【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2023-24 第11節 vs.東芝ブレイブルーパス東京
2024.03.31
勢いに乗るBL東京に仕掛けた「真っ向勝負」
東芝ブレイブルーパス東京(BL東京)に挑んだリーグワン第11節。ブラックラムズ東京(BR東京)は、前半14-33とリードを許したが後半に猛攻。19点差を追いつき、現在2位につける相手からの勝利に迫った。しかし後半に許した唯一のトライが決勝点となり、33-40で惜敗。7点差以内の敗戦によるボーナスポイントは確保し勝ち点は13に。9位の三菱重工相模原ダイナボアーズ(相模原DB)との勝ち点差は9。残り試合は5となっている。
ピーター ヒューワットヘッドコーチは、前節の静岡ブルーレヴスとの試合の中盤でも見せたSO中楠一期、CTB(12番)マット マッガーン、FBアイザック ルーカスと、3人の司令塔を同時にピッチに立たせるかたちでゲームをスタート。FWではLOにジョシュ グッドヒューとマイケル ストーバーグをピックし、カテゴリーB・C枠のうちの2つをLOに用いてフィジカルバトルに備えた。LOのリザーブには、前節もシャドーメンバーとして試合前の練習に参加していた山本嶺二郎がアーリーエントリーで初のメンバー入りを果たし、新たな才能の抜擢も行った。長い歴史を持つ接点に強くこだわるBL東京のチームカルチャーと、チームの潜在能力を引き出しているNZ代表リッチー モウンガというゲームコントローラーに対し、今のBR東京としての「真っ向勝負」を仕掛けた布陣にも映った。
この日のBR東京は、今季ベストといっていい素晴らしいパフォーマンスを見せた。前節に続き掲げられたという“Whatever it takes”(何が何でも)というキーワードを試合開始直後から体現。接点で荒々しく相手を押し込んだ。フェイズを重ねれば自然と前への推進力が生まれるアタック。相手のボールキャリーに対し受け身になることなく戦い続けるディフェンス。速く正確なパスを外側に振られ、わずかに生まれたギャップを突かれる場面もあったが、BKは集中力を保ち攻守で“スピード”の勝負に没頭した。
一瞬で共有された意思で奪った、後半最初のトライ
押し込まれた前半は、5つのトライを許しリードを奪われた。そのかたちは自陣からのカウンターアタックが1、ラインアウトから展開されアウトサイドを破られたものが3、ラインアウトモールが1。一方でBR東京は2つのトライを返した。BKのカウンターアタックでゲインし、FWのピックゴーで奪ったものと(12分)、ゴール前スクラムからのサイドアタックによるもの(36分)で、どちらもNO8ネイサン ヒューズが記録したものだ。
スコアのかたちに、互いのよかった部分がはっきりと表れる試合もあれば、そうでない試合もあるが、この日はよく表れていたのではないだろうか。BL東京はセットプレーからのBKへの展開で的確にスペースを突くかたちが光りトライを重ねた。BR東京は敵陣深くに入った際などのフィジカルを生かしたアタックが機能していた。仕留めたヒューズの個の力のインパクトは強烈だったが、その前段ではFWがそれぞれに力強くボールをドライブするシーンも多くあった。もちろん、その局面を迎えるまでには、BK陣のエリア獲得への尽力があったことも忘れてはならない。
主導権を握った後半は、BR東京は3つのトライを奪った。敵陣浅めのスクラムから継続し、ゴール前のラックの右に展開しWTB西川大輔が奪ったもの(4分)。さらに相手に2枚のイエローカードが出た直後、ゴール前のスクラムから右を攻めてFBアイザック ルーカスが奪ったもの(14分)。そして、ハーフウェイ付近のラインアウトから展開、右サイドを突いたWTB西川がグラバーキックを蹴り、これをつないでWTBネタニ ヴァカヤリアが奪ったもの(18分)。いずれもBKが仕留めた。
WTBヴァカヤリアが奪ったトライは、BKの巧みなパスワークで逆サイドにスペースをつくり、そこを突いたかたちだ。おそらくは今季のBR東京が描く、理想に近いアタックだったとみられる。高いパススキルを備えた中楠、マッガーン、ルーカスの併用が見事に機能し、同点に追いつくトライでもあり強く印象に残るものだったが、反撃のきっかけとなった後半始めのWTB西川のトライも、BK陣の充実を感じさせるものだった。
徐々に攻撃的な個性も見せ始めているSO中楠のギャップへの仕掛けなどで攻め込み、右中間ゴール前にラックをつくると、BKが広い左側にアタックラインを敷く。SH山本昌太が巻き込まれていたため、ラックのそばにいたWTB西川が球出しをするかと思われたが、大外からディフェンスの配置を見極めていたCTB礒田凌平がラックに駆け寄り、BKに一声かける。西川は即座にラインに復帰。マッガーンとルーカスも呼びかけに応じ右にスライドする。礒田が絶妙のタイミングでここにパスを出すことで、3対2という数的有利をつくり余らせた西川のトライが生まれた。一瞬で行われた意思の共有が垣間見えるシーンだった。
試合後、ヒューワットHCはCTB礒田について、「毎週全力を出し切り、自分のできる仕事をやり遂げる選手」と称えた。ハードワークに加え、こうした機転の効いたプレーができることも信頼につながっているのかもしれない。
苦しんだ中盤戦を経て、取り戻しつつある「自信」
アクシデントも多い試合だった。前半でHO大西将史、FLブロディ マクカラン、LO山本嶺に出番が回る、想定通りに進んだ試合とは言い難い展開となったが、そういう事態が起きてもチームとしてパフォーマンスを維持し、同点まで持っていく攻撃を見せたことは、チーム力の向上をうかがわせるものだろう。今季初出場となった大西も、重さを感じさせるタックルで何度も相手のランナーを止めディフェンスを支えた。初のゲームが大激戦となったルーキー・山本嶺もラインアウトでスチールに成功するなど思いきったプレーを見せていた。毎週続く試合の裏側で、出場機会があまり訪れていない選手たちがどんな姿勢でトレーニングに臨めているかが、シーズン終盤のチーム力に差をもたらすことは多くある。BR東京にとって、その部分は大きな強みになりうることを期待させるゲームでもあった。
後半34分に勝ち越しを許し、同点を目指して戦った最終盤。残り1分を切って得た自陣スクラムからのアタックは、この日の秩父宮を最も興奮させた瞬間だったのではないか。狭い左サイドを攻めて相手のディフェンスを引き寄せると、右に展開。BR東京は1人少ないにもかかわらず、大きく空いたスペースをつくりだすと、FBルーカスからCTB栗原由太とつなぎ、栗原が長いパスを右サイドのWTB西川に通す。西川はハーフウェイ付近で前方へキック。内側を走りサポートしていたSH南昂伸がこれを確保し抜けかけるが、相手SOモウンガに絡まれラックに。ホーンが鳴る中でピックゴーを重ねるが、ラックからこぼれたボールを、手と身体を大きく伸ばした相手13番に奪われ、同点のチャンスは手からこぼれ落ちた。
第7節からの5週連続の中盤戦は1勝4敗に終わったものの、3試合で勝ち点を確保。大敗もあって苦しいタームとなり、このままではいけないという焦りに似た感情も湧き出てくる期間だったと思われるが、チームはそうした思いをポジティブな方向に向かわせ、力に変えつつある。現実は厳しく、現在の10 位という成績のまま今季を終えれば、入替戦に出場する義務が生じる状況ではある。だが、絶対に負けられない終盤戦に向けて、それを勝ち抜くために欠かせない自信を取り戻すステップを、チームは踏めているようにも映る。
「順位表では下にいるが、これが自分たちの実力ではないと信じられる試合ではあった」
才能を開花させつつあるSO中楠が語る手応えは、おそらくチームの誰もが感じているものであるはずだ。
次節第12節は4月6日(土)、13:00キックオフの横浜キヤノンイーグルスを駒沢に迎えてのホストゲーム。8-24で敗れた第5節の借りを返すリベンジマッチに、ファミリーの声援を背に受けて挑む。マストウィンの一戦となる。
監督・選手コメント
ピーター ヒューワットヘッドコーチ
皆さん、こんにちわ。前半はうまくプレッシャーを積み上げられなくて、長くボールをキープできれば、いいアタックを見せられると思っていた。いいトライはあったが、ターンオーバーが多すぎた。22mラインの内側に入られたとき、簡単にトライを与えすぎてしまった。でもハーフタイムでもう一度コネクトして、ファイトしてくれたことを誇りに思います。どっちに転んでもおかしくないゲームでした。アーリーエントリーで出場した2人も素晴らしかったですね。この位置で終わらない選手だと感じました。
―前半も内容ではイーブンに近い部分もあった
前半は正しいエリアには入っていた。ここでアタックできればダメージを与えられるっていうところでターンオーバーされていた。そのモーメント(瞬間)で生きることをしっかり覚えなければいけない。ミスはあるものだが、それが続いてしまうことについては改善が必要。
―BKのラインのメンバー構成を変更した
「ベストプレーヤーをグラウンドに立たせたい」っていう思いで選びました。連携もよかったのかなと。SO(中楠)一期の周りに経験のある(SH山本)昌太やCTBマッガーンを置いて。ミルキー(FBルーカス)は今は15番がベストなのかなと。マッガーンの一番いいところは、コミュニケーションがすごくよくとれることです。インサイドBKとアウトサイドBKをつなげることをよくやってくれる。あとCTB磯田ですね。彼は毎週全力を出し切って、自分のできる仕事をやり遂げてくれる選手。高く評価しています。
SH 山本昌太
本日はありがとうございました。率直に悔しいゲームでした。前半はラインアウトでプレッシャーを受けましたし、相手にチャンスをあげたあと自分たちに粘り強さが出せず、簡単にスコアされてしまったりとか、自分たちにとってあまりよくないプレーを積み重ねてしまう場面が前半はいろいろな瞬間であった。ただハーフタイムでこのゲームをどうやって戦っていくかについて修正を図ろうとして、それがパフォーマンスにつながったのは成長を感じ自信にもなった。1週間、「勝ちたいという意思をはっきり見せよう」といってやってきたが、それは見せられたかとは思う。このマインドセットを次のゲームに持っていきたい。
―前半はスコアされた直後の失点、外側をゲインされる、といったかたちが出てしまった
そういうところを改善していこうという話はしているが、実行力がついてきてない。今、そういう場面なんだっていうところに気づけてる選手と気づけてない選手がいる。僕だったり、FL松橋(周平)だったり、そのゲームに出ているリーダーがそこに早く気づいて、チームとしてそれを実行するところまで、特に前半はいけなかった。
―ハーフタイムに伝えた内容は?
スコアを追いかけずに、その一瞬一瞬で自分の役割を果たそうといったことを。
PR 眞壁貴男
悔しいですね。相手がどこであっても、何位であっても関係なく、負けたくないという思いでやっているので。
―スクラムの印象は?
真っ直ぐのいいスクラム組みますね。でもそれは分析通りだったので、受けないように前に出て止めようと話をしていました。
―急きょ入ったHO大西将史とのフロントローを組む時間が長かった
すごく落ち着いていましたね。トークも焦らずにできたのでありがたかったです。
―チームが試合に入り込んでいる感じがした
メンバー、ノンメンバー問わず試合にしっかりフォーカスして1週間を過ごしてこれたので、そういう部分がプレーに出ていたと思います。みんないい方向にベクトルを向け始めたというか。反省することがあったとしても、終わったことはひきずらない。今にフォーカスしようと。
―そういったマインドはディフェンスなどでの集中力にも感じた
今回は前に出て、プレッシャーをかけて、ブレイクダウンを乱してテンポを遅らせて、もう1回前に出るというのを泥臭くやろうと。そういう部分は体現できたんじゃないかと。いろいろな部分の精度はまだよくしなきゃいけないんですけど、自分たちは何がやりたいのかというマインドは見せられたと思う。
HO 大西将史
少しチームを離れていたのですが、戻ってくることができました。(急な出場で)いくぞと言われてすぐにスイッチを入れるのは少し難しかったのですが、いざピッチに立ってしまったら、そこまで雰囲気にのまれることもなく。
―BR東京らしいラグビーは見せた
1回で獲りきれるほど甘くはないけど、我慢してBR東京らしく泥臭くボールをつないでいけば、いいアタックができると実感できました。FWには大きな選手もいますし、今日のようにそこのバトルで互角に持ち込めれば、上位相手でも戦っていけるのかなと。ラインアウトは相手のプレッシャーもあったのですが、スローイングという部分での責任があるので、実行力を上げていかなければと思っています。
―試合後、チームではどんな話を?
自信を持って自分たちのプレーをしていけば、おのずと結果はついてくる。そこは継続してやっていこうと。
SO 中楠一期
勝てなかったのですごく悔しいという気持ちはありますが、チームとしてもやりたいかたちが見えてきている。順位表では下にいますけど、これが自分たちの実力ではないと信じられる試合ではあったかなと思います。
―できるようになってきているやりたいことというのは、主にはアタック?
そうですね。いいランナーもいっぱいいますし、FWは大きくて強い選手がいっぱいいるので、しっかり自分たちのかたちに落とし込んで、ボールが動いて、相手より速く動いてっていうことをすれば、かなり怖いチームになれると思っています。それが見せられているのではと。
―出場機会を重ねる中で、様々なプレーを見せる場面が訪れている
最初の試合(花園L戦)は、まだチームが勝利できていない状況もあって、かなり堅く戦うプランで、自分もちっちゃくなっていた感じはありましたが、BR東京が何をしたいのかの理解ができてきて、自分自身もこのレベルに慣れてきて変わってきています。本来はアタックが得意でどんどんボールを動かしたい10番なので、自分のスタイルが徐々に出せるようになってきたかなと。
―相手のSOリッチー モウンガ選手の印象を
速いっすね。速いし、スキルも高いなと。もともとスーパーラグビーのクルセイダーズがすごく好きで、中学2年生くらいのときからずっと観ていたので、トイメンに立てて嬉しかったです。
―ハイレベルの選手とプレーする機会を得ている
自分は何ができるのか、逆に何が足りていないかを知る機会になっています。でも、臆するほどの何もできない相手かといえば、そうではないという実感もある。レベル感に慣れながら、自分自身をよくしていければと思っています。
―終盤戦。何をチームに与えたいか
まず、試合になったら自分の役割を徹底して果たすこと。あとは自分は1年目で「自分が上手くなる」ことに必死だったのですが、10番として日頃の練習から周りに影響を与えていけるようになっていきたい。アタックであればしっかりセットするように、ディテールを求めていくことであったり。そういうリーダーとして成長していく必要もあると感じています。
WTB 西川大輔
前半は点差をつけられてしまっていましたが、自分たちのプレーができていればいいラグビーができていたので、自分たちのプレーに立ち返って1つずつ点差を気にせずにやろうと話していました。後半はその通りできたと思う。試合が終わるまで負けると思った瞬間はなかったので、すごい悔しいです。
―いいマインドセットで臨めていると感じるゲームだった。
前節の試合からウォーミングアップだったり、その前の準備だったりをよりよくしようとして、いい方向に向かったので引き続きやりました。BL東京相手にもいい戦いができたことは、ここからの5試合に向かっていく上での自信になる。
—アタックも多彩だった。エリアを意識しつつ、攻めていく姿勢も保った。
ゲームコントローラーが3人いるというかたちでしたが、ボールがよく回ってくる実感はありました。
―外側からのキックで同点トライが生まれた
練習で何回もやっているかたち。仲間がキックに反応してくれました。
—ディフェンスについては
前節で結構受けてしまったので、今回はアグレッシブに前に出ていこうと。でも前半はそれが噛み合わずコネクトを切らしてしまい、簡単にトライを獲られてしまった場面があった。少し上がりすぎてしまった。後半はアタックする場面が多かったですが、ディフェンスでもいいプレッシャーをかけられたと思う。
■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=389
文:秋山健一郎
写真:川本聖哉