【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2023-24 第7節 vs.コベルコ神戸スティーラーズ
2024.02.29
冷たい雨の中での激戦。モールによる2トライなどで試合をつくるも届かず
第6節のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(S東京ベイ)戦の惜敗から1ヵ月のインターバルを経て挑んだリーグワン第7節は、コベルコ神戸スティーラーズ(神戸S)を駒沢に迎えてのホストゲーム。冷たい冬の雨が降る厳しいコンディションの中でのゲームはボールが暴れ、その保持には常に細心の注意が求められる我慢比べとなった。
先制は神戸S。ハーフウェイ付近のラインアウトから、相手10番が裏のスペースに小さく浮かせたキックを放つ。ブラックラムズ東京(BR東京)の処理がわずかに遅れると、飛び出してきた12番に拾われインゴールに運ばれた(12分)。直後に敵陣でHO武井日向がジャッカルを決めてPGに成功し(15分)、BR東京が3-7と追い上げる。PGで3-10とされたが(28分)、前半終了間際にBK陣の連携でゴール前にボールを運びさらに反則を誘うと、ラインアウトモールを確実に押しきってNO8ネイサン ヒューズがトライ(36分)。10-10でハーフタイムへ。
後半開始直後、ハーフウェイ付近でパスが乱れたところを相手11番に足に掛けられ、ドリブルするかたちでインゴールまで運ばれる。WTB西川大輔がトライセーブにいくが、このプレーにイエローカードが出てペナルティトライに(3分)。14人で戦うことになった10分間を失点せずに踏ん張ったBR東京は、17分にPGで3点を許したものの、再びゴール前ラインアウトからのモールでHO武井がトライを奪い17−20と食らいつく(23分)。だが直後の相手のキックオフを確保できず、このボールを使って攻め込まれると、13番に逆サイドへの長いキックパスを通され右隅に14番がトライ(26分)。17-27と再び点差をつけられた。
29分からピッチに立ったアーリーエントリーの新人・NO8サミュエラ ワカヴァカらが奮闘するも、焦りからかペナルティがかさみ終盤はもどかしい展開に。再び流れを引き寄せることはできず、そのままノーサイド。第7節を終えての順位は前節と同じ10位。だが、9位の三菱重工相模原ダイナボアーズとの勝ち点差は7に拡がった。
テーマはディフェンス。しっかり立って、デュアルコンタクトで挑む
前節からの1ヵ月で、チームはS東京ベイと東芝ブレイブルーパス東京とのトレーニングマッチに勝利。日本代表のトレーニングスコッド福岡合宿に、来年度入団予定選手も含め6選手が招集されるというポジティブなニュースもあった。第6節を終えて1勝5敗と努力が結果に結びつかない日々が続くが、チームは確実に前進しており、選手たちの表情にも暗さはなかった。
第7節のメンバーのセレクションにも、ピーター ヒューワットヘッドコーチ(HC)のぶれない姿勢が見えた。トレーニングマッチでの奮闘が光ったLOジョシュ グッドヒューやWTB西川大輔らの先発起用や、ルーキーのNO8ワカヴァカのリザーブ入りは、チーム全体が高いモチベーションに満ちた状態を保ち、立場を問わず全メンバーが戦力となるためにハードワークを続ける状況こそが、チームの真の強さにつながってくるのだというポリシーが伝わってくる采配に映った。
この試合に向けて、首脳陣からメンバーに伝えられた言葉を、CTB栗原由太はこう話す。
「主にはディフェンスです。“フォーティーンオンフィート”、(タックルにいく選手を除く)14人はしっかり立ってプレーしようと。それをもう少し具体的にしたものとして“RSP(リロード・スペーシング・ポジショニングの頭文字の略)”と“デュアルコンタクト”というのがあって。2人でしっかり守る。タックラーはすぐにどいて2人目が戦い続けようという」
PR西和磨の試合後の感想はこうだ。
「アタッキングラグビー、すごいテンポの速いラグビーをしてくるという分析だったのですが本当にその通りで。それに対してデュアルでコンタクトしようとしたのですが、テンポが速く1対1になってしまう場面もあって、そこでゲインされることはあった」
一方で、SH髙橋敏也はこう振り返る。
「ディフェンスをしていて、簡単にはトライを獲られないという感じはあった」
攻撃力を強みにする相手に対し、しっかり守ってロースコアゲームに持ち込む。プランの起点はまずそこにあったものとみられる。そのために、高いワークレートで適切なかたちのディフェンスを維持する。そのあたりをメンバーに求めたようだ。結果的に奪われたトライは3つ。天候の影響は大きかったとはいえ、神戸Sを今季最少スコアに抑えたことを思えば、メンバーはプランの核となる部分についてはしっかりと遂行したといえるはずだ。
奪われたトライも、ディフェンスをテンポのよいアタックで崩されたものはなかった。もちろん、差し込まれる場面がなかったわけではないが、それこそ“リロード・スペーシング・ポジショニング”への意識を感じさせる適切なディフェンスでよく対応していたように見えた。
前半半ば以降、繰り返し迎えていたアタックチャンス
そうした意味で、勝敗を分けるポイントになったのは何人かの選手が挙げるように、アタックとなるのだろうか。
「ブレイクダウン周りでプレッシャーを受け、自分たちが思っているアタックができなかった」と話すHO武井日向は、「敵陣に入った場面で、瞬間の集中力、フォーカスというか、それが欠けていた部分があった。(略)もう一段階集中力を上げていかないと、獲りきれるところも獲りきれない」と続けた。SH髙橋は「敵陣に入ったとき、相手はジャッカルを狙ってくるチームだったので、それに対抗するテンポがあまり出せなかった」と振り返った。
これらは、前半の半ばを過ぎた時間帯などのプレーを指すものとみられる。BR東京は36分にSOアイザック ルーカスのランとFBマット マッガーンのキック、そしてCTBロトアヘアアマナキ大洋とWTB西川の鋭いチェイスによる再獲得から反則を誘い、ラインアウトモールでトライを奪った。だがこの前後にもそれぞれ一度ずつ敵陣深くに攻め込みアタックするチャンスがあった。
ひとつはラックからこぼれたボールを奪われターンオーバーされ、もうひとつはボールに絡まれ反則を喫しトライには至らなかったが、どちらのアタックでも10フェイズ以上を重ねる我慢強さは見せた。こうした場面でトライを獲りきるためのあと少しの精度の向上は、チームが改善を目指すもののひとつにありそうだ。
そして、前半は4に抑えながらも、後半は9に及んだペナルティも改善のポイントになってくるのかもしれない。特に、ラスト10分に重なった4つのペナルティは、相手からボールを奪い反撃に転じたいという強い思いからのものに見えるものもあった。勝利を渇望する強いパッションと規律の両立も、ここからの戦いにおいては、さらにポイントとなってきそうだ。
第8節は3月2日(土)、秩父宮ラグビー場で14:05にキックオフ。相手は現在3位の東京サントリーサンゴリアスとなる。今節の神戸Sと同様のアタッキングラグビーをカルチャーとする強豪に対しては、やはりまずはディフェンスからということになるだろう。チームの重ねてきた努力を信じる気持ちは揺らいでいない。激闘の先にある勝利を全身全霊で掴みにいく。
監督・選手コメント
ピーター ヒューワットヘッドコーチ
こういうコンディションなので、ランニングラグビーが適してないのはもちろんわかっていたが、本当に腕相撲のような戦いになってビッグモーメント(重要局面)で神戸Sに上回られた。そこが差になった。
—接点での攻防について。
もう一度ビデオを見直したい。ノットリリースザボールやハンズオングラウンドが出てしまっていたので。
—前節に惜しいゲームをしたあと、若い選手らの頑張りもありトレーニングマッチに2勝した。そこでエナジーを感じさせたメンバーが選ばれていた。
選手たちには全てのゲームがセレクションだと伝えている。若い選手だけではなく経験ある選手も。LOジョシュ(グッドヒュー)、WTB(西川)大輔もいいパフォーマンスを見せていた。ルーキーのサム(NO8サミュエラ・ワカヴァカ)もですね。誰であっても、いいプレーをしていればチャンスが回ってくると思ってもらいたかった。全員で戦うチームであることを強みにしていきたいので。
—そうしてピックアップした選手の評価は?
よかったと思います。ジョシュはLOで80分。すごくよかったと思います。大輔はウイングにとってはすごく厳しい状況ではあったとは思いますが、よかったと思います。シンビンにはなりましたがトライセーブにいこうという姿勢はよかった。サムもインパクトを与えてくれた。まだ若い選手ですが、学ぼうとする姿勢があり、課されたプログラムを信じてやってくれています。
HO 武井日向キャプテン
フィジカルな戦いになるのはゲーム前からわかっていました。そこに対して自分たちがやれた部分はありました。ただ、ブレイクダウン周りでプレッシャーを受け、自分たち思っているアタックができなかったのは改善すべきところ。ペナルティの数も今までの試合と比べ多かったので、そこは改善していきたい。
—神戸Sの接点での強さに苦しめられた?
それもありますし、自分たちのサポートプレーヤーの寄りが遅かったとも思います。相手にはオールブラックスのジャッカラーもたくさんいますし、そういう選手に仕事をさせすぎてしまった。
—敵陣に攻め込んだ場面もあった。
そういう瞬間の集中力、フォーカスというか、それが欠けていた部分があった。チャンスやピンチでもう一段階集中力を上げていかないと獲りきれるところも獲りきれないですし、ピンチであれば獲られてしまう。それは勝ち負けにつながってくる。そういう場面で、ペナルティを出さずにやれるようにレベルアップしていきたい。
—相手のFLアーディ・サベア(NZ代表/ワールドラグビーの年間最優秀選手)について。
1個1個の接点で激しくきますし、1人2人来ただけじゃ止まらないというか、レッグドライブのところもすごかった。でもそれに負けていないという感触もメンバー全員にあったと思う。オールブラックスが相手でもやれるという自信はついた。
—後半は前に出ていけなかった。
こういうコンディションだと、自分たちが思うようなパスワークでアタックするのが難しく、ハンドリングエラーもあった。こういうときにはどうしなきゃいけないのかという、試合のコントロールの部分はもう少し話したい。
PR 西和磨
スクラムはトイメンが日本代表にも入る選手ということで、チャレンジしようというマインドでやらせてもらいました。要所ですごくうまさや強さを感じ、プレッシャーを受けた場面もあった。
—セットプレーでは、モールで 2トライ。
モールは自分たちの強みにしていこうといっている部分。それがスコアにつながったのは自信になる。
—追いかける展開となったが、粘りは見せた。
前節のS東京ベイ戦を振り返り「あと5%だ」と話していました。今日の試合でも差は5%、10%ぐらいだとチーム全員が感じたと思う。その差は、今日であれば10個以上出たペナルティなどで、今大事なのは自分たちがやるべきことをどれだけできるか。チームが大事にしているフォーカスポイントを、一人ひとりがさらに徹底して遂行できれば、おのずと勝てると信じている。
LO ジョシュ グッドヒュー
相手にはすごくアグレッシブで多くの経験を持つボールキャリアが多かった。でも自分たちもジャージを着ていることにプライドを持ってしっかり戦った。そういうエフォート(努力・尽力)を見せることはできたと思う。このエフォートを続けて、あとはほんの少しフィックス(修整)できれば、勝ち始められると思います。キーモーメントの実行力。今日であればトライを獲ったあとのキックオフをキャッチできなかった場面などですね。
—モールで2つのトライを奪った。
ハッピーです。すごく強い感じ、しっかりしている感覚もあったし、1週間を通していいトレーニングができていたので、自信をもってやれていました。ミッドフィールドのモールディフェンスは少し押されたかな。ただ、一番よくないのはペナルティを与えることなので、できるだけバラつかないようにやっていた。少し前に出させてしまったかもしれないが、簡単にキックを与えないようにすることはできていたと思う。
—試合を終えて、ロッカールームではどんな話を?
もちろんみんな悔しそうだったけど、エフォートやアティテュード(姿勢)はよかった、これを続けようと。またしっかり試合を振り返ってレベルアップすることにフォーカスしようという話をしました。
NO8 サミュエラ・ワカヴァカ
監督からはまずは自分の役割だけに集中してしっかりやるようにといわれていました。(自陣でのスクラムからのプレーで)FLサベアがタックルに来たのですが、大きな声を挙げて向かってきたので何かあったのかと思ってびっくりした。
—ラインアウトからのいいキャリーも。
あそこはトライまで持っていくんだという思いで前に出ました。
SH 髙橋敏也
今日のような天候になったときの自分の役割のひとつに、勢いがなくなったときにいかにエリアを取れるかというのがある。コンテストキック、ハイボールなんかはよかったかなと思っています。ただ敵陣に入ったとき、相手はジャッカルを狙ってくるチームだったので、それに対抗するテンポがあまり出せなかったなと思います。
—それでも我慢強く戦った。
ディフェンスをしていて、簡単にはトライを獲られないという感じはあった。逆に、少し簡単にやられてしまった最初のトライの獲られ方だったり、最後の20分の競った時間帯でペナルティを重ねて自陣に入られたりしたことは、改善が必要かなと思います。
—今日も同点で試合を折り返すなど、試合をつくることはできている。
自分は3点ビハインドで交替したが、前半でリードをつくり、それをさらに拡げるところまで持っていくのが自分の仕事。もうちょっとできたかなと。
—ペナルティが増えた原因は?
ラック周りでは、もしかするとこちらがペナルティを獲れるかもしれない場面もあった50-50、ギリギリのプレー。ただ、点差や時間を考えて本当にそれをやる必要があるかの部分について正しい判断がもう少しできれば。ボールを獲り返してアタックしたいという思いからのものもあったと思いますが。今日から5連戦。まだあと4試合続くので、1試合1試合しっかり勝ちにいきます。
■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=385
文:秋山健一郎
写真:川本聖哉