2008-2009 トップイースト11リーグ第8節 対 NTTコミュニケーションズ
2008.12.16
見事に守り抜いた。
試合開始から20分間、一気呵成に攻め立てられたが、リコーブラックラムズは粘り強い守備を見せた。先制されるもすぐさま逆転し、あとは要所で追加点を重ねた。2008年12月13日の秩父宮ラグビー場、NTTコミュニケーションズとのトップイースト(TE)第8戦は24対10。1位確定へ大手をかけた。
『次の3試合は、ここ数年で最もリコーにとって大事な時です』
試合3日前、砧の練習グラウンド脇にあるロッカールーム、入り口前のホワイトボードにはこう書かれていた。そう。第8戦以降はTE上位チームとの直接対決が3つ続く、天王山だった。伊藤鐘史主将に言わせれば、「3戦ではなく1試合1試合。次のNTT戦しか見ていない」のだが。
準備段階から、トッド・ローデンヘッドコーチ(ローデンHC)は選手を鼓舞した。リーグ戦ではあるが、負けたら終わりのトーナメントと同様、と。
最終決戦を制するための「ファイナルラグビー」と銘打ち、これまでも時間を割いていた守備の整備に、より力を注ぐ。「ディフェンスを制すれば試合を、大会を制する」。そしてこれまで通り、いかに自分たちが積み上げてきたものをグラウンドで表現できるかを注視した。点差、ともすれば勝敗以上に、スキルや課題の「実行レベル」にこだわった。
さらに試合直前だ。伊藤曰く「映像や言葉で(選手の)気持ちを上げてくれる」というローデンHCらコーチ陣は、あるVTRを出場選手たちに見せた。メンバーから外れた選手らが自ら作成したというメッセージビデオだ。『みんなを信じている』、『(TLからTEに)落ちたからこそチャンスなんだ』。おそらく、自分たちがその場に居られないジレンマもすべて、「エール」に置き換えられていた。
伊藤はこれを「すごく熱くなりました。チーム一丸というのを意識できた」と振り返り、1年目のPR長江有祐も「気合いが入りました」。
キックオフから、リコーは自陣に張り付いた。が、迫り来るランナーの足元、胸元に喰らいつき、相手のフォローが来るころには、その眼前に分厚い壁を敷き続けた。SO河野好光副将は「(これまでの練習で)フィットネスがついてきている。気持ちも折れなかった」と、守り続けた原因を分析している。
また仮に守備ラインが崩されても、その後ろをカバーするプレイヤーが必ずいた。抜かれても、抜かれても援護が入る、以前指揮官が言っていた「虫がわいてくるような守備」を体現できたのだ。伊藤は言う。「やっぱり練習につきますね」と。繰り返された、それでいて単調でない猛練習で、自信を持って、楽しく守れたという。
得点も効果的に挙げた。前半19分にPGで0対3とされたが、24分、ゴール前ラインアウトからボールを受けた河野がそのまま走り込み、5対3に。32分にはラックから素早い展開、最後はCTB金澤良が駆け抜けた。ゴールも決まり12対3。
トライを取ったら、全員で喜びを表現した。河野曰く「トッド(ローデンHC)にトライを取ったらみんなで喜べと言われているんです」。内なる喜びを、時に必要以上に表現しあうことで、自分たちがいかに楽しんでいるのかを再確認できた。
後半も12分、WTBで先発し、途中からCTBに入った小松大祐が、相手を引きずりながらインゴールへ。35分、前半途中からFBで出場のスティーブン・ラーカムがふわり、ふわりとタックラーをかわし、一気にスピードを上げた。約50メートルの独走トライ。伊藤も「世界(のプレー)ですねぇ」と感嘆した。
終盤、40分に失点するも、それ以外は反撃を許さず。ノーサイドの瞬間は皆、スタンドから大声を挙げる控えのチームメイトに、大手を振って応えた。
課題もある。攻撃面、ローデンHCは「戦略をもう少し柔軟に考えて闘えれば」と指摘した。たとえばキックで敵陣に入った後、すぐさま頭を切り替えてボールを展開するなど、場面に応じた「切り替え」を、今以上にできるようになれればと考えている。さらに「ボールを持った時の集中力が欠けていて、今日も4トライくらいチャンスを潰していた」とも語った。「常にやらなければいけないことは多い。ただ、ひとつのチームになってきているとは感じます」。
あと1勝でTE1位が決まり、TL自動昇格も見えてくる。シーズン後、12月21日のセコムラガッツ戦はひとつのハイライトとなるかもしれない。ただそれでも、リコーは「ひとつのチーム」として、見えぬ「先」よりも自分たちの足元を見てグラウンドに立つ。
(文 ・ 向 風見也)