックディフェンスの隙を突いてのトライ(31分)でスコアを重ねられ7-33。約15分間で4つのトライを許すかたちになった。

だが36分、自陣ゴール前スクラムをキープし、右サイドからWTB西川大輔がキック。ハーフウェイ付近からカウンターを狙う埼玉WKが、ボールを逆サイドに運ぼうとするがパスが乱れる。これをCTB池田がセービングして奪取。BR東京がアタックを開始すると、中央付近からCTBマッガーンが右サイドに長いキック。前に出てきていた相手11番が戻ろうとするが、これを追い抜くように走り込んだWTB西川がボールを直接キャッチ。

そのまま走り10番とクラッシュするが、SO中楠がここに走り込んでいた。オフロードパスを受け、11番のタックルを外して加速。ゴール目前でポイントをつくると、SH髙橋が素早くさばき、PR西和磨、FL松橋とつなぎインゴールに接地。パスのミスを突き、空いたスペースを狙った精度の高いアタックで1トライを返し、14-33で前半を終えた。

戦う姿勢を貫き、終盤に意地の2トライ

後半は0分からSH南昂伸が登場。BR東京は自陣でターンオーバーに成功し、FBアイザック ルーカスがキック。争奪をカウンターラックで制しさらに攻める。埼玉WKの反則で前進し、ゴール前ラインアウトからモールを組むがこれは押し出される(5分)。チャンスが続いたが、埼玉WKにしのがれ好機を逃す。

PGで3点(10分)を与えた後も、SH南のクイックタップなどでテンポを上げ、敵陣でのプレーを続けた。しかし、走り込ませたNO8ワカヴァカを狙ったラインアウトが合わず、一気に自陣へ攻め込まれる。裏へのゴロキックを拾われインゴール左隅にトライ(18分)。自陣でのディフェンスで我慢しなんとか攻め上がろうとするBR東京は、ギャップに果敢に仕掛けたSH南のオフロードパスを奪われ、さらにトライを許す(28分)。点差は14-50まで拡がった。

ラスト10分は意地を見せた。敵陣浅めのラックで埼玉WKが反則を犯すと、SH南がすかさず再開。他のメンバーも鋭く反応しアタック。テンポアップと後半から登場したPRパディ ライアンやNO8ネイサン ヒューズら強いランナーが、埼玉WKのディフェンスを狂わせていく。そしてFLに入っていたワカヴァカが猛烈なキャリーでゲインラインを切ると、その横に走り込んだSO中楠がパスをもらってゴールに迫る。

アタックを継続すると、後方からもう一度ボールをもらいにきたワカヴァカが、再度ゲインしゴールライン上に。SH南が外に回り込んでいたCTB礒田凌平にパスアウト。礒田が身体をひねりながら接地してトライ(33分)。

BR東京はさらに攻めた。再開のキックから自陣でディフェンスをしていたが、乱れたパスにCTB礒田が反応。これを拾いディフェンスの手をかわすようにしてFBルーカスにパス。ルーカスのランで敵陣に入ると、ここも礒田のオフロードパスがWTBロトアヘアアマナキ大洋に通り突破。左をフォローしていたWTB西川に繋ぎトライ(40分)。4つめのトライを奪い、26-50としてノーサイドを迎えた。

「試合を通してアウトサイドや裏にスペースが見えていた」(SO中楠一期)

「埼玉WKらしいプレー、やりたいことをやらせてしまった」(PR西)

「うまかった。リアクションがよかった。5回のミスが、そのまま5回のトライになってしまった感じ」(FLブロディ マクカラン)

強固なディフェンスで相手のアタックを阻み、ターンオーバーを起点にトライを奪う。埼玉WKのラグビーといえば真っ先に思いつくスタイルでトライを重ねられた。トップチームに対し、ペースを乱させたり、持ち味を消したりする展開はつくれなかった。それでも、点差が拡がってもあきらめずに戦い続けようという姿勢は、正しいプロセスを導き、素晴らしいトライも生み出した。

「いいディフェンスのチームであることはわかっていて、それに対して自分たちも負けずにいいアタックをするというのがテーマだった」

SO中楠は、相手と自分たちとの現状の差は率直に認めながらも、「試合を通してアウトサイドや裏にスペースが見えていた」と振り返った。前半の2本目のトライはまさにそこを突いて生まれたものだろう。キックパスが放たれた後、WTB西川のサポートに走ったSO中楠。中楠を追走したBK、トライを決めたFW。狙うべきスペースを全員がイメージしていたからこその、素早い連動だったようにも映る。

なお、中楠がこの日のトライシーンで2度見せた、走らせたランナーを追いかけボールをもらう動きは、チェックしていた埼玉WKの映像の中で、相手選手が見せていた動きを真似たものだという。それを早速トライに繋げてしまうのだから驚く。

連動では、SH南のクイックタップからのランに対しても、周囲の動きの鋭さと一体感が増しているように映る。南も「(試合を重ねる中で)自分が仕掛けるぞというのが伝わってきたのか、反応よくサポートプレーヤーがきてくれる。それは感じている」と信頼を口にする。

トライのフィニッシュの部分にも、チームとしての自信や冷静さを感じた。LO山本嶺の低く滑り込むような接地。ゴール目前で大きなFWに捕まりながら、体勢を維持しボールを守り味方のサポートを待ったSO中楠。CTB礒田はディフェンスを背負うようにしながら身体をひねり接地した。最後にビッグゲインを果たしたWTBアマナキ大洋も、相手に掴まれるとスピードを緩め、WTB西川に確実なパスを出した。ハートは熱く、頭は冷静に。重要な場面でのプレーの精度は高まりつつある。

次節第14節は、4月21日(日)14:30から東大阪市花園ラグビー場で開催される花園近鉄ライナーズとの今季2度目のゲーム。勝利を渇望する相手とのタフなゲームとなるのは間違いないが、入替戦を回避するためには絶対に負けられない。勝利への執念が試される一戦となる。

「風越建設スペシャルナイター」として開催。試合終了後には特別表彰も

この試合は風越建設株式会社の協賛による「風越建設スペシャルナイター」として開催した。試合終了後には、風越建設株式会社より、この試合でチームに貢献した髙橋敏也選手に「風越建設賞」を贈呈した。

監督・選手コメント

ピーター ヒューワットヘッドコーチ

まず、パナソニック(埼玉WK)さん、おめでとうございます。選手たちは今日も、自分たちがここにいる理由を見せてくれた。でも、前半はターンオーバーでボールを失う場面が多く、規律も試合の入りからあまりよくなくて、自陣に侵入された。経験のある相手に、多くのチャンスを与えてはいけない。代表キャップのトータルは250キャップくらい? 私たちは8キャップ。経験の差は表れていた。こちらには、ルーキーレベルでもないアーリーエントリーの選手もいた。ただ、2人ともすごくよかった。NO8のサム(サミュエラ ワカヴァカ)はタイトヘッドプロップ(3番)としてチームに加入したが、当分そこにはいかないかなと。LO山本嶺二郎もよかった。誇りに思う。

―ミスもあったが攻める姿勢を見せた。ディフェンスを強みとするパナソニックから4トライ獲れた

自信になる。ゲームの中ではよいところもあったとメンバーに伝えた。経験がもたらすのは、1試合を通し一貫していいパフォーマンスを見せ続けられる力。波がなくなること。埼玉WKのようなトップチームでもミスはする。でも、彼らは安定して長くいい時間をつくることができる。プレッシャーの中でもいいパフォーマンスを続けられる。自分たちもそこを目指している。

HO 武井日向キャプテン

自分たちのプレーの精度が悪く、ターンオーバーを起こしてしまう場面が多かった。そこからの埼玉WKのアタックでスコアが開いていった。規律意識やプレッシャーがかかった場面の精度を上げていきたい。自分たちのプレーができているときは、いいアタック、いいディフェンスができていた。

―失点がかさんだ。減らすためには?

規律の部分が自分たちがモメンタムをつくれなかった要因。あとはシンプルなスキルのミスもあった。ブレイクダウンでプレッシャーも受けたとも思うので、そこは改善が必要。

―LO山本嶺二郎が初先発。どんな準備をして、チームにコミットしてきたか?

アーリーエントリーの選手の中でも早くに合流していた。練習が終わってからも、最後までラインアウトの確認をしていて、準備に対する姿勢は彼のすごいところ。ラインアウトのサインもすぐに全て覚えていたし、もうリーダーとしてやっていけるぐらいの選手になっている。僕自身も彼を信頼しているし、いい関係が築けている。僕たちが大事にしている DNA をよく体現してくれている選手でもある。コンタクトも強く、外国人に負けないディフェンス、アタックもしてくれている。

―ブレイクダウンの印象を

プレッシャーをすごくかけてくるなと。2人目のプレーヤーのファイトによってプレッシャーがかかっていた。そこでのファイトで、僕たちはより正しい精度でプレーして、もっとクリーンにボールを出さなきゃいけなかった。そこも今後改善していくべきところ。

―選手の姿勢について、良い方向に向かっているのでは?

そう感じる。いくつかトライを獲られるとコネクトが切れてしまう試合もあったが、そうはならなかった。どんな状況でも、皆が次の仕事に意識を向けられている。

PR 西和磨

埼玉WKらしいプレー、やりたいことをやらせてしまった。ブレイクダウンでは終始プレッシャーをかけられて、自分たちのシェイプがつくれなかった。スクラムはまず安定させることを目指したが、プレッシャーをかけられる部分も多々あった。もっとフィックスしていかなきゃいけない。

―反則は数としては抑えたようにも

試合の入りでいくつか取られてしまったところは修正していくべき。やはり初めの10分でゲームが決まってくるもの。そこのディシプリンはもっと成長していく必要があるのかなと。

―気持ちを切らさず戦った

グラウンドでもネバーギブアップという声をかけあっていた。コネクトが切れることはなかったと思うが、やりたいことをやらせてしまって、自分たちの流れに持ち込めなかった。

FL ブロディ マクカラン

先週はブラックラムズの強み、ネバーギブアップの部分が足りていなかった。そこにフォーカスして、だいぶよくなったと思う。相手、うまかったですね。1回ミスをするとどんどん回されて、一気にトライまで持っていかれたり、敵陣にいたのに深く攻め込まれてプレッシャーを受けたり。リアクションがすごくよかった。ミスをすぐにスコアに繋げられていたので、前半が終わったときには、もう33点も獲られたのかという感じだった。5回のミスが、そのまま5回のトライになった。そんな感じ。

―アタックではうまく獲りきった場面も

最後までボールが動いていた。自分たちのテンポになれば強い。(ペナルティの後など)アンストラクチャーの相手がディフェンスしにくい状況で強みが出せた。埼玉WKはブレイクの後のセットが特に早いので、そこを突くための時間は数秒しかなかった。

―後半はLOのポジションに。最後はゲームキャプテンも

4番から8番からできるというのは自分の特長。そんなに練習しているわけではないけど、こういうときにはカバーしたい。若い選手もいたので、思いきってやれるように、うまくリードしたいと思っていた。練習でいいパフォーマンスをすれば誰でもメンバーに選ばれる。それはチームにとっていいこと。とにかく残り3試合、みんなでオールアウトする。

SO 中楠一期

試合を通してアウトサイドや裏にスペースが見えていた。そこへボールを動かす中でミスが出てしまった。ブレイクダウンで、プレッシャーを受けいい球が出てこなかったり、またはブレイクダウンに多くの人を割いてしまい、正しいポジショニングができていなかったり。今日は相手に崩されたというよりは、自分たちが崩れてしまった。ミスを全部スコアにしたのが埼玉WKだった。でも、スペースに向かっていいセット、いいかたちでボールを動かせているときはいいアタックができた。その一貫性というか、自分たちのかたちをつくるための動きを、10番としてチームに求めていきたい。

―埼玉WKは想定していた印象どおり?

いいディフェンスのチームであることはわかっていて、それに対して自分たちも負けずにいいアタックをするというのがテーマだった。そこについては想定どおりだったと思う。

―CTBマット マッガーンのキックパスからのアタックなど、ランナーを追ってサポートするプレーでもトライを引き寄せた

試合に向けてビデオを見ているとき、埼玉WKの選手のセカンドタッチ、パスをした後もプレーに関わろうとする意識の高さをすごく感じた。それは自分にも必要なことだと思ったので意識した。チャンスがあればボールがもらえる位置にずっといこうと思っていて、それがいい結果につながった。

(キックパスからのアタックは)ハーフがパスしたとき、WTBがかなり上がってきていたので狙っていた。ただ、そこで(オフロードパスで繋がず)フェーズを重ねてしまうと相手のカバーする選手が来てしまうので、本当に1フェーズしかないチャンスだったが、そこはみんな見えていて、よくトークしていた。

 

■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=391

文:秋山健一郎

写真:川本聖哉

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