【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2022-23 第4節 vs.静岡ブルーレヴズ

2023.01.18

マット テイラーアシスタントコーチの“勝利のレシピ”

「今は研究が進んでいて、多くのキックを蹴ったチームが79%の確率で勝つと言われているんです。さらにターンオーバーされる回数を少なく抑えることもできると、その確率は84%まで上がる。キックを蹴り、相手のエラーを誘うディフェンスをする。これが今のラグビーにおける“勝利のレシピ”なんです」

リーグワン第4節、リコーブラックラムズ東京(BR東京)は静岡ブルーレヴス(静岡BR)に34-22で勝利。連勝で勝ち点を8とし、順位を9位から8位に上げた。

負傷したHO武井日向に代わり大西将史が先発。HOのリザーブに小池一宏が入った以外は前節からメンバーを動かさず臨んだこの日のゲームはFBマット マッガーンとSO堀米航平らがキッキングゲームを繰り返し挑み、相手も応戦。ここで優勢を得たことが勝利を引き寄せた。

戦いを終えて思い出したのは、今季よりチームに加わったマット テイラーアシスタントコーチの冒頭の言葉だ。クイーンズランド レッズのスーパーラグビー制覇を支え、スコットランド代表やオーストラリア代表でも長い指導歴を持つディフェンスのプロ。その統計を用いた指摘の正しさを、実感と共に理解することができたゲームでもあった。

高い精度のキックでつくったチャンスを足場にスコア

前半は大きなリードをつくることに成功した。ゲームキャプテンを務めたFL松橋周平、WTBネタニ ヴァカヤリア、FBマッガーンによる3つのトライと1本のPGで22点を奪ったが、いずれもBR東京から仕掛けるかたちで蹴ったキックでの前進が効いていた。

前半16分に自陣でラインオフサイドを犯しPGで3点を失った直後、敵陣に入ると激しく前に出てくる相手を見たSH山本昌太がその背後を突くキックでゴール前に前進。ラインアウトにプレッシャーをかけるとペナルティを奪ってPGにつなげた。

前半28分の映像確認を経て認められたFL松橋のトライも、SO堀米がハーフウェイ付近から深めに蹴ったキックの処理を相手が手間取ったところに詰めてボールを奪うプレーによるゲインが前段にあった。これを起点にしたアタックが相手のイエローカード(故意のノックオン)につながり、直後のトライを生み出した。

次のWTBメイン平の裏へのキックからのWTBヴァカヤリアのトライ(前半33分)も、SO堀米の自陣からロングキックを嫌った相手のレイトチャージによるペナルティが足場となった。続くFBマッガーンのトライも、自らの50-22(ハーフウェイラインの手前から蹴り、バウンドを経て22mラインの先でタッチに出すキック)によるビッグゲイン後、激しいディフェンスのプレッシャーの中でも正確にパスをつないだBK陣によるアタックから生まれた。多くの効果的なキックがチームの力を引き出し、スコアにつなげた前半だった。

ペナルティは前半だけで10を数え規律に苦しんだ面はあった。だが、キックを通じたエリアマネジメントの成功は、規律の問題が失点につながるリスクを下げてもいた。

連続スコアを許し苦しい展開。流れを変えたキックチャージ

ハーフタイムで静岡BRはSHとSOを入替。異なるハーフバックスと対峙することとなった後半は我慢の時間で始まった。後半8分には、深いキックを受けてカウンターアタックを仕掛けてきた相手15番へのペナルティでゴール前ラインアウトを与えてしまい、静岡BRが強みとするスクラムで繰り返しプレッシャーを受けゴールを割られた。

後半17分にはゴール前スクラムからの連続攻撃を受け8番に左中間へのトライを許し、22-15まで追い上げられる。この前段にあったのが、自陣深い位置でキックを確保したBR東京の仕掛けに対し、静岡BRがランナーに激しくプレッシャーをかけて生まれたペナルティ。

どちらも前半であれば蹴っていたかもしれない局面だったが、後半に入り変化をつけようという互いの判断が試合に影響を与えるかたちとなった。ここでは静岡BRに流れが向かっていた。

インパクトプレーヤーを入れ、もう一度試合の主導権を握ろうとしたBR東京にとって大きかったのは後半19分のCTBハドレー パークスのキックチャージだ。戦術眼とスキル、フィジカルを併せ持ちフィールドで様々な役割を果たしてみせるベテランが、15番のキックを完全に読みきって見事にブロック。

これで相手をゴールラインまで押し戻すと、ドロップアウトをキャッチしてNO8ネイサン ヒューズ、SOアイザック ルーカスらのアグレッシブなアタックにつなぎ流れを取り戻す。そして久々の公式戦出場となったHO小池のジャッカルで得たペナルティからPGを決めて点差を拡大(後半22分)。このスコアで苦しい流れを食い止めた。

後半28分にハーフウェイ付近の相手ボールのスクラムからこぼれたボールをSH髙橋敏也が拾い足にかけたが、相手13番がこれを足に当てる。前方に転がったボールを自ら拾いそのままインゴールまで走りきりトライを奪われる。28-22と詰め寄られたが、こうしたアクシデンタルなトライを奪われてもなお6点差を維持できていたことは、ここまでのゲームマネジメントの成果でもあった。

31分に再びイエローカードが出て数的優位を得たことも助けになったが、PGを狙えるポジションでの攻防に持ち込み、相手の規律を突き、またはジャッカルによって繰り返しペナルティを奪う戦いぶりからは、勝負を決する最終盤でも揺るがない冷静さがうかがえた。

チャンピオンに挑む次節。「ファンに誇りに思ってもらえるプレーを」

小雨が降り出した最終盤を経てBR東京は34-22で勝利。プレイヤーズオブザマッチにはマット マッガーンが選ばれた。

キックにこだわったゲームとなったが、得たチャンスをしっかりと活かせていたのはFW、BKともにハードワークやスキルの精度、そして判断といった要素のレベルが着実に高まっているからだろう。静岡BRが仕掛けてきたタップスタートにもスイッチオフせず対応する反応からも、しっかりと試合に入り込む高い集中力が感じられた。

SOとして2試合続けて先発をまかされ勝利に貢献した堀米に対し、ピーター ヒューワットヘッドコーチは「ゲームプランを理解して、こちらがやってほしいことをしっかり遂行してくれた。フィットしていた」と評価。次節の埼玉ワイルドナイツ(埼玉WK)戦に向けては「失うものはない。ホームのファンの前で彼らに誇りに思ってもらえるようなプレーをしたい。いいチャレンジ」と笑顔を見せた。

チームはここから上位勢との戦いが続くが、インパクトを与えるための準備は整った。BR東京がシーズン中盤戦の主役に躍り出て、ムーブメントを巻き起こす。

監督・選手コメント

ピーター・ヒューワットHC

こんにちは、皆さん(日本語で)。勝つことができて嬉しい。80分間のバトルになると思って準備してきたがその通りになった。いいスタートが切れて、コンバージョン(チャンスを成果につなげること)ができなかったものの、辛抱強く戦えた。特に前半の後半20分がよかった。規律はもう一度見直しが必要だが、この2週間、ビジターチームとしてフィジカルなチームと戦って勝てたのは本当に嬉しい。シーズンがスタートしてからずっと頑張ってきた成果が表れてきたと思っている。

(前半の後半、3トライが獲れた要因は?)ゲームプランは敵陣で戦うというもので、相手にシンビンも出て、テンポを上げようというメッセージを伝えていて、それに対してのリアクションがよかった。BKがいいトライを決めたが、今日はFWがすごくよかった。ハーフタイム前のラストモール(LOロトアヘアポヒヴァ大和がボールに絡んだもの)もかなりのビッグプレー。チームのファイトする力、そこが今正しいレベルにある。

(プレイヤーズオブザマッチに選ばれたマット マッガーン選手のプレーの評価は)素晴らしい。すごいよかった。(日本語で)選手としても成長しています。カルチャーのところ、自分のプレーをしっかり理解していること、そういう部分でチームをリードしていて、チームにとって大事なメンバー。今日もゴールキックを含めキックがよく、ディフェンスでのリードやコミュニケーションでもスタンダードをリードしてくれている。

FL/NO8 松橋周平ゲームキャプテン

今日はありがとうございました。本当に勝ててよかった。ビジターゲームでの連勝はかなり大きい。僕たちは昨シーズンから開幕戦まで負けが続いていたので、この2連勝というのは自信につながる。あとブラックラムズとしてやるべきことがチームに浸透してきたのかなとも思う。

勝ちはしたが、修正しなければいけないところもある。特にあの後半の入りはキャプテンである僕が反則をしてしまいチームを乱してしまうこともあった。ブレイクダウンにコミットしすぎずタックルに集中するなどマインドセットを変えて次の試合は修正していきたい。

(フィジカルな相手に2試合続けて勝つことができた。昨季との違いはどこにあるか?)マインドセットの部分。すごくいい準備ができているので、我慢するときは我慢して、出すエリアでは出すという。それがしっかり浸透してきて、フィジカルの強みが出やすくなってきている。ブラックラムズのラグビーがどういうものかをもう1回全員で再確認して、それをしっかり実行することができている。

HO 小池一宏

(ケガでプレーできなかった約1年、考えていたことは?)チームに戻ったときにスクラムの強さなど自分の強みをどう出して、どうチームにフィットしていくかを考えていた。

(久々の公式戦だったが)少しだけ緊張したけれど、その時その時にフォーカスすることでそれも解けていった。まずは目の前で起きていることに対処しようとした。スクラムを修正したいと思ったが、もう少し。フロントローで相談しながら解決していくためのプランをもっと持たなければと感じた。それでも、やっぱり公式戦の雰囲気は気持ちよかったです。

NO8 アマト ファカタヴァ

今日勝てたことに、まずは神様にお礼を言いたいと思います。そして、静岡BRさんにもお礼を言わなければいけません。本当にいい試合になったと思っています。ありがとうございました。今日はプロセスにしっかり沿って戦い、プロセスに立ち戻れたというのが勝因。

(それは後半の苦しくなった場面のこと?)いや、前半から。確かに勢いに乗って終わることを目指している後半は、特にプロセスに戻ることは大事だが、前半から意識していた。

(個人として今日のゲームで意識していたことは?)ボールキャリー、チョップタックル、ディフェンス。そして自分をプッシュし続けること。全ての試合がタフだが来週の試合は特にタフなものになる。いい状態で試合に臨みたい。

SH 山本昌太

前節で勝てたことは、自分たちが積み上げてきたものが間違ってなかったという自信になった。前半はプラン通り戦えてよかったが、課題は後半。プランから離れてしまう場面もあり苦しい戦いになった。ただそれでも、勝って次の試合に進めるのはチームにとっては大きい。

(後半、少し嫌な流れになったがうまく取り戻した。どんなコミュニケーションが?)試合前から相手がチャレンジしてきたときに、自分たちがやるべきことを見失わないようにという話をしていた。ディフェンスが上がるとか、キックを蹴ったらしっかりスプリントするとか、当たり前のことをしっかりやろうと。今、チャレンジされているということに気づいて正しく対処できたのはチームとしての成長だと思う。

(首脳陣からはゲームマネジメントを評価しているという声があった)チームがどういうラグビーをしたいのかを理解して、グラウンドでそれに沿ったプレーをするスキルだったり判断だったりは自信のある部分。今のチームであれば、ボールを動かすというのは強みですが、求められているのはそれを正しいエリアですること。蹴り合いになったときにもしっかり付き合って前に運んでいこうという話はしていて、敵陣に入ったらFWがハードワークするというのも含めて、それはできている。

FB マット マッガーン

(たくさんスコアした)いいチームパフォーマンスだった。僕は僕の仕事を遂行しただけ。FWパックが強くいってくれて、BKラインの強いディフェンスもあって、そういうプレーがあったおかげ。

(50-22が出て、その後トライにつながった)結構、練習しているキック。それが使えるポジションだったので蹴った。準備がよかったですね。あの場面は相手のBKにシンビンも出ていたのでBKでプレーするべきかなと。ゲームドライバーがスマートでした。

(HCはディフェンスの指示についても評価していた)僕の仕事の一部なので、毎週やっていきたい。

(キックが大事な戦いになった)静岡BRは強いセットプレーを持つチームなので、ボールインプレーを意識して、キックアウトではなくロングを選んだりした。自分たちの強みであるディフェンスを信じて。

(勝ちきれるチームになってきた。そのためにしていることは?)自分の強みにフォーカスすること。キックとキックチェイスが強みだと思っているので、それで正しいエリアでプレーすることに貢献しようとしている。ランばかり仕掛けて自分たちで自分たちの首を絞めるようなことがないように。チームとしても同じ。自分たちがどういうチームなのかをしっかり理解して、自分たちにできることを信じる。それを大事にしている。

■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=356

 

文:秋山健一郎

写真:川本聖哉

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