【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2023-24 第5節 vs.横浜キヤノンイーグルス
2024.01.21
数的不利を乗り越え、リードを奪い試合を折り返す
第5節は、昨季3位に入る躍進をみせた横浜キヤノンイーグルス(横浜E)に挑むビジターゲーム。試合開始後間もなく降り出した雨が徐々に強まっていく、難しいコンディションでのゲームとなった。
最初の決定機は横浜Eに。ブラックラムズ東京(BR東京)は、イエローカード(12分)を出し1人少ない状況でモールをインゴールに押し込まれたが、これはオブストラクションで無効となる(15分)。しかし、直後にハーフウェイ付近で守備網のギャップを4番に突かれトライを許した(17分)。
これに対し、キックオフボールの争奪でLOロトアヘアポヒヴァ大和がジャッカル。SO中楠一期がPGを成功させすぐさま3点を返す(21分)。さらにFL松橋周平のジャッカル、スクラムでの反則奪取などで相手ゴール前に出ると、モールにこだわって攻め好調のポヒヴァ大和がトライ(30分)。逆転し試合を折り返す。
後半は、相手のキックオフを受けてつくったラックからの球出しが遅れ、相手スクラムに。これをきっかけにゴール前でディフェンスに追われ、PG(8分)で失点し8-10。すぐあとに敵陣ゴール前でラインアウトモールを押したが、アンプレアブルでチャンスを逃す。うまく自陣を脱した横浜Eに一気にゴール前に攻め入られ、幅を使ったアタックで14番がトライ(16分)。さらに自陣ゴール前で与えたスクラムから展開され、12番にトライ(27分)を許し点差を拡げられた。そのままスコアを返すことはできず8-24で敗れた。
通算成績は1勝4敗。順位は10位のまま、9位(三菱重工相模原ダイナボアーズ)との勝ち点差は3となっている。
試合の入り、BR東京は非常に冷静だった。守りの薄い部分を探りボールを巧みに動かしながらゲインを狙う相手にやや振り回されながらも対応。フィジカリティを出しターンオーバーを重ねていく。SO中楠のキックも冴え、ポジションの改善もうまく図った。12分に訪れた数的不利で少し状況は変わりトライを許したものの、大きな崩れは見せなかった。
PGで3点を返し、退出していたPR谷口祐一郎がピッチに戻ってからの約20分は特に安定感を見せた。自陣ディフェンスでボールを奪い、SH髙橋敏也のロングキックで危険なエリアを脱出。これを足がかりにチャンスをつくり、BKも加わっての執念のモールをトライに繋げた。タフなディフェンス、スクラムやモールといった強みの部分をうまく繋ぎ合わせてのスコアは、強まりつつある雨の中で確実に得点を奪うという観点からも合理的なものだった。その後、前半の終わりの時間帯もSH髙橋のキックや相手の反則を使って敵陣深くへ入り、追加点は奪えなかったがプレッシャーをかけ続けた。
ただ、手応えの感じられた前半ではあったが、SO中楠の試合を振り返っての言葉からは、勝利をつかむにはさらなる徹底が必要だったこともうかがえる。
「向こうはコイントスに勝って風下をチョイスしてきているので、何をしたいのかはだいたいわかっていたんですけど、その中で自分たちは前半で仕留められず、後半は我慢しきれなかったということ」
この日のゲームは、互いに巡ってきた「風上の陣地での40分」で見せたラグビーの質が、結果を左右した面もあった。
意地を感じさせる失点「122」
後半は2トライ2ゴール1PGを許す一方、無得点に封じられた。最初のPGは、ユーズイットの声がかかった状態でボールを出せず相手スクラムになる珍しいプレーがきっかけとなり、相手にチャンスを与えた。次のトライも、自陣でFBアイザック ルーカスが素晴らしいディフェンスでボールをこぼさせかけながら、惜しくもマイボールを逃した場面が起点となった。2本目のトライは、強まる雨の中で生まれた、シンプルなハンドリングエラーを確実に生かされた恰好だ。
こうした思わぬかたちでピンチやチャンスが訪れることは少なくなく、拮抗したゲームの行方を分岐させることはよくある。後半の重要な局面でことごとくスコアした横浜Eが、集中力や精度において一枚上手だったのは認めなければならないだろう。どんなチーム状態、試合展開であっても、結果としての勝利を重ねていくために必要なのは、こうしたプレーなのかもしれない。
ただしBR東京は、思うような結果を引き寄せられてはいないものの、これまでの試合で見えた課題を1つずつ修正しながら、戦う姿勢を示し続けている。接点でしっかり身体を張り続ける姿や、ややうまくいかない時期もあったモールディフェンスの改善などは、明確に前進が感じられた部分だ。結果がついてくるかどうかにかかわらず、あきらめず戦うことを貫き続けた時間は必ずチームに何かをもたらす。それがいずれ結実することは、BR東京が長い歴史の中で証明させてきたことでもある。苦しい戦いが続くが、今は我慢のときだ。
5節を終えての順位表を見ていて、気づいた人もいるかもしれない。BR東京の失点「122」は、埼玉ワイルドナイツ、東芝ブレイブルーパス東京に次いで、ディビジョン1で3番目に少ない(昨季は5番目)。失点の生まれ方は、対戦相手の偏りや試合展開も当然影響するが、日本最高峰のリーグでの5試合でこの数字をつくりだすには、極めて高いレベルのディフェンスが必要なのはいうまでもない。ディフェンスというチームにとっての基盤は、しっかりと機能しているし、進化の兆しもある。
次節から戦いはカンファレンスAのチームとの交流戦へ。また1月27日(土)13:00から、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(S東京ベイ)と駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場でのホストゲームを終えると、1ヵ月のインターバルを迎える。
「いいところまで来ているとは思う。でも、試合に負けて〈悪くなかった〉といって終わるのはもう嫌なので」
リーダー・松橋の言葉は、全メンバーの心からの思いだろう。勝利への渇望を昨季王者にぶつける鬼気迫るゲームを、次こそは見せてくれるはずだ。
監督・選手コメント
ピーター ヒューワットヘッドコーチ
負けたことは本当に悔しいです。ハーフタイムの時点では結構ハッピーな内容。シンビン(一時退出処分)も出たがその時間もうまくマネジメントした。後半、横浜Eさんはチャンスで決めきった。逆に自分たちはそういったチャンスの時間帯があっても決めきれなかった。そこに差があった。あとは相手のベンチメンバーがインパクトを与えたとも感じています。
ー前半の後半、いい時間帯があった。
プラン通りに戦えたと思う。結構うまく前に出られたんじゃないかと。前半のそういったところのチャンスはもっとポイントに変えていきたかったなとは思いますが。その後、後半の入りのノットユーズイットや、最初のモールのチャンスでコンバートしきれなかった。そこのビデオをもう一度チェックしたい。そういったキーモーメントが横浜Eとの差。そうした場面でしっかりと勝ちきることができないといけない。トップ4の相手に対しよく戦えていたとは思う。ただ、最後のところをもうちょっと磨いていかなきゃいけないのかなとも感じます。
ーSO中楠一期が2試合連続で先発。前節のゲーム後に何かアドバイスを?
よかったと思います。たくさんの試合を経験をしていて、日本を背負って戦った経験のある10 番と対戦する形だったが、悪くなかったのではないか。年齢の若さを感じさせないぐらいのリーダーシップを見せてくれました。若い選手なので少しガイドしてあげることは大事。ただ、情報を与えすぎるのもよくないとも感じている。アシスタントコーチのマット ルーカスなどがコミュニケーションをとってくれています。
FL松橋周平ゲームキャプテン
正直、本当に悔しい試合でした。僕ら自身も本当にいけると思っていましたし、勝つ自信はありました。ヒューイ(ヒューワットHC)が言った通り、決めきるべきところで決められなかったことが勝敗を分けたと思います。この差は大きくて、上にいっているチームはしっかり決めるところはしっかり決めてくる。落ち着いて、自分たちのやるべきことにしっかりフォーカスして、練習でやっていることをしっかりやるのがすごく大事。変に緊張してしまって違うことをしてしまったというか、相手のプレッシャーにやられてしまった。でも、ここは改善できるのでしっかり改善していく。いいところまで来ているとは思う。でも、試合に負けて〈悪くなかった〉といって終わるのはもう嫌なので。次こそは勝つために、僕を含め一人ひとりが精度を上げていく必要があると思いました。
ー前半の途中からすぐ雨が振った。
それはわかっていた。雨が降ればキックのオプションも増えてくると考えて、そういう話もしていた。
HO佐藤康
ー前半、いい時間があった。
自分たちがやろうとしていることだったり、モールのようなこだわってるところは、前半はしっかりやりきれたと思います。そこは収穫です。リードする形で終われたのもよかった。
ーモール、モールディフェンスには執念を感じた。状態は上がってきている。
そこを強みにしていこうと練習から言ってきましたし、トライを取りきる練習をしているので、そこが結果につながってきていると思います。まだ本当に目指しているところまでは到達していないですけど、戦えていたとは思います。モールディフェンスは、ここまでの試合を含めて一番よかったんじゃないかと。相手がチャンスで組んできたモールを、ほとんど止めることができていたので、そこも収穫だと思います。
ーチャンスをつかみ、出場機会を得ている。
自分自身、今のパフォーマンスにまだまだ満足していない。もっと成長して、チームに貢献できるように頑張っていきたい。今はまだ負けが多いですけど全然戦えていますし、次は昨季の王者のS東京ベイですけど、プライド持っていいラグビーをして、勝ちにこだわって戦いたいと思います。
FLアマト ファカタヴァ
後半、自分たちのやりたいことができなかったり、シェイプ、自分たちの形を失ってしまって、やりたいようにはいかなかった。アタックもディフェンスも。なぜそうなったかは、もう一度振り返ってみないとわからないが、1人ひとりのマインドセットのところの影響はあったように思う。
ーモールディフェンスがよかった。
結構できたが、学ぶところもたくさんある。次に生かしていきたい。毎週よくするためにやってきたことなので。残念ではあるけれど、(横浜Eとは)もう一度対戦するチャンスがあるので。より強くなって戻ってきたいと思います。
SO中楠一期
ー2試合連続でゲームタイムをもらって、上乗せできたところもあったのでは?
自分のスキルの部分の強みも出すことはできたかなと。ただ精度はもっと高いレベルに持っていかなければいけないし、今日についてはチームを勝たせることもできていないので、課題を感じたゲームでした。スペースは作り出せていたけど、そこを攻めることに対する精度が低かった。
ー雨の強まった後半に風下に回った。影響は?
向こうはコイントスに勝って風下をチョイスしてきているので、何をしたいのかはだいたいわかっていたんですけど、その中で自分たちは前半で仕留められず、後半は我慢しきれなかったということ。
ー2試合の先発でつかめたものもあるのでは?
ようやくスタートラインに立ったという思い。自分が通用すること、成長しなきゃいけないことがわかったようにも思う。それは試合に出なければわからない。次の試合はどうなるかわからないですけど、試合でいいプレーを重ねて、また試合に出させてもらって、試合で成長していけるように。
FBアイザック ルーカス
雨でゲームのダイナミクスは変わったのかなとは思う。そういうこともあって、横浜Eの方が今日は重要なキーモーメントっていうところで、より正確に緻密に決めてきたのかなと。
ー前半の後半に盛り返してプラン通り戦った。ハーフタイムにはどんなコミュニケーションを?
後半は風下になるという話はしていました。少し戦い方は変わるよねと。自陣から抜け出すのが難しくなるから、細かいところは変えなきゃねと。ハーフタイムのチームは、自信を持っていたように感じました。ただ、大事な場面で精度を欠いてしまった。
ー天候的にBKとしてはやりにくさもあったと思うが、何度かいいかたちもつくった。
雨が強まればBKのチャンスは減っていくと思うが、確かに何度かはチャンスもあった。そこを決めきれていれば。雨だからこそ、そういう場面を決めきる必要があった。
ーSO中楠とのプレーが2試合続いている。
すごく若くていい選手。必要なツールはそろっている。ランもパスもキックも。今日もしっかりコントロールしてくれて、一緒にプレーすることを楽しめています。結果は残念でしたが、それはチームとしてキーモーメントで精度を欠いてしまったことが影響したもの。
■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=383
文:秋山健一郎
写真:川本聖哉