【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2023-24 第1節 vs.トヨタヴェルブリッツ
2023.12.13
勝利までのわずかな差。「習慣」を変え縮めていく
NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24が開幕。3度目のシーズンに挑むリコーブラックラムズ東京(BR東京)は、昨季2度対戦し、1勝1敗と星を分けたトヨタヴェルブリッツ(トヨタV)とのビジターゲームに臨んだ。試合開始直後に勢いに乗った相手に2トライ(3分、11分)を許し追いかける展開となったが、修正を図り流れを引き寄せた。PG(28分)、また前半終盤のNO8ネイサン ヒューズのトライ(34分)で8−12とし4点差に。
さらに後半の入り(5分)にCTBロトアヘアアマナキ大洋がインゴールに持ち込み、逆転かと思われたが、映像判定で直前にオブストラクションが確認されトライはならず。その後も堅く粘り強いディフェンスで相手のアタックを阻みチャンスを待つタイトなゲームを展開したが、得点を奪えず8−15で逃げ切られた。開幕戦勝利に手は届かなかったが、7点差以内の敗戦で得られる勝ち点1は確保した。
1年目は新たな家を建てた。2年目はそれを黒く塗った。そして3年目は、塗り残した箇所を見つけ、丹念に塗りつぶしている——。
ピーター ヒューワットヘッドコーチが率いるようになってからの今日までの歩みは、そんな例えができそうだ。新たなラグビーやルールをチームに導入し、そのアジャストに時間を費やした1年目。その上に、再確認した自分たちの根源にある泥臭いラグビースタイル(=DNA)を重ね合わせ、自分たちの血肉へと変えた2年目。そして迎えた3年目、ヒューワットHCは、確立した自分たちのスタイルを、試合を通して貫く「一貫性」をチームに求めた。前述の比喩を用いるならば、「どの角度からみても、しっかりと黒く塗装された家」に仕上げようと努力を重ねてきた、といったところか。
「細かいことはそこまで重要じゃないという人もいる。だけど、自分はそこにこだわる。そのために、習慣(habit)から変えてきた」
開幕前、ヒューワットHCはそう話した。昨シーズンのBR東京がみせたラグビーは、トップチームとの対戦においても十分な競争力を示すものだった。ただ、わずかに届かなかったのは、少数の、スタンダードが出せていない局面でのプレーがもたらした差だ。チームはそうした局面をつぶすために、決め事を守り続けるマインドを根づかせることに心を砕いてきた。キャプテンのHO武井日向も、「システムを守り続けること」「それぞれが自分の役割をしっかり果たすこと」への意識を繰り返し説き続けた。BR東京がやるべきラグビーから外れたことをしない。そんな意識を「習慣」として、チームの深い部分に埋め込もうとしているように映った。
開幕を前に「大きな補強をしない」というチームの方針がメディアなどでも取り上げられることは多かったが、彼らの言葉を聞いた上で考えると、それは何か特別なスタンスではなく、現状を考えればしごく当然なものであるようにも思えてくる。昨シーズンみせたラグビーを評価し、踏襲し、さらに徹底することを目指すなら、そうした方向性は自然と導かれるものであるはずだからだ。
前半序盤の相手の猛攻。自分たちを見失わず、試合を立て直す
前半の入りで奪われた最初のトライは、相手13番の鋭いカウンターアタックのあと、2つめのラックからの展開で、ディフェンスラインのギャップを破られた。次のトライは、ゴール前ラインアウトからモールを押し込まれ、右中間のラックに引き寄せられたところで左に展開、外を破られた。どちらもスピードとフィジカルを前面に出したハイレベルなトライだった。好機をつくられる前段では、空いているスペースに巧みにボールを運ばれランでエリアを奪われるかたちも続き、試合開始から10分過ぎまでの時間帯は、モメンタムがトヨタVに強く偏る、かなり苦しい時間となった。
ただ、結果としては11分以降の70分弱をノートライに抑えたことになる。難しい状況に置かれ、多くの相手チームのサポーターがスタンドを埋めたスタジアムの雰囲気にのまれることなく、試合を立て直してみせた姿からは、チームの進化が強く感じられた。
流れに変化が見え始めたのは20分過ぎ。自陣でラインアウトモールをサックして止め、相手に勢いをもたらしていたもののひとつに抵抗する。さらにキックキャッチからのリターンでエリアを押し戻すと、ラインアウトで相手にミス。さらにスクラムで反則を奪った状況で展開。ラックをつくると、NO8ヒューズが前に出てくるディフェンスラインのわずかなギャップ目がけ鋭く走り込み、そこにフラットなパス。ボールはこぼれたが、ヒューズの鋭い動きを見て飛び出した相手にオフサイドの判定が出てPK獲得。
ゴール前に攻め込んだBR東京は、最初にチョイスしたラインアウトモールでは、インゴールまでボールを運びながらも接地を阻まれたが、相手のゴールラインドロップアウトをキャッチして、もう一度アタック。裏へのキックは処理(キックアウト)されたが、ラインアウトを確実にキープしてFWが縦に攻める。中央のラックで相手がノットロールアウェイを犯すと、SOマット マッガーンがPGを成功させ3-12。
再開後も、CTBアマナキ大洋の相手7番に鬼気迫るタックルをみせ、ここにHO武井が寄せてジャッカル成功。PKで再び敵陣に攻め込むと、ラインアウトモールでトライを狙う。反則を繰り返した相手にイエローカードが出ると、3度目のモールを押しきり、今シーズン最初のトライをNO8ヒューズが挙げる。CVは不成功ながら、8-12として試合を折り返した。
状況の打開につながった「シンプルに、しっかりやる」姿勢
前半の中盤以降、流れが変わっていった場面については、SH山本昌太の振り返りがグラウンドで起きていたことの理解を助けてくれそうだ。
「難しいことをしているわけではなく、フィジカルに強い選手が強いキャリーをして、しっかりサポートする。戦術よりもマインドセットの部分。そのエリア(敵陣)に入ったとき、プレッシャーがかかっているのは自分たちではなく相手だと」
敵陣に攻め込んだとき、いかにしてコンバージョンを上げるか(より確実にスコアするか)。これは昨季からのチームの課題だったが、改善に向けチームが意識してきたのが、チャンスであればこそ「シンプルに、しっかりやる」ことだった。こうしたマインドの変化が、敵陣でのアタックに冷静さをもたらしスコアを引き寄せていた。
後半開始直後、試合の流れをさらに変えるチャンスを逃したことが、試合の結果を左右した。ボールが行き来する展開の中、自陣でパスのインターセプトに成功したSH山本が、敵陣へキック。これを山本、FLアマト ファカタヴァ、CTBアマナキ大洋がチェイスし、処理にいった13番を捕まえノックオンを誘う。
22mラインの先のスクラムで反則を奪うと、右に展開。CTBアマナキ大洋がステップを切り前に出ると、LOロトアヘアポヒヴァ大和、FLアマトがピックゴー。大外のWTBセミシ トゥポウが内に戻したボールをアマナキ大洋がキャッチしてインゴールに接地。しかし、真横に走り込んだFBアイザック ルーカスに、相手がぶつかりオブストラクションの判定が下った。
スクラムで出ていたアドバンテージが採用され、PK、ラインアウトからもう一度モールを組む。BKも加わって押したが、ボールが出ずトヨタVの5mスクラムに。これをキープされ、BK陣のわずかなスペースを突いたランでゴール前からの脱出を許しチャンスを逃した。前半中盤から得た勢いに乗り逆転まで持っていければ、また違った結果になったはずだ。山本の好判断。アマトと大洋の果敢なチェイス。スクラムでのFWの頑張りを経て、グラウンディングまで持っていったアタックは、スコアには繋がらなかったものの、そのプロセスは高いクオリティが伴っていた。試合を通じて保たれたディフェンスやセットプレーの安定感と合わせ、今後の戦いに期待を抱かせてくれるものだったのは、誰の目にも明らかだった。チームは全方位に向かって力を伸ばしていることを示した。
第2節は、12月16日(土)13時より、駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場に三菱重工相模原ダイナボアーズ(相模原DB)を迎えて開催するホストゲーム。昨シーズンと同様に、粘り強い戦いで開幕戦を白星で発進した難敵とのタフな戦いに勝ち抜き、BR東京が上昇気流をつかみにいく。
監督・選手コメント
ピーター ヒューワットヘッドコーチ
みなさん、こんにちわ。まずはヴェルブリッツさんの勝利を称えたいと思います。最初の15分、20分は、特に素晴らしかった。そんな中、選手たちもいいメンタルを保ちファイトし続けてくれて、その結果試合終盤まで競ってどちらに転がってもおかしくない展開になった。今日、勇敢な姿をみせてくれた選手たちを誇りに思います。
—プレシーズンの最終戦によい内容で勝利し2週間、いい準備ができたのではないか?
手応えはありました。今でもそれは失っていない。今日の試合は、相手チームのワールドクラスの選手のことがニュースになっていたが、自分たちのパフォーマンスはできた。ディテールは確認していかなければいけないが、自分たちが何者なのか、DNAというところは見せられた。選手たちには長いシーズンの1試合目を終えたに過ぎないこと。多くの学びがあったこと。一晩でいいチームになったり、悪いチームになったりすることはないから、また一週間、相模原DB戦に向けハードに準備をしようと伝えました。
HO武井日向キャプテン
前半の入りは悪かったですが、慌てることはなく、プロセスに戻って自分たちのラグビーをやり続けられたことはよかった。ただ、チャンスやピンチ、要所の精度は改善が必要。レベルアップしていきたい。でも、本当に選手たちは互いのために力を尽くし、よく戦ったと思う。結果こそ伴いませんでしたが、ファイトするというところはよかったかなと。
—前半の中盤あたりから、流れを引き戻した。どんなコミュニケーションを?
自分たちのやるべきことをしっかりやろう。それぞれが仕事をしよう。システムを守ろう。そういうことを話し続けていました。やるべきことは明確で、チームとして同じ絵を見てプレーできていたのかなと。自分たちのシステムを守れたときは、いいアタック、いいディフェンスができていたと思う。やるべきことができていたときの自分たちのラグビーはよかった。
—チームのDNAである、泥臭さをみせることはできたのでは?
そこは自分たちが本当に大事にしている部分。その上にラグビーが乗っかっている。多くの人は結果だけを見てしまうと思うが、僕たちはプロセスのところにフォーカスしている。結果だけではなく、その中身がどうだったのかをしっかりレビューしたい。この1試合で自信を失うことはない。自分たちのラグビーをビルドし続けて、成長していきたい。
—ビッグネームも多く並ぶ相手だったが、感じたことは?
例えば(母校の)明治大学が相手でも、オールブラックスが相手でも、やるべきことは変わらないと思っていて。自分たちにフォーカスして、自分たちのラグビーをやり続ければ、どんな相手でも勝てるという自信が僕たちにはある。
PR大山祥平
本当に入りだけ。入りさえよければ結果は変わっていたと思う。チームとして試合を振り返ったときにそこは出てくると思うので、次は絶対に改善したい。それ以降は集中力も高かったし、昨シーズン以上のチームになっていると感じました。個人的には、スクラムは強みにしていきたい部分ですが、トヨタVを相手にペナルティを獲ったりしながら、スクラムを安定させられたことは自信になった。昨年はパディー(ライアン)に頼ることも多かったですが、僕らも負けないくらいの力をつけようという思いでやってきた。成果が出てきていると思う。
NO.8ネイサン ヒューズ
ペイシェンス(我慢)というところにフォーカスしていて、しっかりフェイズを重ねようと。トヨタVはラインスピードを上げてくるチームだとわかっていて、今日もそうしてきたのですが、それに対応しボールを落としたりせず、ビルドプレッシャーしていく。とにかく自分たちにプレッシャーをかけないようにする。そういうところはよくできたのではないか。トライしかけたけれどカウントされなかった場面が2度あり残念でしたが、それは自分たちでコントロールできない部分だし、そういう場面で判定を下すためにレフリーがいる。また試合をみんなで振り返って、次の試合に向けて準備をしていきます。
SH山本昌太
昨シーズン、敵陣に入りチャンスを迎えたときにスコアをして戻るというのは足りていなかった部分。そこにフォーカスした練習もしてきたが、成果が出てきていると感じます。何か難しいことをしているわけではなく、フィジカルに強い選手が強いキャリーをして、しっかりサポートする。戦術よりもマインドセットの部分。そのエリアに入ったとき、プレッシャーがかかっているのは自分たちではなく相手だと。チームとしてそういうイメージを共有しながら、敵陣でのプレーができている。そこはかなり変わった。今日もそういう「シンプルにしっかりやる」というところは、よくできていたと思う。
■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=379
文:秋山健一郎
写真:川本聖哉