【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2022-23 第9節 vs.花園近鉄ライナーズ
2023.03.02
HO佐藤康とPRパディー ライアンが初出場
リーグワン第9節。10位からの浮上を目指すリコーブラックラムズ東京(BR東京)は12位の花園近鉄ライナーズ(花園L)を駒沢に迎えホストゲームを戦った。リーグワンでは初の対戦となる花園Lに前半は我慢を強いられたが、後半はアグレッシブかつ精度のあるアタックでトライラッシュに。今季最多となる10トライ、64点を挙げ勝利し、通算成績は3勝6敗に。勝ち点を14に伸ばし順位を9位とした。
この日は前節苦しんだセットプレーの修正という責務を背負い、新鋭とベテランが出場機会をつかんだ。2シーズン目のHO佐藤康と1月に加入したPRパディー ライアンだ。トレーニングで可能性を示した若手選手には臆することなくチャンスを与えるピーター ヒューワットヘッドコーチだが、経験面をサポートできる存在も同時にフィールドに立たせる配慮も見せる。BKではSOアイザック ルーカスをSH山本昌太とCTBハドレー パークスといった豊富な経験を持つ選手で挟みルーカスが思いきってプレーができる環境をつくったが、今回の起用も近い意図を感じさせるものだった。
そのほかにも、LOファカタヴァタラウ侍が今季初、CTBシオペ・タヴォが加入後初のメンバー入りを果たし、チームに新たな風を吹かせた。
流れを変えたSH山本昌太が組んだハドル
前半、風上の陣地をとったBR東京は前半2分に自陣からのPKで前進。ラインアウトモールをドライブしHO佐藤がトライを奪う最高のスタートを切る。しかしその後、自陣でラインオフサイドを犯しPGで失点。さらにディフェンスの偏りを突かれ、エッジでゲインを許したのを足がかりにトライを奪われ7-10と逆転される。(前半11分)
その後もペナルティが重なり、うまくフィールドポジションを獲得できない。風上ながら主導権を握れないまま時間が過ぎていく。試合後にヒューワットHCが「頑張ろうとすればするほど(反則が)増えていくサイクルになっていた」と説明していたのはこの時間帯のことだろう。攻守のブレイクダウンでフィジカルに挑もうとする姿勢が、ノットリリースザボールやノットロールアウェイを招いていた。(前半21分)
反則が続きレフリーから注意を受けたSH山本が選手を集めて声をかける。直後の相手のPGが外れ、インゴールドロップアウトからの花園Lのアタックをしのぐと、流れが変わる。自陣からのラインアウトを押したのち、FBマット マッガーンとWTBネタニ ヴァカヤリアのコンビネーションでエッジをゲインし敵陣へ。そしてスクラムを押しこんだところで相手9番にプレッシャーをかけたSH山本がボールをこぼれ球を奪いトライ。PGも決まり14-10と逆転。(前半32分)
SH山本が組んだハドルまでの約20分でBR東京が重ねた反則は6。その後の20分に犯した反則は3。試合の中で規律意識の引き締めに成功したBR東京は、リードを守って試合を折り返すことに成功する。
佐藤とライアンが持ち味発揮。後半は8トライの猛攻。
後半もBR東京が先にスコアする。風下の自陣からボールを回しアタックを仕掛けるとギャップをFLアマト ファカタヴァが抜けゲイン。敵陣でフェイズを重ねると、CTBパークスのオフロードパスを受けたFL柳川大樹が抜けて中央にトライ。(後半3分)
さらに「モメンタム(試合の流れ)の関係上すごく重要なものだった」とPRライアンが試合後に語ったHO佐藤のジャッカルでPKを得ると、ここから攻めラインアウトモールで後半2つめのトライを奪う。押し出されかけたモールの動きをよく見て加わり、うまく押し戻したPRライアンの技術も光った。(後半7分)
2つのトライで主導権を握ったBR東京は、取り戻したセットプレーの安定感をベースにラインブレイクを繰り返し、さらに6トライを奪う猛攻。後半28分にはSH山本の背後から鋭く走り込みパスをもらったFL湯川純平が公式戦初トライ。同33分には豪快なランを見せたWTBヴァカヤリアからパスを受けたCTBシオペ タヴォにも加入後初トライが生まれた。後半だけで50点を奪ったBR東京は64-10で今季3勝目を手にした。
トライラッシュと同じくらい印象に残った「我慢強さ」
今季の1位から4位までを占める相手に続けて挑むタフな期間を終えても、その日のゲーム、目の前のプレーにフォーカスする姿勢は解かないということを明確に示した一戦だった。試合後の選手たちから聞こえてきたのは「我慢」という言葉だ。
泥臭く挑んでいく姿勢から勝利への道を切り拓いていく。後半のトライラッシュももちろんだが、うまくいかなかった前半の我慢強さや、自分たちのペースとなった後半も全く落ちなかったワークレートや精度を維持したハンドリングなども印象に残った。
大差のついた試合終盤、突破を許した相手のランナーを追いかけノックオンを誘ったFLアマト ファカタヴァの姿勢などは今のチームを象徴するものだろう。ヒューワットHC はアマトを「もっといい選手になれるということに自分でも気づき始めている」と評したが、これはBR東京の全ての選手に言えることだ。誰もが心から成長を信じ、願い、チームと自分にフォーカスできる。それが今のBR東京というチームの強さであり、観ていてワクワクするラグビーを創り出す力の源泉となっている。
監督・選手コメント
ピーター・ヒューワットHC
自分たちのパフォーマンスに満足している。トップ4のチームとの対戦が続いていたが、自分たちがそんなに遠いところにいないということを感じながら、成長するために日々ハードなトレーニングを続けてきた。選手たちのそうした姿勢を誇りに思う。2週間くらいタフな状態が続いていて、月曜日には厳しめのレビューをした。その結果、皆が誇りに思えるようなパフォーマンスを見せることができた。彼らの頑張りを思うとすごく嬉しい。
(前半はペナルティがかさんだが修正した)それはハーフタイムにメインで伝えたこと。前半は期待していたほどうまくはいかなかった。それはペナルティの数が理由で、頑張ろうとすればするほど増えていくサイクルになっていた。システムを守ったり、自分の仲間を信じたり、そういったところのディシプリンは保てていて、エフォート(努力)のところは疑う余地はなかった。そういった印象も伝えながら修正を求めた。
ペナルティについては、準備の段階でも毎週話をしている。先週は選手たちがリードしてくれた。自分たちでお互いにフィードバックできるのは健全な状況。ポイントは本当に細かい部分なので、自分たちがそれぞれ責任を持ってやろうという話をしていて、その成果を試合で見せられたと思う。
(初先発のHO佐藤康のプレーについて)素晴らしかった。この6週間くらいいろいろなことをスポンジのように吸収している。パソコンを使ったりしながら。PRパディー ライアンが一緒に組んでいたこともプラスになっていたと思うが、コウ(佐藤)自身のスクラムのリードもすごくよかったとパディーからは聞いている。
(FLアマト ファカタヴァがプレイヤーオブザマッチに)彼も本当に素晴らしい選手。ラインブレイクやボールキャリーに目がいくと思うが、118kgという大型のバックローでありながらウイングぐらいのスピードで走り、ボールがないところでも多くの仕事をしているのはすごいこと。チームとして助けられている。成長も見せていて、もっといい選手になれるということに自分でも気づき始めている。まだまだビッグになれる選手。準備の段階から変わってきたと思う。チームメイトを助けたいという献身的な姿勢もある。
SH 山本昌太ゲームキャプテン
ラインアウト、スクラム、モール。今日はFWで勝った試合だと感じている。結果が出たことも嬉しいが、タフなゲームが続く中、厳しいレビューをして、厳しいことも言い合いながら、チームとしてバラバラにならずにコネクトして、前向きに準備できていることが誇らしい。そういう部分でもチームとしての成長を感じる。場面場面で必要なリーダーシップを発揮してくれる選手がいて、それを受けた他の選手はしっかりついていこうとする。チームは本当によくまとまっている。
(前半にはトライも)あのトライはスクラムでのプレッシャーがトライにつながったもの。ほぼFWのトライだったと思う。
(前半はペナルティかさんだが修正した)3つぐらいペナルティが続いた場面があったが、そのタイミングでレフリーとコミュニケーションとり、時間をもらい、ペナルティによって自分たちがプレッシャーを受けている現状をまず共有し、その上で修正した。ハーフタイムでも同じ話をして、それが後半につながったと感じている。
PRパディー ライアン
(前節ではスクラムに課題が出た。どんな修正をしたか?)東京SGのスクラムはシーズン当初からよく、先週もよかった。それに対しこちらがベストなスクラムを組めなかったということ。だから、そんなに大きく変えたわけではない。FWパック全員が1週間、必要なことをやれたことがいいパフォーマンスにつながった。
素晴らしかった選手としてHO佐藤康の名前を挙げたい。スクラムでの高さ。そしてラインアウトのスローもよかった。ターンオーバーもいくつか獲ったが、モメンタム(試合の流れ)の関係上すごく重要なものもあった。
(チームでの役割をどう考えているか?)カテゴリーCの選手は、自分のポジションの仕事を高いレベルで果たすことが役割だと思う。(限られた枠の中で)選ばれて出場しているわけだから。PRの自分であれば、スクラムでのパフォーマンスということになる。
(後半のモールでのトライでは、押し出されそうになったところをうまく導いた)ラインアウトを相手の8番に読まれていて、対応する必要があった。
HO佐藤康
セットプレーで反省点があったので、そこを少し修正できて結果が出たのでとても嬉しい。自分としてはセットプレーを安定させることと、ディフェンスで誰よりもタックルにいくことを考えていた。まだまだ満足はできないが、チームとしての結果は出たので、次節もいい準備をして頑張りたい。
(スクラムではどんなことを意識していたか?)とにかく8人でいいヒットしようと。そのあとのプッシュはパディーさん(PRライアン)のおかげ。パディーさんにはフッカーにとって大切なことなどを教えてもらっていて、ポジティブな言葉で背中を押してもらっている。こうきたらこうするといったような技も多く持っている選手。
(試合前のウォーミングアップは淡々と。HO武井日向とも話していた)そう見えたかもしれないが、すごく緊張していた。練習通りやればいいと言い聞かせていた。そんなときに武井さんは「とにかくミスを恐れず、プレーを楽しめばいい」と言ってくれた。
LO柳川大樹
相手は激しく来るからしっかり我慢する。我慢していれば穴ができてくるはずなのでそこを狙う。そんなプランだったが、その通りにできた。ディシプリンの部分はまだ課題が残るがホッとしている。
(週の始めに厳しいレビューがあったとのことだが)前節のゲームはFWのせいで負けたといってもよかった。セットピース、特にスクラムでのペナルティが多かったので、FWは自分たちがやるしかないと考えて準備した。そこはできたと思う。でも、今日は今日で終わりなので。
(モールなどは攻守で一体感を保ってきた。PRパディー ライアンの経験も加わりトライも生まれた)システムをみんなが信じやり続けていられている部分。(PRライアンは)世界的な選手でもあるし、いろいろな場面でリードを取ってくれている。
FLアマト ファカタヴァ
今日はディフェンスから、その後にアタック。相手が一番激しく来る最初の 20 分を我慢すること。そうすれば後半にチャンスが来ると考えていた。前の試合はセットピースがよくなくて月曜日から修正した。スクラムとラインアウト、どちらも少し変えた。ボールコントロールができていたと思う。
(素晴らしいプレーが続いている。意識していることは? コンディションもいい状態がキープできているのでは?)ボールキャリーとディフェンス。自信を持ってプレーできていると思う。コンディションはめっちゃいい。来週はまた難しいゲームになると思うが、しっかりリカバリーしてまた頑張りたい。
FL湯川純平
チームとしても負けが続いているけれど、その中でいい部分もあるという状況。FWとしては先週少しよくなかったが、全員が高い意識を持って挑んできた結果が表れたと思っている。バイウイークが明けてからの6週間のブロックはいいスタートがきれたので、いい方向に進んでいきたい。
(競争に挑む立場でシーズンが始まったが、しっかりと準備し続けてきたことを示している)試合に出ていても出てなくても、やることは変わらない。常にいい準備、いいリズムをつくっていくことが大事だと思っている。練習が終わってからのコーチからのレビューなどを通じて自分で気づけないところに気づかせてもらっている。そういうサポートのおかげでいい準備ができている。
(今季意識していることは?)「相手にとって嫌な存在」であり続けること。ブレイクダウン。タックル。アタック。そのどの場面でもずっと「こいつ嫌だな」と思われるようなプレーを目指している。チームにはレベルの高い選手がたくさんいるが、各々自分に果たせる役割がある。それを見つけて遂行していくことに高い意識で取り組みたいと思っている。
(公式戦初トライ。ゴール前で鋭く走り込んだ)走りながらスクラムハーフとコミュニケーションをとって。今まであまりやってこなかったプレーができた。
■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=361
文:秋山健一郎
写真:川本聖哉