【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2022-23 第3節 vs.トヨタヴェルブリッツ
2023.01.12
受け身になっている。僕らがどういうラグビーをしたいのかが大事
年末年始を挟み2週間を空けての第3節に向けて、リコーブラックラムズ東京(BR東京)は、課題に適切に対処した。第2節で格段に改善されたブレイクダウンをさらに力強いものにすべくリアクションの速さを上げることや、プレッシャーをかけられたラインアウトのシンプルな方向への調整などに取り組んだという。
「ここまでの2試合は自分たちが受け身になっていた。僕らがどういうラグビーをしたいのかっていうのが重要」(FL松橋周平)
「我慢強く、正しいエリアで戦えるように蹴りまくった。FWを前に出して前でディフェンスさせれば、ジャッカルに強い選手もいるのでうまくいく」(SO堀米航平)
今季初先発を果たした2選手の試合後のコメントが、この日のBR東京が意識していたことを教えてくれる。前節は接点の強さを取り戻したことで失点が減少。高いフィットネスとリザーブがもたらすインパクトで終盤に反撃を見せた。ただ、自陣に押し込まれる時間が長かったことから、多くの時間の主導権を相手に握られた。その結果スコアのチャンスも限られたものになっていた。SO堀米とFBマット マッガーンというキックに強みを持つ選手の先発起用は、エリアを獲りそこでFWのフィジカルを生かすことで主導権を握り、前節でも見せた終盤の優位性を活かして勝ちきる――。そんなビジョンがうかがえるものだった。
「接点」「エリア獲得」「セットプレー」での確かな成長
ゲームは互いにPGでスコアを重ねていく展開で始まる。3分にトヨタVのFWの強いキャリーに巻き込まれるかたちで密集から立ち退けずノットロールアウェイ。22m手前からのPGでトヨタVが先制。
BR東京も12分、自陣からのアタックで右に展開。WTBメイン平がエッジをゲインすると相手にオフサイド。40mのPGをFBマッガーンが成功させて3-3。その後も互いに1本ずつPGを成功させ6-6と均衡が続く。
最初のトライは32分にBR東京に生まれた。自陣のラックでターンオーバーを見せるとFBメインがラン。ここで相手が犯したペナルティを使って敵陣へ。さらにPKでゴール前まで前進すると、CTBハドレー パークスをラインアウトに並ばせる奇策を繰り出しながら攻め、反則を重ねるトヨタVに対し高い精度を見せていたラインアウトから執拗にトライを狙っていく。
脳震とうの疑いから一時退出していたHO武井日向に代わってLOをまかされていた大西将史の3度目のスローをLOロトアヘアポヒヴァ大和がキャッチ。CTBパークス、WTBメインまで加わってモールを押しきったBR東京がトライ。11-6と勝ち越した。
しかし、直後にトライとPGで11-16と再びリードを許したが、前半終了間際のリスタートキックからの相手8番のボールキャリーを、HO大西が低い姿勢で受け止める。ここでFL松橋がボールを抱え込んで倒れた8番の身体に手を伸ばしジャッカル成立。22m付近からFBマッガーンがPGに成功。14-16と点差を縮めて前半を終えた。
エナジーに満ちた終盤。11点差の逆転に成功
後半の入りは苦しい展開に。不必要にも映った危険なタックルやラックへのサイドエントリー、オーバーザトップなどで、12分までにPGを3本決められ14-25。点差は11点まで拡大した。接点での奮闘やセットプレーなどで素晴らしいプレーを見せていたが、規律の乱れで相手に主導権を渡す歯がゆい時間が続く。
ここでピーター ヒューワットヘッドコーチが動く。NO8ネイサン ヒューズ、SOアイザック ルーカス、CTB池田悠希を同時にピッチに送り込みエナジーの注入を託した。
直後の15分、NO8ヒューズのスクラムサイドを突くキャリーを起点にフェーズを重ね相手を後退させると、SOルーカスがギャップを抜け22mラインを突破。右側大外のWTBメインに長いパスを通すと、その内側に走り込んだFL松橋に戻し裏へ抜け右中間にトライ。角度のあるCVもFBマッガーン決めて21-25。
25分、次のスコアもBR東京に。敵陣深くのラインアウトから展開。19分に入れ替わったSH髙橋敏也がテンポよくボールを動かすとほぼ正面、ゴール前で相手が反則。PGを確実に決め24-25。
そして31分、前節に続き終盤を再び自分たちの時間にしたBR東京が仕留める。右サイド22mライン付近のラインアウトからモールでFWを押し込んだ後に展開。ポイントをつくりながら左サイドまでボールを運ぶと、SOルーカス、FBマッガーン、WTBネタニ ヴァカヤリアと短いパスでつなぎ左サイドを突く。WTBヴァカヤリアは目前の相手10番を弾き飛ばし、そのままインゴールへ持ち込みトライ。速さに加え強さでも魅せるスピードスターのトライでBR東京が29-25と逆転する。
勝利を手にするための試練の時間を耐えるBR東京。しかし残り1分、ゴール前ラインアウトを得たトヨタVがモールでプッシュ。インゴール右隅にボールを持ち込む。グラウンディングは映像判定に委ねられたが、直前にボールをこぼしていたとしてノートライに。
最後はFBマッガーンがゴールラインドロップアウトを相手選手に当ててタッチラインの外に出すキックでノーサイド。BR東京が逆転で今季初勝利を挙げた。プレイヤーオブザマッチはジャッカルなどで試合の流れを変え続けたFL松橋が選ばれた。
見えてきた勝利のビジョン
スタートメンバーが試合をつくり、リザーブメンバーの力を加えて最終盤を勢いを維持して戦う――。強豪を相手にしても接戦に持ち込めるようになったチームが、その先を目指す中で描き、遂行することを目指してきたラグビーがかたちになったゲームだった。セットプレーやエリアマネジメントといった前節で得た課題をしっかりと克服して結果に結びつけた修正力にもチームの成長がうかがえた。
接点を制する強いフィジカル。80分通して失われないフィットネス。この日のSO堀米や2試合連続で堅実なプレーを見せたCTB礒田凌平、HO大西といったポテンシャルを発揮しつつある選手たちがもたらす層の厚さがチームの安定感につながっている。BR東京がどのようにして勝利を掴み取ろうとしているのかが、言葉だけではなく、グラウンドで起きている現実から伝わってくるようになりつつある。苦しみを経て手にした1勝がもたらしたものは大きい。チームは巻き返しへの第一歩を刻んだ。
監督・選手コメント
ピーター・ヒューワットHC
掲げたクリアなプランを、選手がうまく実行してくれたと思います。50分から60分まではタイトなゲームになるだろうと思っていましたが、ベンチにはインパクトを与えられるメンバーがいたので、彼らが与えてくれたエナジーによって、80分までのファイトも素晴らしいものになった。すごくいい勝利だったと思います。頑張ってやってきましたが結果が出ていなかったので。チームのみんなのことを思うと本当に嬉しい。
(先発メンバーを入れ替えてのゲームとなったが)私たちはロックスターが揃っているチームではなく、スコッド(全てのメンバー)で戦うチーム。誰が出ていても心配はない。ゲームの展開的にインパクトプレーヤーが出ていくかたちがハマったとは思います。前半のメンバーがつくったベースにプラスをもたらしてくれました。
(今季発先発のFL松橋周平が素晴らしかった)前十字靭帯のケガからの復帰した選手。想定よりも2ヵ月くらい早く復帰を果たしたが、それは彼がプロフェッショナルであることの表れ。今日は準備万端であることを示してくれたと思います。泥臭い7番。ボールの上に入ったら本当に強い。
HO 武井日向キャプテン
開幕から2試合勝つことができなかったので、結果が出たことは本当に嬉しい。厳しい状況もありましたが、毎週の試合を通して成長を感じていました。ディシジョン(意思決定)も試合を重ねるごとによくなっていました。最後のモールのシーンもチームのDNAであるディフェンスができたもので、成長を感じました。やっていることは間違ってない。シーズンはまだまだ続くので、さらにレベルアップしたブラックラムズのラグビーを追求していきたいです。
(後半の入りに点差が開いたが、ついていった)チームとして80分を通して勝つラグビーをするというのが、徐々にできるようになってきている。それは全員が同じページを見てプレーできたことが一番の要因だと思います。全員が焦らず次の仕事、次の仕事と考え続けて、瞬間瞬間で正しい判断ができたことが結果につながったのかなと。
(ブレイクダウンやラインアウトモールなどがよかった)前の試合でリアクションのところが悪く、強いブレイクダウンができなかったというレビューが出ていて、そこにフォーカスして準備しました。試合をレビューして、正しい準備ができたというのが大きな要因だと思う。
HO 大西将史
(前半終盤、出場直後のラインアウトもうまくこなし、ディフェンスでもジャッカルにつながるタックルがあった)2週間、自分のやってきたことを信じてプレーした。HOはスクラムかラインアウトから入るのは多いので準備はできている。ラインアウトはコーラーを信じて、自分のプロセスをやるだけかなと。もしミスをしても、その後のゲームの中で取り返せないわけではない。そんなマインドでプレーしている。
(前節はややラインアウトでプレッシャーを受けた)少しシンプルに戻そうということで準備をしてそれが成功した。
(昨季から期待を背負っている。成長の実感があるのでは?)セットプレーの部分では成長できているかなと自分では感じています。
FL 松橋周平
(試合ごとに調子あげている)どうしても勝ちたかったんで。やるしかなかった。それが結果になったので嬉しい。ここまでの2試合は自分たちが受け身になっていたので、僕らがどういうラグビーをしたいかっていうのが重要だと。そしてそれを試合で出さないと、スタンダード(自分たちの実力)が出せないので。その出し切るということをまず意識するよう声をかけて、もちろん自分もそれを意識した。
(働きかけが響いている感覚は?)伝わっていると感じる。もちろんまだ成長段階のチームで、試合中も波がある。でも、みんなのやろうという思いが見えたゲームだった。年も明けましたし、ここからですね。
SH 髙橋敏也
(開幕からの2戦はチャンスを待つかたちに)チーム内の競争に勝って、試合に出て、また自分のパフォーマンスをする。そんなイメージを持って、チャンスが来るまではとにかくいい準備をしようと。チームの雰囲気もすごくよかったので、自分にできることを探しながら。今週は出番をもらって、今まで準備してきたことを出すぞというマインドでした。
(試合終盤、ピッチに立って考えていたことは?)相手のエリアで戦うというところと、相手のエリアに入ったら、FWをコントロールしてボールが止まらないようにすること。
(チームには多彩なSHがいる。競争も激しい)自分はキックやディフェンス、パスを全部高いレベルでやって、試合をマジメントするというところで強みが出せるタイプ。今日は後半からでしたが、そういうプレーができたかなと。まだまだ修正点はありますが。
(開幕前には日本代表候補にも。より高い目標に挑む段階に)自分はブラックラムズでも3年くらい試合に出られない時期があって、試合に出られるようになり他のチームと戦うことができるようになって、そして今回、日本代表というさらに高いレベルを経験できた。ただ、経験するだけで終わってしまったので、次は代表の競争に入っていけるよう、リーグワンで結果を出していきたい。
SO 堀米航平
(試合をつくる役割を担った)僕が10番に入るということは、ゲームコントロールを期待されての起用だと思うので、その役割は果たせたと思う。完璧ではなかったですけど。
(SOとしての出場からは遠ざかっていた)苦しかった時期もたくさんありましたが、僕の強みを信じ続けてやってきた。それが評価され、認めてもらえたのはありがたい。
(緊張もあったのでは? また、相手は想定していたようなラグビーをしてきた?)あまり緊張もせずいつも通りできた。実は事前に相手のプレーをそこまで見ていなくて、自分がやることにフォーカスしていた。だから相手が何をしてくるかとかはあまり気にしていなかった。
(規律面を除けば多くで上回っていたようにも映る。いいラグビーができているという感覚は?)ありました。堅いゲーム運びにはなったが、我慢強く戦えました。自分は正しいエリアで戦えるように蹴りまくった。FWを前に出して前でディフェンスさせれば、ジャッカルに強い選手もいるのでうまくいくだろうと。
(個人としても大事なシーズン)27歳になって、心身ともにいい状態。ここがスタート地点。自分は波のある選手だったが、それを小さくできるようになったと感じる。10番は信頼が大事なポジション。それを高めるためにより一貫性のあるゲームコントロールを心がけていきたい。
WTB ネタニ ヴァカヤリア
(チャンスが巡ってきている。思うようなプレーできているか?)ハッピーです。でも、まさに今、頑張っているところ。
(今日のゲームでも、うまくいったこと、いかなかったこと、どちらもある)はい。そうです。まだやらなければいけないこともたくさんある。少しずつね。まだ改善できる。
(試合で一番心がけていることは?)マインドセット。常にスイッチオンすること。あとはドミネート(支配)ね。
(トライシーンでもタックラーを弾き返した)そう。ああいうプレーにつながるマインドセット。If you can do it, you can! (できると思えばできる!)
■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=355
文:秋山健一郎
写真:川本聖哉