【Review】2023-24プレシーズン スペシャルマッチ vs.ACTブランビーズ

2023.10.23

縁のあるACTブランビーズを砧に迎えてのプレシーズンマッチ。タフな戦いに

2023-24シーズンのリーグワン開幕まであと2ヵ月弱。準備を進めるリコーブラックラムズ東京は、4試合目のプレシーズンマッチを南半球の国際リーグ・スーパーラグビーの強豪、ACTブランビーズと戦った。

ACTブランビーズは、ピーター ヒューワットヘッドコーチとローリー マーフィーアシスタントコーチがかつて指導していたチーム。また2008年〜11年までブラックラムズでプレーした元豪代表SOのスティーブン ラーカム氏が現在ヘッドコーチを務めており、縁の深い相手でもある。(両ヘッドコーチのコメントはこちら

泥臭い攻守での献身の徹底、セットプレーの精度はもちろんのこと、SOマット マッガーン、FBアイザック ルーカスという配置になったBKの軸から、どんなアタックがくり出されるかにも興味を引かれる一戦となった。

会場の世田谷・リコー総合グラウンドは秋晴れ。BR東京のキックで試合が始まる。先手を取ったのはACTブランビーズ。開始直後、ラインアウトから攻めるBR東京にプレッシャーをかけ、ボールに絡み反則を奪う。クイックタップで再開し、中央のブレイクダウンを強く押し込むと、左に出しタッチライン際を破りトライを奪う。CVも成功し0-7。

その後、BR東京はスクラムからのアタックで自陣に攻めこまれたが、こぼれ球を敵陣に蹴り込みチェイス、プレッシャーをかけボールを確保。ここから敵陣でプレーを続けた。スクラムで反則を奪うなどセットプレーで上回る場面もつくるも、トライに結びつけられずにいると、ゴール前ラインアウトでこぼれたボールを奪われ、一気にインゴールまでつながれ10番にトライを許す。CV成功で0-14。

この後もBR東京は、SOマッガーンらのキックや、相手の前に出てくるディフェンスに冷静に対応したパスやランなどで前進し敵陣に入りラインブレイクも見せる。しかし、わずかなサポートを遅れを見逃さず、鋭く詰めプレッシャーをかけてくるACTブランビーズの粘りもあり、トライまでもっていけない。

前半最終盤には、CTBロトアヘアアマナキ大洋らのランでゴール前に攻め込み、さらに相手スクラムで反則を奪うビッグプレーがあったが、ラインアウトモールでゴールに迫りながらもグラウンディングできず、前半をノートライで終えた。

PRに西和磨、笹川大五を入れて挑んだ後半は、ACTブランビーズのキックでスタート。直後に自陣ゴール前に攻め込まれたが、モールディフェンスに成功しトライを阻む。ターンオーバーからのFL松橋周平のブレイクなどで敵陣に入って再び攻める。しかし、果敢に仕掛けたCTBアマナキ大洋がノットリリースザボールを取られた直後、ACTブランビーズはすぐさまリスタート。ディフェンスの揃っていなかった右サイドを破られトライを許す。CVは入らず0−19。

HO佐藤康、CTBハドレー パークス、礒田凌平、FL大西将史らをピッチに入れ、なんとかトライを奪いにいこうとしたBR東京は、後半に入り10分ほどの時間帯を迎え形をつくる。

敵陣のラックでターンオーバーに成功すると、FBアイザック ルーカスのランで前進、さらにWTBネタニ ヴァカヤリアが左サイドをゲイン。守るブランビーズが反則を犯しアドバンテージが出ると、マッガーンが右にキックパス。これがWTBメイン平に入り、メインは相手ディフェンスをステップでかわして右隅にトライ。マッガーンがCVに成功し7-19とする。

さらに攻めるBR東京。SOマッガーンが相手ディフェンスラインの裏にキックを蹴り込むと、鋭くチェイスしてボールを確保。ラックから展開、オフロードパスをつなぎ左サイドのWTBヴァカヤリアにつないで左隅にトライ。CVも成功し14-19と追い上げる。

再開直後に自陣でオフロードをつながれ、またも10番にトライを奪われ14-26。前半20分が過ぎた頃より、PRにパディー ライアン、中村公星、SO中楠一期、FB堀米航平、WTB西川大輔らを続々とピッチに送り、試合は終盤へ向かう。

前半からのスクラムでの優勢はさらに強まり、何度も相手を押し込む。WTB西川やSO中楠のキックなども活かしながら敵陣に入っていくと、安定したスクラムを押してゴールに迫り、フェイズを重ねる。ラックからSH中村正寿がボールを出し中楠が左に長いパス。WTBヴァカヤリアがスペースを突き、左隅に2つめのトライ。CVは外れたが19-26。

残り時間はわずかながら、1トライ1ゴールで同点という状況に。ハーフウェイ付近のACTブランビーズのラインアウトがオーバー。これにHO佐藤が反応したが、一瞬早く飛び出してきたACTブランビーズのBKが確保し、スペースを走られトライを奪われる。スーパーラグビーの雄に挑み続けたBR東京だったが、惜しくも19-33で敗れた。

スクラムの支配とエリアマネジメントに成功。課題はリアクションと我慢

試合後のメンバーからは充足感がうかがえた。素晴らしいコンディションのもとで、相手の高い強度に対応し、攻守で持ち味を発揮した。前半はほとんどの時間で敵陣に入り、フィジカルでもある程度対抗できたことは、収穫といっていいだろう。

ACTブランビーズのラーカムHCも「BR東京がドミネート(支配)していた」と称えたスクラムなどは、すでに高い完成度に達しているようにも映った。ラインアウトもプレッシャーを受ける場面もあったが、LOマイケル ストーバーグのリードのもとで、一定のクオリティを出していた。

BKも、WTBメインが「ボールがよく回っていた。ウイングにも結構ボールが回ってくるので楽しい」と話し、手応えを感じていたようだ。後半、SOを中楠、FBを堀米に入れ替えてからもチャンスをつくっており、トライも生まれた。SO中楠についてヒューワットHCも「いい成長をみせている」と評価する。

無論、課題も見えた。奪われた5本のトライの多くは、反則後のクイックタップ、もしくはこぼれ球を拾われた直後、ディフェンスが揃いきらないところを突かれたものだった。NO8/FL松橋も「全員が危機感を持って。アージェンシー(緊急性)をもっと上げていければ」と振り返った。リアクションスピードについては、これから意識を向けていくべき部分なのかもしれない。

また特に前半、長く敵陣に入りながらトライを獲りきれなかったことも反省点か。ヒューワットHCが指摘した「ペイシェンス(忍耐・我慢)を保つこと」についても、残り2ヵ月で磨き上げていくべき部分となる。

「選手同士がいろいろと話せている。ピッチに立っているプレイヤーが自分たちで考えて、自分たちで対処する。それができている」。ゲームキャプテンを務めたHO武井日向も、接戦を戦い続けた昨季を経てチームが自律してきている感触を述べる。様々なことが起きる長いシーズンを戦い抜くためのソリューションが、チームの中に蓄積されつつある。

チームは1週間のオフを挟み、10月28日(土)の九州電力キューデンヴォルテクスとの定期戦を終えたあと、合宿を挟み、再び2試合のプレシーズンマッチを戦いシーズンに向かう。

監督・選手コメント

ピーター ヒューワットヘッドコーチ(BR東京)

多くのことを学べたいいゲームでした。リアクションスピード、ブレイクダウン周辺、あとはペイシェンスを保つことの大切さを選手は学んだと思います。

前半はラインブレイクを繰り返して、Aゾーン(ゴール前)でのチャンスもたくさんありました。ただ、我慢強さが足りなかったり、ラインアウトでプレッシャーをかけられたりして、コンバート(トライに繋げること)がうまくできなかった。でも今日の試合で、みんなが多くの経験を得られたのでよかったと思います。

——スクラムが素晴らしかった。

そうですね。彼らは他のメンバーよりも6週間も早く集まってやってくれていたので、そこの進捗具合はすごくハッピーです。

——後半、メンバーが入れ替わり、若手が増えてからも相手についていった。

彼らのパフォーマンスもよかったと思います。プレシーズン、早い段階からトレーニングを開始した若手選手たちに機会を与えたくて。成長も見えたかなと。いい選手だからここにいるわけですから。持っているものをさらに表現していってほしいですね。

——開幕まで2ヵ月弱。順調にきている?

ケガ人もいますが、多くは2、3週間で戻ってこられそうですし悪くないかな。我々が目指しているかたちに遠くないところにいると思う。1週間オフを入れてキューデンとやり、合宿をして、そのあとプレシーズンマッチを2試合。早いですね。もうすぐですね。

——今季は昨季の戦い方を熟成し、さらに精度を上げたり、一貫性を持たせるというのが、準備の基本方針と考えていいのでしょうか?

昨シーズンの敗れた試合は、本当にあと少しというケースが多かったですから、一貫性をしっかり保ちながらというのが一番やらなきゃいけないエリアだと感じています。1週間の過ごし方だったり、マインドセットだったりも含めてですね。一貫性のある準備をして、週末に自信を持ってプレーできるようにしていきます。

HO武井日向ゲームキャプテン(BR東京)

よくアタックができて、いい場面もあったんですけど、最後で取り急いだり、ボールをキープできなかったりで、得点につながらなかったので、そこはしっかり修正して、次の試合に臨みたいです。

——最後の詰めがうまくいかなかったのは、相手のプレッシャーも?

そうですね。特にブレイクダウンではプレッシャーかけられていたと思うので、そこの精度を上げなきゃいけないなと思いました。

——プレシーズン4試合を戦い終えての手応えは?

自分たちのラグビーは着実にビルドできていると思うので、このビルドしてきたものの一つひとつのレベルをもう一段階あげるっていうのが、次のステップにつながってくるかなと思います。ブレイクダウンのクオリティだったりとか、そういうところを頑張っていきたい。いろいろな選手が経験を積み、チームとしてのレベルは上がってきていると思うので。

選手同士がいろいろと話せているとも思います。ピッチに立っているプレイヤーが自分たちで考えて、自分たちで対処する。それができている。それも昨シーズンからの成長かなと思います。 

FL/NO8松橋周平(BR東京)

今日はすごくいい経験になったと思います。ただ、こういう高いレベルの相手と戦うときは、リアクションや強度の部分でもう一段ギア上げないと勝てないということも感じました。海外の選手はそこに強みがあるのものですが、それにプレッシャーを受けている状況は、トップ4にいくレベルにまだ達していないということだと思うので。今日のブランビーズを上回れるようなリアクションや強度を目指して、もっと上げていきたいと思っています。それは僕自身の課題でもあるし、チームとしての課題でもあります。

——今日はどのトライも似た形だった。

はい。だから直しやすいとも言えるので深刻になる必要はないのですが、大事な部分ではあります。ミスでボールを失った直後を突かれたり、反則したあとのクイックタップからのアタックがトライに繋がってしまったりしたので、そこのリアクションはもっと全員が危機感を持って。アージェンシー、緊急性と言っているんですが、そういうところをもっと上げていければいいかなと。他の部分では自分たちが圧倒してたと思う。トライを獲りきっていく準備をやっていければ。まだ2ヵ月弱あるので。問題ないです。

WTBメイン平(BR東京)

自分たちのエラーから許したトライがほとんどだったので、そこの整理ですね。自分たちが敵陣に入ったときのイージーエラーをなくしていけば、いい方向に進めるかなと。アタックは、トライにはつながらなかったですけど、途中までのプロセスはすごくよかった。スーパーラグビーのチームに対して、自分たちのやってきたものが出せたので、そこは今後も自分たちの強みにしていけるかなと思います。

——アタックをしているときの感触は悪くなかった?

そうですね。ガンディー(マット マッガーン)とミルキー(アイザック ルーカス)が10番、15番に入ってボールがよく回っていたので。ウイングにも結構ボールが回ってくるので楽しい。BKとして手応えを感じています。

——ラグビーW杯の戦いを見て、刺激を受けているのでは?

代表も新体制になり、みんなゼロからのスタートだと思う。このシーズンでインパクトを残せれば自分にもチャンスが来ると信じて。大事にしたいと思います

スティーブン ラーカムHC(ACTブランビーズ)

前半と後半で別々のゲームになったかな。前半は自陣から抜け出せなかった。ターンオーバーとクイックタップからのアタックをトライにコンバートできましたが、それ以外はBR東京が素晴らしいラグビーをしました。

僕らの陣地によく入り、22mラインの内側にも攻め込まれました。BR東京としては、あのポジションに侵入できたにもかかわらずトライができなかったことは残念だったと思いますが、前半はすごくプレッシャーをかけられました。

後半は僕らもいくつかいいトライをつくれました。トランジションゲーム(攻守の切り替え時における戦い方)のところがよかったですね。

スクラムの話もしたほうがいいね。BR東京のスクラムは素晴らしかったです。こちらのFWパックにはスーパーラグビーでもプレーしている選手もいましたが、BR東京がドミネート(支配)していたと思います。

——かつて、BR東京が次の段階に進むために「自信」の重要性を説いていました。今日のチームからそれは?

よかったのでは? 自信を持って戦っていたと思います。少しケガ人を抱えているとも聞いていますが、それでも選手たちが見せていたコンビネーションなどからは、自信が感じられました。

WTBアンドリュー ミュアヘッドゲームキャプテン(ACTブランビーズ)

タフなゲームでした。火曜日に合同練習をして、それもタフだったので、こういう試合になることはとわかった状態で今日を迎えたのですが、BR東京のフィジカルとスピードが印象に残りました。

——前半と後半で、少し展開が変わったようにも見えました。

特に戦術を変えたりしたことはないのですが、後半はフィジカルにいきボールをキープできれば、少し時間はかかるかもしれないが得点を獲れるんじゃないかと考えてプレーしていました。

——日本で試合をして、印象に残ったこと、得たものは?

日本の方々には、本当に優しくしていただき、文化を楽しみました。サンゴリアスとブラックラムズという強い2 チームと対戦できたことはすごく誇りに思っています。新しい友達をつくる機会にもなりました。

——ヒューワットHCやローリー マーフィーアシスタントコーチから指導を受けた経験も?

はい。3、4年にわたってコーチングを受けました。あとは選手だったマット ルーカス(現アシスタントコーチ)とは、2年間一緒に暮らしていました。だから、今日は親しい人が何人もいる中でのゲームだったんです。過去に僕たちがヒューワットたちから受けた指導が、BR東京でも引き継がれていましたね。マーフはFWのコーチだったのですが、モールやスクラムに似たものが感じました。

■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=377

■YouTube 【密着】ホームグラウンドでスペシャルマッチ!ACTブランビーズ戦の裏側に迫る!

■2023年10月28日(土)まで期間限定で、イッツコムYouTubeチャンネルにて試合映像をフル配信しています。ぜひご覧ください。ラグビースペシャルマッチ リコーブラックラムズ東京 VS ACTブランビーズ【期間限定配信 10月28日(土)まで】

文:秋山健一郎

写真:ブラックラムズ東京

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