【Review】トップリーグ2020 第3節 vs ヤマハ発動機ジュビロ

2020.01.29

「セットプレーで対抗し、相手の強みを削る」がポイントとなった一戦

「まだリコーのラグビーはできていない」。前節、初勝利をあげながらも、メンバーからはそんな声が聞こえてきた。そんな状況でも、ダミアン ヒルヘッドコーチが「選手たちの努力は見える」と言うように“足掻く”姿は見せている。今はこのマインドを保ちながら、冷静に必要な修正を図る局面なのかもしれない。第3節の相手はヤマハ発動機。まずは相手の強みにしっかり対抗し、それを削り取ることがポイントと思われた。

 

冬の京都・たけびしスタジアム京都は晴天。リコーのキックで試合が始まる。最初のチャンスはヤマハ発動機に訪れる。自陣でボールを回すリコーのボールを奪いアタック。すると守りに転じたリコーにノットロールアウェイ。ヤマハ発動機はPKでゴール前ラインアウトとする。

リコーはモールには対応し前に出させない。ヤマハ発動機はボールが出せずアンプレアブルとなりリコースクラムに。ヤマハ発動機はこのスクラムでアーリーエンゲージ。FKを得たリコーはボールを回し攻めるとパスが相手にあたりこぼれノックオンとなる。このプレーでPR西和磨が負傷。替わって眞壁貴男が入る。(前半5分)

 

リコーが敵陣に蹴り込むと、相手15番がキャリー、ラックに。ここでサポートした選手がオフサイド。リコーはPKを経て敵陣22mライン付近でラインアウトを獲得する。展開するが、パスのタイミングが合わずノックオン。スクラムでもコラプシングを獲られPKで後退。この試合最初のチャンスを逃すかたちになる。(前半8分)

 

ヤマハ発動機は右サイド、ハーフウェイ付近のラインアウトからワイドに攻め、左サイドをゲイン。リコー陣内のゴール間近まで迫る。だがリコーはここからプレッシャーをかけノックオンを誘う。スクラムとなりNO8松橋がサイドを突いて、SOマット マッガーンにつなぐと、CTBベリック バーンズのタッチキックでピンチを逃れた。(前半14分)

 

ハーフウェイ付近のラインアウトから再び攻めるヤマハ発動機。リコーはラックでNO8松橋がジャッカルしたが、直前に一度地面に手をついたとしてペナルティ。リコーはPKで再び自陣に攻め込まれた。さらにラインアウトからの連続攻撃を止めようとして危険なタックルを犯しペナルティ。(前半17分)

 

PKでゴール前ラインアウトにされたリコーは、モールでの前進は阻むが、ヤマハ発動機は左中間のゴール目前の位置にラックをつくる。パスを受け強くキャリーした5番がトライ。CVも決まり0−7。(前半19分)

 

リコーはPR柴田和宏が脳震とうの確認のため一時退出。替わって大川創太郎が入る。(柴田は戻らず、前半30分に交替)

 

再開後、ヤマハ発動機は自陣からボールを回し攻める。リコーはプレッシャーをかけていくが、ボール奪取には至らない。しかし、ようやく蹴ったボールはWTB渡邊昌紀からFBキーガン ファリアへ。中央で突っ込むと足掻いてゲイン。22mラインが見える場所まで運びラックを経て右に展開。

 

CTBバーンズからFLエリオット ディクソンへ。ディクソンは相手を引きつけると片手で外のNO8松橋ヘパス。松橋は狭いスペースをうまく走りゲイン。タックルを受けるが押し出される前にボールを後方へ。これを相手が弾くとFLブロードハーストマイケルが拾いSOマッガーンへ。ラックで相手にボールが出るが、直前のプレーがノックオンだったとしてリコースクラムに。(前半21分)

ゴールまで10mのスクラム。リコーは相手に押し込ませずにNO8松橋が出す。BKにつなぎ、CTB濱野が中央をキャリー。濱野は倒れずよく粘って前に出る。放したボールをマッガーンがもらいにいくがノックオンの判定。

 

キックで押し戻されたが、再び攻撃のかたちをつくろうとするリコー。しかし奥で合わせたボールがオーバー。これをヤマハ発動機がキャッチし、一気にリコー陣内へ。BKが押し出したが自陣深くまで前進を許すこととなる。ラインアウトをキープしCTBバーンズが敵陣深くにキック。カウンターへの対応でリコーにノットロールアウェイ。反則がかさんでいく。

 

PKで前進を許し、左サイド、22mライン付近のラインアウトに。ヤマハ発動機は勢いのあるアタックを見せる。リコーは前で止めようと努めるが、WTBが上がり左サイドの裏が空いているのを見て10番がキックパス。タッチライン際の5番が飛び出してキャッチし左中間にトライ。CVは成功せず0−12。(前半30分)

 

ヤマハ発動機は自陣のスクラムを押しペナルティを獲るとPK で前進。ラインアウトから猛攻を見せる。守りで後手に回るリコーは反則を犯しゴール前ラインアウトに。モールでの前進は阻止するが強いキャリーを繰り返しながら攻めるヤマハ発動機に対し、じりじりと下げられるリコー。ヤマハ発動機は右サイドでフェイズを重ねると、7番がこじあけ右中間にトライ。CVも決まり0−19。(後半37分)

 

前半終了直前、リコーはSOマッガーンのランでのゲイン。さらにハイタックが出てゴール前ラインアウトを得る。モールを組むとコラプシングでリコーにアドバンテージ。リコーは左隅から展開。SOマッガーン、FBファリアのランで右サイドをえぐると、WTB渡邊へ。ステップを切りゴールに迫るが相手の速い戻りに阻まれる。

 

ホーンが鳴る中、ボールは反則のあった左隅に戻されラインアウトで再開。またラックとなると、その脇をNO8松橋、さらにHO小池一宏がキャリー。そしてSH高橋敏也は狭いサイドを狙う。ボールはCTBバーンズを経てPR眞壁へ。鋭く走り込んだ眞壁だったがタッチラインの外に押し出され前半終了。

後半はよく攻めたリコー。スタンド沸かせたLOタラウ ファカタヴァのボールキャリー

リコーはメンバー入替を行わず後半へ。相手のキックをNO8松橋につなぎゲイン。放したボールは後方に転がったように見えたがノックオン。ヤマハ発動機は右中間のスクラムから左に展開しゲインするとすかさず右へ。リコーは数的不利をつくられ、WTB松本悠介は3人を待ち受けるかたちに。ボールキャリアの2番が自ら右隅にグラウンディグしてトライ。CVは不成功。0−24となる。(後半4分)

 

このトライの後、リコーはCTBバーンズを堀米航平に、HO小池をベン ファネルに、SH高橋をマット ルーカスに入替。(後半5分)

もう失点は避けなければいけないリコー。自陣でボール回すヤマハ発動機にプレッシャーをかける。LOロトアヘアポヒヴァ大和らの突破が効きアタックのテンポが上がっていく。ヤマハ発動機の組織的なディフェンスがやや乱れ、CTB堀米らが単独で飛び出すディフェンスを冷静にかわしてボールをつなぐと、SOマッガーンがギャップを抜け、ボールを足にかけ、敵陣奥に転がす。

 

ヤマハ発動機7番が先に手に収めようとするがこぼれ、マッガーンがつなぐ。FLブロードハーストが駆けつけラックに。立ったマッガーンがパスアウト。右中間をCTB濱野が相手10番をハンドオフして前へ。サポートしたHOファネルにボールが渡り、インゴールに達したが、これが前へのパスという判定に。(後半11分)

 

相手7番のノックオンアドバンテージが生きており、リコーのチャンスが続く。ゴールまで10m弱でのスクラム。NO8松橋が取り出しサイドを突く。残り5mのラックからSHルーカスが右へ。LOデーモン レエスアスがさらに右に出すもつながらずボールは相手へ。ゴロキックでタッチに出されエリアを挽回させてしまう。(後半13分)

 

しかし、リコーは再びチャンスをつくる。自陣でのマイボールスクラムからSOマッガーンが裏へ。ヤマハ発動機は対応が遅れ、ボールを拾うとプレッシャーを避けるために後方にパス。ここにNO8松橋、FLブロードハースト、WTB渡邊が詰め、カウンターラックでボールを奪う。右サイドから左へ展開。飛び出して止めようとするヤマハ発動機だったが、深めのラインをつくっていたリコーにはプレッシャーがかからない。CTB濱野は冷静にディフェンスの裏へ転がし、WTB松本がチェイス。ヤマハ発動機は追いついたが後方へ後方へと転がし、ゴールまで5mの位置でボールの争奪戦となる。ここはヤマハ発動機がキープ。

 

エリア挽回を狙った相手のキックをFBファリアがキャッチし、リコーは再びアタック。右サイドへ振り、WTB渡邊が前へ出る。その外のFLディクソンにつなぎさらに前へ。しかし相手7番の猛烈なタックルで押し出された。

 

しかし、ラインアウトからつなぐヤマハ発動機に対しリコーが襲いかかりボールを出させない。 FLブロードハーストが数メートル押し込み倒す。ペナルティを獲り、右中間、ゴールまで10m足らずの位置でボールを奪い返す。(後半18分)

 

リコーは、ラインアウトにせずその場から再開しFWが突っ込んでいく。密集で寝たままプレーをしたヤマハ発動機にペナルティ。リコーのチャンスが続く。

 

左サイドのタッチに出しラインアウトとするが、これが相手に。ヤマハ発動機はリコー陣内深くに蹴り込む。リコーはここもカウンターが決まりWTB渡邊が22mライン付近までボールを戻す。しかし、直後のラックでターンオーバーを喫する。

 

リコーはボールを奪い返しにいくがオブストラクションでヤマハ発動機ボールに。ここでWTB渡邊に替わり小松大祐。(後半20分)さらにLOポヒヴァ大和に替わりタラウ ファカタヴァ。(後半22分)

 

自陣に戻されたリコーだったが、ヤマハ発動機のラインアウトがオーバーし、バウンドしたボールをNO8松橋が競ると、阻みにいった14番の手が空中の松橋にかかる。映像確認を経て危険なタックルと判定されペナルティ。(後半23分)

 

リコーはPKをタッチに出し敵陣に侵入。ラインアウトから展開し、これに加っていなかったLOタラウを走らせ中央に突っ込ませる。豪快なキャリーにスタンドが沸く。このインパクトを生かしリコーが勢いに乗る。

 

ラインアウトのスチール、スクラムでのペナルティ奪取など流れをつくるプレーが続き、リコーは22mラインを越え再び攻勢。FWが中心となり前に出ていく。FLディクソンに替わり柳川大樹。(後半28分)

 

ゴール前ラインアウトを得たリコーだったが、これをキープできずボールがヤマハ発動機に入ってしまう。ボールを手にしたランナーを止めにいったCTB堀米のやや高いタックルに対し映像確認がおこなわれたが不問に。(後半29分)

 

ヤマハ発動機は自陣スクラムを強く押し前に出る。展開し10番が左中間から斜めに走り、右サイドのエッジへ。リコーはWTB松本がこれに対応し止めにいくがハイタックルに。(後半30分)

 

PKで後退させられたリコーは、ハーフウェイ付近のラインアウトをスチール。ここもLOタラウがボールを持ちキャリー。再び相手ディフェンスを貫く。このプレーを起点にテンポアップし、リコーがボールを動かし攻めていく。

 

しかし、SHルーカスが裏に転がすとこれを見てリコーは最終ラインにプレッシャーをかける。だが15番がステップを切ってかわすとカウンターとなり、するすると前へ。つないだ7番がさらにゲインする。

 

SOマッガーンが自陣22mライン付近で追いつき、倒すがサポートの数で上回っていたヤマハ発動機がつなぎきって21番が左隅にトライ。CVも成功し0−31。(後半35分)

 

最後までリコーはトライを狙い攻めた。しかし自陣で回したパスがわずかに乱れ、そこにヤマハ発動機がプレッシャーをかけボールを奪う。これをつながれ、左中間インゴールに運ばれた。トライ直前にWTB松本がボールに手をかけ落球をさせたが、映像確認で落ちたのは後方と判定されトライが認められた。CVも決まり0−38。(後半40分)

 

ホーンが鳴り、ラストワンプレーが確定した直後、右サイドをFBファリアが突き22mラインを越える。しかし相手23番につかまりタッチラインの外へ。リコーは最後まで攻めたがトライは奪えなかった。

 

ノーサイドの笛。リコーは0−38でヤマハ発動機に敗れた。厳しい結果となったが、後半はアタックを繰り返しここまでの2戦とは異なる姿を見せたのも事実だ。LOタラウのような突破役がディフェンスラインを揺るがした後は、テンポを上げフェイズを重ねていくシーンも多くあった。今節のゲームで得たものは少なくないはずだ。

 

次戦、神奈川・ニッパツ三ツ沢球技場でのNTTコム戦は今季初の関東でのゲームとなる。多くのブラックラムズファンの前で、ここまでの鬱憤を晴らすゲームを期待したい。

監督・選手コメント

神鳥裕之監督

今日はありがとうございました。完敗でした。先週のゲームで勝利を挙げることができ、連勝したいという気構えで臨んだのですが、ヤマハさんのフィジカル、セットプレーでのプレッシャー、このあたりによって自分たちのやりたいラグビーができませんでした。得点が獲れなかったというのも非常に悔しいです。ただトップリーグはまだ残り12節ありますので、下を向かずに立て直して、また来週から戦っていきたいと思います。

(後半はアタックの場面が増えた。ハーフタイムは何を求めたのか?)前半のアタックはフェイズを重ねる前にボールを失っていたので、一発で獲りきろうとしすぎずに、自分たちのシェイプを信じてアタックを重ねようというメッセージを出しました。それは実行してくれたと思います。後半から出場したLOタラウ(ファカタヴァ)、HOベン(ファネル)が勢いをつけてくれたことはいい材料。うまくいっていないと不安になるものですが、あわてずにやってきたことを信じることが次節に向けてのキーワードになるかと思っています。【以上共同記者会見にて】

 

リズムがつくれていないですね。(アタックでは)いいかたちでスペースや人数が余る状況をつくりだすことができていない。継続することでチャンスが生まれた場面もあったのですが、フィニッシュまでもっていけなかった。一方で、ターンオーバーされたときには一発でトライを獲られてしまったりね。

選手たちにそのつもりはないと思うのですが、知らず知らずのうちに急いでしまっているのかもしれない。一発でトライを獲ろうとしたり、一発でボールを奪おうとしたりしているように映った場面がありました。その結果反則がかさんだ可能性もある。

後半から出たタラウとベン、CTB堀米(航平)がいい仕事をしてくれました。堀米の12番というのは新しい領域ですが、思い切りよくプレーをしていて、それがパフォーマンスにつながっている。ラインアウトではLOデーモン(レエスアス)のいいプレーもありました。局面局面ではトップレベルと遜色ないプレーをしている。それをひとつの線につなげられるようにコーチたちと話したい。とにかく起きている想定外が何なのかを絞り込んで、そこを潰していくこと。明るく前向きにやります。

NO8松橋周平共同主将

今日はありがとうございました。今日は自分たちがやりたいラグビーが全くできませんでした。得点ができなかったのは、ヤマハ発動機さんのプレッシャーがすごくよかったこと、自分たちの反則の多さ、プレッシャーを受けている場面でのスキルなどが関係しているように思います。いいところまで達しながら最後に逃してしまっていたことについては、どこに問題があったのかをしっかりレビューしたい。この負けを糧に進んでいくしかない。次はいいゲームをしたいと思います。

(後半はアタックを継続し、前に出ていく場面が増えた)後半の最初に4つめのトライを獲られて攻めていくしかなくなった。しっかりボールをキープして自分たちのシェイプでフェイズを重ねていくのが自分たちのアタック。それができれば前に出られると思っていましたが、実際にそれができたのはポジティブにとらえたい。ただ、やっぱり最後のところ。スコアまで持っていく力をつけないといけない。【以上共同記者会見にて】

CTB濱野大輔共同主将

自分たちに、戦って行く中での適応能力がなかったというか。うまくいかないときにどうするべきなのかを、リーダーの自分やマツ(NO8松橋周平)がしっかり示して方向転換しなければいけなかったのですが、それができずみんなにプレッシャーをかけてしまった。個人としても、リーダーが見せるべきパフォーマンスは示せていなかったと感じています。しっかりレビューをして、「チームファースト」の意識を持って、一人ひとりが何をどう変えていくか、よく考えていく必要があります。自分たちのラグビーをやって負けたわけではなく、まだ出しきれていない状況なので、今は信じることが大事。まだまだここからです。

LOタラウ ファカタヴァ

(インパクトを示した)確かにいいプレーはできたかもしれないですが、トップリーグの試合のベンチに入る以上はこれぐらいはやらなければいけないと思っていました。やるべきことができたというのが感想です。(公式戦の雰囲気は?)これまでの試合とは全く違って、ピッチに入るときはすごくワクワクしました。ボールキャリーしたときのスタンドからの歓声は聞こえていて、すごくいいサポート、エナジーをもらいました。ありがとうございました。来週も出場する機会が得られれば、同じようなパフォーマンスを見せたい。また自分がやるべきことができればと。

WTB小松大祐

「ブラックラムズラグビー対ヤマハラグビー」という(相手の強み挑んでいく)シンプルなイメージで試合に臨んだのですが、アタックでもディフェンスでも精度が出せませんでした。でもやろうとしたことは正解で、差は実行力のところで出ていたと感じています。

(やろうとしたことというのは?)いろいろあるのですが、相手が得意とするセットピースで対抗していくこと、またアタックでシェイプ、自分たちの形を意識することなどです。ただ少し崩れたシチュエーションやターンオーバーからトライを与えてしまった。

今までは、ターンオーバーされてもディフェンスで我慢できていたと思うのですが、そこがこれまで通りできていない。我慢強いディフェンスは自分たちの強みなので、もう一度取り戻さないといけないですね。ラインスピードを上げてプレッシャーをかけていくことは変わらず目指していく中で、場面によっては個人の判断もしていこうとしているのですが、判断の部分で“同じページ”を見ることができていなかったのかもしれません。リコーのディフェンスが戻ってくればラグビーも変わってくる。

文:秋山健一郎

写真:川本聖哉

PAGE TOP