【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2023-24 第12節 vs.横浜キヤノンイーグルス

2024.04.10

エリアコントロールで成果上げるも、試合の流れをつかめず

試合のない週を挟みリーグワンは第12節へ。前節で交流戦は終了し、今節より同一カンファレンスの相手との2度目の対戦が始まる。ブラックラムズ東京(BR東京)は、第5節で対戦し8-24で敗れた横浜キヤノンイーグルス(横浜E)を駒沢に迎えリベンジに挑んだ。

前節の東芝ブレイブルーパス東京との激闘での負傷などで、HO佐藤康、LOジョシュ グッドヒューやFL松橋周平、SO中楠一期がメンバーから外れ、替わってHO武井日向、LOハリソン フォックス、FLブロディ マクカラン、SO堀米航平がスターティングメンバーに入った。HO武井は第9節以来の先発復帰。23歳のフォックスは公式戦初先発となった。

先制は横浜E。BR東京は自陣で反則を重ね、ゴール前ラインアウトからのモールを止めきれずトライを許す(前半7分)。BR東京は18分、自陣スクラムからのNO8ネイサン ヒューズのサイドアタックや、FKからのタップスタートなどでゲインし敵陣に侵入。スクラムを押し勝って得たゴール前ラインアウトから攻め、ヒューズがピックゴーでトライを狙うが、4、5、6、8番に猛烈なプレッシャーをかけられる。BR東京はモールにしてヒューズをインゴールまで押し込んだが接地できなかった(23分)。直後に相手にイエローカードが出て、数で上回った状態でもう一度ラインアウトモールで攻めたが、ここもトライならず(26分)。好機を逃したBR東京は39分にラインアウトモールで失点し、0-12で前半を終えた。

後半の入りにボールを動かして敵陣に入っていくが、ミスでエリアの挽回を許す。さらにハーフウェイ付近から相手9番の50:22で攻め込まれると、ラインアウトからのアタックでゴールを割られる(9分)。BR東京はリスタートキックから敵陣に入って攻めたが、ゴールライン際のディフェンスに手を焼き、ここも好機を逃す。すると18分、ハーフウェイ手前から蹴り込まれたハイパントが相手に入り、そのままゴールまでつながれてトライを許し、0-24とさらに点差が拡がった。

だが再開後、相手に重なったペナルティを活かして攻め込むと、途中出場のSH南昂伸のタップスタートを起点に激しく攻め、LO山本嶺二郎が強いキャリーで中央をゲインしゴールに迫ると、ラックサイドをSH南が突きトライを返す(22分)。息を吹き返したBR東京は、カウンターラックでのターンオーバーなども見せフィジカルに挑んでいく。しかし、ハーフウェイ付近のPKをタッチに出すかに見せかけてリスタートするプレーで左サイドをゲインされ、ディフェンスが混乱する中で展開、14番に右サイドを破られトライを許す(32分)。

それでも戦う姿勢を見せ続けたBR東京は、ハーフウェイ付近の密集にプレッシャーをかけペナルティを誘うと、SH南が再び素早く仕掛けゲイン。さらに反則を奪ってゴール前ラインアウトにすると、モールを押し込み最後は南がモールサイドのギャップを突いてトライ(36分)。12-31と点差を縮めたが、このままノーサイドを迎えた。2勝10敗で順位は10 位で動かず。9位の三菱重工相模原ダイナボアーズとの勝ち点差も9のまま。残り試合は4試合となった。

個々のフィジカルバトルでは応戦。判断力やプレーの一貫性でわずかな差

「(横浜Eは)間違いなくフィジカルなチーム。ただ、戦う上でフィジカル“過ぎる”ということはなかった」

初先発を果たしたLOフォックスが試合後に述べた感想は、試合を観ていて感じた印象と重なる。横浜Eが様々な局面でプレッシャーをかけ、BR東京が思い描いていたプレーを阻んでいたのは間違いない。ただ、個々のセットプレーや接点での攻防を振り返ってみると、フィジカルで強く支配されていたわけではないとわかる。ボールキャリーで力強くゲインしていく場面やカウンターラックやスクラムを強く押し込む場面もあった。

ただ、前節に持ち味を発揮したBR東京BKにスペースを与えないことや、効率的にエリアを奪っていく判断力。試合を通し攻守でプレッシャーを絶やさずプレーするという一貫性などでは、横浜Eに上回られていた。

一貫性の部分については、BR東京もシーズンを通し強く意識しているテーマだ。

「起きたことを受けて、すぐに次の仕事を考えるマインドセットが大事」

「ひきずるのではなく切り替えて、今この瞬間の自分の役割を実行すること」

そうしたことの重要性をキャプテンのHO武井日向は繰り返し口にしてきた。過去を悔いたり、未来を憶測したりするのではなく、グラウンド上のこの瞬間に全ての意識を向ける。BR東京の本当の力を発揮するには、全員がそうしたマインドセットで試合に挑む必要がある。若きリーダーはそれを求め続けてきた。可能性と課題の両方が表れる試合が続く中で、その思いはさらに強くなっているかもしれない。

SH南の強気なプレーを引き出している「信頼」

この日のゲームで最も大きな存在感を見せたのは、後半10分にピッチに立ったSH南だろう。南がテンポを上げにかかり相手のセットの遅れを突いていくと、FWが力強く前進していく場面が増えた。FWが前に出ればスペースが生まれ、攻め手も増えていった。

「相手がどうこうではなくて。自分の持ち味を活かして、自分のペースに持っていくことを考えていました」

自分の力を信じ、それを発揮することだけに集中したというSH南の言葉は力強い。HO武井の求める「今この瞬間の自分の役割を実行する」というテーマを、誰よりも体現しているのは南かもしれない。

ふと、昨季の第2節、BL東京戦(7-17)の試合後の記者会見を思い出した。このときもフィニッシャーをまかされたSH南は最終盤、果敢に攻める姿勢を見せたが相手に捕まり、ノットリリースザボールでボールを失った。このプレーへの所感を含めた選手評を求められたピーター ヒューワットヘッドコーチは、「私たちは南のプレースタイルを変えたいとは思っていません」と即答した。

選手の長所を信じ、それを伸ばす。ミスを恐れるのではなく、自分の強みを、トレードマークを、表現することに集中させる。BR東京のコーチとなってからの4シーズン、若い選手たちをどうやって成長させていくかに心を砕いてきたヒューワットHCのマネジメントは、少しずつ実を結び始めている。

次節第13節は4月12日(金)19:00からの秩父宮でのナイター。全勝で首位を走る埼玉ワイルドナイツに挑む。失うものは何もない。獣のように無心で泥臭く立ち向かった先にあるものをつかみにいく。春の夜の歓喜を。

「CSTマッチデー」として開催。試合終了後には特別表彰も

この試合は株式会社コンピュータシステム研究所の協賛による「CSTマッチデー」として開催した。試合終了後には、株式会社コンピュータシステム研究所より、この試合でチームに貢献した南昂伸選手に「CST賞」を贈呈した。

監督・選手コメント

ピーター ヒューワットヘッドコーチ

前半は自分たちらしくなかったですね。正しいエリアに侵入することはできたが、そこからの精度が少し欠けていたかなと思います。セットピースからモールトライを2本与えてしまったのも残念でした。ただ後半のリザーブのメンバーはすごくいいパフォーマンスをしてくれたと思います。何をするべきなのかを、ベンチメンバーはスターティングメンバーに見せてくれたかと。アーリーエントリーの選手、 LO山本嶺二郎とサム(NO8サミュエラ ワカヴァカ)は今節もすごくよかった。経験のある選手に対して、このジャージを着る意味というものを示してくれました。

―アーリーエントリーの選手たちの先発も?

そういうオプションもある。僕の考え方としては、しっかりとパフォーマンスができるのであれば年齢は関係ない。あの2人はやれるということを見せてくれていると思うので。チームにとってもトランジションフェーズ(変化のタイミング)なのかなと。その2人を含め、他のアーリーエントリーメンバーもすごくいい。継続して成長しパフォーマンスを見せてくれれば、チャンスは巡ってくる。彼(HO武井)はみんなのことをよくリードしてくれていますが、日向を含めた若い選手は、このチームの未来だと思うので。

―今出ている選手の奮起を求めている

そうですね。今日はSH南昂伸がよかったですね。何かを変えようとする。インパクトを与えようとする。ミスを恐れずに。そういう選手が必要ですよね。会社のために。この着ているジャージのために。それ以外でもチームメイトや誰かのためでもいい。そういうもののために「やれることはなんでもやりたい」と思う気持ちが大事。そういう選手がもっと増えていくといいですね。

HO 武井日向キャプテン

お疲れ様です。自分たちは自陣に入られたときにモールでスコアされてしまった。こっちにもチャンスは巡ってきて向こうの陣地に入れたんですけど、そこでの精度が悪く決めきれなかった。チャンスをものにできた横浜Eに対して、僕らはそれをものにできなかった。それで差が開いてしまった試合でした。

―チャンスで決めきれなかった理由、修正すべき点は

モールのところだと思うんですけど、特に前半は簡単に点を与えすぎてしまった。あそこでもう少し止めないとだめですし、相手にとってやりやすいディフェンスをしてしまったので、そこは改善したい。僕たちのモールについては、ラインアウトが獲れたときの、その後の動きの精度も上げていかないといけない。

―ヘッドコーチからトランジションフェーズという言葉があったが

若い選手は熱い思いを持っているし、エナジーがすごくあります。今試合に出ているメンバーも出場し続けられるわけではないと感じている。競争のレベルは確実に上がっているので、フレッシュなメンバーの存在はチームにとってすごく大きい。そのメンバーたちが結果を出せているのは、正しい準備をしているからだとも思う。僕自身もまだまだですけど、チームのために身体を張ろうという思いでプレーしている。そういう思いをより強く持ってくれる選手が増えれば、いい方向に進んでいく。

―後半に巻き返せている理由は?

控えの選手たちのマインドセットがいい。どういうプレーを求められているかを理解し、それに合ったアクションを100%でできている。試合はどんどん状況が変わっていくものですが、起きたことを受けて、すぐに次の仕事を考えるマインドセットが大事。ひきずるのではなく切り替えて、今この瞬間の自分の役割を実行するというか。後半はそういうマインドでプレーできていたので、前半も同じようにやれるようにしたい。

LO ハリソン フォックス

前半は自分たちがしたかった内容にはできなかった。でもリザーブのメンバーがチャレンジしてくれて、どうやってやるべきかを見せてくれたのかなと。

―初めての先発。心がけていたことは?

シンプルなことをしっかりやろうというところにフォーカスしました。できる限りの自分の仕事をチームのためにやろうと。自分の強みはフィジカル、運動能力だと思っています。高さが足りない分、それを活かしていければと思っています。

―横浜Eというフィジカルも強みとする相手と身体を当ててみての感想は?

間違いなくフィジカルなチームだと思います。ただ、戦う上でフィジカル“過ぎる”ということはなかった。後半くらいのフィジカリティを前半から見せていれば、もっといいパフォーマンスにできたと思っています。次の出場機会では、もっと(試合に)関われるように。自分のトレードマークを見せられるように。そういったことを意識したいと思っています。

SH 南昂伸

個人としては、出せるものは出せた。僕は後半から出るランペイジャー(暴れ回る人)という役割をまかされているので、その役割を果たしてしっかりフィニッシュすることをターゲットにしている。同じフォーカスに対し、同じ姿勢、同じ熱意を持ってやれているかなと。

―試合に入るまで、相手を見ていて流れを変えるためのポイントをつかんでいた?

相手がどうこうではなくて。自分の持ち味を活かして、自分のペースに持っていくことを考えていました。自分が得意とするテンポアップやテイクタップで、チームのアタックに勢いをつけることを意識していました。

―アタックでプレッシャーをかけていくのが難しくなっていた理由

相手にジャッカルを狙ってくる選手や、密集でテンポを遅らせてくる選手が結構いたので、テンポを出しにくい部分もあった。だからこそ、マイボールスクラムやペナルティからのリスタートでクイックに入って、そこで相手を遅らせることを考えた。

―この試合、勝利して終えるために必要だったものは?

ディシプリンですね。前半からいいところまでいけていたが、ペナルティやミスでチャンスを逃すシーンが多かった。それを減らさないと上にはいけない。

SO 堀米航平

(第2節以来の)復帰戦で、なんとかしてチームを勝たせたかったので非常に残念です。この1週間はいい準備ができたんですけど、プレッシャーをかけられ、うまくスコアできなかったことが今日の敗因だと思います。

―前半の中盤からは敵陣に入ることはできていた。

そこはよかったです。ただ、スコア率が悪かった。

―ボールを動かしながら、前進していくようなアタックも狙っていたと思うが

動かしたかったのですが、ミスなども出てしまいフェイズを重ねられなかった。接点で相手にジャッキアップ(抱え込まれ持ち上げられる)されてしまったりする場面もありましたが、自分たちで自分たちにプレッシャーをかけてしまった面もあったかもしれません。

―後半はテンポを上げていく場面も

あそこはすごくよかったですね。ただ、あの時間帯だからできたというのもあるとは思います。今日は久しぶりにグラウンドに立ち、難しさも感じました。でもここからも一戦一戦、自分たちを信じて、あきらめずに戦っていくしかないです。

 

■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=390

文:秋山健一郎

写真:川本聖哉

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