【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2022-23 第6節 vs.クボタスピアーズ船橋・東京ベイ

2023.02.02

SOアイザック ルーカスが第2節以来の先発

リーグワン第6節、5試合を終え8位のリコーブラックラムズ東京(BR東京)は、2位のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(S東京ベイ)と対戦。ラストプレーまで勝敗がわからない大接戦となったが、わずかに届かず38-40で敗れた。BR東京は7点差以内での敗戦で得られるボーナスポイントを獲得し勝ち点1を積み上げたが、前節終了時点から順位を1つ落とし9位となっている。

強いフィジカルを武器に勝利を重ね、首位争いに加わる躍進を見せている難敵に対し、BR東京はSOアイザック ルーカスを第2節以来の先発として起用。ピーター ヒューワットヘッドコーチはその意図について、「全員で戦うのが私たち。誰が出ても責任を果たしてくれる」とあまり詳しくは語らないが、「ゲームコントロールなどを磨いてくれた。準備ができた」と説明した。ルーカスの無二のアタック力でやや後半に偏っていた得点力を均したいという思いや、鋭く前に出てくることが多いS東京ベイのディフェンスとの相性を考慮した可能性などもあるだろう。

ただ、フォーカスポイントとして挙げられていた80分間パフォーマンスの質を保つこと、特にディフェンスにおけるコネクト(連係)を切らないことから察するなら、泥臭いディフェンスで我慢を重ね、終盤にプッシュして競り勝つラグビーというプランはこれまでと同じだったはずだ。貫かれるチームとしての大きなプランの中で、個々に異なる選手の強みでアクセントをつけながら戦う。そんなスタンスでBR東京はリーグワンに挑んでいる。

大量失点にも冷静に対処。キックで前に出てチャンスを創出

15人が連動して守備網を維持し強いランナーたちの突破を阻んでいこうというテーマにおいては、うまくいったとはいえない試合の入りとなった。前半4分に自陣のディフェンスで反則を犯しPGを許すと、11分、13分と続けてディフェンスが破られ失点。18分にも巧みなキックでゲインを許すと、ラインアウトモールからのキックパスでトライを喫し、前半20分を前に0-24と大きなリードをつくられた。

この後、31分に相手10番の故意のノックオンにイエローカードが出て数的優位に立ち、BR東京は2本のトライを返して息を吹き返したため、カードで試合の展開が変わったようにも見えたが、実際には3つめのトライを失ってからの約10分の冷静な戦いぶりが流れを引き寄せていたようにも映った。

タッチを狙った相手のペナルティキックがラインを割らず、これを確保し蹴り合いを仕掛けじわりと前進。ハーフウェイ付近から焦ることなくフェイズを重ねながら、背後のスペースを見つけてはキックを蹴っていく。相手ディフェンスを後退させ、スペースが生まれても強引に仕掛けず我慢強く継続して敵陣に入ると、状況の打開を狙った相手のランナーを捕まえペナルティを奪う。想定外の展開が訪れても、今自分たちがなすべきことに集中する。開幕戦で見せることができなかった姿を、今のBR東京は見せている。目に見えてわかる成長だ。

 

BKが見せた決定力。24点差の逆転に成功

ラインアウトモールからのトライ(前半33分)と、SOルーカスからのフラットなパスを受けたFL柳川大樹のブレイクで奪ったトライ(36分)で14点を返したBR東京は、14-24で試合を折り返す。

入りこそ再び主導権を奪おうとするS東京ベイが激しく攻めたが、BR東京もハーフタイムを挟み積極性を高め規律を修正したディフェンスで応戦。ブレイクを許してもカバーを続け決定機にしない。後半8分、自陣中盤のラックでFL柳川がボールを奪うと、これを起点に右サイドをブレイク。WTBメイン平が敵陣10mを過ぎたあたりで前方へキックを放つと、内側をフォローしたSOルーカスにボールが入り右中間にトライ。ディフェンスでの全員のハードワークからチャンスをつくりだし、22歳と23歳の若き才能が仕留める最高のトライで21-24と詰め寄る。

直後に1トライを返されたが、後半21分に敵陣でのラインアウトからSOルーカスがギャップを抜けてトライ。27分にも鋭いキックチェイスを仕掛けたWTBネタニ ヴァカヤリアがこぼれ球を拾ってビッグゲイン。ゴール目前で捕まったが、すかさずフォローして走っていたCTBハドレー パークスに渡しトライにつなげた。

そして4点差を追う30分、ハーフウェイ手前のタッチライン際でボールを持ったWTBヴァカヤリアから内側のFBマット マッガーンにつなぐコンビネーション。さらにマッガーンがキックを自分で押さえ左隅にトライ。38-37として前半につけられた24点差の逆転に成功した。

ルーカスを核とするBKが、託されたボールをスコアにつなげ確かな決定力を見せた後半は終始BR東京が主導権を握っていたといっていい。

「しっかり前を見る」ことが生み出す強さ

しかしながらゲームはその後、PGで再逆転を許し38-40でノーサイドを迎えた。苦い結末となったが、才能、ハードワーク、連係。そのすべてにおけるレベルアップをうかがわせるトライを重ね相手を追い詰めた。見える景色が大きく変わる目前のところまでやってきている。勝負事を語る際にはふさわしくない表現なのだろうが、“期待が膨らむ”敗戦だった。

「なんでそんなにラインブレイクできるんだと思う?」

身も蓋もない質問だが、率直な言葉が聞きたくてSOアイザック ルーカスにそうたずねたことがある。ルーカスは連動して動きディフェンスをひきつける仲間たちの仕事を称えた後に答えた。

「すごく簡単にいうなら、しっかり前を見ているからだと思う」

出場すればあらゆるチームが警戒するほとばしる才能も、顔を上げ、前を向き、置かれた状況を見極める。そんな、誰もができることの徹底に支えられている。その感覚は今のチームが大事にしていることと重なる部分があるようにも思う。瞬間瞬間にフォーカスし、やるべきことをやる。個々が責任を果たす。勝利はその先に、ある意味で「当たり前」に、ある。

監督・選手コメント

ピーター・ヒューワットHC

すごいゲームでした。最初の20分はよくなかった。今週フォーカスしていたディフェンスも消極的で。でも、ファイトというところにはすごいものを感じている。本当に誇りに思う。やらなければいけないことはいろいろとある。一番大変なのはカルチャーやアティテュード(姿勢)をつくっていくことだが、そこの部分についてはよい状態にあり、誇りを感じている。絶対にあきらめないチームだと思うので。レビューは最初の20分にフォーカスして行いたい。

(イエローカードが出たところでトライが生まれた。それが好転するきっかけになった)やろうとしているラグビーが変わったわけではない。もう少し早い時間に1、2本獲れていたら。エッジのところのアイザック(SOルーカス)と(WTBメイン)平がいい場面をつくっていたので。シンビン(一時退出処分)が出たときは、テンポアップを図りたいと考えていた。それができる選手もいたので。

(SOルーカス、SH髙橋敏也が先発。そのプランニングについて)アイザックはリザーブに入った2試合で自分のゲームを磨く時間ができて、準備が整ったと考えた。23歳という若い10番が母国語ではない言葉を使うチームを動かすのは大変なこと。でもゲームコントロールの部分などをよく磨いてくれたと思う。

(髙橋)敏也はプレシーズンに少しチームを離れていた時期もあって、スキルを磨いてもらいながら、自分たちのラグビーを理解してもらうというところを続けてきた。いい成長を果たしてくれていたが、今日はグラウンドでそれを見せてくれた。後ろのスペースも見えるようになってきていて、キックも使えている。9番としては大きな選手なのでディフェンスでもいい働きを見せてくれている。

(ペナルティについて)ブレイクダウンペナルティがあった。S東京ベイがハードに絡んできていたので、テクニックのところはビデオを見直したい。ただ、ハーフタイムで少し修正できていたとは思う。

FL/NO8 松橋周平ゲームキャプテン

今日はありがとうございました。最後はああいう結果になってしまって、全員が悔しい気持ちでいっぱい。でも、最後までファイトし続けたチームメイトを誇りに思う。この悔しさを必ず次につなげたい。前半の入り20分は自分たちがやりたいことから離れてしまった。タフなリーグでしてはいけないこと。(苦しい状況でも)常に自分たちでコントロールできるところはある。そういう姿勢を前半20分から見せなければいけない。この悔しさをぶつけて、次の試合からは前半の入りから試合が終わりまでブラックラムズのラグビーを見せたい。

(ペナルティについて)かなり意識してやっていたが、自分たちでコントロールできるものでもプレッシャーがかかると守れなかった場面もあった。オフサイドをしてしまったり。ブレイクダウンもリアクションのスピードやフィジカルが足りなかったりしていた。修正していきたい。

FL/LO 柳川大樹

(第2節以来の出場。そしてクリーンなブレイクからのトライ)チームと常にコネクトしてやり続けてきたので、違和感はなくやれました。トライは気持ちよかったです。

(試合の始めに失点したが、そこから巻き返せた)埼玉WK戦で得た教訓から、チームでずっとコネクトし続けることを意識していて、そういう声をかけあっていた。ただ、1on1で差し込まれる場面もあったのでそこは直したい。

(次節は横浜キヤノンイーグルス戦)プレッシャーもありますが、頑張ります!

NO8 ネイサン ヒューズ

(インパクトプレーヤーとして出場するとき、意識していることは?)前半の流れを見たり、今この瞬間、何が起きているかを集中して見たり。やはりみんな疲れてくる時間帯なので、うまくエナジーを加えられるように。あとは自分の仕事をすること。ボールキャリー。タックル。BKがアタックしやすいプラットホームをつくることにフォーカスしている。

(ターンオーバーも)BR東京はボールを持って動かすスタイルのチームなので。ボールを奪えるのはたまたまではなく、あれも練習の成果。そこもチームとして磨きながらやっている。

(ゲームを重ね、チームやチームメイトへの理解も深まっているのでは。BR東京とは一言で言うならどんなチームか?)ファミリー。自分は家族と一緒に日本に来たが、組織全体、選手も、スタッフも、ファンもみんな温かく迎えてくれた。僕がプレーするときは、兄弟たちと戦っているつもり。

SO アイザック ルーカス

今日はチームとして80分間通じて、いいパフォーマンスを見せようということにフォーカスしていた。ただ全ての時間うまくいったとは言えない。部分的にはできたけれども。

(後半30分、逆転のトライを演出した)ネッツ(ネタニ ヴァカヤリア)がWTBにいるが彼は脅威になれる選手。彼に渡せれば特別なものを生み出してくれる。相手にダメージを与えるようなパスを出すことも大事にしている。

(ディフェンスの近くでさばく難しさは)いいラインスピードで見せてきていたので気になるときもあった。だが、いいアタックができていたときはラインスピードに対応できていたように思う。

(ヘッドコーチからはリザーブとして出場している期間に成長があったという話が)僕もまだ23歳で当然まだ完璧ではない。ハードワークしながら、自分のベストバージョンになれるように務めている。

WTB メイン平

前半の最初のミスが結構得点につながって、自分たちが課題にしていたディシプリンが足を引っ張っていた。ただ、そこを修正すれば自分たちもいいポジションにいけるはずだという感じがあった。ただ自分たちでコントロールできるオフサイドやハイタックルというペナルティもあったので、厳しくレビューして減らしていきたい。オフサイドについてはディフェンスラインから一歩下がってから上がろうという話をしているが、しんどくなったときには一歩前に出てしまっている。外側の余裕のある選手として声かけをしっかりやっていきたい。

(個人的な感触は)今季からWTBを始めて、外に立つことが多いポジションなので、試合に入り込めないケースが少し続いていて、コーチと話しながらどこで内側に入ればいいか、ゲームに加わっていけるかを考えているところ。

(苦しい状況から巻き返した。それを導いたグラウンド上のコミュニケーションなどあれば)トライを獲られても焦ることはなく、ディフェンスは修正できるという自信があった。「簡単なエラーをなくそう」という話をしていた。アタックに関しては通用している部分があったので、「継続できれば絶対に獲れる」と話していた。

(BKとしていいかたちがつくれたのでは?)シーズンの序盤はBKで獲れるところで獲れなかったり、チャンスがあったのにボールを回さなかったりと判断上のミスが多かった。今日はミスしてもいいから思いっきりいこうと話していた。展開すべきところで展開できたのはよかった。

■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=358

文:秋山健一郎

写真:川本聖哉

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