2008-2009 トップイースト11リーグ第2節 対 釜石シーウェイブス
2008.09.24
試合直前のウォーミングアップ。LOの田沼広之は、どの選手よりも大声を張り上げていた。
動きと動きの間に間が空けば「ちょっと(気を)抜いたらこの雰囲気は壊れる」と弛緩を防ぎ、ラインアウトのチェックでは「ダミーの動きも大事」と、実際に飛ばない選手の動きにも目を配った。細部への思慮が試合の大勢を決めると認識しているのか。
これまで42の日本代表キャップを獲得、リコーブラックラムズの顔のひとりだ。35歳、実はここ数年、自身の現役続行について逡巡していた。が、今は吹っ切れた状態でグラウンドに立つ。
「リコーは大好きなチーム。それが最大の危機、いや危機以上の状態。ここで辞めるのは簡単だろうけど・・・」
その決意は、チームメイトにも肌で伝わった。伊藤鐘史キャプテンも「特に本人から言葉で聞いたわけではないけど、去年一昨年とは確実に違う印象があります」と言う。
2008年9月20日、岩手・盛岡南公園球技場。リコーはトップイースト第2節、釜石シーウェイブス戦に臨んだ。
開始早々の1分にSO河野好光がトライ、ベテランの声掛けもあって最高の立ち上がりだった。が、その後はミスを繰り返し、ホームの声援を受けた釜石の前に出る守備に苦しんだ。
31対13で勝ったものの、それぞれ反省の色を浮かべていた。
71対6と完勝した前節、実はトッド・ローデンヘッドコーチ(HC)曰く「正しいattitudeでプレーできなかった」。立ち上がりに続けて得点も、その後停滞した時間を作ったことに不満を覚えたのだ。
その意を踏まえた選手たちは、いつも以上に勢い込んで釜石戦に臨む。先制トライの後も、前半8分にHO滝澤佳之によるトライで14対0に。しかしその直後、リコー陣ゴール前で釜石の守備網に囲まれ、ミスを犯す。スコアを14対5とされた。
その後も反則やミスからボールを失う機会が多かった。特にブレイクダウン(ボール争奪局面)でしばし笛を吹かれる。PR長江有祐が「負けている印象はなかった」と言う通り、力勝負では圧倒的有利だった。それだけに相手をはじき飛ばす勢いが余り、前方に倒れてしまった。オーバーザトップ(ボールを覆い隠す反則)、ノットロールアウェー(タックル後にボールから離れない反則)と判定された。
20分には釜石が、そのノットロールアウェーから得たPGを決めて14対8に。
釜石の好プレーのたびに、芝生が敷かれたバックスタンドでは大漁旗が舞う。ラグビーでは珍しい"完全アウェー"の洗礼を、リコーは味わっていた。
前半24分にWTB池上真介のトライで19対8、リードしてハーフタイムを迎えるも、後半先手を取られた。2分。リコー陣22メートルライン手前左のスクラムから、釜石のSOでキャプテン、ピタ・アラティニの突破を許し、NO8馬渕勝のトライに繋げられた。
攻め込みながらもパスミス、インゴールを越えながえらノックオン。その後もリコーのミスは続いた。強い意気込みは、逆に選手の視野を狭める。それが焦りにも繋がり、ミスの元凶となるコミュニケーション不足を招いたのだ。
28分には後半から出場のSOスティーブン・ラーカム、34分にはこちらも途中出場のSH湯淺直孝がトライを奪った。が、「用意していたプレーはできなかった」と複数選手が言う。確かに、開幕節に見られた有機的なパス回しは陰を潜めていた。
田沼は、「ここまでの2試合で対照的な悪いところが出た」と振り返る。いわば"attitude不足"で消化不良となった初戦と、"attitudeの入りすぎ"からミスを繰り返した第2戦とそれぞれを分析した。「そういうなかでもしっかりとプレーをしないと」。試合前、あるいは試合中のコントロールについて、むしろ好材料を得たとも考えている。
ローデンHCはミスの原因を「試合中の指揮、ゲームコントロールがうまくできなかった」ことと指摘した。そして、その背景には焦りや相手守備の健闘があったと、選手からの感想が物語っている。今後のチームに何を望むか、指揮官はこう続けるのだった。
「プレッシャーがかかったなかでハンドリングエラーをしないこと。それから、エラーをすると何が起こるかをわかってほしい」
そういえば、ローデンHCによる"attitude"の定義づけは「どんな状況でもベストを尽くす」だ。この「どんな状況」の意味の幅広さを、原色の大旗の前で思い知らされた。
(文 ・ 向 風見也)