【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2023-24 第9節 vs.三重ホンダヒート
2024.03.14
前半終盤に猛攻。リードを守って勝ちきり、今季2勝目
リーグワンは後半戦に突入。第9節を迎えたブラックラムズ東京(BR東京)は、三重ホンダヒート(三重H)の本拠地・鈴鹿に乗り込みビジターゲームを戦った。前半、風上陣を取ったBR東京は3分、ゴール前でモールを押しFWがモールの外に投げたボールをSO中楠一期が確保。密集の後方を回り込みブラインドサイドを突くと、インゴール左隅にリーグワン初トライを決め先制。その後は余りに強い追い風の影響を受ける場面などもあり、一進一退の攻防が続く。
28分、敵陣中盤でラインアウトを迎えると、モールを組んで左中間を前進。相手に反則を重ねさせイエローカードで数的有利を得る。ここでもう一度ラインアウトモールを組み、NO8ネイサン ヒューズが押し込んで12-0(30分)。再開後、ハーフウェイ付近で長いフラットなパスでエッジを突破されトライを許し12−7とされたが(34分)、直後に得た敵陣ラインアウトからの攻撃でFL松橋がゲイン。つないだHO武井日向がポスト左にトライし19-7とする(37分)。
さらに、自陣浅めからFBマット マッガーンが左サイドをカウンターアタック。エッジを激しく攻め展開。右サイドのスペースをWTB西川大輔が走りゴール目前まで運びポイントをつくると、FL松橋がピックゴー。HO武井がその身体を持ち上げるようにしてサポートし接地。FWとBKが一体となった攻撃で4つめのトライを奪い(41分)、24−7で前半を終える。
風下に回った後半は、テンポを上げて攻めてくる三重Hにしっかりリアクションしディフェンスラインを維持する我慢比べとなる。うまくプレッシャーをかけて敵陣に入っていく場面もあったが、なかなかトライまでは持っていけずもどかしい展開。11分にSOアイザック ルーカスが入り、FBマッガーンとポジションを入れ替えながら風下からのランを中心としたアタックを見せるが、三重Hも意地のディフェンスで対抗。
それでも安定したディフェンスは維持し、相手にボールを持たせてもハーフウェイ付近で釘付けにしていたBR東京は、点差をキープし時計を進めていく。残り10分程度になると三重Hのアタックにやや食い込まれるようになり、15番に中央を突破され自陣深くに攻め込まれると、モールで押し込まれて24−14に(34分)。
ボーナスポイントの確保にはもう1トライが必要になったBR東京は、敵陣ラインアウトからアタックを狙うが、こぼれ球を奪われ逆にピンチに。しかしゴール前でボールを奪い返すと、そのまま自陣からアタック。ボールをつないで一気に攻め上がり、WTB西川のキックやSOルーカスとFBマッガーンによるターンオーバーなどでゴールに迫ったが、トライには至らずノーサイド。プレーヤーオブザマッチにはFL松橋が選出された。
第4節以来の今季2勝目を挙げたBR東京は、勝ち点4を積み上げ合計11に。順位は10位のままながら、9位の静岡ブルーレヴズ(静岡BR)との勝ち点差は5、11位の花園近鉄ライナーズ(花園L)との差は10に拡がった。
獲りきるアタックと我慢強いディフェンスを見せた試合中盤
先発7人を入れ替えて臨んだ再起の一戦。主導権を握りきれず苦しい時間もあったが、試合の中心となる前半の終盤から後半の中盤までの戦いは、BR東京らしさが表れていた。モールにこだわって奪ったトライ(前半30分)。失点直後のリスタートキックを使ってエリアを獲得しラインアウトからアタック、FL松橋の鋭い突破から奪ったトライ(同37分)。そして、カウンターを起点とし、左サイドの激しいアタックから展開して奪ったトライ(同41分)では、中央でのFWのパスワークやNO8ヒューズのダミーランが効いて右サイドに大きなスペースが生まれており、相手を術中にはめてブレイクしたかたちになっていた。
後半はトライこそ生まれなかったが、早い時間での追い上げを狙う相手が一気に仕掛けてくる序盤をよくしのいだ。プレッシャーをかけられる場面ではかけて前に出ていき、失点をせずに切り抜けた我慢強さは、BR東京本来のものだったのではないか。ゴール前に攻め込まれた場面もあったが、持ち前の粘り強さは見せた。守りでは誰もがハードワークしていたが、WTBシオペ タヴォのフィジカルを活かしたディフェンス力などは特に脅威になっていたのではないか。
風上ながらそこまで多くのキックは蹴らず、テンポを上げアタックを継続してくる相手への対応は体力的にかなりタフだったことだろう。試合終盤のモメンタムが相手に傾いた時間帯は本当にきつそうに映ったが、最後に自陣から仕掛けた猛烈なアタックにはBR東京の底力を感じさせた。ノーサイドと同時にピッチに倒れ込んだ選手たちの姿は、すべてを出しきって走り通したことの証左だろう。
「レベルアップが必要なエリアもある。自分たちのアタックのリズムはまだ見つかっていない」と課題を口にしたピーター ヒューワットヘッドコーチだったが、選手たちの姿勢には「フィジカルにもいけていたし、『自分たちは何者であるか』についても部分的にはしっかりと見せられた」と賛辞を送った。会見の最後には日本語で「先週はもう終わりね。今週は勝った」とつぶやいた。指揮官は過去に留まらず、ここからもう一度加速していくチームの未来を信じている。
「それぞれが自分の役割を果たす」の意味
PR大山祥平によると、この試合に向けた準備で、選手たちにそれぞれの役割が何なのかが端的に書かれたものが渡されたのだという。「今日もそれをもう一回見てから試合に臨みました」と大山はいう。
「それぞれが自分の役割を果たさなければ—」という言葉は、キャプテンのHO武井らが口酸っぱく何度も口にしてきた。この言葉から最初に思い浮かべたのは、それぞれの選手が自覚を持って責任を果たすことでチームは機能するという、個々の意識の向上の重要性だった。だが、いろいろな話を聞いていくともう少し膨らみがあるような印象を受ける。
選手の役割とは、選手が備えている能力(トレードマーク)に沿ったものだ。その強みを活かしてくれることを期待して、首脳陣は起用している。「役割を果たす」という言葉には「自分の強みを強く信じ、それを発揮することに集中する」という意味もあるようだ。メンバーに渡された「自らの役割」には、頭をクリアにして「自分の強みを信じろ」という首脳陣からのメッセージであるようにも映る。
次節第10節は3月16日(土)、秩父宮ラグビー場で13:00にキックオフ。リーグワン屈指のフィジカルとセットプレーを強みとする静岡BRを迎えてのホストゲームは、身体の張り合いとなるのは間違いない。浮上に向け絶対に負けられない一戦。自分たちを信じ取り戻したBR東京らしさをぶつけ、勝ちにいく。
監督・選手コメント
ピーター ヒューワットヘッドコーチ
皆さんこんにちわ。今日の一番のポイントは勝てたということ。先週のゲームを終え選手たちは悔しい思いを抱いていましたが、この試合に向けてはタフだけどいい1週間が過ごせました。昨日、チームでここに移動してきましたが、その時間もコネクションを保ちながら過ごせたと思います。レベルアップが必要なエリアもあるのは理解しています。自分たちのアタックのリズムは、まだ見つけられていないかもしれない。それでも80分戦い続け、勝利をつかんで終われたのはよかった。
—1週間、どんなことを考え、伝え、試合に臨んだのか?
自分たちらしくない試合をしたあとは自信に影響が出るもの。自分たちが上に行くためには、いろんなエリアでもっと成長するべきだという話はしましたが、基本的には「自分たちはもっとできるね」ということを。何を改善しなければいけないのかを考えるときには、選手たちがリードしてくれたと思います。そういう部分からも選手やグループの成長を感じました。それに合わせ、少し変えたりしながら試合に向けた準備をしてきました。
—選手たちの声も採り入れながら戦い方を決めた
こちら側でベースのプログラムを与えてあげるのがもちろん前提ですが、グラウンドに立つのは選手たちなので。コーチンググループとしても反省を行いました。
—前節指摘のあったプレーにおける意図や狙いの部分について
今日はよかったと思います。スタートからすぐに見えていました。フィジカルにもいけていたし、「自分たちは何者であるか」についても部分的にはしっかりと見せられたと思います。
FL 松橋周平
先週は痛い負けを喫して、チームとしてもう一回コネクトして挑んだ試合だったのですが、結果として勝てたことはよかったし自信にもつながると思う。ただ個人としてはこのような戦い方をしていては上にはいけないし、これで満足しているようじゃだめだとも思う。僕らはもっと上にいけるチームだからこそ、さらに精度を高めなければいけない。プレッシャーがかかったときにペナルティを重ねるとか、ミスが多くなるとか、ゲームマネジメントが雑になるとか、そういった部分があると強いチームには勝てない。さらにビルドしていきたいと思います。
—準備においては選手のリードもあったとのことだが
プレーヤーでミーティングをさせてもらって、試合に出ている選手、出ていない選手を問わず、思っていることをしっかり話してもらいました。その中でやっぱりゲームマネジメントの部分や戦うべきエリアでしっかり戦おうというのはあって、選手たちが再確認したい思いが強かったのはそのあたり。僕個人としては、ミスやエラー、ペナルティという自分たちが直せる部分をまず直す必要があるとも感じている。そのためには一人ひとりが自分の役割をちゃんとやろうっていうところに立ち戻ることになる。それぞれが自分のトレードマークがあるので、それをしっかり遂行することが大事。
PR 大山祥平
シーズンの折り返しの1試合目、どうしても勝たないといけない試合だったので勝ててよかった。前半は風上というのもあって、もうちょっといけたかもしれませんが、自分たちがやりたいことはかなりできていたかなと。後半は少し相手ペースの時間が長くなったとは思っています。終盤は相手に流れが向かっていた。相手にいけるかもしれないと思わせてはいけなかったですね。
—試合に向けて準備で何か特別なことは
それぞれが自分の役割を果たすことに集中できるように、それが書かれたものが一人ひとりに渡されたんです。今日も試合前にそれをもう一回見てから試合に臨みました。自分であれば、3番というポジションなので、まずはスクラムをはじめとしたセットピースを安定させるために正確なプレーをすること。あとは体格的に大きい方なので、接点で前に出る。そんなことを再確認しました。
—所属していた三重Hの本拠地でのプレー
チーム状況もあったので、特別な思いみたいなものは全くなかったんですが、ここに来たら知っている方もたくさんいましたし違った感覚がありました。でも、懐かしさみたいなものの影響を受けないように、僕はBR東京の選手だということをしっかり自覚しながらプレーしていました。
LO 柳川大樹
先週からメンバーも変わって、久しぶりの試合の選手もいたので最初は硬さもあったと思うんですけど、徐々に解けて自分たちのラグビーができたと思います。
—FWとしてセットプレーなどの感触は?
うまくいっていたと思います。ラインアウトは獲れていたし、スクラムも前半はペナルティは取られていなかったし、パディ(PRライアン)がチームをよくしてくれていたと思います。
—後半の序盤、ボールを持った相手BKを追ってプレッシャーをかけた
鬼ごっこをしていましたね(笑)。CTBテビタ リー選手が流れるボールキャリアだとわかってきていたので。
—タフなシーズンになってきているが
苦しくないシーズンのほうが少ない。それに慣れちゃいけないですけど。バタつく必要はない? そうですね。次の静岡ブルーレヴズ(静岡BR)戦はビッグゲームになると思いますけど、自分たちのやるべきことを遂行していくだけですね。
NO8 ネイサン ヒューズ
先週はうまくいきませんでしたが、少し塗り替えることができた。ここをベースに積み上げていければ。ただ、勝つことはできたものの後半はディシプリンのところなどで学びはあったと思うので、それを活かして来週に向かいたいと思います。
—FWとして一番大事にしていたポイントは
自分の仕事をしっかりやろうという話が一番多かったですね。個人レベルでそれぞれまかされている役割をしっかりやろうと。FWパックとしては、いいプラットフォームをつくり、そこからBKがストライクできるようにと。
—いい準備をして開幕し、粘り強い戦いを続けてきた時期と比べ、チーム状況に違いを感じるか
ここまで(先週以前)のゲームはいくつかアンラッキーなポイントがあった。ただ先週は違って、チーム全員で試合を見直し「これは自分たちではない」と。苦しいし受け入れがたい事実ではありましたがそれはもう変えられないのだから、ここで線を引いて前に進もうと。そこからのメンバーたちの反応はよかったんじゃないかな。コネクションも保てて、いい準備ができたと思います。
今日の試合を見てもらっていたらわかると思うのですが、最初はまだ緊張がありました。ただ動き出したらそれも解けていった。自分たちは相手に刀を突きつけておく必要がありました。ホンダ(三重H)さんはボールをキープしてプレーしたいチーム。だから自分たちは(受けに回らず)自分たちのラグビーをし続けることが大事だった。このゲームが大事なターゲットというのは同じでしたから(必死に向かってくる相手に対して)それぞれが役割を果たし、やりたいラグビーができるかどうかが大事でした。
SH 山本昌太
先週のゲームはかなり厳しいレッスンになったのですが、それを機にしっかり自分たちと向き合ってチームが本当の意味で「どういうチームになりたいのか」を考えるタイミングにもなったので、この1週間は本当にいい時間を過ごせましたし、ある意味で開き直るところは開き直れたかと。まだ磨いていかなければいけないところはありますが。自身としても久しぶりにゲームに戻れて、勝つこともできた。そこは素直によかったかなと。
—伝えられていた役割は
後半、風のある中で少しバタついていたので、そこをコントロールしてほしいというメッセージをもらっていました。スコアを見れば自分たちがリードしているのに追われているような感覚になってしまったところはあったので、落ち着いて一個一個前に進めていこうと心がけてゲームに入りました。
■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=387
文:秋山健一郎
写真:川本聖哉