2012-2013 ワイルドカードトーナメント 対 近鉄ライナーズ
2013.01.29
3年連続で挑む、一発勝負の戦い
トップリーグ13試合を終え、リコーブラックラムズは昨年、一昨年同様にワイルドカードトーナメントに出場した。トーナメントは、トップリーグで5位から10位までに入った計6チームが、日本選手権への出場枠(2枠)を巡って闘うもの。リコーは1回戦の近鉄ライナーズ(7位)戦、これに勝利すると臨める2回戦・ヤマハ発動機ジュビロ(6位)戦に勝てば4シーズンぶりの日本選手権出場が決まる。だが、負けた瞬間2012-13シーズンも幕を閉じることになる。一発勝負の戦いだ。
強い北風の吹く近鉄花園ラグビー場。
白いセカンドジャージを着たリコーのメンバーが広がり、CTBに入った河野好光のキックで試合が始まる。ボールをキープし、近鉄が蹴り込んだボールをリコーが自陣でノックオン。さらにスクラムからボールを出し仕掛けたアタックに、10mラインを超えた付近で倒れ込みの反則を犯す。
ノックアウト方式の勝利が絶対条件のゲームだけに、近鉄は確実にスコアを狙う。2分、正面やや右、40m弱の位置から追い風も手伝いペナルティゴールに成功。0対3とした。さらに近鉄は5分にもスクラムからリコーのノットロールアウェイを誘うアタックを仕掛け、正面やや左からほぼ同じ距離のペナルティゴールを得たがこれははずした。リコーのミスと反則が目立つ試合の入りに。
ドロップアウトで試合が再開されると近鉄がアタック。しかしリコーも出足よく止め、前進を阻む。するとWTBロイ キニキニラウがラックでボールを奪いゲイン。NO.8マイケル ブロードハースト、FLカウヘンガ桜エモシとつなぎハーフウェイラインに迫るとここからアタックを継続、リコーが激しく攻める。フェイズを重ね前進すると、右サイドをWTBキニキニラウが突く。ゴールが近づくが、ボールがこぼれ近鉄に。近鉄はラックから展開し、リコー陣内深くにキックを蹴り込んだ。
これをFB横山伸一がキャッチ。前方の十分なスペースを使ってカウンターアタックを仕掛ける。巧みなステップでギャップを突破すると一気に中央ゴール前へ。右側をフォローしたWTB小松大祐へのパスは乱れたが、横山伸を止めようとした11番がレイトチャージ。これが危険なプレーと見なされ、11番は10分間の一時的退出処分を科された。ゴール間近、正面の位置でペナルティキックを得たリコーだったがスクラムを選択しトライを狙っていく。しかし、スムーズにボールを出せず、さらに反則が出てチャンスをつぶした。
ハーフウェイライン付近のラインアウトから近鉄がアタック。しかし、ランナーをライン際に追い込みタッチラインの外に押し出すWTBキニキニラウのディフェンスで止める。15分、自陣のラインアウトからSH池田渉がハイパントを上げると、右サイドを飛び出したWTBキニキニラウが長身を生かし弾んだボールを確保。タッチライン際を走るとディフェンスをハンドオフしゴールまで走り切り中央にトライ。コンバージョンも成功し、リコーが7対3と逆転する。
17分、近鉄がキックオフで反則を犯すと、リコーはセンタースクラムからNO.8ブロードハーストがSH池田へ球出し。池田は自ら走り右中間に走り込んだFB横山伸にパスしゲインさせる。近鉄陣内に攻め込みポイントをつくると、すかさずボールを出し展開。SO徳永亮からの1人とばした長いパスが左サイドを走ったWTB小松へ通る。小松はトップスピードに乗り、一気に左隅へトライ。角度のあるコンバージョンをCTB河野が決めて14対3とリコーがリードを広げた。
シンビンから11番が戻った近鉄はリズムを取り戻す。リコーの判断ミスを突きリコー陣内深くに侵入。ラインアウトからアグレッシブに攻め、ゴール前でフォワードが奮闘。そして23分、モールサイドを14番に出し、右中間に飛び込んでトライ。コンバージョンも決めて14対10と点差を縮めた。
直後、キックオフボールを処理した近鉄は、追い風を使いリコー陣内深くへキックを蹴り込む。これをFB横山伸がキャッチし、FLカウヘンガにパス。カウヘンガが突進しポイントをつくる。
ここからボールを出しフェイズを重ねながら、少しずつゲインする。右サイドに回ったカウヘンガが力強くラインブレイク。近鉄陣内10mラインまでゲインするとSH池田がSO徳永へ。徳永は前方にスペースを見つけると自ら走り、さらに前進する。左サイドをNO.8ブロードハースト、FB横山伸、WTB小松とつなぎポイントをつくると展開。中央でLO馬渕武史が縦に突きラックができる。ここからボールをピックしてLO山本健太が縦に飛び出す。しかしゴール目前で捕まりノットリリースザボール。自陣からボールをキープし攻め上がったリコーだったが、ここでボールを奪われた。ペナルティキックでハーフウェイライン付近まで押し戻された。
27分、近鉄はこのキックで得た右サイドのラインアウトより展開。フェイズを重ね右サイドに戻すと14番の動きを意識したリコーディフェンスの右中間のギャップをすり抜け12番が独走。サポートしゴール前でパスを受けた14番が中央にトライ。コンバージョンも決まり14対17とリコーを逆転する。
前半終盤はリコー陣内でのプレーが続き、主導権を握り続けた近鉄がリコーゴールに何度も迫った。36分、左サイドゴール前ラインアウトから連続攻撃を仕掛け、リコーディフェンスを崩すと12番がゴールに向かってゲイン、ラックからボールを持ち出した9番が左中間にトライを決めた。コンバージョンも成功し前半は14対24で終了した。2トライは奪うも、リコーの持ち味を生かしたアタックでつくった2度の大きなチャンスをフィニッシュできなかったリコー。リコーのミスや反則を突き得たチャンスを確実にスコアにつなげた近鉄。対照的な前半となった。
風上のアドバンテージ、生かせず守勢に
後半も近鉄が先にスコアする。1分、近鉄のキックオフボールの処理でリコーにアクシデンタルオフサイド。自陣22mライン付近でスクラムを与えると、近鉄はテンポよくボールを回しアタック。リコーもタックルしたがリズムを狂わせることができず、近鉄はゴールに迫り1番が右中間にトライ。コンバージョンははずれたが14対29とさらに点差を広がった。
2トライ2ゴールでも届かない15点差をつけられたリコーは、早い時間にトライが必要な状況に追い込まれる。しかし、チャンスまではつくるが、ゴール前で孤立気味のアタックを仕掛け、捕まって反則を取られる場面が相次いだ。要所を近鉄が押さえ、なかなか試合の流れをつかめない。9分、リコーはFLカウヘンガを覺來 弦、SH池田を湯淺直孝に交代。
12分、リコーは近鉄のアタックをよくしのぎ、反則を誘いハーフウェイライン付近まで押し戻す。さらにスクラムでまたも反則を誘う。タッチキックで近鉄ゴール前ラインアウトのチャンスをつくったが、これをスチールされチャンスを逸した。その後再び攻めたが、ボールはキープするものの組織的なアタックにつなげられない。16分、SO徳永をWTB小吹祐介に、WTBキニキニラウをCTBワイナンド オリフィエに交替。CTB河野がSOに入った。
19分、途中出場のCTBワイナンド オリフィエが自陣でこぼれ球を拾い逆襲。ライン裏にゴロキックを蹴る。近鉄はこれに追いつきラックでボールをキープ。なんとかタッチに蹴り出した。しかし21分、直後の左サイド10mライン付近のラインアウトからリコーが展開。CTBオリフィエが持ち前の判断力を生かし右中間のわずかなギャップを鮮やかに抜けた。ゴールまで快速を飛ばして走り切って右中間にトライ。コンバージョンも決まって21対29、残り時間約20分で8点差という状況をつくり逆転に望みをつなぐ。
一進一退の攻防の後、リコーがチャンスをつくる。途中出場のSH湯淺直孝がクイックリスタートを見せ、22mラインの内側に侵入。SO河野がフォローしゴールに迫るとボールを回す。しかしノックオンで近鉄スクラムとなった。
27分、PR長江有祐を高橋英明に、HO滝澤佳之を川口顕義に、NO.8ブロードハーストをコリン ボークに交替しスクラムに臨む。
リコーはボールを持ち出そうとした9番に鋭く飛び出しタックル。ノックオンを誘ってチャンスをつなぎ止める。そして29分、左中間22mライン上のマイボールスクラムという大きなチャンスを迎える。ここでトライを奪えば試合はもつれる重要な場面だったが、スクラムであえなくボールを奪われる。そして逆に右サイドを走られ、一気にリコーのゴール前まで攻め込まれた。近鉄はボールをつなぎ果敢に攻める。
一旦相手のノックオンでボールを奪い返したが、リコーは自陣ゴール前のスクラムで反則。31分、タッチキックでゴール前ラインアウトとした近鉄はモールを組む。リコーはうまく押し返したが、8番がボールをすかさず持ち出し右中間を突き、さらにつないで9番がトライ。コンバージョンも成功し21対36。リコーとっては痛恨の失点となった。
その後リコーはアタックの糸口を探ったがスコアは動かないままホーンを迎える。ホーン後、リコーは自陣からボールを回し攻めようとする意地を見せる。しかし、最後はミスでボールがこぼれ、拾われてトライを奪われた。リコーは21対43で敗れ、ワイルドカードトーナメント敗退が決定。日本選手権出場権は獲得できなかった。
「誰が出場しても、常に同じ目標に向かって闘うチームに」(小松大祐キャプテン)
「2012シーズン、いろいろな方に支えていただいてここまで闘ってきました。まず支えてくださった方に感謝を申し上げます。今日の試合は、近鉄さんにブレイクダウンでプレッシャーを受け、我々は反則を繰り返すというトップリーグとまったく同じような戦い方をしてしまったなと。今シーズンの最後としては、ちょっと寂しい試合だった」
今シーズン最後となる試合後の記者会見で、山品博嗣監督は無念の表情を浮かべた。トップリーグ最終戦でテーマとして見えていた攻撃時のブレイクダウン、モールディフェンスといったテーマについては、会見後にこう話した。
「モールディフェンスについては悪くなかったと思います。モールからゲインラインにアタックするところで問題はありましたが。ただアタッキングブレイクダウンについては、変わらなかった。ブレイクダウンというかボールを運ぶ人間がラックから1人でピックゴー(拾って抜け出す)して、サポートを引き連れないで攻めてしまい孤立する。そういう場面が前半から多かった」
相手ディフェンスが、突っ込んだリコーのボールキャリアを包み、サポートが追いつく頃には完全に倒されているというシーンは、シーズン後半何度も見られた。
何度もフェイズを重ね選手が入り乱れた状況でも、誰がどう攻めるのかのイメージを共有し続けるのは至難の技であるはず。だが、それぞれが察知し、反応することでサポートが入るまでのわずかコンマ何秒の差を稼げる。リコーのスピードラグビーの生命線は、そのコンマ何秒にある。
今シーズン、方針やコンディションで大きな差がなくても、そのわずかな狂いが試合内容を激変させていたこともあったように感じる。「チームがひとつになる」というと、精神面のスローガンに聞こえるかもしれないが、実際のプレーに直結しているのかもしれない。
それをイメージさせるのが、シニアプレーヤーのHO滝澤佳之の言葉だ。
「どこかでチームがひとつになりきれてなかった。1年間(勝てている時期も含めて)チームが完全に同じ方向を向けていなかった。それはこれからも継続したリコーの課題」。これはキャプテンを務めていた昨年も繰り返し言っていた言葉だ。
WTB小吹祐介はこう話す。
「忘れかけている部分があるのかな。今までできてきていたことが、できていなかったり、そういうことで試合に負けてしまう波のあるシーズンだった。大事な部分が少し軽率になっている。その結果が顕著に出た。
そうならないことが、このチームには一番大事なことだと思います。リコーのスタンダードと言っているけれど、自分たちが常に発揮できる力の基準を意識する。それは目指すラグビーが変わったとしても保たれるべきもの。どういったラグビーという話ではなくて、もっと根底にある文化のようなものをつくらなければいけない」
最終戦で指のケガから復帰したキャプテン・小松大祐。
「決してリコーは弱くない。自分たちの形にはまって、前半から攻撃的にいければどのチームにも勝つチャンスはある。ただ波がある。これについては、目を逸らさずに正面から対峙していく、ぶつかっていくしかない。
強いチームとの試合ではリラックスしてやれるのに、それ以外の相手との試合では、リードを許すと下を向きがちになる。そういう影響がパフォーマンスに出やすいチーム。来シーズンは相手がどうのこうのではなくて、まず自分たち自身を考え直したいと思う。そのために、まずリコー自身がチャレンジャーだという姿勢を取り戻す。トップリーグでやれていることが、当たり前のことだと思わないようにしないと。
キャプテンとしては、誰が出場しても、同じ目標に向かって闘えるようにしたい。シーズン途中から『One Team』という言葉を使ってきました。今シーズンはホワイトチームから上がってくる選手も増えたけれど、それであっても、グラウンドにいるメンバーで、目指すものが共有されているようなチームになれればいい。ホワイトとブラックはシーズンが始まると練習内容も違ってきたりで、難しい面もある。それでもなんとかやっていかないと」
新しい世代の選手の活用、リコーのラグビーの追求、そして結果を出す。こうしたテーマに同時に取り組む難しい舵取りとなった今シーズン。3つは連関しており、うねるように相乗効果を見せた時期もあったが、終盤は歯車のわずかなずれが厳しい結果を再三招き、過去2シーズン守ったトップリーグ7位から10位へと順位を落とした。
だがメンバーからは、自分たちのラグビーへの迷いを感じる場面は、今シーズン一度もなかった。自分たちに対する自信は確実に根づきつつある。個々に芽生えた自信と誇りを強固なひとつのかたまりにすること。その上でスタンダードを意識し、チャレンジャーとしてぶつかっていく姿勢を取り戻す。そうすればリコーはきっと次のステージにたどり着けるはずだ。
今シーズンも大きなご声援、本当にありがとうございました。
(文 ・ HP運営担当)