【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2023-24 第8節 vs.東京サントリーサンゴリアス

2024.03.07

“DNA”を示せず。ペナルティとミスが続き苦しい戦いに

東京サントリーサンゴリアス(東京SG)との対戦となったリーグワン第8節は、厳しいゲームとなった。試合の入りからアグレッシブに挑んできた東京SGに前半4つ、後半5つのトライを奪われ、反撃の糸口を見いだせないまま時間が過ぎてゆき0-62でノーサイド。ここまで一定の安定感のあったディフェンスが機能せず、また規律の乱れや接点でプレッシャーを受けたことの影響でうまくチャンスをつくりだせなかった。ショッキングで目を背けたくなる結果ではある。だが、チームは敗戦を直視し改善のためのコミュニケーションを重ねている。ともに戦おうとしてくださる方々に向けて、ここでも試合を振り返っていくことにしたい。

黄色のジャージに奪われた9つのトライ。その起点を整理すると、自陣で与えたラインアウトからのものが7つ。そのラインアウトを与えた経緯をたどると、ペナルティに由来するものは5つあった。トライの半数に規律が直接関与しており、それ以外の前進を許したものも含め、ペナルティにより自ら相手を何度もアタッキングゾーンまで導いていた。それが試合の流れを決めたのは間違いないだろう。

17個(前半7、後半10)に及んだペナルティの内容に目を向けると、スクラムやモールでのコラプシング、またラインアウトでの妨害がそれぞれ4つと多く、それ以外にもノットリリースザボールが3つ、ハイタックルとオフフィートがそれぞれ2つ、ノットロールアウェイとハイボールをめぐる空中での接触プレーが1つずつあった。

多くのペナルティの誘因は、相手のアグレッシブなプレーに対し受け身になったり、試合展開を受けて焦ったりしたことのように映る。ただ、オフサイドやノットロールアウェイのような選手の意識でコントロールしやすい反則が少なかったことは、苦しんだ戦いの中でのポジティブな部分か。前半13分、FBマット マッガーンが敵陣に放ったキックを追って競りにいったCTBロトアヘアアマナキ大洋が、丁寧に自立を保ちながらジャッカルを狙ったシーンなどは、規律への意志が感じられた。また、かさんでしまったラインアウトでの妨害はアクシデンタルなものもあったとはいえ、次節は減らしていくことができる要素だろう。

トライに至るフィニッシュで整理すると、ラインアウトモールから直接もしくはゴール目前で持ち出されたものが3つ。FWによるキャリー、ピックゴーによるものが2つ。パスでスペースに運ばれてBKに仕留められたものが2つ。ギャップをブレイクされるなどしてBKに仕留められたものが2つ。ここまで粘れていたモールディフェンスがやや勢いを欠いていたこと。また東京SGのBKがBR東京の陣形をよく見て、スマートに手薄な部分を見つけボールを運び数的優位をつくっていたこと。後方へのパスをうまく使って前に出るディフェンスを無力化する連携を駆使していたこと。それらは与えたチャンスを確実にスコアにつなげられた一因にも映る。

東京SGのランナーの鋭いランで仕掛けミスなくトライを獲りきる実行力や、BR東京が徹底していたデュアルコンタクト(2人が連携してのタックル)に対してもオフロードパスをつなぎアタックを継続するフィジカルとスキルは素晴らしく、学ぶべきものだった。

エッジブレイクダウン・デュアルコンタクト・ターンオーバー

試合に向けて、チームで共有していたあるイメージについて、SH南昂伸はこう説明する。

「アタック力のあるチームなので、エッジ(タッチライン際)ブレイクダウンなどを意識していました。そこでデュアルコンタクトを徹底してプレッシャーをしっかりかける。ターンオーバーができたら、スペースにボールを運んでトライを狙おうと」

WTBの先発にセミシ トゥポウとネタニ ヴァカヤリアという突破力のある選手が選ばれたのも、この狙いに沿ったものだったのかもしれない。だが、実際にはブレイクダウン全般で受けに回り、東京SGの勢いを止めることができず、ターンオーバーからのアタックというかたちはほぼつくりだせなかった。だが、いつも通りのフィジカリティを見せてこの“分水嶺”で対抗できていれば、相手の強みを消した上で自分たちにアタックチャンスが訪れていた。試合展開は変わっていたはずだ。だからこそ東京SGも接点に強くこだわり、試合開始の瞬間からアグレッシブに仕掛けてきたともいえる。

「自分たちがやりたいことをそのままやられた」。CTB栗原由太の弁だ。ボールを持ちアタックを仕掛けると即座に激しくプレッシャーをかけられ、ノックオンさせられたり、ジャッカルなどでターンオーバーを許したりする場面が相次いだ。

なかなか前に出られなかった前半のアタックは、スペースへのキックを使ったかたちに限られた。前述の13分のFBマッガーンのキックリターンからのCTBアマナキ大洋のチェイスはジャッカルが成功していればチャンスとなっていただろう。また22分、自陣スクラムからサインプレーで展開し、WTB西川大輔が右サイドのエッジを抜け前方にキック。相手9番とインゴールでの競り合いになったシーンも、トライに迫った瞬間だった。

その後のゴールラインドロップアウトをキャッチしてのアタックでは、CTB栗原が裏のスペースにキックを蹴り、タッチは割ったがエリアは獲得した。その後のラインアウトで頭部がバッティングする不運なペナルティで相手に自陣脱出を許したが、この段階で1トライを返せていれば、流れを変えるきっかけになり得ただろう。

2試合連続出場のNO8ワカヴァカがビッグゲイン

後半の序盤、状況が好転しかけた時間があった。キックオフを追ったHO武井日向が気持ちの入ったタックルで8番の出足を止めると、次々とBR東京の選手がプレッシャーをかけた。ゲインラインを後退させて蹴らせたキックを確保し、右のエッジのスペースをCTB栗原がゲイン。フェイズを重ね前に出る。

ブレイクを狙ったSOアイザック ルーカスへのショートパスを奪われ一度途切れたが、ゴール前で粘りペナルティを3回連続で奪ってもう一度敵陣に入った。この局面はBR東京らしいアタックができていたといえる。しかし8分、ゴール前ラインアウトをスチールされ、さらに空中で相手に干渉してしまうペナルティ。痛恨のプレーで流れを手放す。

11分にピッチに立ったNO8サミュエラ ワカヴァカは19分、小さなステップでディフェンスを動かしてギャップを抜けゲインした。ディフェンスに迫られながらも冷静にサポートを探し、丁寧にパスを出す冷静さも光った。シーズン後半はチームを支える存在になるかもしれないという期待を抱かせた。

直後の22分、敵陣中盤の右中間でSOルーカスが飛び出してきたディフェンスがつくったギャップに仕掛けて抜ける。22mライン付近で外のWTBヴァカヤリアにパスを出したが、わずかに合わずノックオン。前方にディフェンスはおらず、通っていればほぼ確実にトライできた場面だった。

アタックにおいてうまく活かせなかったのがキックオフ(リスタートキック)か。11回を数えた敵陣に入っていく大きなチャンスで、アタックに持ち込めたのは3回。すぐに自陣に押し戻されてしまうケースもあった。ほとんどミスなく処理をした東京SGの質の高さもあったが、キックオフで相手に傾いた流れを断ち切っていけるかは、粘り強い戦いをする上でポイントとなりそうだ。

リーグワンも今回の試合で折り返しを迎えた。第9節は3月10日(日)、三重交通Gスポーツの杜鈴鹿にて12:00キックオフ。現在12位の三重ホンダヒートとのリーグワンでの初対決となる。今回の敗戦では、泥臭く挑み続ける姿勢こそがBR東京の生命線だと痛感させられた。痛みを成長につなげられるか。チームのレジリエンスが試される一戦となる。

監督・選手コメント

ピーター ヒューワットヘッドコーチ

皆さんこんにちわ。タフな日になったかなと。スタートが悪く、長らくよくできていた部分も今日はうまく見せられなかった。意思というか、狙いという部分が必要なレベルではなかった。東京SGさんは優位な状況を与えたり、消極的になったりしてしまうと難しい相手。それに加えて17対7というペナルティカウントになるとかなり厳しい。東京SGさんはいいプレーをしたと思います。日程的に中5日というのも影響があったかなと。

—明らかに力の発揮出来ない試合になることがあるが

そこにはいろいろなことが絡んでいる。準備、メンタル、フィジカル。接戦を落とし感情的にも強く動くような状況が続いていたというのも負荷になったかもしれない。ショートウィークであることやFWがフィジカルな試合をしたことを考慮して今週はリザーブを6-2(FW6人、BK2人)で臨んだりはしたのですが。私たちは本当にメンタル面が10%でも足りていないと大きなダメージになる。(そういう状態で)相手が有利な状況をつくってしまうと、止めるのはさらに難しくなってしまう。

HO 武井日向キャプテン

自分たちのDNA、泥臭さ、フィジカリティの部分を全く出せず、東京SGさんにやりたいことをすべてやらせてしまった。ここまでの結果になってしまった原因は試合の入りから受けてしまい、それを最後まで改善できなかったこと。

—勝てない中でもいい試合は続けてきた。今日、チームがうまくいかなくなった理由

そこは本当に今から考えていきたい。東京SGさんがアグレッシブにアタックしてくるのはわかっていた。それに対し僕自身も含めて正しいマインドセットだったのか。そこをレビューしたい。(中5日で試合が訪れる)ショートウィークだったがやるべき準備はやれた。コミュニケーションもとれていてプレーへの不安はなかった。ただ、いい試合を何回もしてきたからこそ、今週もそういう試合になるんじゃないかという慢心はあったかもしれない。そういうところは気を引き締めていきたい。僕自身もですが。

—前節は雨の中でのフィジカルな試合だった。

それがあったとしても、この点差で負けたり、試合の入りからパッシブ(受け身)になったりしたことの言い訳にはできないと思っている。切り離して考えていかないといけない。

—明らかに力の発揮出来ない試合になることがあるが

いろんな要因はあるが、僕自身はマインドセットのところだと思う。このくらいでいいやといった(部分がある)。ブラックラムズというチームは一人ひとりが100%の力を出し切らないといい試合にすることもできないチーム。全メンバーが意識を高めることが大切で、それをチームに浸透させなきゃいけない。そこはキャプテンの僕がリードしていかなければいけないし、プレーでも引っ張っていく。

—流れを失うと取り戻すのが難しい感触はあるか

それは試合によるというか、問題を感じることなくチームとしてまとまって修正できている試合もあるし、今回みたいに修正しきれないで終わってしまうこともある。そこは試合に出ているリーダーたちの役割だと思う。そこはプッシュしていく。修正できるチームにならないと勝てない。

PR 中村公星

難しい試合展開の中で、リザーブとしてインパクトを与えるのが役割だったが、スクラムを安定させられなかったり、キャリーで返されたりと、自分にはまだ足りない部分があると気づいたし、実力も出せなかったなという思いです。

—スクラムも難しい状況が続いた

相手本位というか、自分たちが後手に回って組んだスクラムかなと。(前半を外から見ていて)スペースが少ないと感じていました。自分が入ったとき、それに対応できなかったのは修正しなきゃいけないことだと思う。

—公式戦でのプレータイムも伸びてきた

最初はリーグワンという新たな舞台でプレーするにあたり、気持ちのつくり方に難しさを感じていましたが、3試合出場を重ねてそこには慣れてきたように思います。

NO8 サミュエラ ワカヴァカ

点差が拡がっていたので、テンポよく戦ってハードワークするだけだと思っていました。ハーフタイムにコーチからインパクトを与えるようにいわれていました。インパクトのある思いきりのいいプレーをする中でも、そのほかの自分の役割も果たそうと思っていました。

—いいブレイクもあった。さらに前に運べそうな勢いもあった

自分はスピードは全然ないから、もっと速いサポートを探していました。

—フィジカルはリーグワンレベルに十分順応できている。

今週はフィジカルな戦いになるとずっといわれていて、そういう練習をしてきました。大学とリーグワンではフィジカルの違いを感じますが、BR東京の練習もハードなのでそれが試合で活きている。もっと長い時間出場してプレーができるように頑張ります。

SH 髙橋敏也

相手はフェーズを重ねてアタックするのが得意なチーム。僕らはアタックも好きですが、ディフェンスには特にプライドを持っている。だから自分たちのディフェンスをして、そこで勝つ。プレッシャーを与えてターンオーバーして、アンストラクチャーな状態から攻めてスコアしようと。

—そのディフェンスで苦しんだ

あとは自分たちがアタックしたときにボールキープができず、そこから逆にやられたり。やりたいことを相手にやられた。

—エリアの獲得については

できるだけ敵陣でという思いもあったんですけど、スペースがあったらアタックもしようと。そこはビデオを見返したい。自分としてもそこには反省があると思っています。さすがに自陣でボールを回していてもしんどいこともあるので。

—次節は正念場

試合を観にきて応援してくださった皆さんやノンメンバーに本当に申し訳ない。こういうときこそ自分たちを見つめ直さなければ。これで来週はうまくいくと勝手に決めつけてやっていたら、何も変われないと思うので。

SH 南昂伸

前半が終わったところでヒューイ(ヒューワットHC)と話しました。チャンスがあればクイックタップから仕掛けてテンポを上げて相手がどう出るか様子を見ながらやっていこうと。でも今日は継続できず、ボールをすぐに獲られてしまった。勢いをつくりたかったんですけど、かなりの時間ディフェンスを続けることになっていたのもあり体力的にきつい状態で、アタックを仕掛けてもモメンタムはつくれなかった。

—試合全体のプランとしては

アタック力のあるチームなので、エッジ(タッチライン際)ブレイクダウンなどを意識していました。そこでデュアルコンタクトを徹底してプレッシャーをしっかりかける。ターンオーバーができたら、スペースにボールを運んでトライを狙おうと。でも個人のタックル、ディフェンスがなかなかうまくいかなくて、準備してきたことができなかった。チーム全体の士気が下がってしまって、それを上げていけなかったのも敗因だと思う。

—次節に向けて

毎週、いい準備はできているし練習は試合につながると思う。自分たち若いメンバーも言葉を発していこうと思います。

CTB 栗原由太

準備についてはいいトレーニングができたと感じていたのですが…。期間が1日短いというのも言い訳にはできないです。結果はもう結果。残り半分まだあるのでしっかり切り替えて、みんなで頑張っていきたい。しっかりビデオを見直して個々がしっかりレビューすることが大事だと思います。試合前の準備で慢心がなかったかとか、戦い方の部分とか。試合運びも東京SGがうわてだったので。

—ディフェンスで持ち味を出せなかった

ディフェンスもそうですけど、接点で全体的に食い込まれていた気がします。アタックブレイクダウンでも向こうのディフェンスにやられていたし。うちがやりたいことをそのままやられた感じですよね。チームはラフにタフに、最後まで諦めないBR東京らしいプレーすることをテーマに掲げていたのですが。ここまで何もできなかったのは人生で初めて。それも悔しくて。逆に涙も出てこないというか。這い上がるしかない? そうですね。

 

■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=386

文:秋山健一郎

写真:川本聖哉

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