【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2022-23 第16節 vs.三菱重工相模原ダイナボアーズ

2023.04.28

クレバーにエリアを獲得し、FWが仕留める理想のラグビー

リーグワン最終16節。リコーブラックラムズ東京(BR東京)は開幕節で敗れた三菱重工相模原ダイナボアーズ(相模原DB)に31-21で雪辱。翌日、他の会場の試合結果を受け最終順位は7位に決定。昨季の9位を上回りシーズンを締めくくった。

久々にコンディションに恵まれた今季ラストゲームだったが、上空には風が吹きフラッグが強くはためく状況。BR東京は前半を風上の陣地から攻めたが、前回対戦と同じように接点で巧みにプレッシャーをかけてくる相模原DBに試合の序盤は手を焼く。前半7分にCTBロトアヘアアマナキ大洋が負傷。シオペ タヴォが入りWTBに、栗原由太がCTBに回るアクシデントは起きたが徐々にBR東京がペースを握っていく。

結果的にBR東京は前半で4つのトライを奪い、そのうち3つがゴール前ラインアウトからモールを押して奪ったものだった。前半17分の最初のトライは、堀米がフェアキャッチさせまいと22mラインの手前を目がけて蹴ったキックを蹴り返した相手が犯したオフサイドで得たPKが起点となった。ディフェンスで前に出てプレッシャーをかけようという相手の意識を逆手にとってみせた恰好だ。

その後はスクラムでのプレッシャーや強いキャリーで引き出したコラプシングやノットロールアウェイといった相手の反則をうまく使った。ハードワークと激しさを武器とする相手をコントロールし、統率され規律を保ったFWがパワーを活かし仕留める。まさに今季BR東京が得点力の柱にしようとしてきたものの1つだろう。

後半は相模原DBがプライドをみせて猛烈な追い上げ

前半終了直前の38分のトライはゴール前で得たPKをタップスタートしNO8ネイサン ヒューズが自陣側を向いてモールをつくりFLブロディ マクカランが押し込んだ。このトライの前段には、ハーフウェイ付近でのカウンターラックでのボール奪取。相手の背後のスペースへのSH山本昌太のキックによるエリア確保などの好プレーがあった。惜しくもインゴールノックオンとなったものの、ゴール前のラックから外に展開しFBアイザック アイザック ルーカスのスペースへのランからのWTBタヴォへのパスなど、BK陣が切れ味を見せる場面も。“千秋楽”ならではの集大成のラグビーを遂行した前半となった。

しかし風下に回った後半、BR東京は苦しんだ。9番の巧みなキックで自陣深くに侵入を許すと粘り強いアタックで泥臭くゴールを割られ24-7。(後半8分)直後にFBルーカスがレイトチャージを受け相手にイエローカードが出たが相模原DBの勢いは衰えない。風上の有利は当然あったが、今季のリーグワンディビジョン1で存在感を放ち盛り上げてきた相模原DBというチームがそのプライドを見せていたというべきだろう。シーズン最終盤まで努力を続けてきた者同士が熟成させたラグビーでぶつかりあうゲームとなった。

相模原DBは後半15分にラインアウトモールから、同26分にもモールからラックとしそこから愚直にピックゴーを繰り返してトライ。24-21と迫る。

SOマッガーンのキックでチャンスメイク。NO8ヒューズがハットトリック

クロスゲームとなり最終盤に突入。BR東京はCTBハドレー パークスに代えてマット マッガーンを送りSO、堀米がCTBに回る。ハーフウェイ付近の相手ボールのラインアウトを競り、PR谷口祐一郎がボールを確保しアタック。キックを操るのが難しくラインブレイクでのゲインに期待がかかる状況でボールを動かしていくが、相模原DBも猛然とディフェンスする。

打開したのはSOマッガーン。風の影響を受けない、高さを抑えたキックを飛び出してくるディフェンスの背後に蹴る。これにFBルーカスが反応し鋭く抜け出してボールを獲得。このゲインをきっかけに22mラインの内側に攻め込むと相模原DBにオフサイド。マッガーンのキックスキル、ルーカスとのコンビネーション――研ぎ澄ませてきたもので緑の壁に穴を開ける。

ワンチャンスを仕留めたのはFWだ。再びタップスタートからモールを狙うと相模原DBが素早く寄せて対応。それでもLOジョシュ グッドヒューにボールを持たせてじわりと前に出てラックに。グッドヒューが死守したボールをピックしたNO8ヒューズが、力強く押し込みインゴールに置く。グラウンドではノックオンがあったとしてノートライ判定だったが、映像判定を経てトライが認められる。CVも成功し31-21。激しい追い上げを受けていたBR東京が、NO8ヒューズのハットトリックで突き放した。(後半32分)

SH髙橋敏也らを入れて、あきらめず闘志を見せてくる相模原DBに立ち向かうBR東京。自陣から脱出できず苦しい時間が続いたが、反則を犯さずに粘り勝ちきった。プレイヤーオブザマッチにはNO8ヒューズが選ばれた。

「過去」と「今」。2つの視点を意識し、努力を重ねた選手たち

最終順位は7位。開幕前、16チームで戦われていたトップリーグ時代と比べれば強豪との試合が大半を占めるスケジュールを見て、改めて不安と期待が入り交じる思いに駆られた。プレシーズンマッチで東京SGから勝利を挙げるなど、万全の準備を経て臨んだ開幕節で苦汁をなめチームを覆った重苦しい空気は忘れられない。だがチームはそこから一歩ずつ前進し、自分たちを取り戻していった。その姿はチームとしての着実な成長を感じさせるものだった。

自分たちのDNAを意識する——

今、この瞬間にフォーカスする——

今季のチームから繰り返し聞こえてきた2つの言葉。冷静に見つめ直すと、これは逆方向の行為でもある。過去よりつむがれてきたカルチャーを意識し、それを背負う責任と誇りを力にする。しかし試合が始まれば、過去ではなく目の前で起きていることに意識を向け、不安や恐れが生まれる余地を消し、自分たちの全てをグラウンドで出し切ることを目指す。

複雑なサインプレーやディフェンスシステム、アタックの取り決めを理解しながら、ハードに身体をぶつけあう。その合間にはパスやキックといった繊細なスキルも用いる。ラグビーの面白さはそうした両立が容易ではない様々な技術がそれぞれに価値を持ち、からみあいながら勝負が進んでいくところにあるように思う。そうしたスポーツで優れたプレーを見せようとしたとき、過去と今、2つの視点からターゲットを設け追いかけるようなマインドセットが効果的なものだと今となってはわかる。

過去と今の双方にこだわっていくことが重要であるという考え方は、ラグビーの中だけに当てはまるものではなく、観る人にとっても重ね合わせやすいものだったのではないか。BR東京が掲げる「活力と感動を与える」というミッションの達成とも強く連関するように感じる。今季は、目前のゲームでの勝利を願うのと同時に、過去のカルチャーを引き継ぎつつ未来に向けて歩めているかにも関心を持つブラックラムズファンの声をよく耳にした。同じ方向を向き、伴走してくれる貴重なサポーターたちの心意気に応えるラグビーをさらに磨き、来季はチャンピオンに迫るポジションへのジャンプアップを狙いたい。

監督・選手コメント

ピーター ヒューワットヘッドコーチ

皆さんこんにちわ。前半と後半で全然違ってしまった。前半はよいスタートがきれて4トライが獲ることができた。24-0でハーフタイム。そのまま行きたかったが相模原DBさんが食らいついてきてファイトバックしてきた。やはりタフな相手だなと。1年を通してハードファイトしてきたチームだと感じた。ただ、最後の10分で流れを取り戻せたのはよかった。両チームでモチベーションの持ち方は違ったとは思うが、勝利して終われたのはよかった。

(風下に回ったハーフタイムの指示について)大きく変えることにフォーカスはしていない。風はグラウンドの下の方はそこまででもなかったが、上のほうが激しかったのかなと。キックは狙っていたが、ブレイクダウンのプレッシャーも受けていた。キックしようとしていたときにターンオーバーもされた場面もあった。キックプランは変えていない。キックをしないことを選んだように見えてしまったかもしれないが、グラウンドレベルで風の強さを感じた選手が判断したことについては支持する。

(シーズンを振り返り、チームの成長した点について)スロースタートではあった。最初の2試合に負けて。だがうまくビルドアップはしてこれたかなと。チームのリーダーシップというところも成長したと思う。リーダーに頼り、その指示を待つだけではなく、それぞれが自分で責任を持って準備をする。マインドセットのところなども。もちろん、自分たちはトップ4にチャレンジできるチームになっていくことが目標。さらに成長して残り10%ほどの差を埋めていきたい。いい方向には進んでいる。

SH山本昌太

やっぱり開幕戦のホストゲームで負けていた相手なので、なんとしても借りを返すという思いだった。100 点満点ではなかったが、勝って終われたのはよかった。前半後半で自分たちは全然違うチームになってしまった。そこは来シーズンに向けての反省点となる。

(後半は風が強かったからだろうが、キックを使えずにいた)結構、風にストレスを感じていた。相手のプレッシャーもあり、そういう状況下で自分たちがしないといけないことができていなかった。ボールをキープする。ブレイクダウンでしっかりファイトする。ボールキャリアが前に出る。風下で戦う上で大事になることができていない時間が長すぎた。前半と同じような戦い方をしようと思っていたが、個々の判断、あとはボールをキープして、セットして、キックするというところまでいけなかった。そこはまだまだかなと思う部分。

(シーズンを振り返り、チームの成長した点について)勝ったり負けたりはあったが、毎週の準備のところで、シーズンを通してチームとして一貫性を持てるようになった。「なぜいい試合ができたのか」「なぜ勝てなかったのか」といったことを毎週話し合ってから、新しい1週間を始めていけたところには成長を感じた。

HO佐藤康

ケガをした選手が戻ってきてからもチャンスをもらえて、いい経験を積めた。課題も明確になってきた。休みを挟みながらしっかり練習してまたチームに貢献できるように。

(プレッシャーも感じるようになっていったのでは)セットプレーの起点になることも多いので、試合を重ねるうちに自分の重要性を感じるようになった。ただよかった点も多かったので、来シーズンに向けて伸ばしていきたい。

(出場しはじめたときと同じようなマインドで走りきれた?)若いこともあっていいようにやらせてもらっているので(笑)。ラインアウトのスローはうまくいったと感じているが、スクラム、ブレイクダウン、ディフェンスなどにまだまだ課題がある。スクラムは埼玉WKやBL東京のような強いチームと組むことができて多くのことを学べた。

(オフにしたいことは?)リラックスしたい。ちょっと出かけて、買い物したり、おいしいものを食べたりしたい。

NO8ネイサン ヒューズ

アップダウンのあるシーズンだった。チームとしてやらなければならないことはたくさんある。ただいいシーズンになったのではないか。本当に多くの学びがあったし、前進して、今日を勝って終われたのはよかった。

(一番成長したと思うのは?)Belief(信じる気持ち)。自分たちはいいチームなのだと信じる気持ちが強くなっていって、相手チームにプレッシャーをかけられるんだというのが実感できるようになっていった。

(トップ4に入るために)もちろんそこが目標になってくる。チャレンジしていく。ビルドするという意味ではいいシーズンになったし、何をすれば前に進めるのかがわかってきた。プレシーズンはいい準備ができると思う。来年はエキサイティングな1年になる。今シーズンはグラウンドに立つメンバーだけではなくて、チームスタッフやマネジメント、家族やサポーター、みんなの力があったから戦えた。アリガトウ(日本語)と伝えたい。

(少し日本を楽しめた?)すごくいい1年だった。人々が素晴らしい経験をさせてくれた。何よりもBR東京ファミリーが温かく迎えてくれたし、オフにはいろいろ出かけることもできた。京都や大阪、富士山の近く、ディズニーランドとか。東京は毎日新しいことがある場所。

(この後の予定は?)家族と時間を過ごせればと。2019年以降、コロナ禍もあってフィジーに帰ることができていなかったので。おじいさんやおばあさん、親戚のみんなに会いたいね。

SO/CTB堀米航平

前半は完璧に近かったが、後半は難しかった。キックがなかなか蹴れないのはわかっていて、ディフェンスで我慢するしかないと思っていた。

(シーズンを振り返って)やりきった。充実していて成長できたシーズンになった。一番手応えのあった試合? 第4節の静岡BR戦。あの試合に勝てたことが大きな自信になった。

(オフにしたいことは?)たくさんある。ずっと禁酒していたので、少しだけ。仲間と旅行いったりもしたい。

CTBハドレー パークス

(後半はテンポアップされた)前半と後半で全然違った。ディシプリンのところが少し落ちたかなと。ディフェンスの時間が延びて、ボールを持つ時間が短くなるとそうなることは多い。ただ、敵陣に入ったときにちゃんとスコアして帰ってこられたのはよかった。それはすごく重要な部分。

(シーズンを振り返って)まあまあ? まあまあと言ったらよくないのかな(笑)。勝てた試合がいくつかあったので。でも、本当にいいグループ。コーチングスタッフも含めてね。素晴らしい環境でプレーさせてもらった。だんだんとよくなっていったので、このまま進むこと。来シーズンはまた順位を上げられたらと思う。

(豊富な経験を持つ選手として一番心がけたのは?)ディフェンスでの手助けのところ。ディフェンスコーチともよく話をして、ディフェンスのグループでは、ミーティングでよく発言するようにしていたし、練習でも意識の部分について声をかけさせてもらった。とにかくチームマンとしてやっていこうと思っていた。少しだけど知識なども伝えていける部分があれば伝えていこうとしていた。あとは健康体を保つこと。いつ選ばれても大丈夫なように。そして、チームのためにパフォーマンスすること。BR東京にはいい選手がたくさんいるので、成長してくれると思うし、エキサイティングな未来が待っていると思う。

(カテゴリーB、Cの選手たちが健康体を保ちハードな競争を続けた。それがチームの勢いにもなっていた)みんなラグビーがしたいし、負けず嫌いだからね。日本人選手のみんなも競争はしていたけど、チームの内側での勝負があると、みんながチャレンジするようになるのでとてもよかった。

 

■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=368

文:秋山健一郎

写真:川本聖哉

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