【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2022-23 第15節 vs.トヨタヴェルブリッツ

2023.04.20

1万人超えのラグビーファンの前で、“後悔しない”戦いを

リーグワン第15節は長い連勝、連敗が止まるゲームが続く劇的なタームとなった。ラグビーは他のスポーツに比べ番狂わせが起こりにくいといわれるが、その分起きた際の感動は大きい。雨垂れが石を穿つ瞬間を目撃する。そんなところにもあるラグビーの魅力を再確認したファンは多かったかもしれない。

リコーブラックラムズ東京(BR東京)は、トヨタヴェルブリッツ(トヨタV)と1万人を超える来場者を秩父宮ラグビー場に迎え、今季最後のホストゲームを戦ったが、こちらも劇的なゲームとなった。土曜日までのゲームの結果から勝ち点1を挙げればディビジョン1に残留できることが決まっていたが、ラスト3ゲームに“後悔しない”というテーマを掲げて挑むチームは、必勝を期して臨んだ。前半にリードを許したものの、声援を背に後半に猛攻を見せ逆転。しかしラストワンプレーで奪われたトライで追いつかれ、CVで勝ち越氏を許し悔しい敗戦となった。だが勝ち点1は確保し、ディビジョン1残留は決めた。

今節は予想された激しいフィジカルバトルでの消耗に備え、リザーブ8人のうち6人がFWというメンバー構成。切れ味を見せるBK陣はSOにマット マッガーン、FBにアイザック ルーカスと攻撃の起点を配置し、堀米航平がリザーブへ。CTBは復帰以来力強いキャリーで存在感を発揮しているロトアヘアアマナキ大洋と前節のトライゲッター・栗原由太がコンビを組んだ。WTB(14番)には西川大輔が復帰した。

FBアイザック ルーカスが躍動。2トライに絡む

雨、雨、風とここ3試合は厳しいコンディションでのゲームが続いていたが、今節も天候の影響を受けた。キックオフ直前まではよく晴れていた空を突如雲が覆い豪雨に。さらには近隣に落雷が確認されたことから試合開始が約1時間遅れた。その後も後半に天候の回復を待つ時間が挟まれ、選手にとっては集中を保つことが難しい状況でのゲームとなった。

試合の入りはBR東京がペースを握る。ゴール前の安定感のあるラインアウトから攻め相手の反則を誘うとSOマッガーンがPGに成功。(前半5分)モールをうまく使いつつも、固執しすぎずBKに出していく判断も冴えを見せる。

トヨタVも反撃。BR東京が自陣で犯した反則で得たラインアウトからモールを上手くドライブし、視野の広い2番の好判断でディフェンスのギャップを突いてトライ(CV不成功)。さらにPGも重ね3-8とする。(前半14分)

だが直後、リスタートキックの蹴り返しを確保したFBルーカスが鋭いカウンターアタックでゲイン。ここから攻撃したBR東京は、左中間ラックからSH山本昌太が大外のWTBシオペ タヴォにフラットなパスを通し突破し左隅にトライ。角度のあるCVもSOマッガーンが成功させ10-8と勝ち越す。(前半16分)

前半20分、タックルにいったWTB西川が脳震とうの確認のため一時退出。代わって堀米がCTBに入り栗原がWTBに回る。(10分後に正式交替)

ラインアウトモールを起点にトライを2本返されて10-22と再び逆転されるが、前半終了直前、BR東京は敵陣中盤のラインアウトから展開し右サイドをWTB栗原がゲイン。内側をサポートしたFBルーカスがさらに前に出る。ポイントをつくるとSH山本が中央に流れながらパス。FLブロディ マクカランがキャリー。山本が再びさばいて鋭く走り込んだLOマイケル ストーバーグにつなぐと、ディフェンスラインを貫く。「グッドではダメ。その上のプレーをしないと」と強い気持ちを見せ熾烈な競争に挑むハードワーカーが価値あるトライを奪う。CVも成功し17-22と点差を詰めた。(前半37分)

雷雨による中断の後、息を吹き返したBR東京

ラインアウトモールから3本のトライを失う一方、BKのランや展開でチャンスをつくり2本のトライを奪ったBR東京は後半へ。PRパディー ライアンとFL湯川純平をPR千葉太一とNO8ネイサン ヒューズに入れ替えて逆転を狙う

5点という僅差を維持したまま試合は進んだが、自陣で相手に与えたラインアウトから攻められ、10番の中央からのキックパスに反応した11番にインゴール左隅にトライを奪われる。CVも成功し17-29となる。(後半17分)

しかしここで再び雷が鳴ったことから試合が中断。このブレイクでBR東京は息を吹き返す。再開直後、敵陣ゴール前のラインアウトで得たPKをタップスタート。ボールをもらったNO8ヒューズが自陣側を向きモールにしてゲイン。ラックに移行したが、再びボールをもらったヒューズが抜け出してトライ。CVも成功し24-29。(後半21分)

BR東京は乱れだした相手の規律を突いていく。モールやスクラムでのプレッシャーが効き始めたようにも見えた。後半31分、敵陣ゴール前のスクラムで反則を奪うと、ラインアウトからモールを組む。そのまま押しきりNO8ヒューズがグラウンディング。雨中の定石、セットプレーラグビーで同点に追いつく。

PR千葉の勝ち越しトライ。スタジアムは歓喜の渦に

手を緩めないBR東京は優勢をさらに活かす。敵陣でラインアウトモールを再び組むとまたもトヨタVにコラプシング。PKで前進しもう一度モール。うまくドライブしてゴール前まで運ぶとラックに。ここでPR千葉がピックゴー。後方からFLアマト ファカタヴァがプッシュしてインゴールに押し込む。映像判定が行われトライが認められる。黒く染まったスタジアムが歓喜する。34-29。(後半37分)

残り2分で再開。だが、ドラマにはまだ先が――。自陣浅めのポジションでBR東京はディフェンス。オフサイドのアドバンテージが出た継続するトヨタVに対し、前に詰めたPR千葉が相手のパスを狙いボールを奪いかけたが惜しくもこぼれる。これが故意のノックオンと判定され、PKで前進されゴール前ラインアウトとなる。今季何度も相手を封じ込めてきたラインアウトディフェンスで最後の力を振り絞るBR東京はモールを止めラックに。

トヨタVは展開し22番がキャリー。後半から出場していたLOジョシュ グッドヒューが身体を張って止めると、さばきに来た9番のパスにディフェンスが備える。

守る選手の視線が外側のNO8に向いた瞬間を9番が見逃さず、内側のわずかな隙間を突く。一瞬遅れて反応した黒いジャージが囲むが届かず、すり抜ける。ポスト右へのトライで同点。CVを成功させたところでノーサイド。BR東京は34-36で敗れた。

雷雨がもたらした混沌の中でのゲーム。80分間ピッチに立ち続けることとなったHO佐藤康は最後まで安定したスローを続けラインアウトを支えた。CTB堀米もエリア獲得を優先するプランを強い意志で守り、キックを蹴り続けた。ハーフウェイ付近でこぼれ球を大きく蹴り、快足を飛ばしてチェイスするプレーを見せたFLアマト ファカタヴァは試合後「敵陣に入りたかった……」と悔しそうに言った。勝利を渇望し、信じるべきもの信じ、同じビジョンのもとで力を出しきった。だが、届かなかった。

選手たちは多くの熱いファンの声援を感じていたからこその悔しさをにじませた。残された最終節のゲームに全てをぶつけ、ベストゲームでフィニッシュしてくれることに期待したい。

「LANSCOPE MATCH DAY」として開催。試合終了後には特別表彰も

この試合はエムオーテックス株式会社の協賛による「LANSCOPE MATCH DAY」として開催した。試合終了後には、エムオーテックス社より、この試合でチームに貢献したマット・マッガーン選手に「LANSCOPE賞」を贈呈した。

監督・選手コメント

ピーター ヒューワットヘッドコーチ

こういうゲームは初めてなので、話をするのが難しい。メンタル面でもアップダウンの激しい感じになった。後半にトライを決めてから流れが変わって、残り1分まではリードして。チームのレジリエンスの強さはわかったかなと思う。先週も言ったが、差は小さい。ただこういったゲームに勝ち次のレベルにいくことが、我々がしていかなければいけないこと。試合の最初のほうで少し足りていない部分はあった。特にモールディフェンスのところ。

(後半の中断のあとは素晴らしい戦いを見せた。あの時間で何かいいものを得ることができたのか?)最低でも勝ち点1を獲ることが重要だとわかっていた。最初の目標はそれを確保すること。次の目標は試合に勝つことだと伝えた。ディシプリンを改善しなきゃいけないという話もした。今日のトヨタVさんはモールが強く、フィールドポジションを与えてしまうことで苦しめられていたので。

(PRパディー ライアンをハーフタイムで入れ替えたがケガがあったのか?)NO8ネイサン ヒューズを後半から出したかった。パディーがスクラムのベースをつくってくれたので、後半はネイサンのパンチ力が欲しかった。モールもすごくいいので。戦術的な入替。

(前半はFBアイザック ルーカスにプレッシャーがかかっていた)もうひとつオプションをつくるというところは意識した。SOマッガーンが準備をしたり、(SH山本)昌太からのキックも。アイザックはいい選手なのでいつもプレッシャーがかかるが、回りに他のオプションを準備してプレッシャーが集中しないようにと考えた。

(1万人を超える観客が訪れた。その中でプレーした感想は)悪天候の中、足を運んでくださった方々に感謝の気持ちを伝えたい。来場する価値のあるエキサイティングなゲームになったと思っている。今後も誇りに思ってもらえるようなプレーをして、サポートを続けてもらえるように頑張りたい。今日はラグビーが勝ったと思う。こんなにエキサイティングなゲームはなかったのでは。

SH山本昌太

本当に難しいコンディションだった。グラウンドに出たり入ったりしたり、キックオフの時間がずれたりというのは、今までにない経験だったので。ただ、相手も同じコンディションなので。自分たちも最後までしっかり戦えたとは思う。細かい部分をもう一度レビューして、改善して、あと1試合戦うチャンスがあるので、今日足りなかった部分をしっかり見せたいと思う。

(最後の場面。ワンプレー残っているところで、どんなコミュニケーションをとっていたのか)キックオフのところで交替してしまっていたが、ショートキックで来るだろうと。また、もしマイボールにできても時間がまだあったので、しっかりエリアを獲ろうと話をしていた。再開後はいい戦いができていたので、素直に悔しい。

(中断の時間、どういう話しをしていたか)今、自分たちに必要なこと。してはいけないこととするべきことを再確認した。ペナルティをして相手にチャンスを渡さない。1対1のタックルをしっかり決める。その2つにしっかりフォーカスしようと。ただスコアされた後の中断だったので、自分たちとしてはいいリセットができたとは思う。

(トライにつながるパスを出した)あの場面は自分たちのアタックができていたと思う。ボールキャリアが前に出て、いいブレイクダウンにして、早くボールを出す。そういう場面を増やしていけるようにしたい。

(1万人を超える観客が訪れた。その中でプレーした感想は)本当に素晴らしかった。声援が力になるということを感じた。キックオフが遅れたり中断があったりしたのに最後まで応援してくださったのが本当に嬉しく、感謝の気持ちでいっぱい。素晴らしい環境の中でまたプレーしたいと思った。

PR千葉太一

(中断があった。気持ちのつくり方など、難しかったのでは?)こういう試合は見たことはあったが経験したことはなかった。人生で初めてのことだった。音楽を聴いて下がった気持ちをもう一度上げようとしたりしていた。

(後半のトライは大きかった)ラックでコールが聞こえて身体が反応した。置いた感触はあったがTMOにならないように願っていた。

(最後の場面はインターセプトまであと少しだった)アドバンテージを取られていたので、ボールを奪ってプレーを切りたかった。相手はよく見えていたが、少しだけ届かなかった。痛い思いをしたので、もう二度としないように。

LOロトアヘアポヒヴァ大和

スタートがうまくいかなくて、追いかける展開になってしまった。

(少しディフェンスで差し込まれる場面も?)前半、少しノミネートやタックルがうまくいかなくて相手のテンポを落とすことができなかった時間はあった。

(モールやスクラムはトータルでは戦えていたのでは)それも最初のほうで、モールでトライを獲られてしまったので、みんなでリマインドして修正した。モールを止めることができれば相手は苦しくなってくるはずだから、ここで頑張っていればチャンスはくると話していた。後半はうまくいってチャンスがきた。でも最後のモールは前に出られてしまったなと。

(ケガから復帰したシーズンだった)1年間試合に出ていなかったので、こんなに試合に出場できたことに驚いている。身体もびっくりしていると思う。やっぱり試合に出るのは楽しい。来年はもっとレベルアップできるはず。

(今日はすごい応援だった)最初から最後まですごい声援で、これは頑張らなければと思った。

 

CTB堀米航平

(早い時間帯、またCTBでの出場となった)予想より早かったが、ピーター(ヒューワットHC)から、開始1分からスイッチオンしておくように言われていたので大丈夫だった。10番、12番をカバーするように伝えられていて、今週は12番の練習をしっかりしていた。でも、10番のポジションに入ってラインアウトのときに自分から蹴ったりする場面もあった。10番のできる選手がグラウンドに3人いる状態になったので、コミュニケーションをとりながら練習でしていなかったことをやってみたりする場面もあった。

(中断が多かったが、どんな気持ちのつくりかたをしていたか?)トヨタVも同じなので言い訳はできないと思いながら。今シーズンはこういう天候の試合を2度落としていたので、そこから学んだものは多くあった。勝ちきれなかったが、エリアを獲っていくこととか、自分としてはよくなったと感じる部分もたくさんあった。

(ディビジョン1残留を決めた。大きな役割を果たせたのでは)本当は今日も勝てればよかったが勝ち点1は獲れたので。来週の試合で、開幕戦で負けている相模原DBにリベンジして終われればいいシーズンだったなと思えるんじゃないかと。

 

■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=367

文:秋山健一郎

写真:川本聖哉

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