【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2022-23 第13節 vs.東芝ブレイブルーパス東京
2023.03.30
3人の外国人選手をFWに配置。雨中での肉弾戦への備え
第8節から6週連続で組まれた連戦をいかに戦うか。それぞれのチームがラグビーを熟成させてくる中盤戦以降の、真価を試される戦いの締めの一戦。リーグワン第13節、東芝ブレイブルーパス東京(BL東京)との今季2度目のゲームは、今週も雨の中でのゲームとなった。
リコーブラックラムズ東京(BR東京)は、試合開始間もない時間のアクシデントでメンバーの入替を余儀なくされたが、堅いディフェンスで失点を阻み終盤まで優勢に試合を進めた。しかしイエローカードが出て14人となった局面で逆転を許し10-12で惜敗。通算成績は5勝8敗、勝ち点25。僅差ながら今節も6位を守った。
前節はセットプレーが重要度を増す雨中のゲームに敗戦。今節も早い段階から雨が降るだろうという予報が出ており、セットプレーで大きな役割を担うFW陣の奮起がポイントとなることが予想された。そうした背景に加え、激戦でLOファカタヴァタラウ侍が負傷したことの影響から、今節は4つある外国人選手(カテゴリーB、C)の枠のうち、3つをFWに割り当てる策をとった。
PRパディー ライアン、LOマイケル ストーバーグ、NO8ネイサン ヒューズの3選手が、セットプレーとフィジカリティに長けたBL東京FWとのバトルをリードする役割を担い、一方のBKではCTB礒田凌平と栗原由太の若手選手2人が先発の座をつかむかたちとなった。
LOストーバーグが高く、鋭い動きでチームを牽引
東京・秩父宮ラグビー場は試合開始前の段階の雨足はそこまで強くはなく、気温もそこまでは下がっていなかったことから、前節に比べコンディションはわずかながら改善されたようにもみえた。それでもピッチの選手の様子からは、明らかにボールの扱いには注意を要し、スキルを用いるのが難しいことが見て取れた。
前半6分にアクシデント。BR東京陣内で攻めるBL東京のランナーを止めにいったCTB礒田が頭部を打ち退場。シオペ タヴォが入りWTBに。WTBのロトアヘアアマナキ大洋が12番の位置に入った。想定とは異なる時間帯の交替は生じたが、BR東京はフィールドポジションを強く意識し、キックを蹴ってディフェンスで圧力をかけていくかたちをつくるラグビーに持ち込んでいく。
存在感を見せていたのはLOストーバーグか。ラインアウトでの高さでの貢献はもちろん、こぼれ球に反応しボールを確保する動きなどでも鋭さを見せた。試合が止まったときには積極的にレフリーと言葉を交わし、基準を確認する姿もあった。
6週連続、かつ中5日のショートウイークでのゲーム。シーズン終盤に入りケガを抱え出場している選手もいるであろうことを考えれば、動きに重さが出てもおかしくない状況ではあった。だがリアクションのスピードなどでスタンダード以上のものを見せるBR東京。1つのブロックとして捉えてきた6試合の最後の試合で、力を出し切ろうとするメンバーたちのパッションが伝わるプレーが続いた。
互いにトライシーンはつくりだせなかったが、集中力を感じさせる時間が続き0-0のまま前半が終了。自陣に押しこまれ、ディフェンスで粘り続けるほかなかった前回対戦を思えば、テリトリーもしっかり確保できており、その差は間違いなく縮まっていた。
スクラムで圧倒。FWの力が均衡を壊す
そして後半、BR東京がスコアする。起点となったのはスクラムだ。後半3分、敵陣でのラインアウトを確保してFBマット マッガーンが蹴ったハイパントをBL東京が落球。ほぼ中央、22mラインを越えたあたりでスクラムを得る。ここでFWがスクラムを押し込み圧倒する。アドバンテージを得て攻めたのち、ショットを選択しPG成功。BR東京が3-0とする。(後半5分)
再開後、WTBタヴォのエッジを抜けるランで陣地を戻すと、ハーフウェイ付近の相手スクラムをFWが押しまたもドミネート。強まる雨の中で笛が鳴ると選手たちから歓喜の声が挙がった。
さらにFWが躍動する。PKで前進し22mライン付近に入るとラインアウトをキープしモールを組む。じわりじわりと押してドライブしていくと、そのまま20m突き進んでNO8ヒューズがグラウンディング。セットプレーを続けて制してのトライとCVで10-0とした。(後半9分)
後半の入りの連続スコアでリードを築いたBR東京だったが、ここからBL東京が反撃。雨の中でもボールをワイドに動かし、ディフェンスに穴をつくろうとするアタック。BL東京はハンドリングエラーを出しながらもこれにこだわり続ける。
そうしているうちに相手に傾いたモメンタムをなかなか取り戻せず、自陣で守勢に回るBR東京。そこで相手16番がギャップを突き、よく反応し捕まえにいったPR谷口祐一郎を雨の芝生の上でひきずってインゴールに飛びこむ。CVも決まり10-7となる。(後半18分)
痛恨の失点。再逆転のチャンスはつくったが攻めきれず
3点差となってのラスト20分。HO小池一宏、PR千葉太一、SOアイザック ルーカスを入れて勝ちきりにかかるBR東京。BKは傷んだWTBネタニ ヴァカヤリアが外れ、堀米が残り12番、アマナキ大洋が11番に移る布陣となる。アマナキ大洋は直後に脳震とうのチェックで一時退出し、ヴァカヤリアがピッチに戻るという混乱もあった(アマナキ大洋は32分に復帰)。序盤のアクシデントの影響がここで出た。
この状況で決勝トライを与えてしまう。キックアウトを狙うも距離が出ず、BR東京陣内でのラインアウトから仕掛けられたBL東京のアタックに、チームとして3つの反則が重なった。このディフェンスに対しイエローカード。3つめの反則(ノットロールアウェイ)を犯したCTB栗原が一時退出処分を受ける。(後半27分)
数的に不利になりながらもBR東京は粘り強く守ろうとしたが、雨中でもボールを動かすリスクを負いながらのBL東京のアタックがはまり、右サイドを破られてトライ。10-12と逆転を許す。(後半30分)
PGでも再逆転可能な状況での残り10分、BR東京は冷静に攻め手を探っていく。相手に傾いた流れを食い止め、敵陣に入っていくところまではできていた。だがPGの不成功、ラインアウトモールを組んだ場面で見せた偽走でFKを与えてしまうミスなどでチャンスを逃し、攻めきれない。最後はハーフウェイ付近のスクラムをキープされキックアウト。わずかに2点届かずノーサイドを迎えた。
序盤のアクシデントにも混乱を起こさずディフェンスのクオリティを保った。
前節セットプレーに苦しんだFWがしっかりと修正し圧倒する場面をつくった。
ペナルティの数を今季最少に抑えた。
成長をうかがわせる部分は、多くあった。守りきって勝つ。攻めきって勝つ。その両方のイメージは生み出せていた。2点というわずかなスコアの差は、パフォーマンスの差とほぼ一致していたようにも思う。本当にわずかな差だ。
「今日のように拮抗した試合のラスト 20 分でどんなプレーができるかは、これからのブラックラムズにとって重要なポイントだと思う」(SO/CTB堀米)
「リアクションが大事。こういうことが起きたあとに何をするか、フォローが大事」(FBマッガーン)
貫くべきことを貫く意思。その上でピッチで起きたことに正確にリアクションしていける対応力。わずかな差を詰めきるのに必要なものは、選手たちには明確に見えているようにも感じる。残り3試合。最終順位という結末が視界に入ってくる中での戦いは、これまでとは違ったプレッシャーも生まれるだろう。だが、積み上げてきたものを信じ、前に進めばいい。視界はクリアだ。
「トレンドマイクロ ウイルスバスター クラウド スペシャルナイター」として開催。試合終了後には特別表彰も
この試合はトレンドマイクロ株式会社の協賛による「トレンドマイクロ ウイルスバスター クラウド スペシャルナイター」として開催した。試合終了後には、トレンドマイクロ社より、この試合で身体を張ってチームに貢献した堀米航平選手に「Best Blocker賞」を贈呈した。
監督・選手コメント
ピーター・ヒューワットHC
自分たちのチームを誇りに思う。先週は 10% 足りていないところがあったが、それに対してチャレンジをして、しっかりとリアクションしてくれたと思う。ほぼ最初のプレーといっていいプレーで12番(CTB礒田凌平)が倒れてしまったが、水曜日にはCTB池田(悠希)に問題が生じていた。(結果的に12番を務めることになった)ナキ(ロトアヘアアマナキ大洋)も少し確認が必要な状態だったが、その中で80分間出しきってくれた。
いつも言っていることだが、誰が出るかはあまり重要ではない。そのときに選ばれた者が先発の役割を果たす。ナキやCTBシオペ(タヴォ)のような、今季はあまりプレーしてきていない選手がたくさんいたにもかかわらず、しっかりとパフォーマンスしてくれたことも誇りに思う。
とはいえ、もちろん勝つためにきたので、見直していく。ラスト20分は変えられたこともあったのかなと。違ったやり方をすれば、結果もまた違ったものになったと思う。選手たち気持ちを思うと悔しいが、誇りに思えるパフォーマンスではあった。
(最後に破られたが、いいディフェンスができていたのでは?)雨の試合なので、ディフェンス、セットピースをベースにつくっていかなければいけなかった。ほとんどのところでそれはできたが、ところどころスイッチオフしてしまった部分でやられてしまった。SO堀米(航平)が12番に入ることになるなど、いつもと違うポジションに入る選手がいたことは、ミッドフィールドのコネクションに影響したとは思う。
(あとはラインアウトの精度が上がれば)雨だと難しいところ。両チームともに思っていたほどの精度は出せなかったかもしれない。セットピースはベースとなるところなので、いつも磨いている。
(ケガ人が出ている中でも戦えている理由は?)昨季から取り組んできたことがだんだんとかたちになってきている。いい方向に進めているとは思うが、さらにTOPチームにプレッシャーをかけていきたい。スコッド、メンタリティなどはトップ4にチャレンジできるところに近づいている。ケガ人の多かった昨季チャンスを得て、今季もひきつづきよくやってくれている選手もいる。厳しい1年だったが、そこから学び、成長できたと思う
(SOアイザック ルーカスは天候の影響もあったと思うが、ボールを持つ場面が少なかった)入替はネタニ(WTBヴァカヤリア)が膝に問題が出て走れなくなったのがメインの理由。アイザックはいいアタックプレーヤーだが、今日のコンディションは合っていなかった。彼はまだ若く、成長しなければいけない部分はまだある。こういう天気のときのマネジメントのような。ただ、正しいエリアに入っていければ、彼のワンステップで状況を変えることもできる。もっと時間を与えたいと思っているが、ケガ人が増えてきて、外国人選手枠の部分との兼ね合いもある。
FBマット マッガーン
エフォート(努力)や気持ちの部分では問題なかった。ヒューイ(ヒューワットHC)も言ったように、いろいろなことがあった中で、(努力や気持ちを)見せることはできたとは思う。最後の数分にかかっていたゲーム。ちょっときついですね、僕は。
(キックゲームとなり負担が大きかったと思う)僕の仕事ではあるので。キックゲームを担当して、チームをガイドするというのは毎週やらなければいけない仕事。準備はしている。
(後半、14人になったあとボールを獲得してアタックを仕掛けた場面。こうしたかったというのは?)イエローカードは大きな決断だったと思う。ハーフタイムにも話したことだが、敵陣でプレーしたいと考えていた。インゴールドロップアウトをつくることができたので、それはうまくいった部分。こういうコンディションだったので、やはりボールを持ちたくなかった。そうしたところはうまくいったと思うが、何回か足りていない部分があったのかなと。
(ケガ人が出ている中でも戦えている。その理由は?)S東京ベイ戦や今日のような試合で競れている。チャレンジできている。あと一歩、個人のレベルのところだと思う。こうした状況を経験することが一番成長につながるもの。リアクションが大事。こういうことが起きたあとに何をするか、フォローが大事。
(雨の中訪れた多くのファンにメッセージを)金曜日の夜に、暖かい部屋でテレビで観戦を楽しむという選択肢もある中で、会場に来て応援してくれるのはありがたい。日本のラグビーを支えてくれていると感じています。
PR千葉太一
(FWとして、意地を見せたいゲームだったのでは?)天候も天候なので、ロースコアになる、セットピースが大事になるというのはみんなわかっていた。スクラムもラインアウトでBKにちゃんとしたボールを供給しようということで1週間やってきた。ラインアウトはうまくいかなかったなと。スクラムは最初はよかったが、最後の最後で相手に組まされてしまった。FW戦になるのは目に見えていて、その通りになった。むこうのFWも消耗していたと思うが粘りきれなかった。こちらも最後の20分でうまくエリアが獲れず、またラインアウトが重要なところで獲れなかったり、変なところでペナルティ出してしまったり、そういうのが続いてしまったので、そこは修正したい。
(6週間というブロックを意識して戦ってきた。どんな期間だったか?)ディフェンスとセットピースを中心に積み上げていこうとしてきたが、その成果がだんだんと試合で出るようになってきた。 今日は6週間の最後の試合だったのでピークを持ってこようという話をして、ディフェンスはよく機能していたと思う。セットピース、スクラムも(期間)全体を通して見たら、うまくいくようになったのかなと。
選手主体になってきた。受け身ではなくて、選手側からああしよう、こうしようという言葉が生まれるようになってきたところに成長を感じる。経験のあるPRパディー(ライアン)が加わって、いろいろなことを教えてくれている。週に1度、パディーが主催でフロントローの若手選手を集めて話し合う場がある。そういう機会なども活かしながらFWとして積み上げることができていると思う。
LOマイケル ストーバーグ
FWパックに外国人選手が3人入ったので、リーダーシップを見せなければいけないと思っていた。相手のFWにはNO8リーチ(マイケル)など日本代表の選手がいて、彼らとやるわけなので、そこのレベルに達さなければと思った。個人としては同じ背番号の対面の選手(日本代表のLOワーナー ディアンズ)としっかりと戦うことを意識した。
(試合が止まっている時間には、レフリーと熱心にコミュニケーションをとっていた)レフリーは素晴らしく、盛んにコミュニケーションを取っていた。自分はラインアウトのジャンプで気をつけなければいけない点を聞いた。何がOKで何がOKじゃないか。間違ってしまったところもあったが、よかった部分もあった。
(セットプレーが鍵を握る状況が続いている)先週の静岡BR戦ではチームを失望させてしまったところもあったと思う。その状況で選ばれたので、セットピースをしっかりやらねばという思いは強く、みんなもいい反応みせてくれた。ラインアウトでも、スクラムでも、ドミネートする場面をつくれたと思っている。
(カテゴリーB、Cの選手のハイレベルな競争に身を置いている)確かにレベルは高い。多くの選手がプレーできる状態であることもレベルを高めている。グッドではダメで、毎試合その上を目指さないと競争に勝てないと感じている。ただ、仲間なので。互いに信頼している。試合に出場するメンバーがベースをつくるが、日々のトレーニングでプレッシャーをかけることで、出場せずともパフォーマンスに影響を与えることはできる。選ばれたときにはそうした仲間に対する責任があると思ってプレーしている。
(チームでは6週間というブロックを意識してきた)成長できたし、自信がついたと思う。自分たちがやりたいと思っているラグビーを見せることができた場面も多かったので。若いチームなので時間が大事。努力を続けていれば時間が経つほど成長することができる。天井はない。だからやり続けること。Just keep improving.
(最終盤を迎える。チームに必要なマインドは?)改善、成長を見せ続けること。開幕戦で相模原DBとやったときのことを振り返れば、自分たちが成長してきたのは明らか。次の埼玉WKは無敗。トヨタVもいいラグビーを見せている。次こそは勝ちたい相模原DBも含めタフなチームとのゲームが3試合続くが、自分たちがどれだけ成長できたかをみせるチャンスだと思って戦う。
SO/CTB堀米航平
先週の反省を活かして戦ったが、ラスト 20 分はもう少し上手く戦えたかなというのはある。ただ、不測の事態が起きたあとにチームとして対応力は見せられたので、この経験を必ず次に活かしたい。
(ラスト 20 分の戦い方が大きかった)前半はすごくよく戦えていたので。チャンスはたくさんあったが、相手ボールになってしまったりしてチャンスを生かせなかった。今日のように拮抗した試合のラスト 20 分でどんなプレーができるかは、これからのブラックラムズにとって重要なポイントだと思う。
(12番でのプレーも)昨年も12番でプレーすることはあったので、パニックになるようなこともなく自分の役割を果たすことを考えていた。
(ゲームコントロールという強みはどのようにして築いてきたのか)日々の練習から徹底して、意識して、練習や試合が終わってからノートに書き出したりもしている。あとでチェックして、あそこにスペースが空いていたのになんで蹴らなかったのだろうとか。そういうことをずっと続けることで安定してきて、視野が広くなりスペースを見る力がついたような気がする。
(今日のゲームでノートに書こうと思っているプレーがあれば)映像を見ないとわからないけど……自陣でボールを持ったとき、しっかりキックアウトしなければいけないのにノータッチで相手に捕らせてしまって少しピンチになった場面があったので、それは書きたい。
■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=365
文:秋山健一郎
写真:川本聖哉