【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2022-23 第12節 vs.静岡ブルーレヴズ
2023.03.22
「ボールの欲しくない日」
前節で交流戦を終えて迎えたリーグワン第12節は、カンファレンスでのリーグ戦が再開された。秩父宮ラグビー場での静岡ブルーレヴス(静岡BR)とのホストゲームは雨中の激闘となり、リコーブラックラムズ東京(BR東京)は15-19で惜敗。通算成績を5勝7敗とし勝ち点は24に。トヨタヴェルブリッツ、コベルコ神戸スティーラーズと並んだが、得失点差で上回っていることから6位をキープしている。
「今日は『ボールが欲しくない日』という感じだった」と、試合後のピーター ヒューワットヘッドコーチは振り返った。80分間雨が上がらないコンディションでのゲームは、どうしてもハンドリングエラーのリスクが高まり、自分たちからアタックを仕掛けてトライを奪っていくことが難しくなると予想された。互いに長短のキックを使い、フィールドポジションを得ようとしたり、相手にボールを持たせディフェンスでプレッシャーをかけることで決定機をつくろうとするプレーが続く、晴天に恵まれることが多かったこれまでのゲームとは明確に異なる様相を呈した。
HO佐藤の相次ぐ好判断が起点となり2トライ
先制は静岡BR。BR東京陣内浅めの位置での攻防で、ハードなタックルからジャッカルを狙う動きに素早く移行したNO8ネイサン ヒューズにホールディングの判定。静岡BRはPGを狙い成功。0-3となる。(前半5分)
直後にBR東京が反撃。PR谷口祐一郎が相手陣内でキックチャージ。跳ね上がったボールがBR東京に入ると、ラックを経てSH髙橋敏也が裏のスペースにキック。鋭いチェイスでプレッシャーをかけると静岡BRがゴール前にラックをつくりボールを守る。
このラックの後方にボールが出たのを見逃さなかったHO佐藤康が鋭く飛び出して確保を狙うと、相手5番が身体をぶつけオブストラクション。この佐藤のペナルティを誘うプレーがきっかけとなり、ラインアウトモールでのNO8ヒューズによるトライが生まれBR東京が5-3と逆転。(前半7分)
HO佐藤はさらにスコアに絡む。ハーフウェイ付近の静岡BRのラインアウトがオーバーし佐藤の手に収まると、すかさずキックを蹴り相手の最終ラインを背走させる。ゴール目前で14番が追いついたが、雨で滑るボールとFLアマト ファカタヴァのチェイスによるプレッシャーが影響しノックオン。このプレーで得たゴール前スクラムが起点となりNO8ヒューズがこの日2度目のトライ。CVも成功し12-3とする。(前半15分)
ヒューワットHCから「スポンジのように吸収している」とその成長を称えられていたHO佐藤。ゲームタイムを伸ばす中でさらなるレベルアップを果たしている。
キックの応酬とプライドを懸けたフィジカルバトル
静岡BRは前半22分にBR東京陣内に蹴り込んだキックを連続で確保してトライ。BR東京も28分にPGを返し、15-10として前半を終える。
今季の勝利を支えてきたパターン。前半を堅く我慢し、後半にテンポを上げて突き放すラグビーを見せるためのベースはつくったが、雨天でプレーが切れやすい状況は選手のフィットネスの負荷を下げていたとみられ、これまでとは違う状況があったようだ。結果的に静岡BRは「選手が十分走れている」(堀川隆延HC)との判断から選手の入替を行わずにゲームを終えている。BR東京もSOアイザック ルーカスら一部のフィニッシャーの入替は後半31分といつも以上に試合が深まってからだった。
そんな背景と雨の中でも確実な前進につながりやすいという条件から、キッキングゲームとFWが中心となった身体のぶつけ合いが繰り返される後半となった。BR東京がこれまでの戦いでの激しいフィジカルバトルで結果を残すことで自信を深めてきた一方、静岡BRにとってもその領域は長くプライドとしてきたものでもある。互いの意地を懸け、力で接点を制し局面を打開しようとするバトルが続いたが、どちらかに流れが向かうことはなく、がっぷりと組み合ったまま時間が流れていった。
“たられば”ではあるが、BR東京のラインアウトがあと1本か2本クリーンキャッチできていればディフェンスを打ち破るかたちがつくれていたのではないだろうか。そんなギリギリのところで成立しているようにも映る均衡だった。
スクラムペナルティで与えたPGが決勝点に
結局後半はトライが生まれず、試合を決めることになったのはペナルティだった。静岡BRは後半5分にBR東京ゴール前の攻防での反則(ノットロールアウェイ)で1本、19分にBR東京陣内中盤のスクラムで押し勝って1本、そして35分にもスクラムペナルティで1本、計3本のPGを決め9点を加え逆転。スクラムでのプレッシャーがスコアにつながったかたちとなった。静岡BRは犯したペナルティも後半はわずか3(前半6)で、いずれもハーフウェイ付近でのもので、BR東京はPGを狙うチャンスを得ることができなかった。
それでもノーサイド直前、BR東京はNO8ヒューズが「最後のプレーだから出しきろう」とFWを励まして臨んだというハーフウェイ付近のスクラムを押し込み、ペナルティを奪った。直後のラインアウトが乱れ逆転を懸けたアタックを仕掛けられずにゲームは終わってしまったが、意地は見せた。
2年目のリーグワンも残すところ4試合。なお激しい順位争いを演じているチームは、大きなプレッシャーの中で戦うタフな状況が続く。負傷者も試合ごとに増えており、選手たちは文字通り体を張り、身を削りながら戦っている。次節の相手の東芝ブレイブルーパス東京とのゲームも間違いなくフィジカルなゲームとなるだろう。
チームに引き継がれてきた“DNA”を信じ、瞬間瞬間にフォーカスして戦ってきた2023シーズン。その結末に大きな影響を与えるであろう正念場。BR東京は再び1つとなって、これに挑む。
監督・選手コメント
ピーター・ヒューワットHC
まずはブルーレヴズにおめでとうと伝えたいです。本当にタフな相手というのはわかっていたが、今日は彼らが上回っていた。スクラムなどからしっかりゲームをつくり、いいキックも使っていた。特に最後の20分は私たちのブレイクダウンにもプレッシャーをかけてきた。自分たちも、いつもが100とするなら、そうではなかった。少しずれがあった。そこは残念だった。
(敵陣の深くまで何度も入った。仕留めきれなかった理由は?)静岡BRも同じように深くまで入っていた。やはり雨の日はディフェンスが大事で、アタックが難しい日。ボールをつないだりスピードを上げたりするのが難しくなるので、オープンなラグビーにはならなかった。そこは常にレベルアップしようと思ってやっているが、今日は「ボールが欲しくない日」という感じだった。こういう日はセットピースからつくっていくことが大事だが、そこのバトルには静岡BRが勝ったということ。
(ハーフタイムに伝えたことは?)前半は悪くなかったが、少し足りていないところがあったのでそれについて伝えた。
(後半、互いに攻め込めず中盤で戦う時間帯があった。どんなことを考えていたか)雨が降っているときはフィールドポジションがすごく重要。後半開始直後にフィールドポジションを与えて、ポイントを与えて、という状況になった。その後22mラインの間で戦ったが、やはり雨を考えるとボールを持たずにプレーしたかった。しっかりディフェンスして、ペナルティをもらって、セットピースを使ってというゲーム。深い位置からのランでゲームを変えるようなゲームをする日ではなかったと思う。
(試合の入りはいいかたちがつくれている。何か働きかけを?)スタートをよくするための方法は常に探しているが、自信があるといいスタートが切りやすいというのはある。トレーニングでもいろいろな変化を与えてみたりはしている。
FBマット マッガーン
個人レベルのところで少し(課題があった)。チームとしてやりたいことができなかった。このリーグのレベルは高く、少し足りないパフォーマンスで戦って勝てる場所ではない。いいパフォーマンスもあったが、まだまだであるところもあるとがわかったと思う。
PR西和磨
静岡BRが真っ直ぐぶつかってくるのはわかっていた。少し足りなかったのはマインドセットなのか…。最後のスクラムで意地は見せられたが、やっぱりスイッチが入るのが遅かった。もっとできたのではないかというのが率直な思い。
(スクラムがポイントとなる試合だった)これはシーズンを通してやってきたことだが、1本1本のスクラムを大事にして、8人でコネクションをとってやっていこうと。ただ、静岡BRの特徴的なスクラムに対し、タイトに真っ直ぐ組みたいところだったが、広がってしまったりして振られてしまったりした。ステイブル(安定、固定)にフォーカスしていて、フロントローとしてはよいプラットフォームをつくり後ろからの力を伝えられるようにと思っていたが、そこがうまくいったスクラムもあったが、うまくいかなかったスクラムもあった。
(根比べが続いた。どんなことを話していたか)こういう天候の中なので、小細工せずにフィジカルでと話していたがうまくいかなかった。相手のゴール前までいってもペナルティで終わってしまったりしたので、確実に獲りきれるように修正していく。
(雨の中ではあったが、失点は少なくディフェンスはできていた)フォワードバトルになるとわかっていたゲームで、そこで勝ちきれずトライを獲れなかった。またペナルティが続いてしまった。今日はそういうところだと思う。タイトなゲームでは特に重要なところなので。
NO8ネイサン ヒューズ
チャンスはあったがつかみきれなかった。自分たちがコントロールすべきところをしきれなかった。シンプルなミスもあった。個人的な部分もチェックしたい。こういう天候ではセットピースゲームになるものだが、そこで五分で終わってしまい上回れなかった。必要なことができていなかったのでしっかりレビューしたい。
(試合前のハドルで最後にコメントしていた)コントロールできるところをコントロールしようと話した。小さなこと。キャッチ、パス、正しいラインを走ることはコントロールできるので。だが、それが10パーセント足りなかった。
(最後のスクラムでも士気を高めていた)自信を持ってやれれば、ああいうスクラムもできるということ。皆が辛く悔しい思いをしたが、また強くなって戻ってくる。
SH髙橋敏也
(試合の入りはよかったが、雨の影響に苦しんだ)自分たちはボールを動かすアタックをやってきていたので。ただ、フィジカルを前に出せればこの天候でも問題はなかった。敵陣に入ってアタックを継続できれば、いつものようにボールを動かさなくてもうまくいくと感じていた。最初はモールでも手応えがあったので。ただ、特に後半、セットプレーで後手に回ってしまって得点すべきところで得点できなかった。雨の影響もあったが、細かいところで自分たちのスタンダードが落ちてしまった。ボールキャリアのキャッチ、パスであったり。相手もブレイクダウンでジャッカルを狙って絡んできていたので、2人目、3人目の寄りをいつも以上に速くしなければいけなかった。そこでは相手が集中力を切らさずによくやっていた。
(SHとしてはじれったい展開だった)相手は激しくきていたし、これまでの静岡BRの試合結果を見ても、ロースコアのゲームになるのはわかっていた。でも、仕留めきるべきところで仕留められなかったなと。あとは自陣でペナルティを犯しショットされてしまったが、敵陣で戦えていたら、そうはならなかったとも思っている。
WTB栗原由太
チャンスは多くはない中で、BKができることを常に考えていた。ボールがきたときには強いキャリーをしよう、1つひとつの仕事をしっかりしようと。
(接戦の時間が続いた。どんなコミュニケーションを)シンプルだった。キックをしっかり蹴ってディフェンスから流れをつくって。トライは獲られていなかったのでいいディフェンスはできていた。やっぱりペナルティの部分とセットピースが安定しなかったこと。
(長い時間プレーするチャンスをつかんでいる。前節からプラスアルファできたことがあれば)天候も違うので比較が難しいが、コミュニケーションの質は上がってきていると思う。
(次節に向けて)アタックでは参加するところで相手の脅威になりたい。ディフェンスではラインスピードが本当に大事だと思うので、まずはトークでFWを外に開かせること。僕の声や態度も重要になってくると思うので。
PCAクラウドマッチデーとして開催。試合終了後には特別表彰も
この試合はピー・シー・エー株式会社の協賛による「PCAクラウドマッチデー」として開催。試合終了後には、ピー・シー・エー社より、この試合で輝いたプレーをしたネイサンヒューズ選手に「PCAクラウド賞」を贈呈した。
■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=364
文:秋山健一郎
写真:川本聖哉