2008-2009 トップイースト11リーグ第7節 対 日野自動車
2008.12.02
「113」よりも「0」。
リコーブラックラムズの伊藤鐘史主将は、トップイースト(TE)第7戦、日野自動車レッドドルフィンズとの試合の実感をこう振り返った。場所はホーム、リコー砧グラウンド(砧)。今季唯一の砧でのカードとあって、試合終了後はリニューアルしたばかりのクラブハウスでOBと現役選手との懇親会が行われていた。
試合は113対0、リコーが圧勝した。 だが、スコアボード上の数字よりも練習内容の実行度合いを重視するチームにあって、得点、得点差はさしたる意味を持たなかった。同じ数字なら「0」、すなわち完封という事実に価値があったと、伊藤は振り返るのだ。
「ゲームコールは『ブラックアウト』。相手にトライを与えるな、ということ。ゼロで抑えたと言うことは『トータルブラックアウト』ですね。点差より、ゲームコールを遂行できたのが大きかった」
他の選手の実感も、また然りだ。これまでは圧勝しても僅かながら失点を許していただけに、無失点からくる達成感はひとしおだった。
ちなみに『ブラックアウト』とは、トッド・ローデンヘッドコーチ(ローデンHC)の造語である。ローデンHCは試合の後半20分以降を、『ブラックブラッドタイム』と名付けてもいる。"とどめを刺す、あるいは逆転する時間帯"との意識付けのために。大事な、しかしぼやけがちな概念を、選手にわかりやすく落とし込むのが上手い。
13時、透明な冬晴れのもとキックオフ。はじまりは前半5分だった。自陣ゴール前まで攻め込まれた日野がたまらずキック、ボールはリコーWTB横山伸一の正面に、それを受けたFB小吹祐介が棒立ちのタックラーをするするとかいくぐる。先制した。
次いで10分には、NO8ピーティー・フェレラがトライを決める。日野自動車は逆目(攻められる方向の逆側)の守備が薄いという分析結果があった。その逆目へSO河野好光が走り、フェレラがインゴールへ飛び込んだのだ。
この後もリコーは16分、敵陣10メートルエリアの左ラインアウトのクイックスローからWTB星野将利が、24分、ゴール前ラックからCTB小松大祐がそれぞれゴールエリアを陥れる。29分には河野が、日野自動車の前進する守備の裏にボールを蹴り落とす。それをCTB金澤良が拾い上げてポールの真下を通過した。31分には大きな展開からまたも小松が決める。前半だけでスコアは38対0に。
ローデンHC曰く、この試合で心がけたのは「ディシプリン」の徹底だった。得点ラッシュの間も、選手個々に定められた役割が全うされ、特に練習時に確認した守備組織は寸分のスキさえ見せなかった。
前節まで繰り返していた、ブレイクダウン(ボール争奪局面)で相手を勢いよく押し切る余り倒れ込んでしまう反則も、かなり減った。
河野曰く、リコーが後半先手を1分に決めたことで、日野は「切れた」。
ホームグラウンドに集まったファン、OBからの歓声の一部は、徐々に嘆息に変わった。
心身共に疲弊してきたであろう日野自動車相手に、リコーはあくまで"練習してきたこと"を繰り返し、それが後半の11トライに繋がる。
皮切りは1分、LO相亮太、次は3分、HO滝澤佳之。いずれも抜け出した選手への愚直なサポートが生んだものだ。LOエモシ・カウヘンガの自慢の突破力も、日野のタックルが高くなることで余計に、際だった。
唯一のピンチは終了間際、39分だった。一瞬の隙を突いて日野自動車がビッグゲイン。が、トライラインの直前でWTB横山が追いつく。反則こそ取られたが、相手がその後のスクラムからのつなぎでもたつく間隙、横山がインターセプトし、「おいしいところを持って行きました」。向こう側のゴールラインまで走りきった。
交替出場のSO武川正敏のゴールが決まり、ノーサイドとなった。
次戦は12月13日、ここまで1敗でTE2位のNTTコミュニケーションズと秩父宮ラグビー場で闘う。首位のリコーにとっては優勝争いの天王山だ。以降もセコム、三菱重工相模原と、上位を争うチームとの直接対決がそれぞれ中7日、中5日で予定されている。
ただ、意識すべきは敵よりも我だ。今後の指針について、ローデンHCは「ポリシーに磨きをかける」と表現した。新たな挑戦よりも、これまで積み重ねてきたことの精度を上げたい。実は、上位との対決を前に5戦(11月10日・日本航空戦)、6戦(11月17日・東京ガス戦)、7戦(11月30日・日野自動車戦)と、布石を打っていた。
「最初(5戦)は守備ライン、次(6戦)はタックル、そして今日(7戦)ディシプリン・・・。最後の戦のために必要なピースを確認してきた」
しばし用いる「ステージ」という喩え同様、大局を見る姿勢が伺える。
無論、課題はある。113点を挙げたものの、攻撃面では伊藤曰く「そこまで完璧じゃない」。以前から「人のいないところを攻める」ことを志すが、一朝一夕には身につかない。
リーグ終盤には、出場選手も限られてくる。出られる選手と、出られない選手の間の目に見えないモチベーションの差は、ラグビーに限らず存在する。ある中心選手は憂う。「出ている人が出ていない人の意見を聞かないとな」と。控え選手主体のサテライトゲームでも激しいプレーが目立つうちに、その状態を維持する手だてを考えたいという。
そんななか、ローデンHCは言った。
「選手は個人個人、高い"attitude"を持っていくことが大事。今週も直前に5人、(負傷などで)出場メンバーが替わった。いつであっても出られる準備をしていて欲しい」
練習試合などを増やし、今後も全員のプレーを見る機会を絶やさないつもりだ。チームスローガン"TAFU"の"U=Unity" は、強い組織に何より欠かせない要素だと、わかっている。
試合が終わった夜。懇親会、さらにはチームファンクションを行う。その後も選手達は、それぞれで時間を共にした。
(文 ・ 向 風見也)
世田谷区砧で活動しているピンキーズによるハーフタイムショー