【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2022-23 第5節 vs.埼玉ワイルドナイツ

2023.01.25

5試合を終えて8位。悪い流れを断ち切った「今」と「自分たち」へのフォーカス

リコーブラックラムズ東京(BR東京)と5つのチームが属するカンファレンスAの対戦が一巡する第5節。首位を走る埼玉パナソニックワイルドナイツ(埼玉WK)とのゲームは、粘り強いディフェンスでスコアを阻み食らいついたが、前半の終わりに奪われた2つのトライで主導権を握られ17-38で敗戦。通算成績は2勝3敗(勝ち点8)となり、BR東京は8位で前半戦を終えた。ここからはカンファレンスBのチームとの交流戦6試合を戦う中盤戦に入っていく。

カンファレンスAでは埼玉WK(勝ち点21)、三菱重工相模原ダイナボアーズ(勝ち点15)、東芝ブレイブルーパス東京(勝ち点15)に次ぐ4位。開幕から2連敗というスタートとなったが、それをひきずることなくうまく切り替えて2勝を挙げた。「今」と「自分たち」にフォーカスするマインドセットが浸透し、チームは試合ごとにレジリエンスを高めているように映る。

前半終了目前で失点。一瞬の隙を逃さないチャンピオンの集中力

埼玉WKが風上、BR東京が風下の陣地で戦うことになった前半は、互いにキックを多く使うゲームメイクでチャンスをうかがった。埼玉WKがBR東京のペナルティを突き3本のPG(9分、16分、28分)で9点を奪った一方、BR東京も2度PGを狙い(前半11分、19分)、2本目をFBマット マッガーンが成功させて3点を返した。

前半だけで10、後半も含めると18に達したBR東京が犯したペナルティは、この試合の行方に大きく影響した。最も多かったのは5つを記録したオフサイドで多くがラインオフサイドだったが、ボール奪取を狙ったインテンショナルノックオンやラインアウトでモールディフェンスを早めに仕掛けてしまったものもあり、規律の乱れの背後にはボールを持ち攻める埼玉WKにプレッシャーをかけたいという強い思いもうかがえた。

3本のPGを決められながらも、PKをタッチに出しトライを狙ってきた場面ではゴール前でしぶとく守り、結果的に相手に思うようにスコアを重ねさせずに前半終了間際まで試合を進めたBR東京だったが、わずかな隙を突かれる。

前半37分、SO堀米航平が敵陣にキックを蹴り込むと、相手の15番がキックパスを左サイドに蹴り展開。これを13番がキャッチ。ディフェンスが薄くなっていたオープンサイドを破られ、7番、9番とつながれて左隅にトライを許す。

さらに40分にもハーフウェイ付近で蹴ったショートパントで裏を取りディフェンスをかく乱すると再びタッチライン際を13番に走らせてゲイン。11番、15番が巧みなランを見せまたもインゴール左隅に達した。

ペナルティをトライに結びつけるのではなく、アンストラクチャーからのアタックという自分たちの強みを生かしてトライを奪ってみせた埼玉WK。チャンピオンチームに凄みと集中力を見せつけられ3-23と一気に点差を拡がったところで前半が終わる。

意地の2トライで反撃。WTBヴァカヤリアは3試合連続トライ

BR東京はSH山本昌太を髙橋敏也に入れ替え後半へ。風上の陣地に回りなんとか反撃を見せたかったが、後半も埼玉WKが先にスコアする。後半8分、BR東京は自陣のブレイクダウンでのペナルティで前進を許すと、埼玉WKがBR東京陣内中盤のラインアウトから攻める。後方から勢いよく走り込んだ11番に持たせてブレイクすると、そのまま中央にトライ。3-30となり点差がさらに拡がる。

直後にBR東京はFLブロディ マクカランとSOアイザック ルーカスを投入。さらに19分にはフロントローを一気に入れ替え、PR西和磨、HO小池一宏、PR千葉太一を送り出し流れを変えにいく。

後半14分に相手10番にイエローカードが出て優位を得ていたBR東京だったが、巧みな対応で埼玉WKは目立った不具合を見せることなく試合を進めていたが、一時退出が解ける直前の後半22分、BR東京がトライを奪う。

WTBメイン平のキックを相手が足に当てて蹴り出して得たラインアウトで前進。これをキープして敵陣中盤でFW、BKが一体となってフェイズを重ねていく。これに14人で対応する埼玉WKのディフェンスにわずかに生まれたスペースを、FBマッガーンからのパスを受けたWTBネタニ ヴァカヤリアが鋭く抜け、これを追ったマッガーンに戻すコンビネーションで左中間にトライ。CVも決まり10-30とする。

さらに後半27分、敵陣で得たラインアウトをキープすると、SOルーカスがダミーランナーの背後から走り込んだWTBヴァカヤリアにパス。ヴァカヤリアはディフェンスを貫き、そのままポスト直下に飛び込みトライ。17-30とした。

連続トライで勢いに乗りかけたBR東京だったが、埼玉WKは後半33分にBR東京のラインオフサイドで得たペナルティでPGを決めて勢いを削ぐ。直後にダメ押しのトライも奪い17-38。試合はそのままノーサイドを迎えた。

モールディフェンスに見えた一体感とハードワークの意識

「現在地を知ることはできたと思います」。試合後、ファンとコミュニケーションをかわす西辻勤ゼネラルマネジャーに、カンファレンスAの5チームとの対戦を終えたところでの所感を聞いた際の返答だ。表情は明るい。

選手やスタッフ、そして多くのファンも近い思いを抱いたのではなかろうか。チャンピオンチームとの力の差は確かにあった。ミスも出た。だが、「すべてを出し切ることができれば……」というポジティブなイメージが湧き起こらなかったわけではない。多くのラグビーファンに驚きを与えうるポテンシャルの脈動は、試合を重ねるごとに確かになってきている。

この日であれば、繰り返し青いジャージを押し返したモールディフェンスか。1人でもサボればあっという間に押し込まれるプレーだが、試合を通じ意思を共有しハードワークし続けることで強みをもたらした。日本代表クラスのキックに長けたBKを併用してきた相手とのキッキングゲームでも渡り合ったし、後半に自分たちの時間をつくりだすというプランも、第2節以降しっかりと遂行できている。負傷選手も出ているが、代わって出場したメンバーが役割を果たし、徐々にだが選手層層の厚さも生まれている。そして、これらの強みにはまだまだ成長の余地がある。チャンピオンとの再戦は4月。大きく成長を果たし、次こそは肉薄したい。

監督・選手コメント

ピーター・ヒューワットHC

選手たちのことを誇りに思います。ハーフタイムで3-23となりましたが、しっかり反撃してくれたからです。(埼玉WK)はチャンピオンチーム。それには理由がある。日本代表の選手やワールドクラスの選手がたくさんいる。そうしたチームに勝つには80分間いいパフォーマンスを続けなければいけない。今日の私たちが続けられたのは65分くらい。80分ではなかった。ハーフタイムに入る前の10分が効いたと思います。改善しなければいけないことはあります。埼玉WKのような質の高いチームに対し、ターンオーバーを許せばダメージを受けることになるし、規律が守れずフィールドポジションを与えれば、そこは逃さない。ただ、来週に向けていいところもありました。

(オープンサイドを使うなどしながらランでブレイクされた前半の2つのトライ、どうやったら防げたか)キックチェイスは25分から30分くらいまではよかった。そこからタイトになってしまった。ウイングがいつもより内側に寄っている状態だった。向かい風が強い中で3-9ですからキック自体は完璧だったと思う。1分スイッチオフしたところでやられてしまった。

FL/NO8 松橋周平ゲームキャプテン

ありがとうございました。ビジターゲームで連勝したことでチームは自信つけ、勝てるという意識で試合に臨めた。風下だった前半を3-9で折り返せていたら気持ちにも余裕が生まれたと思うが、残り10分で得点されてしまった。それでも後半は風上から攻めていこうとしたが、自分たちのターンになりかけたときにラインアウトなどでミスが出て、相手のターンに戻されるというのを繰り返してしまった。埼玉WKのような相手とのゲームでは1つひとつのプレーの精度を上げて、80分間やり続けなければいけない。埼玉WKと接戦に持ち込めていたチームはそれができていたと思う。どうやったら自分たちのラグビーができるのかはわかっているので、それをやるだけ。しっかり修正して、常に自分たちにフォーカスして、ブラックラムズのラグビーができるようにやっていきたい。

(ラインアウトでミスが出た。埼玉WKを想定した準備の影響か?)シンプルに自分たちのミス。そういう準備もしてきたけれども、サインミスだったりナレッジの足りなさだったりで責任を果たせなかった。いいボールが出たときにはトライに直結した場面もあったので、それは大きかったと思う。

(お互いにキックを使うゲームになったが、アンストラクチャーに強い埼玉WKを相手によくやっていた。スコアされてしまったのは残念)システム的にはやりきっていたと思うが、隙を与えてしまった。プレッシャーをかけているところでキックパスを蹴ってくるのは想定しておらず相手が一枚上手だった。

(モールディフェンスがうまくいっていることが勝利や好ゲームにつながっている)強みになっている部分。僕らの責任なので。1人ひとりが役割を遂行したら止められると自信を持ってやれている。どんな場面でも全員が自分の仕事をしなければいけないし、それができていない瞬間があるとそれが得点につながってしまったりする。全員が責任を持ってやることが大事。

PR 谷口祐一郎

チャンピオンが相手でも、勝つことのできた2試合のような戦いができればいい試合にできるという思いで臨んだ。(ディフェンスで)プレッシャーをかけていくことが鍵と考えていたが、80分間ずっとかけ続けることはできなかった。それが今回準備してきたことでできなかったこと。

(先発の座をつかんでいる)1番なのでやはりスクラムが大事になってくる。昨季からビルドしてきたスクラムで力を見せられるように、人一倍練習しているつもり。(今日も序盤にスクラムでペナルティを奪うシーンも)こっちとしてはしっかりセットアップをつくって相手に当たりにいくというのをやっていて、しっかり当たれていたので、相手がプレッシャーに負けて落ちた。そういうところはよかった。今は相手がどうこうというより、8人で真っ直ぐ押していくという自分たちのスクラムをすることにフォーカスしている。

SH 髙橋敏也

今日は40分間出場したが、40分間自分のスタンダードを示し続ける一貫性という部分に課題を感じた。パスミスもしてしまった。チームとしてもそうで、いい流れが来てもペナルティで流れを失ってしまっていた。隙を見せないこと。

(アタックを仕掛けようとしたときなど、味方の選手の動きやプレーの精度に成長を感じることは?)それはすごく感じる。何をするべきかがクリアになってきている。まずはエリアを獲って、敵陣に入ったらFWとBKが一体となって攻める。その連携もうまくいっているように思う。

SO 堀米航平

チャンピオンチームが相手だったので、うまくいかないことがたくさんあった。学んだことが多くあった試合。本当に細かいところ。ボールキャリー。反則。瞬間瞬間を100%でやらないと強いチームには簡単にボールを奪われてしまうということなどを改めて学んだ。

(ジャッカルを防ぐには?)倒れたら早いので、倒れる前にもう少しだけ我慢できれば。フットワークを使ったりして。(前半に奪われたトライについて、守り方はあったか?)うまくスペースにボールを蹴られてしまった。アンラッキーな部分もあった。

CTB ハドレー パークス

後半にいいトライを2本決めることができたし、学びのあるゲームだったと思う。(埼玉WKは)彼らがなぜいいチームであるのかを見せてくれたと思う。どこからでもダメージを与えられるチーム。特にハーフタイム前の攻撃はそれを証明するものだった。

(BR東京にどんなものをもたらしたいと思ってプレーしているか)コミュニケーションをしっかりとって、小さなことを高いレベルでやる。ディフェンスでもアタックでもリードしていきたいと思っている。若い選手が多いチームなので、自分の知識や経験を伝えて彼らを助けられたらと。

(相手の攻撃をスローダウンさせていた)狙っていたこと。それができれば各自がポジションに入れるので、ラインスピードも上がりやすくなるので。

■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=357

 

文:秋山健一郎

写真:川本聖哉

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