【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2023-24 第2節 vs.三菱重工相模原ダイナボアーズ
2023.12.20
「腕相撲のようなゲーム」。強度が試される戦いに
今季最初のホストゲームとなった第2節・三菱重工相模原ダイナボアーズ(相模原DB)戦。初勝利を目指し試合に臨んだブラックラムズ東京(BR東京)はキックオフ直後にPGで先制(3分)を許したが、モールからのトライ(9分)で逆転。しかし、その後は得点を重ねられず、2枚のイエローカード(27分、41分)を出される規律の乱れなども響いて1トライ1PGを許し、7−13で試合を折り返す。
後半は14人の時間を耐え、PGで3点を返し(11分)10−13としたが、相模原DBが見せるフィジカルを活かした突破からのアタックで2トライ(16分、23分)を許し、10−25と離される。途中出場のSH南昂伸がゴール前でタップから仕掛けて1トライを奪って(28分)17-25とし、さらにPGも狙ったが(36分)、これが惜しくも成功せず8点差で敗れた。2試合を終え勝ち点1、得失点差−15としたBR東京は、順位を9位とした。
「相模原DBのような戦い方をする相手とは、どうしても腕相撲のようなゲームになる」
ピーター ヒューワットヘッドコーチ(HC)は悔しそうな表情で試合を振り返った。「腕相撲のような」という比喩は、解釈に少し幅がありそうだが、言葉を足してみるなら、より長く我慢強く力を保ち続けた側が勝つ、タフな力比べのような戦い、といったところか。
レフリーの使用する機材の調整でキックオフが少し遅れるアクシデントを経て始まったゲームは、相模原DBが序盤から攻守で出足のよさを印象づけ、BR東京は、ラックで2つの反則を犯し、PG1本とゴール前への進出を許す。しかし、自陣ゴール前でのHO武井日向のジャッカル、相手のカウンターアタックに合わせたFBアイザック ルーカスのターンオーバーなどで陣地を挽回。相手ゴール前まで前進する。
右サイドのラインアウトを高い位置で合わせ、回り込んでボールをもらったHO武井の鋭いランがホールディングを誘う。再びラインアウトにするとモールを組んで押し、NO8ネイサン ヒューズが右中間にトライ(9分)。
リードを奪ったBR東京だったが、相模原DBがタフに抵抗する。この日武器となったのはモールだ。自分たちの陣地のラインアウトから押し込み前進、対応が遅れたBR東京は10m以上のゲインを許す。止めにいったFL松橋周平とNO8ヒューズにオフサイドの判定が下り、PKで自陣中盤に入られる。
自陣からの脱出を狙ったBR東京は、FWが相手のランナーに猛烈なプレッシャーをかける。ボールを乗り越えたかに見えたが、密集からこぼれたボールを相手に確保される。ラックに人数をかけたことで生まれていた数的不利を突かれ、左サイドを破ってインゴールにボールを運ばれる。しかし、ここはノーボールタックルがあったとして、映像判定後にノートライに。
〈腕相撲〉は続く。BR東京はハーフウェイ手前のスクラムでの相手反則をきっかけに敵陣に侵入。CTBハドレー パークスのキックを背後から飛び出したSOマット マッガーンが確保するプレーなどでゲインして攻めると、相手3番がハイタックル。イエローカードが出る(21分)。
PKで前進し、ゴール前ラインアウトでモールを組もうとしたが(22分)、痛恨のノットストレート。一度後退したが、今度は左サイドをWTBネタニ ヴァカヤリアが破り、折り返して中央から右隅を狙ったキックパスがチャージされさらに後退。ハーフウェイ付近から再び攻め込もうとしたが、相模原DBの激しいディフェンスにつかまりノットリリースザボール。2度のチャンスを逃す歯がゆい展開。
相模原DBはまたもハーフウェイ付近からモールを使い前進。これも止められず、22mライン付近まで迫られたところでモールコラプシングを犯すと、NO8ヒューズにイエローカード(27分)。PKで前進されると、ゴール前ラインアウトからまたモール。これを押し切られトライを許す(30分)。CVも決まり7−10。
我慢の時間が続く。蹴り合いで押され後退。さらに反則でゴール前に迫られると、ここもモール。この場面ではCTBパークスがモールから一瞬離れた最後尾のボールキャリアを捕まえ、オブストラクションを誘うビッグプレー(35分)でなんとかトライを阻む。
37分にNO8ヒューズが復帰。しかし、前半終了直前のディフェンスで、PR大山祥平の頭が相手の4番の頭に当たりイエローカード(41分)。PGを決められ、7−13となってハーフタイムへ。
2トライを許し点差拡大も、リザーブメンバーが存在感
一進一退の攻防が続いた前半。キッキングゲームでプレッシャーをかけてエリアを奪い、強いキャリーで迫り、テンポのよいフェイズアタック、さらにはモールを使い攻めてくる相模原DB。一方のBR東京はゴール前などでの粘りのディフェンスとスクラムでの優勢を命綱に対抗していた。
前節見せていた、速くて強いキックチェイスからのチャンスメイクや相手を後退させていくようなディフェンスは、なかなか見せられずにいた。後半を前に、ヒューワットHCからは、メンバーにより高いインテンシティを取り戻すために、マインドセットについての言葉が送られたという。
しかし、後半の入りも厳しい状況が続く。相手が蹴ったコンテストキックを確保されてゲインを許すと、ゴールラインを背負ってのディフェンスに。ここは粘り、CTB栗原由太が相手からボールをもぎとる凄まじいディフェンスを見せ、トライを阻む。
陣地を戻し、スクラムで再び反則を奪って敵陣深くに入ると、NO8ヒューズらが強いキャリーで押し込んでいく。フェイズを重ねると、相手にノットロールアウェイ。ようやく見せることができたBR東京らしいフェイズアタックでPKを得て、ショットを選択。SOマッガーンが決めて(11分)10−13とする。
しかし、この攻防でFLアマト ファカタヴァが負傷し、替わってジェイコブ スキーンが入る。また、CTBパークスに替わって堀米航平もピッチへ(12分)。14分にはSH南昂伸、PR西和磨も登場した。
相模原DBは、中央ハーフウェイ付近のスクラムから左に展開。11番がタッチライン際のスペースを破りゴールに迫る。ここにFBルーカスが追いつき、激しいタックルでタッチラインの外に出しトライを阻む。しかし、直後のラインアウトからのアタックを止められず、繰り返しゲインされると、右サイドゴール前のラックの脇を突かれトライを許し(16分)、10−20となる。
さらに、相模原DBがこの日見せていた強みを結集させたかのようなトライを生み出す。右サイドをラインアウトモールで前進すると持ち出し、強いキャリーで真っ直ぐ縦にゲインしていく。BR東京も食らいついたが、ランナーを止めることができない。やむなく周辺にディフェンスが引きつけられると、左に展開。エッジまで運び、空いたスペースを11番が突いて左隅にトライ(23分)。10−25となり点差は15点に拡がった。
押されては押し返してきた〈腕相撲〉は、一気に相模原DBが組み伏せかけるかたちに。とにかく点差を詰めていくしかない状況を動かしたのはSH南だ。ハーフウェイ手前、右中間のスクラムにFWが押し勝ちアドバンテージが出ると、南は即座にオープンサイドに展開。ブラインドサイドに人数を割いており、相手ディフェンスを破りWTBヴァカヤリアが一気に22mラインの内側へ。守る相手がラインオフサイドを犯すと、ディフェンスが下がりきっていないのをよく見ていた南がタップで再開。プレーに参加できない相手選手を横目に、左中間インゴールに飛び込みトライ(28分)。17−25とする。
さらに、自陣スクラムから攻め、CTB堀米が敵陣22mライン付近にキック。蹴り返しが短く、敵陣侵入に成功する。ラインアウトから攻めると、やや出足の鈍ってきた相手ディフェンスに対し、BR東京のボールキャリアたちが差し込んでいく。SH南がギャップを突くと、相手の腕が首にかかりハイタックルの判定。左中間、22mライン手前の位置からPGを狙ったが(36分)、これが右にそれて点差を縮められない。
ラスト1分、ボールキープを図っていた相手がキックでボールを手放すと、BR東京はこのボールを自陣の深い位置で回していたが、CTB堀米が敵陣深くにキックを蹴る。ここもやや短い蹴り返しとなり、前に出るかたちをつくり、BR東京が最後のアタックを見せ、スタンドを沸かせた。だがゴールには届かず、ノックオンでノーサイドを迎えた。
2018年、来日まもない頃に相模原DBとの対戦を経験しているLOストーバーグが振り返る。
「相模原DBというチームはずっと変わっていない。10点差以上をつけられて負けることはあまりなく、いつでもタフな戦いをする。相手の強みによく気づき、そこを突くラグビーをしっかり実行できるチーム」
こうした言葉から改めて感じとれるのは、ラグビーが築き上げたカルチャーの頑強さを競う競技であることか。泥臭く、我慢強く戦い、絶対に諦めない。ブラックラムズ東京が強くこだわってきた〈DNA〉がシーズンを経て磨かれて、強固になってきているのは確かだ。一方で、ライバルたちにも長年磨き続けたカルチャーがあり、同じように日々強固になっている。それをどれだけ貫き通せるかというバトルも、ピッチでの物理的なバトルの背後に存在している。
チームをリードする主将・HO武井の言葉も、そうした戦いへのこだわりを感じ取ることができそうだ。
「結果は受け止めなきゃいけない。でも、自分たちのラグビーを、1回の負けで信じられなくなるのは、チームとして一番ダメなことだと思う。自分たちがやっていることは間違っていない。(大事なのは)いいラグビーを、いいDNAを、出すべき日に出せるか」
次節は12月23日(土)、熊谷スポーツ文化公園ラグビー場で12:00から行われる埼玉ワイルドナイツ戦だ。
「このチームにはレジリエンス(復元力・弾性)がある。正しいアティチュード(姿勢)で熊谷に行き、勝って帰ってきます」(LOストーバーグ)
熱い言葉を信じ、自分たちのラグビーにこだわり抜いた先にある勝利に期待したい。
監督・選手コメント
ピーター ヒューワットヘッドコーチ
すごく残念です。先週はいいパフォーマンスを見せることができたが、今日はそのスタンダードには達していなかった。インテンシティ(強度)が欠けていた。試合がスタートした時点から、キックチェイス、エナジー、セットスピードの速さなどにそれが見えていた。相模原DBのようなチームと戦うときは、しっかり準備し「タフな試合になる」というマインドセットで挑まないとこういうことになってしまう。
—ハーフタイムの指示は?
シンビン(一時退出処分)があったので、ディテールよりもマインドセットを。そこまで(自分たちの)ラグビーができていなかったので。相模原DBのような戦い方をする相手とは、どうしても腕相撲のようなゲームになる。一番必要なのはさらなるエフォート(努力・労苦・尽力)。最後の1%(の差)で負けてしまうこともあるので。スコアボードを気にするのではなく、インテンシティとマインドセット。基本的に「DNA(泥臭く、我慢強く、諦めない姿勢)」の話を。
―相手のアタックをどう見ていたか?
プラスワン(数的優位をつくる)ゲームのところが強く、昨季よりも(ピッチの)幅を使ってプレーする印象を受けた。そういう相手に対し、自分たちのタックルの強度が低く、クイックボールを与えてしまった。そうなったとき、相手にはダメージを与えてくる大きなランナーがいた。あとは自陣、ハーフウェイあたりからDゾーン(ゴール前)にかけてのモールに苦しめられた。相手も自信を持っていたところだと思います。
―地元の世田谷でのホストゲーム。多くのファンが来場した。
本当に感謝しています。そういう試合でいいパフォーマンスを見せられなかったことも残念。ローカルコミュニティの方々からのエナジーを強く感じています。本当に大切なメンバーです。私たちは皆さんの代表として試合を戦っている。いいパフォーマンスで、感謝の思いを伝えていきたいです。
HO武井日向キャプテン
本当に残念な気持ちです。自分たちの力を発揮できず、先週から内容をレベルアップさせたかったが、レベルを下げてしまった。
―ヘッドコーチから強度について指摘が。
パッシブ(受け身)になってしまったことがすべて。そしてプレッシャーを受けたとき、それぞれが少し自分勝手になってしまい、コネクションが途切れ一人ひとりになってしまった場面もあった。そこは課題だと思っています。
―スクラムや接点では反則を奪った。
スクラムは80分を通してコントロールできていたと思います。毎回8人でコネクトして、同じ絵を見て、スクラムを組めた。接点では受けてしまって、テンポをつくられてしまった。しっかり2人でタックルして相手をスローダウンさせる。自分たちが相手よりも早くセットする。そういうことはもう少しできたと思っています。
―試合後、メンバーに伝えたことは?
なぜ先週はできて、今週はできなかったのか。正しくレビューして、次に進もうと。こういう負け方をすると、自信をなくしてしまったり、何かを変えようとしたりすることがあると思うんですけど、自分たちがやっていることは間違っていないと思っています。いいラグビーを、いいDNAを持っていると思うので、それを出すべき日に出せるか。そういうマインドセットのところを、引き続きメンバーと話していきたい。
―70周年を記念する試合だった。チームの歴史の重みについて感じることは?
優勝も経験している、素晴らしい伝統を持つチームであることを実感しています。節目のゲームでこのような結果に終わり不甲斐ない気持ちですが、長いシーズンを通して次のレベルに到達し、この歴史をつないでいく役割を果たしたいと思います。
LOマイケル ストーバーグ
僕が日本に来てから、相模原DBというチームはずっと変わっていない。10点差以上をつけられて負けることもあまりなく、いつでもタフな戦いをするチーム。今日もそういうラグビーを見せられ、自分たちらしくないミスをさせられた。相手の強みによく気づき、そこを突くラグビーをしっかり実行できるチームだと思う。
埼玉WKは優れた選手が多くいるが、自分たちはいいマッチアップをしてきた。このチームにはレジリエンス(復元力・弾性)がある。正しいアティチュードで熊谷に行き、勝って帰ってきます。
FL松橋周平
ディフェンスは意思統一してよくできている。ただ、ボールを奪いにいって、ターンオーバーをしかけながら、ボールがこぼれてしまったりするケースがあって、そういうときのリアクションに課題があるように思います。全員がボールだけに集中してしまうのもいけない。よりよいリアクションを意識していければ。
SH南昂伸
「テンポアップを」「止めずにどんどんボールを出せ」というメッセージを受け、自分もどこかでトライを獲れたら、という思いで試合に入りました。うまくいかなかったときに修正できず、ひきずってしまうケースが少しあるので、自分たちのようなゲームをコントロールするメンバーが頭をクリアに保ち、ここに戻ろうとチームを引っ張っていく必要がある。自分としても、そこをもっと勉強していきたい。
SO/CTB堀米航平
前半を見ていて、もう少しシンプルにいってもいいかなとは感じていました。後半、試合に入ったタイミングで、自分なりにどうやったら敵陣にいけるかを考え、キックの選択をしたりしました。シンプルにどうエリアをとっていくかを突き詰めるべきかもしれない。とにかく、今週の修正を来週にしっかり活かせるように。しっかり映像を見直して、前向きに頑張ります。
FBアイザック ルーカス
自分たちのアタックシェイプに入れていないというのは感じます。ミスなどもあり、流れよく攻めてフェイズを重ねられていない。いいディフェンスはところどころできているが、自分たちのアタックをしてベースをつくらなければ。すべきなのはシンプルなこと。強いキャリーをして、ちゃんとゲインラインを越える。フェイズを重ね相手にプレッシャーをかける。今日のダメージはあるが、何をすべきかをはっきりさせしっかり修正したい。ビッグチャレンジとなる埼玉WK戦を、楽しみな気持ちで迎えられれば。
■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=380
文:秋山健一郎
写真:川本聖哉