2011-2012 トップリーグ 第13節 対 トヨタ自動車ヴェルブリッツ
2012.02.10
"この先"を懸けたトヨタとの激闘
"この先"に進むには、互いにトライを狙う必要があった。
リコーはボーナスポイント1を取れば8位以内が決定。対するトヨタ自動車ヴェルブリッツ(トヨタ)も、ボーナスポイントを挙げての勝利が8位以内の可能性を大きく広げる状況にあった。その状況は予想した通り、そのままゲームでの激しさとして表れた。
13時、名古屋市瑞穂公園ラグビー場で始まったトップリーグ第13節のトヨタ戦は、接点での激しい攻防で幕を開ける。
SOタマティ・エリソンのキックオフボールの処理でトヨタがノックオン。リコーはいきなり敵陣22mラインの内側でスクラムを得る。だが、SH池田渉がブラインドサイドにボールを出すと、NO.8マイケル・ブロードハーストが縦へ。ラックとなるが、ここでトヨタは激しさをみせ、ボールを奪い獲りターンオーバー。
トヨタはインゴールエリアからキックを蹴り、エリア獲りに出る。タッチを割らず、リコーはボールを右サイドへまわし、FB横山伸一がカウンターアタックを仕掛ける。外をフォローしたWTBマーク・リーにつなぐと、リーは加速し、ギャップを抜けゲイン。22mラインの内側に侵入するが、駆けつけたディフェンスにつかまる。トヨタはまたも激しく絡み、リコーにノットリリースザボール。2度のブレイクダウンで2度のボール奪取。トヨタは、この試合に懸けていた。
ペナルティキックでリコー陣内に攻め込んだトヨタは、左サイドのラインアウトを、最後方で合わせ、中央をダイレクトに突く。フェイズを重ね、右サイドを13番、14番が突き22mラインを越えてくる。
ゴール前のラックで、今度はリコーがボール奪取。だが、キックを蹴るがノータッチ。トヨタは再びアタックを仕掛け、中央を8番が縦の突進。4分、リリースしたボール6番が拾うと、展開に備え広がったリコーのディフェンスを横目に、正面を突破。左中間にトライを決めた。コンバージョンは外れたが0対5とトヨタが先制。この試合に懸けたトヨタの気持ちが結果として出た。
試合再開のキックオフからできた密集でトヨタがノックオン。スクラムでリコーにもミス。ノックオンでトヨタスクラムに。トヨタはスクラムから出したボールを蹴ってリコー陣内へ。リコーはこの処理で出足の良いトヨタのディフェンスにプレッシャーを浴びる。ハーフウェイライン付近でつかまりノットリリースザボール。
トヨタはすかさずクイックリスタート。中央からの長いパスで左の12番へ。加速してギャップを突破するとそのままゴールラインに迫る。SOエリソン、CTB山藤史也がつかまえにいくが、12番が手を伸ばしグラウンディング、トライ。コンバージョンも決まり0対12。4分、7分と連続トライを奪って、この試合に懸けるトヨタが序盤のペースを一気に引き寄せた。
流れが変わった、WTB小吹のチャージ
リコーは流れを変えた。きっかけはWTB小吹祐介の闘志溢れるプレーだ。
キックオフボールを獲得しラックをつくったトヨタは、リコー陣内へのキックを狙ったが、鋭く飛び出したWTB小吹がチャージ。インゴールエリアに転がるボールを、そのまま押さえに走ったが、チャージしたボールは強く跳ね、デッドボールラインを越えた。
トヨタの勢いを受けていた序盤だったが、このプレーでリコーは流れを断ち切る。
ドロップアウトで試合再開。リコーはすかさずアタックを仕掛ける。SOエリソンのゴロキックで、ラインブレイクを図るが、これは拾われて、トヨタがタッチキックを蹴った。
リコーはハーフウェイライン付近左サイドのラインアウトを得て、これをキープ。中央でLOカウヘンガ桜エモシが突進しポイントをつくった。右サイドに展開し、今度はCTB山藤が鋭く縦を突く。ここはつかまったが前のプレーでトヨタのノットロールアウェイのアドバンテージが発生しており、リコーにペナルティキック。
このチャンスに13分、タッチキックを蹴ったリコーは右サイド22mラインの内側でラインアウトを得る。NO.8ブロードハーストに合わせ、モールに。さらにラックに移行し、SH池田が左へ。SOエリソン、CTBマア・ノヌー、FB横山伸とつなぐ。一枚余った形でボールをもらった小吹は、左サイドのスペースを悠々走り左中間にトライ。SH池田渉が蹴ったコンバージョンは外れたが、リコーが5点を返し5対12とした。
リコーはこのトライで、試合のリズムを奪った。この後の時間帯は、トヨタ陣内でプレーを続けた。セットプレーの安定性とキックの精度を保ち、試合をうまくコントロールし続けた。
26分、CTB山藤の縦へのアタックで22mラインを越えると、ノックオンで一度は相手スクラムになったが、スクラムでプレッシャーをかけトヨタから反則を奪い返す。
左サイド22mラインの内側のスクラムから、SOエリソン、CTBノヌーへ。ノヌーは一気に自分に寄せてきたディフェンダーの頭上を通すように、少し浮かせたパスを右中間のFB横山伸へ。横山もすかさず右のWTBリーへパス。リーが、そのままゴールラインを越えトライ。コンバージョンは外れたが10対12と点差を詰めた。
前半30分過ぎ。再びトヨタが集中力を高め、リコー陣内に攻め込んだ。22mラインの内側でアタックを続け、リコーの防戦が続いた。CTB山藤らのビッグタックルでなんとかランナーを止め続けた。
粘り強く攻めたトヨタは33分、右サイドゴール前のラインアウトからモールで前進。ゴールライン間近にラックをつくると、ラックのオープンサイドを6番が突く。さらにリリースしたボールを8番が拾って右中間にトライ。コンバージョンも決まって10対19とした。
そして前半終了間際、リコーが前に出た。SOエリソンのキックオフを飛び出したWTB小吹がキャッチに成功。ここから攻めていく。ラインブレイクを狙ったSOエリソンのグラバーキックが相手に渡ったが、トヨタがタッチキックを蹴り、リコーはサイドハーフウェイライン付近のラインアウトを得る。
これを展開し、右中間からFB横山伸が冷静にキックを蹴り、ゴール前までゲイン。ラインアウトをキープしたトヨタは再びタッチキックを蹴り、リコーは22mラインの手前でラインアウトを得る。
もう前半の残り時間はほとんどなかった。ラインアウトをキープしたリコーは右から左へ展開。
左中間でクラッシュしたCTBノヌーが鋭く縦に突破。歓声のなか、ディフェンスラインをかき乱すと、リコーはポイントをつくり今度は右へ。SOエリソンを経て、WTBリーが右サイドを突く。ゴールラインが迫るともう一度左へ。左中間のCTBノヌーから山藤、その後ろへ走りこんだノヌーがもう一度ボールをさばき大外のWTB小吹へ絶妙なパス。小吹は狭いスペースに詰めてきたディフェンスをハンドオフしながら粘り、引きずりながら右隅に飛び込んでトライ。
コンバージョンも決まって、17対19で前半終了。この先を懸けたトヨタとの激闘は、後半勝負となった。
後半序盤、トヨタが攻勢。 決定機をつくらせないリコー
後半、トヨタがリコー陣内に攻め込んで始まった。だが、リコーはキックで試合を切る冷静な対応を続け、前半のような決定機をつくらせない。
それでも、勝ち点5を挙げての勝利を目指すトヨタはひたすら怒涛の攻撃を仕掛けトライを狙う。激しいアタックに、リコーはゴール前で全員がタックルを繰り返す。
14分、左サイドゴール前のラインアウトから展開しアタック仕掛けたトヨタは右中間を突く。そこに低く鋭くCTB山藤のタックルが刺さると、こぼれたボールをSOエリソンがキック。前方へ転がったボールを、後方から飛び出したFL覺來 弦がセーブ。ここでトヨタがオフサイドを犯しターンオーバー。
長かったトヨタの時間がここでいったん終わり、リコーは13分にPR伊藤雄大から高橋英明に、15分にはCTB山藤史也から金澤良がピッチに。
16分、ペナルティキックで敵陣侵入を果たしたリコーは、左サイド10mライン付近のラインアウトを最後方のFL覺來に合わせ、中央をWTB小吹がアタック。ゲインしポイントをつくると、さらに右へ。ゴール前からSOエリソンがゴロキックを蹴り、インゴールに転がったボールを、外側を走ったWTBリーが押さえにいくが惜しくもタッチを割った。
17分には再び同じような位置のラインアウトから、CTB金澤がステップを切りビッグゲインしてゴールに迫った。このアタックはリコーにノックオンが出てトヨタスクラムとなったが、スクラムサイドを突いた8番をNO.8ブロードハーストが倒す。さらにLOカウヘンガが手を伸ばしボールを奪いターンオーバーした。
右中間にラックをつくると、SH池田はオープンサイドのCTBノヌーへ。ノヌーは相手をうまくかわすと、前方につんのめりながらも体勢を維持。中央のインゴールへ飛び込んだ。主審のトライのホイッスルが一度、吹かれた。アシスタントレフェリーからインゴールでノックオンがあったと指摘が入り、トライは取り消しとなった。
19分、リコーはNO.8ブロードハーストを馬渕武史に、HO滝澤佳之を森雄基に、WTB小吹をロイ・キニキニラウに。馬渕がLOに入り、LO柳川大樹がFLへ、そしてFL川上力也がNO.8に入った。
大きなチャンスを逃したリコーだったが、試合の主導権はつかんだままだった。再びトヨタ陣内に攻め込むと、CTBノヌーの突破、金澤のゴロキックなどで繰り返しチャンスをつくる。
そして24分。
リコーはボールをキープし、ハーフウェイライン付近でフェイズを重ねると、右中間でSOエリソンが自ら仕掛けポイントをつくる。SH池田からCTB金澤にパス、金澤は右サイドを鋭く走った覺來にパス。
パスを受けた覺來は、グイグイ加速してディフェンスラインをブレイク。22mラインの手前で内側をサポートした横山伸にパスがつながり、横山はディフェンスを試みた14番を抜き去った。横山がそのまま右中間インゴールへ。リコーは4つめのトライを決めて逆転。コンバージョンは外れたが22対19とこの日初めてリードを奪った。
リコーはこの瞬間、ボーナスポイントを獲得。この時点でワイルドカードトーナメント出場を決めた。
最後の最後に、横山伸の渾身のタックル
だが、このまま試合は終わらない。
残り15分。トヨタは逆転を懸け再び攻勢を仕掛ける。リコー陣内でアタックを繰り返し、何度もゴールに迫った。
リコーはディフェンスに集中し、タックルを的確に決め、ブレイクダウンでもアグレッシブに絡み、押されている時間帯の中でも、決定機はつくらせずに守り続けた。34分、WTBリーに替えて津田翔太が入りFBに。横山伸がWTBに。
ところが36分、自ら蹴ったパントキックの落下地点に走り込んだFB津田が、空中の選手にタックルする形となりイエローカード。10分間の一時的退出を科された。リコーは数的不利となったが、落ち着いて「勝ちきる」ことに集中した。
最後の最後、40分のホーン直後にトヨタが最後のアタックを仕掛ける。22mラインの内側でアタックを継続し、1人少ないリコーのディフェンスラインに何度も襲いかかる。ホーンから2分が経過した頃、左サイドのラックから大きく展開、右サイドを突く。14番が右隅のインゴールに向かって走ると、WTBに入った横山伸がこれを追い、膝の当たりにタックル。14番はバランスを崩しながらもインゴールに飛び込み、グラウンディング――騒然とするスタンド。
しかし、タックル後に脚がタッチラインに触れていたと判定が下る。そのままノーサイドを迎え、22対19でリコーはトヨタに辛勝した。マンオブザマッチは横山伸一が獲得した。
トヨタからの勝利は、リコーにとってトップリーグ創設以来初。チームとしては快挙だ。トップリーグでの7勝というのも同じく初めて。勝ち点は過去最高の38に達した。
試合後、選手は劇的な勝利に沸くスタンドからの声援に手を上げて応え、グラウンドレベルのチームスタッフも互いに抱き合って、握手を求めあう。闘いはまだ続くが、それでも一つの区切りを強豪相手に飾れた喜びに、チームには笑顔が戻った。
山品博嗣監督の試合後のコメントは以下のようなものだった。
「自分たちのラグビーをやるというところ。できたところもできなかったところもありました。できなかった部分としては、レフェリングへの対応ですね。(先制された序盤は?)受けちゃったのかなと。試合の切るべきところを切らなかったり。前節からの一週間は、ガツガツやるというよりはコンディションを整えました。今シーズンのチームとしては成熟してきているので、メンタル的に自信を持って、リラックスして臨むことを重視しました。
今シーズン通して言えることですが。相手によってデフォルトの形を少し変えるくらいはありますが、根本的にやることは変わらない。特に、今日のようにセットピースが安定したときには、しっかり闘えるなと感じました」
目標のトップ4までは勝ち点にしてあと3。本当にわずかな差だった。一時は可能性が遠くに消えかけたが、終わってみれば本当に目前にあった。
「それを言ったら全部"たられば"になってしまう。今は、とにかく先に進めることができたという気分。どこと闘うにしても相手は私たちより強い。気を引き締めていきます。今日は本当に選手を誉めたいと思います」
前節の東芝戦で、"不完全燃焼"を訴えたキャプテン滝澤も、今日は明るい表情を見せてくれた。
「今回も最初にトライを獲られたけれど、そこからずるずるいかずに修正できた。そこがよかったですよね。選手一人ひとりがすべきことを理解して、プレーできたからだと思う。(リーグ戦の結果には?)もう少し、行きたかったですけどね」
7勝5敗1分。勝ち点38。過去最高の成績を上げ、リコーは堂々の成果を残し、今年のトップリーグを終えた。だが、続きがある。
2週間のインターバルを空けて始まるワイルドカードトーナメントの相手は神戸製鋼コベルコスティーラーズ戦(2月18日(土)12時~ 大阪近鉄花園ラグビー場)となった。
「相手がどこでも、やることは変わらない。自分たちのラグビーを100%達成することに集中している感じ。本当に」
CTB山藤史也が強調していたこの意識は、理想論やスローガンではなく、今のリコーの本音だ。精神的なたくましさを増したリコーブラックラムズ。「一戦必勝」となるここからが、リコーの真骨頂。
の先を懸けて、必ずや花園でも「スピードラグビー」を軸に大暴れしてくれことを大いに期待したい。
(文 ・ HP運営担当)