【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2023-24 第6節 vs.クボタスピアーズ船橋・東京ベイ

2024.02.01

ボールを動かして攻めるアタッキングラグビーで昨季王者に挑む

交流戦に突入したリーグワン第6節。10位からの浮上を目指すブラックラムズ東京(BR東京)は、昨季王者のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(S東京ベイ)を駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場に迎えホストゲームを戦った。ちょうど1年前の対戦では最後までもつれる大熱戦(38-40)を演じた。昨季のベストゲームの1つとして挙げるファンも多いかもしれない。

前半、先手をとったのはBR東京。自陣からのアタックで左中間をSOアイザック ルーカスが突破。そこから右に展開しWTBシオペ タヴォがトライを決め5-0(14分)。ラインアウトモールから展開されてトライを許し追いつかれたが(20分)、直後にFWの強く速いボールキャリーで攻め込み、WTBネタニ ヴァカヤリアのトライで10-5と勝ち越す(24分)。

風下に回った後半は主導権を奪われ自陣に押し込まれる時間が延びたが、ディフェンスでよく粘る。だが27分にトライを許して逆転されると、規律の乱れからPG(34分)で3点を追加され10-15となる。

しかしノーサイド直前、自陣スクラムからSH南昂伸が持ち出し突破。相手の反則でゴール前ラインアウトを得てモールでトライを狙っていくと、さらに反則が重なりペナルティトライ。土壇場で17-15と逆転する。しかしラスト1分、ボールキープを狙い自陣で3つめのラックをつくろうとしたところでジャッカルを許し、PGを決められ逆転負けを喫した。

昨季と同じ劇的な幕切れで勝利を逃したが、7点差以内の敗戦によるボーナスポイントを獲得し勝ち点は7に。順位は前節から変わらず10位。9位の三菱重工相模原ダイナボアーズとの勝ち点差は3となっている。

ピーター ヒューワットヘッドコーチは、クリアなプランを準備してこの試合に臨んだ。積極的にボールを動かして攻めるアタッキングラグビーだ。サイズの大きな選手を擁しセットプレーを強みとする相手に付き合うのではなく、ミスを恐れずパスをつないでディフェンスに挑みチャンスをつくりだす道を選んだ。そこにはフィールドプレーからトライを重ねた昨季の対戦時のイメージもあったのかもしれない。SOにルーカス、FBにマット マッガーンを配しCTBにハドレー パークスと池田悠希をピックした布陣は、そのときを踏襲したものだった。マインドセットのキーワードとしては、「Fearless(ミスを恐れるな)」という言葉を掲げた。

前半は、このプランがハマったように映った。最初のトライはアタッキングの意識を強く感じるものだった。相手の裏へのキックを中央でWTBタヴォが確保し起点となる。これを左に展開しWTBヴァカヤリアがエッジを狙う。無理はせずパスで内に戻すと、SOルーカスが前に出ようとしていた相手ディフェンスのわずかなズレを見逃さず突破。これを追ったHO武井日向に繋ぐと、10番のタックルを外してゲイン。敵陣中盤にポイントをつくると、守りが手薄となっていた右サイドへ。エッジのWTBタヴォまでつなぐと、飛び込んできた相手ディフェンスをうまくいなし、右隅にトライを決めた。

相手の前に出てくるディフェンスは鋭く、強いプレッシャーを受けていた。だが、その動きを見極めながら2フェイズ、9本のパスを冷静に繋いだトライからは、攻めるのだという意思の共有と試合を重ね高まりつつある実行力がうかがえた。

2つめのトライは、5-5に追いつかれた直後のキックオフリターンを起点に、ピッチの幅を使ってフェイズを重ねゲインした。「FWとBKのインタープレー(連携)やブレイクダウンのケアもできていて、アタックチャンスもつくれていた」とCTBパークスが振り返ったプレーの1つがこれだろう。

強いボールキャリーを継続するシンプルなアタックだったが、ゴール間近の位置でFL松橋周平やLOアマト ファカタヴァが鋭く走り込んでボールをもらい、相手ディフェンスに強烈なインパクトを与えていく姿は、ヒューワットHCが就任当初から掲げ研ぎ澄ませてきた“フィジカルアタッキングラグビー”の現在地点を示すものだった。

後半最初のビッグチャンスを逃すも、粘り強い試合運び

前節に続きリードして試合を折り返して迎えた後半。分岐となったのが開始直後の攻防か。SOルーカスのキックカウンターが決まり敵陣に攻め込みスクラムを得ると、NO8ネイサン ヒューズのサイドアタックでゴールに迫る。さらにラインアウトを得るとやや変則的なサインプレーでトライを狙ったが、対応されアンプレアブルとなる。大きなチャンスを迎えたBR東京だったがスコアはならなかった。

ここからS東京ベイに自陣脱出を図られ守勢に回る。だが、ここでの粘りは成長の跡があった。チャンスを逃し流れを相手に渡してしまった局面で、さらにミスや反則を重ねるのではなく、タフなディフェンスとゲームコントローラーたちの機転で簡単にスコアを許さずにリードを守り続けた。

この日、結果的にリードを奪われていたのは、80分のうちのわずか13分ほどで、それ以外の時間は同点かリードを築いていた。モメンタムが相手に傾いた局面での我慢できたことが、こうした展開を実現していた。攻めるべき時間に攻め、守るべき時間を守る。そうやって試合をマネジメントし、終盤まで持ってくるところまではできていた。

もうひとつの分岐となったのが、後半23分の敵陣でのスクラムか。自陣からのアタックで前に出てようやく敵陣に侵入。右サイドを攻め、惜しくもノックオンを喫したが敵陣22mライン手前での相手スクラムとなる。

ほぼイーブンのスクラムを組んできたFWはここでも強く押し、ドミネートしたようにも見えた。だが、スクラムを回したとしてペナルティを奪われる。このスクラムをHO武井が冷静に振り返る。

「100人が100人、これはBR東京が押しているといえるようなきれいでクリアな押し方ではなかった以上、しょうがない」

我慢の時間を経て迎えた反撃の足がかりを失った直後、風に乗った長いPKで自陣侵入を許したBR東京は、逆転トライを許すこととなる。

「ときには痛い思いをしながら学んでいく必要もある」

最終盤のドラマは、本当に見たとおりの事実が起きたとしかいえないところもある。最後まであきらめず攻める姿勢を貫いた選手たちがワンチャンスを生かし、ペナルティトライまで持っていった。SH南のラインブレイク。CTB栗原由太のサポートプレー。安定したラインアウトと力強いモール。ピッチに立っていた全員が役割を果たした逆転劇だったといっていい。

ラスト1分でのキックオフをミスなく確保し、そこから3度目のブレイクダウン。相手16番の手が、ボールを守ろうとしたHO武井とLOジョシュ グッドヒューのところにさしこまれたとみられる。後方の2人のサポートプレーヤーの遅れは、飛び出してきた相手ディフェンスによるプレッシャーが効いていたようにもみえた。試合後のヒューワットHCは、穏やかに振り返った。

「経験というのはスイッチを押したら急に増えるものではない。ときには痛い思いをしながら学んでいく必要もある」

この言葉に尽きるのだろう。昨季、チームが培ったものの1つに敗戦を直視する強さがある。次節までの1ヵ月のインターバルは、痛みをともなう振り返りを経て、前を向くための時間になるはずだ。

チームは2月25日(日)13:00から、同じ駒沢で行われるコベルコ神戸スティーラーズ戦での再起を図る。

「HENNGE MATCH DAY」として開催。試合終了後には特別表彰も

この試合はHENNGE株式会社の協賛による「HENNGE MATCH DAY」として開催した。試合終了後には、HENNGE株式会社より、この試合でチームに貢献したシオペ・タヴォ選手に「Most Challenge Player賞」を贈呈した。

監督・選手コメント

ピーター ヒューワットヘッドコーチ

皆さん、こんにちわ。まずはクボタさん(S東京ベイ)の勝利を称えたいと思います。そして、うちの選手たちにも今日はよくやったと伝えたい。クリアなプランを持って挑み、残り5秒で勝利をつかみきれなかったが、そこまでやり遂げてくれた選手たちを本当に誇りに思います。ロッカールームではがっかりしている選手もいたけれど、前に進むのみだと思うので、次に向かっていきたいと思います。

—ある程度、自分たちのゲームはできていたのでは?

S東京ベイはビッグチームなので、セットピースを繰り返していくよりは、ボールを動かそうと考えた。動かせば動かすほどミスの確率は上がるものだが、それを受け入れながら戦おうとした。いいプレーを続けてくれた。最後、うまくフィニッシュできていたらよかった。

—復帰したHO武井日向がフル出場。役割を果たした。

日向はこのチームをしっかり表せる選手。プレーすれば必ず自分たちの見せたい DNA を表現してくれる。また、アクションを通じてみんなを引っ張ってくれる選手でもあります。久しぶりの試合でしたが、大きな身体のFWを相手に80分間戦い抜いた。そんなところからもチームを大事に思ってくれていると感じた。相手の同じポジションはオールブラックスでプレーしてきた選手でしたからね。

—BKなどでメンバー変更があった。ボールを動かすプランに合わせた起用?

そうですね。ただ、自分たちは全員で戦うチーム。この試合に関して自分たちのやりたいことをやりきれるメンバーとして選んでいます。CTB池田(悠希)はケガから復帰。前の試合はリザーブで、そこからスタメンをつかんだ。あとはポジション全体での外国人選手の組み合わせを考え、それでパクシー(CTBハドレー パークス)がチャンスをつかんだ。いいパフォーマンスをしてくれたと思います。

—失点はよく抑えている。得点を獲っていくかたちは見えてきたか?

そこはあまり言い過ぎたくないのですが……私たちは若くてラグビーをプレーしたいメンバーがたくさんいるチーム。接戦が多いというコメントもいただきますが、そこを勝ちきるには経験というのものがすごく重要なのかなと。(今日のような)ビッグゲームをどうやったらうまく締められるかは経験が増えれば増えるほどわかってくる。

選手たちをまずはチームでしっかり成長させて、さらにはインターナショナルレベルにもいけるようにという思いでやっている。それはそこにたどり着ければ、もっと貴重な経験が得られるからというのもある。

経験というのはスイッチを押したら急に増えるものではない。ときには痛い思いをしながら学んでいく必要もある。今日の敗戦は痛いが、あと少しというところまでは来ている。若い選手たちも勝利をつかむためにどれだけハードワークが必要かとか、そういうことを学んでいるので、これからの試合で学んだことを表現してもらえたらと思っている。それを続けていくうちに、こういう試合も勝って終われるようになるのかなと。質問に戻るならば、戦い方に関しては、似たようなかたちでやっていくことになると思います。

HO 武井日向キャプテン

お疲れ様です。ヒューイ(ヒューワットHC)の言った通り、最後の最後で勝利を逃してしまったことは本当に悔しいです。僕らが欲しかった結果は勝利で、負けはしたがいい試合だったという結果ではない。ここが成長していかなきゃいけないポイントだとは思う。まだシーズンはあるので、接戦をものにしていけるチームに仕上げていきたい。やっているラグビーは正しいし、前にも進んでいる。さらに突き詰めていければ。また次の試合から頑張りたいと思います。

—FWとしての仕事、またディフェンスは安定してやれていたのでは?

スクラムは安定して組めてしっかりボールを出せた。ただ、チャンスやピンチの場面。マインドセットはよかったが、無理にいってしまってペナルティをしてしまったところもあったので、そういうところは詰めていきたい。負けてしまったけれど、ネガティブな部分ばかりではない。精度の部分などは改善しないといけないが、スクラムのような前に進んでいる部分にもしっかり目を向け、それは継続しながら、さらにレベルアップしていきたい。

—最後のボールキャリアだった。

相手が何かしてくるだろうなっていうのはわかったのですが、その中で僕も含めて精度がまだまだだったのはある。ああいう場面でのボールキャリーは僕自身をもっと学ばなきゃいけないし、サポートプレーヤーもああいう場面でどうしなきゃいけないのかを学ばなきゃいけない。同じミスを繰り返さないことが大事。もう終わってしまったことなので、今日の結果を変えることはできない。できるのは同じ間違いをしないこと。しっかり学んで次につなげたい。

FL ブロディ マクカラン

—80分間プレー。充実感があったのでは。

そうね。ケガから復帰して花園L、横浜Eの試合に出たけど、どちらも20分くらいだったからね。自分の強みはフィットネスで、最初から最後まで動けるところ。だから、スタートから出たいと思っていた。今日は悔しい試合だった。最後の3秒、しっかりボールキープしてタッチに出せていれば。でも、相手がうまくブロック、ジャッカルしてきて。自分たちも4人いたけど、サポートが少し遅れてしまった。相手はボールを奪いたいし、自分たちは守りたい。レフリーが厳しく反則を獲るのはわかっていたんだけど。

—それでも粘り強さは出せた。

今週のテーマは“Fearless(ミスを恐れない)”。ビビらない。どんどんチャレンジする。ミスしても、もう1回、もう1回、もう1回って。それはできた。でもミスは多かったね。それでセットプレーが増えたんだけどスクラムはよかったのでは。PR中村公星の最初のゲームだったけど、よくやっていたね。

—次は神戸S戦。

前にプレーしていたチーム。だからってわけじゃないけど頑張りたい。いい練習をして、フレッシュな状態で臨めれば。

CTB ハドレー パークス

—ボールを動かしていくというプランの実行については、手応えがあったのでは?

そうですね。FWとBKのインタープレー(連携)やブレイクダウンのケアもできていて、アタックチャンスもつくれていた。いいトライも獲れた。あと1分まで持ってきて、最後のプレーでうまくいかなかったわけですけど、ラグビーには必ず勝者と敗者がいるものだからしょうがない。勝てる試合だったし、勝つべきだったとは思います。切り替えて、しっかりリカバリーして、次の神戸Sとの試合でもハードワークして勝ちたい。

—入替直前、突破から放ったキックは惜しくもタッチを割った。

普通にパスでもよかったかもしれない。フラストレーションはある。もしタッチを割っていなかったら、(外に)足の速い選手もいたのでレースになったかなと。(50-22?)いや、あれはアタックキックのイメージ。

—ディフェンスでも奮闘した。

前に出続けたし、相手も自分たちのディフェンスに対し苦労していたと思う。そういうディフェンスができたことはハッピーでした。

CTB 池田悠希

—よくボールを動かした。

まあ、そうですね。1週間、ボールをアタッキングに動かそうという準備をしてきて、本当にアタッキングなラグビーをできたと思います。ミスもありましたけど、切り替えて次のプレー、次のプレーと。そう話していたので、ミスを恐れずにプレーできたんじゃないかと。

—ディフェンスの安定感も。

本当に長い時間かけて準備してきたので、チームとして強みになっている。今日も負けはしたものの18点に抑えてはいましたから、一貫性を持ってこういうディフェンスを続けていければ、勝てるようになってくる。あとは精度。今日であればエッジでのボールロストが多かった。そういうミスが多いとなかなかスコアを重ねられない。細かいスキルとかコミュニケーションの質とか、そういうところは改善していく必要があります。そうしないとこういうタフなゲームには勝てないので。

 

■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=384

文:秋山健一郎

写真:川本聖哉

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