【Review】トップリーグ2020 第5節 vs 神戸製鋼コベルコスティーラーズ
2020.02.19
シンプルさ増したアタックで王者にプレッシャー。ディフェンスも安定。
今季初となる試合のない週末を経て、リコーは第5節を迎えた。この試合をもってリーグ戦は3分の1を消化したことになる。相手は4連勝と連覇に向けて突き進む神戸製鋼。昨季は27-63で敗れたものの、2017-18年は2度の対戦があり15-10、10-19と接戦を繰り広げた。まずは神戸製鋼の看板であるアタックに対し我慢を重ね、ロースコアゲームに持ち込めるかがポイントといえた。
曇り空の神戸・ユニバー記念競技場。FBロビー ロビンソンのキックで試合が始まった。神戸製鋼は右サイドのエッジを攻め上がる。リコーはFLエリオット ディクソン、LOデーモン レエスアス、HOベン ファネルらが荒々しくディフェンスしていく。
しかし、ハイタックル、ジャッカルを狙ってのハンド、タックルで相手を倒したあと立ち上がらずボールを奪いにいくなど、積極性の反作用ともとれる反則が続く。神戸製鋼は中央30m弱のPGを決めて0−3と先制。(前半5分)
再開後、リコーにチャンスが訪れる。右中間、敵陣22mラインの手前での神戸製鋼スクラムからこぼれたボールをSHマット ルーカスが拾い右中間をゲイン。トライラインまで5mまで迫ったところで神戸製鋼BKがハイタックル。PK を得たリコーは、ラインアウトにしてモールでトライを狙いにいく。
モールは押し切れなかったが、SHルーカスがボールを出しCTB濱野大輔が力強いキャリーでゴールに迫る。そこからオフサイドすれすれの出足で飛び出すディフェンスに手を焼きながらもボールを守り、フェイズを重ねていく。
我慢比べに勝ったのはリコー。ラック前方右端のFLブロードハーストマイケルを剥がしにきた相手1番に対し、横から入ったとしてオフサイドの判定。リコーは正面やや左、20mのPGをSOマット マッガーンが決めて3−3。(前半12分)
神戸製鋼の規律は整わず、再開直後のラックで再びサイドエントリーでオフサイド。リコーはPKで前進し敵陣での攻防とする。神戸製鋼のスローフォワードでほぼ正面、10m付近でスクラムを得ると、その左脇をWTBロトアヘアアマナキ大洋が鋭くキャリー。止めに来た9番がタックル後も立ち退かず反則に。30m強のPGをSOマッガーンが決め、リコーは6−3と勝ち越しに成功。規律の乱れを突きうまく戦っていく。(前半17分)
さらにリコーのペースが続く。ハイパントをキャッチして攻めようとした神戸製鋼が、自陣中央22mライン手前でボールをこぼす。これをNO8松橋周平が確保。ルーキーのCTB礒田凌平につなぐと、相手をひきずりながらゲインして22mラインを越える。右サイドに振りLOロトアヘアポヒヴァ大和がさらにゲインしてゴールまであと5mに迫る。しかし、ラックから内に戻したパスがこぼれノックオン。トライはならなかったものの、リコーはボール奪取からうまく連動して攻めてみせた。(前半20分)
しかし、空気を一瞬で変えてしまうのが今の神戸製鋼だった。スクラムから自陣で短いパスをつなぎリコーのディフェンスを動かすと、右のエッジを破る。これに呼応したサポートとの間でパスをつなぎ、追いすがるリコーのBKを翻弄。15番がインゴール右隅に達し、約80mをつなぎきってのトライ。CVは手前のポストに当たり外れたが6−8と逆転を許した。(前半23分)
相手の形でトライを喫したリコーだったが、シンプルで愚直なアタックとディフェンスに立ち戻り、主導権を相手に渡すまいと奮闘する。神戸製鋼もフラストレーションを溜めた様子を漂わせ、ハンドリングエラーやラインアウトでのミスが続く。
FL ディクソンの密集でボールキャリアの手に手を差し込んでのボール奪取、さらに直後のキッキングゲームに勝ったリコーは敵陣浅めの位置でラインアウトを得る。これをキープすると展開。SOマッガーンが目前のギャップを華麗に抜け中央を前へ。足にかけて右サイドに転がすと、インゴールまで足でボールをコントロールする。9番との競り合いになり、押さえたようにも見えたが、映像確認が実施されノートライに。(前半36分)
ノックオンとなり、神戸製鋼ゴール前でのスクラムに。神戸製鋼は再び集中力を見せる。左隅のスクラムから右へ展開。右サイドのエッジを再び破ってゲイン。リコーはゴール前まで戻ったFLディクソンが追いついてトライは許さなかったが、直後のディフェンスでオフサイド。右中間からの短い距離のPGを成功させた神戸製鋼が6−11と点差を広げた。(前半38分)
前半最後、リコーは敵陣でアタックのチャンスをつかむが、ノックオンで相手スクラムに。ホーンが鳴る中、自陣22mライン付近のスクラムから攻める神戸製鋼。リコーがややラックに人数を割く状況ができ、数的有利ができると展開し左サイドを攻め上がる。リコー陣内ゴール間近まで前進するとラックに。
FWで勝負に来るかと思いきや、その裏を通し中央で待つ10番にパス。10番は即座に右サイドにキックパス。WTBキーガン ファリアが追いかけるが、飛び出してきた22番が先に落下地点に入り、デッドボールライン間近でキャッチしてグラウンディング。鮮やかなトライで6−16。CVははずれたが、神戸製鋼が点差を10として前半は終了した。(前半43分)
後半の流れを決めた入りの失点。下を向かずに立ち向かう姿は見せた。
10点差はついたものの、敵陣に入って愚直に攻め続けることで相手のミスや規律の乱れを誘う戦いは、リコーらしさを感じさせるものだった。2度迫ったゴール前でトライが獲れていれば、リードを奪って試合を折り返すことも十分できた。そんな前半だった。
しかし、後半開始直後、神戸製鋼が再び力を見せる。深く蹴り込んだキックオフに対すリコーの折り返しがタッチを割ると、ラインアウトからテンポよくアタック。リコーも止めていくが、じりじりと前進されゴール前まで押し込まれる。すると中央の10番から左中間の12番へパス。12番は左サイドの11番に向けて、弧を描くようにうねって落ちる軌道のパスを通す。スローフォワードはなし。WTBアマナキ大洋とCTB礒田が止めにいくが、間に身体をねじ込まれそのまま左隅インゴールへ。11番のトライで6−21。CVは外れた。(後半3分)
15点差となり、これ以上の失点を許せば試合は決まるという状況に。だが、神戸製鋼の細かいパスをつなぐアタックはますます冴え、リコーはディフェンスに回る時間が増える。スクラムでのプレッシャーも高まり苦しい時間となる。
そんな中でも、相手のスローフォワードで得た自陣スクラムから、FBロビンソンが右サイドの裏のスペースへのキック。これに反応したWTBアマナキ大洋が拾いにいくが惜しくもつながらず。(後半9分)
さらに右サイド、ハーフウェイ付近のラインアウトを手前で合わせエッジを前進。ここから堅実にフェイズを重ねてディフェンスにプレッシャーをかけると、左へ展開。WTBファリアがサイドを突くと神戸製鋼にハイタックル。
リコーはPKをタッチに出し、左サイドのゴール前ラインアウトにする。ここで再び手前でリフトせず低い球で確保を狙ったが、相手にボールを奪われる。ボールをキープした神戸製鋼はキックでエリアを挽回。(後半15分)
神戸製鋼はチャンスを逸したあとに生まれるわずかな隙を、ここでも突いてくる。ハーフウェイ付近のリコーのラインアウトでオーバーしたボールを奪い2番が22mライン付近までゲイン。これを起点にフェイズを重ねていく。
リコーも食らいつき、パスの乱れを誘うシーンもあったが、神戸製鋼はそのあとに冷静な処理を見せてアタックを継続。乱れたパスを追いかけ生まれたギャップを突かれ、12番がブレイク。3番、5番とつながれてゴール前へ。WTBアマナキ大洋、CTB濱野が倒しボールをリリースさせるが、これに飛びついた9番がはたき後方に転がしてつなぐ。最後は外に立っていた6番に回し左隅にトライ。6−26。CVは不成功。(後半17分)
再開後、リコーはトライを狙いアタック。22mラインをうかがう位置でフェイズを重ねていく。神戸製鋼はラックでは激しいプレッシャーをかけてきたが、うまくいなしてテンポを維持し継続する。FBロビンソンがギャップを見出しPR千葉太一にキャリーさせるが、惜しくもボールがこぼれノックオン。(後半19分)
リコーは攻守でフル回転してきた面々を入替。LOポヒヴァ大和を柳川大樹に、FLディクソンをタラウ ファカタヴァに、SHルーカスを山本昌太に。(後半21分)
しかしすぐ後、ハーフウェイ付近のラインアウトから攻めた神戸製鋼は、左サイドのギャップを15番が突破。外の20番、内の21番とつないでトライ。CVは外れたが6−31。(後半23分)
リコーは直後の攻防で、HOファネルがジャッカルを狙ったプレーに対しホールディングの判定。反則の繰り返しを理由に10分間の退出を科された。(後半24分)
神戸製鋼は数的有利を利用し、リコー陣内浅めの左中間をFWで荒々しく攻めてリコーディフェンスを引き寄せると右サイドに展開。22番がリコーの最終ラインのタックルを外して右中間よりインゴールへ。回り込んで中央にトライ。CVも決まり6−38。(後半26分)
リコーはPR眞壁貴男を辻井健太に、WTBファリアを小松大祐に入替。(後半26分)また、直後に神戸製鋼のノックオンで発生したスクラムへの対応で、NO8松橋に替えてHO森雄基が入った。(後半28分。松橋は一時退出終了後の37分に復帰)
前節より上向きにあることは間違いないアタックへの自信を得るという意味でも、どうしてもトライを奪いたいリコーは、ハーフウェイ付近のスクラムからSH山本が短いキックを蹴り込む。ボールは神戸製鋼に入ったが、ディフェンスでプレッシャーをかけ、CTB濱野が地を這うような低いタックル。あわてて離したボールをCTB礒田が奪い立ち上がった濱野に戻すと、アジリティとパワーでゴール前までボールを運ぶ。しかしラックの寄せで神戸製鋼が一歩早くターンオーバー。(後半32分)
神戸製鋼は再び右サイドのタッチライン際を攻め、リコー陣内に侵入。こぼれ球をリコーが確保するが、エリアを取り戻そうとして蹴ったキックはタッチを割らず、神戸製鋼がカウンター。スペースの生まれていた左サイドにパスをつなぎ、スピードに乗った13番がタックルを外し外の8番へパス。そのまま左隅にトライ。CVは外れ6−43。(後半36分)
リコーはPR千葉を吉村公太朗に、CTB濱野を浜岸峻輝に、一時退出が解けたHOファネルを森に入替。NO8松橋が復帰する。(後半37分)
トップリーグ初出場を果たした吉村を加えたスクラムから攻めるリコーは、神戸製鋼の倒れ込みを誘いPK を得る。右サイドのゴール前ラインアウトにすると、手前に合わせトライを狙うが、待ち構えていたディフェンスに押し返される。ラックをつくるともう一度ブラインドサイドをWTBアマナキ大洋にボールを持たせて突かせるが、神戸製鋼は冷静に対応。アマナキ大洋は捕まり押し出される。
ラインアウトからのボールを神戸製鋼が80分経過のホーンまで守りキックアウト。6−43でリコーは敗れた。
次節は2月22日(土)、今季初めて東京・秩父宮ラグビー場で行われるNECとのゲームとなる。厳しい結果が続くが、間違いなくチームは前進している。苦しい日々の中で果たしてきている成長を結果という形につなげ、「再出発」とするゲームにしなければならない。
監督・選手コメント
神鳥裕之監督
今日はありがとうございました。多くのファンの皆さまの前でゲームができたことを嬉しく思っています。点差は開いてしまったのですが、前半には神戸製鋼さんを相手にかなりプレッシャーを与えるシーンもありました。苦しいチーム状況ではありますが、次につながる光が見えるパフォーマンスだったと思います。ただ、ディフェンスでプレッシャーを与えるまではよかったのですが、ボールを獲り返せたときに効果的なアタックができなかったり、ここ一番のセットプレーでミスが出てしまったりした。そこの差が神戸製鋼さんとの違いだったという印象です。ただ、今日見せてくれたエフォート(努力)は、次の試合に持っていけるという手応えを感じました。これからホームである秩父宮での試合が増えてくるので、そのあたりの強みも生かしながら戦っていきます。【以上共同記者会見にて】
(前半はよかった)少し光が見えたかなと。前半はここまでの試合でのベストパフォーマンスだったと思います。今の神戸製鋼さんを相手に「勝てるならこういう形だろう」という戦いを見せてくれた思います。
キーメッセージを考えるにあたって、松橋(周平)や濱野(大輔)と話をしました。感じていることは近かったですね。こういう状況が続くと「リコーらしくないぞ」という言葉をいただくこともあるのですが、そこでリコーらしさとは何なのだろうかと。愚直にスペースを奪って、何度もディフェンスして、僅差であろうがとにかく最終的に相手を上回って勝つ、そんなチームだったはずだと。メッセージとしては、とにかく前に出るディフェンスを取り戻そうと。相手のスペースを完璧に奪って、ここまで神戸製鋼さんが味わったことのないようなプレッシャーを与えよう。勇気を持って前に出ようと。そんな声をかけて、リコーらしさを取り戻すために時間を使いました。それを80分間続けることはできませんでしたが、前半40分でつかんだものはありました。
シーズンを振り返ったとき、「神戸製鋼戦の前半で、チームは“戻ってくる”ことができた」と思い出されるような、そんな試合になる。今やっていることを信じて立ち直っていきます。
NO8松橋周平共同主将
悔しいです。この試合には皆懸けていて、誰もが神戸製鋼さんが勝つと思っている状況で「食ってやろう」という思いがありました。前半、それをやってやろうという努力が見られたのは次につながる部分だと思います。僕たちのやりたいディフェンスという部分では、これまでの5試合の中で一番出せたとも思っています。神戸製鋼さんのアタックを狂わせたと思うし、嫌がっていたと感じました。ただ、やはりボールを獲り返した後、ミスをせずスコアまで持っていく力については課題があります。神戸製鋼さんは我慢して我慢して獲り切っていましたが、そこに学ばないといけない。悔しかったですが、自信になることも多かったので、この経験を次につなげて成長していきたいと思います。
(獲り切るには何が必要か?)まずはしっかり我慢してフィジカルでボールをキープすること。相手のブレイクダウンでのファイトに対しても負けずにファイトし続けること。そしてノックオンしてしまったり、反則を与えたりしないことでしょうか。そして相手のエリアで僕たちの強みを出していこうとする姿勢。例えば僕たちにはモールという強みがありますが、クリーンキャッチをして、いいセットアップして、押し切る。それをプレッシャーの中でもできるように精度を上げていく必要があります。
(相手の自陣からのアタックに苦しんだ。想定していたと思うが)スクラムではプレッシャーを受けて、BKに負担がかかる状況でいいキャリーをされてしまった。(リコーの)キックオフをキャッチした後、最初のフェイズで受けに回らせるのも、相手が望んでいることだったと思う。どこかでコネクションが切れて、それをやらせてしまった。僕たちとしては上がり続けるディフェンスがしたかったのですが、早いセットアップとスペースのある方にボールを運ぶ判断が素晴らしく、それで迷いが出てしまい、足が止まってしまうというのはありました。【以上共同記者会見にて】
CTB濱野大輔共同主将
前半は自分たちのスタイルが出せた。後半はスイッチオフになるタイミングが何度かあって、それが現状。前半についてもまだレベルアップできる部分がある。ただ神戸製鋼さんがパニックになりかけているところもあったので、ああいうラグビーを80分間続けられる力をつけたいですね。アーリーセットの部分だったり、簡単なところでのミスであったり、隙を見せてしまって得点につなげられたところがあったので、改善できる余地がある。しっかりレビューして高めていきたい。
(個人としては、フィジカルがさらに強くなった印象を受けるが)それは自分の強み。ボールを持ったらゲインラインを越える。ディフェンスだったら前へプレッシャーかけて相手を止める。そういう強みは見失わないようにしています。僕的にはまだまだですが。体重? 増えています。
(ターンオーバーしてからのアタックについて)そこから自分たちのシェイプに持ち込むか、どうやってアタックしていくか。準備は常にしているのですが、ラグビーは生き物なのでなかなかうまくいっていない。あと少しなんですが、ゴール前で我慢しきれていない。とにかく自分たちのラグビーをやりきること。今日の前半の感覚を忘れずに準備していきたい。
CTB礒田凌平(トップリーグ初先発・初出場)
いい経験をさせてもらいました。自分のパフォーマンスが100%出せたかとはいえません。タックルなどでミスしてしまい悔しい部分があるので。でもそれをファーストチームとの試合を通じて経験できたことは財産になると思います。(これだけはやろうといったテーマは?)キャプテンの濱野(大輔)さんが「自分ができること以上をやろうとしてもできない。ボールキャリーとタックルに集中してくれれば、俺たちがあとはサポートするから」と言ってくれて、頭をシンプルにして戦うことができました。
(トップリーグの印象は?)普段倒せている相手が倒せない。自分の感覚では決まっているタックルをしても倒し切れていない。それはこれまでのレベルでは味わったことのないものでした。このフィジカルやスピードに合わせていきたい。
文:秋山健一郎
写真:川本聖哉