【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2022-23 第14節 vs.埼玉ワイルドナイツ

2023.04.12

成長を見せる好機となったチャンピオンチームとの再戦

ブレイクを挟み2週間ぶりのゲームとなったリーグワン第14節。リコーブラックラムズ東京(BR東京)は、13連勝で首位を走る埼玉パナソニックワイルドナイツ(埼玉WK)とのゲームで最終盤戦に突入した。前回対戦(第5節)では多くの時間で互角に渡り合いながら、わずかな隙を突かれリードを許し17-38で敗戦。長丁場のリーグ戦を走り続け負傷者も多く出ているが、目指すラグビーの熟成と選手たちの確かな成長をもって、トップとの差をどれだけ縮められているかが試される一戦となった。

布陣ではSH山本昌太が復帰し先発。またSOに堀米航平、FBにアイザック ルーカスを配置する今季初となるかたちをとった。FWでは持ち味を発揮しつつある湯川純平がオープンサイドのFLとして先発の座を勝ち取り、アマト ファカタヴァがNO8、ブロディ マクカランが6番を背負った。FBマット マッガーンとNO8ネイサン ヒューズはリザーブに回り、2年目のLO山本秀も今季初のメンバー入りを果たした。

前節、前々節は雨に祟られたが、今節は極端な強風下でのゲームに。BR東京は前半を風下、後半を風上の陣地で戦うこととなった。

前半の中盤より機能しはじめたアタック

先制は埼玉WK。前半6分、150キャップ達成のメモリアルゲームを迎えた埼玉WK・HO堀江翔太に左中間ゴール前のラックからのピックゴーでトライを許す。CVも決まり0-7とされたが、その後は冷静かつフィジカルなディフェンスで決定機をつくらせない。風を活かした相手のキックの処理を正確に行いよく守った。「この天候は予測していて1週間備えてきた」(FL湯川)というチームの準備を感じさせる立ち上がりとなった。

しかし、埼玉WKはわずかな隙を見逃さない。自陣でフェアキャッチしたボールをWTBロトアヘアアマナキ大洋がタップスタート。HO佐藤康に繋ぎキックを敵陣に蹴り込むが、これを上手く処理され、キックを蹴り返される。SO堀米がキャッチするが、ここにプレッシャーをかけられアンプレアブルに。22mラインの内側でスクラムを与えるとBR東京にコラプシング。埼玉WKがPGを決めて0-10。(前半20分)BR東京は直後の24分にも自陣ディフェンスで反則を犯しPGを決められ0-13となる。

埼玉WKはペナルティを突いてさらに攻め込むが、ゴールを背負ったディフェンスでボールを奪うとFBルーカスのランをきっかけにゲイン。メンバーの意思統一を感じさせるディフェンスからアタックへの遷移で埼玉WK陣内に攻め込みボールを動かしていくが、こぼれ球の処理で孤立したところを詰められ、反則でアタックが途切れる。

3度目の正直。FBルーカスがキック、CTB栗原が押さえる

しかし直後、自陣にてカウンターラックでボールを奪い返すと再び逆襲。ディフェンスから切り返してのアタックがまたも機能し、敵陣深くに攻め込む。しかしここもゴール前でジャッカルを喫しスコアできない。

だが3度目の正直が実を結ぶ。自陣スクラムからアタック。WTBアマナキ大洋が右サイドタッチライン際から敵陣にキック。これを追いかけると、大きく跳ね自らの手に収まる。右中間につくったポイントから左に展開すると、FBルーカスが前方にキック。相手14番がインゴールでこのボールを蹴り出そうとしたがヒットせず、チェイスしてきていたCTB栗原由太がこれを押さえトライ。(前半38分)CVは不成功も5-13として前半を終えた。

後半に入っても強風が収まる気配はなく、そのアドバンテージと前半の中盤以降に見せていたアタックのクオリティを考えれば、8点差は十分巻き返すことが可能なものに映った。再開直後よりBR東京が敵陣に入り攻めていく。22mラインの内側に入り強いキャリーを繰り返したがノックオン。埼玉WKはスクラムからキックアウト。さらにラインアウトのミスを突いてポジションを取り戻していく。

自陣に戻されたBR東京はSO堀米とFBルーカスが繰り返しキックを蹴り込み敵陣に入ろうとしたが、上手く処理され挽回できない。BR東京陣内浅めの位置で埼玉WKがアタック。細かいパスでBR東京のディフェンスを無力化すると、外に生まれたスペースに走り込んだ13番にオフロードパスを通し右隅にトライ。CVも成功し 5-20となる。(後半16分)

最終盤、2つめのトライをモールで奪う

風上の優位を活かしたいBR東京だったが、ハーフウェイ付近から仕掛けたアタックでこぼしたボールを奪われ、自陣深くまで侵入を許す。よく戻ってディフェンスしマイボールスクラムを得たが、ここで痛恨のコラプシング。埼玉WKはPKからのラインアウトモールを押しきってトライ。CVは不成功も5-25と点差がさらに開く。(後半24分)

「(後半は)アンストラクチャーのラグビーをしようとしてきた相手に付き合ってしまった」とSH山本が振り返ったのはこのあたりの流れか。前半に見せていたアタックでの手応えを考えれば、狙うべきポジションだったようにも思える。ただ、山本の言うように相手の土俵での勝負となったのも事実か。振り返れば互いに風下の陣地に回ったときの方がいいラグビーができていたわけだが、それこそが“付き合った”ことの証だったのかもしれない。

最終盤、BR東京はPKで敵陣ゴール前まで前進すると相手ボールのスクラムでFKを得る。LOロトアヘアポヒヴァ大和が小さく蹴りNO8ヒューズにパス。モールをつくるとそのまま左中間インゴールまで押し込みトライ。(後半38分)セットプレーからのフィジカルを活かしたトライで意地を見せたが、12-25でノーサイド。風上に回った後半に徹底すべきだったかもしれないプレーが最後に生まれたものの、チャンピオンチームからの勝利には手が届かなかった。

通算成績は5勝9敗となり順位は1つ下げて7位に。入替戦圏内脱出を懸けた激しい競り合いはまだ続くこととなった。次節は最後のホストゲームとなる。全てを出しきり歓喜の瞬間を迎えたい。

監督・選手コメント

ピーター ヒューワットヘッドコーチ

まずは堀江翔太選手の150キャップ達成、おめでとうございます。本当にすごいことだと思います。ゲームについては、選手たちには相手とのギャップはそんなに大きくないと伝えた。選手たちのエフォート(努力)を誇りに思う。あきらめない姿勢もよかった。差があったのは(被)ターンオーバーの数。うちが22で相手は10くらいだと思う。埼玉WKのような相手にそれだけのチャンスを与えてしまうと影響は大きい。それでも集中を切らさずに戦いトライ数では3対2。残りの10%をしっかり求め続ければ、差は詰めていけると感じた。埼玉WKは日本代表の選手、南アフリカ代表の選手もいる素晴らしいチームだが、人々が思うほど差は大きくない。選手たちをすごく誇りに思う。

(アイザック ルーカスをFBで起用した)アイザックはいい準備を続けてきていた。我々の戦い方を見ると、10番、15番は入れ替えやすい。プレーのコールなどのプレッシャーを少し減らせるかなというところはあった。今日のパフォーマンスはよかったのでは。

SH山本昌太

小さなところが最終的な結果に繋がったのかなと。ボールキャリーでのノックオン。ブレイクダウン。1つの判断。そういうものが積み重なっていって、スコアで相手を上回れなかった。ただ自分たちが今まで積み上げてきたもの、準備してきたものは何も間違ってないというのはこの試合を通して感じた。残りの 10% をどれだけ埋められるか。もう一度いい準備をして来週のゲームに向かいたい。

(風の影響が大きかったのでは?)確かにかなりの風を感じた。特に前半は風下の難しいコンディションだったが、自分たちとしてはプラン通りしっかり戦って、いい状態で後半を迎えられた。ただ、風上に立った後半は相手のリズムに合わせすぎた。テンポ。短いキック。アンストラクチャーのラグビーをしようとしてきた相手に付き合ってしまったのかなと。

(前半の終わり、攻め込んだがジャッカルで終わったシーンがあった)相手はかなりブレイクダウンにコンテストしてきていた。前半は自分たちもよくファイトして、そこからボールを動かせばチャンスを生み出せると感じていた。ただ、試合を通してターンオーバーをされてしまうケースが多く、さきほど言ったような小さなことが積み重なり、チャンスで獲りきれなかった。逆に相手はチャンスをしっかりものにしていた。そのあたりも自分たちに足りない10%になるのだと思う。

FL湯川純平

(風が強く、風下の前半は自陣から攻めていくような場面も多かった)風下であの点差(7-13)で終われたのは、悪くはなかったと思っている。このような天候になることは予想していて1週間準備してきていたこともあり実行力は高く保てた。でもフィニッシュの部分。相手にジャッカルを許してしまうことが多かった。

(相手はディフェンスからターンオーバーしてアンストラクチャーの状態で攻めるのが得意)そこに強みがあるチーム。自分たちもディフェンスは強みだが、ボールを動かし攻めるのも強み。今日はメンバーにFBルーカスのような選手もいたし、そこで挑む場面ができていた。

(後半の印象は?)ちょっとしたミスやエリアのコントロールでの小さな差がスコアに表れていた。慌てたわけではないが、自陣でミスが重なってしまったり、ユーズイットがかかっていたのにボールが使えず相手ボールのスクラムになってしまったりというケースが多かった。ただ、相手はチャンピオンチームではあるけれども、大きな差はなく小さなところを詰めていけば勝てる相手だと感じた。

(先発の機会を得た)自分の仕事は明確にわかっている。ブレイクダウン。タックル。アタック。それぞれの場面で相手に嫌がられる存在であり続けること。それを意識して臨んだ。

(自分にしかできない仕事が見えてきている?)アタックは得意というか、自分の中ではいい感覚でやれている。器用にというか、ハードにコンタクトするというよりは流れでずらしたり、パスのスキルを使ったり、そういうことで存在意義を発揮していけるように。そんなプレースタイルを意識している。

(ラストスパートの局面)自分たちは、今日の試合を含めた3試合のブロックに“No Regret(後悔しない)”というテーマを掲げていて、試合に向けた準備や試合でのプレー、エフォート、そういったところで後悔のないようと声をかけあっている。みんなすごく前向きで雰囲気はいい。ケガ人も出ているが誰もが自分の役割を果たそうとしている。全員が同じ方向を向いて進めていると思う。

CTB栗原由太

(前半、大きなトライを奪った)ミルキー(FBルーカス)にあのスペースに蹴ってほしいと声をかけていた。その通りにしてくれて、あとは僕がチェイスしてというシナリオだった。ボールは相手に一度入ったが、僕のところに転がってきたという。

(数少ないミスを突いた理想的なかたち)自分たちが風下でかなりプレッシャーを受けていた前半を頑張って耐えて、その終わりに7点を獲って終われたのは大きかった。

(風下の前半は自陣からボールを動かして攻めていくシーンも目立った。あれはプラン?)確かにボールは動いていたが、実はそうではない。相手はアンストラクチャーのラグビーが得意としているので、自分たちは風下であってもセットプレーから組み立ててというのをやろうと思っていた。

(グラウンドでの判断もあった)そう。ただそれでも前半はあの点差で終えられたのは収穫だし、戦い方としては上出来だったのかなと。後半はもう少し風上から攻める状況を使って相手陣地でプレッシャーかけることもできたと今は思う。もっとシンプルに相手陣地に入るキックを蹴って…。あれだけの風だったので、蹴り返しても陣地を取られなかっただろうし、カウンターアタックをされてもしっかりディフェンスをすれば敵陣でプレッシャーかけられる状況だったので。

(残り2試合。最終盤の戦いとなる)練習でのコミュニケーション、ミーティングでのコミュニケーション、どちらも密にとれていていい時間過ごせている。成長を見せて、いいかたちで終われれば。まずはトヨタV戦を、今日の反省を活かして戦いたい。

WTBシオペ タヴォ

(続けて出場機会を得ている。どんなことにフォーカスを?)アタックです。自分の強みなので。

(風下ということもあり、前半はボールをクイックに動かして攻める場面も。そこで存在感を見せていた)難しさはあった。でも、インターナショナルプレーヤーも多いチームに対しいいファイトができていたと思う。僕もトップレベルでプレーしている実感が湧いてきていて、少しずつだがステップアップできている。そのレベルに近づいていけていると思う。いいチャレンジになった。

(具体的に手応えを感じた部分があれば)チームとしてはディフェンスができていたと思う。個人としてはもっとボールを持ってアタックしたかった。それでもところどころでボールキャリーで前に出ることはできたかな。ノックオンもあったけれども…。それでもチャンピオンチームを相手にいいチャレンジができた。

(後半は相手が短いキックを蹴ってきたが、その処理にも走っていた)そうですね。

(残り2試合。大事なゲームとなるが)アタックをもっと見せたい。ディフェンスも個人としてはよくなかったので磨きたい。

 

■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=366

文:秋山健一郎

写真:川本聖哉

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