2008-2009 春 オープン戦 対 東芝ブレイブルーパス

2008.07.15

富士は日本一の山。山頂から覗く朝日は絶景だったという。

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 7月6日、未明、リコーブラックラムズはチーム全員で富士山を登った。敵の本拠地である東京都府中市で、強豪・東芝ブレイブルーパスと闘う6日前のことだった。

前日の午後まで砧グラウンドで合宿をし、最後の練習が終わった足でバスに乗り込む。到着した頃にはすっかり闇に包まれていた日本最高峰に一歩一歩、足跡を残していった。選手もスタッフも、裏方も。

後日、トッド・ローデンヘッドコーチ(HC)はそのことを振り返れば「good!」と笑みを浮かべる。「シーズンを一歩一歩、進んでいくという決心」のため、合宿最終日の登山を決意したという。下山して早速、兼ねてから召集されていた日本選抜の合宿に向った伊藤鐘史主将は、ブログにこう記した。

『ホンマに過酷やった~。最終日は練習に登山に24時間運動しっぱなし。人間やれるもんです。しかし富士登山はやっぱりキツかった』

富士への挑戦の前に行われた合宿も、またハードだった。点差には現われぬ部分を含め多数の課題を見つけた6月28日のマツダブルーズーマーズ戦を経て、7月3日から全ての選手が寝食を共にした。

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 目的は戦術理解とそれをグラウンドで表現するための体力強化、そして一体感の醸成だ。多種多様なサーキットトレーニングに、数多くのミーティング。まさにラグビー漬けの日々が続いた。合宿後、すべての選手の肌は黒くなり、身体は締まっていた。夏合宿の前なのに。

ローデンHCは、しばし用いる「ステージ」という表現でこう言うのだ。「今はステージが10あるなかの1。(東芝戦までには)もっと理解が進んだステージ2を」と。

なお、ここまでのシーズンで特筆すべきことがある。FWコーチの佐藤友重が選手兼任として、練習試合でも途中交代出場を繰り返しているのだ。怪我人が多いPR陣のバックアップとして、7月上旬からは現役選手とほぼ同じメニューを消化している。本人の実感は。

「結構、本気です。動きながらのほうが、外からでは見えないところも見えてくるし、教えやすいです。一緒にやりながらのほうが選手も聞いてくれますし。元々理屈っぽいのが苦手。昭和なんで、はは」

ずばり、指導者・トッド・ローデンの魅力とは。

「人を見極めるのが上手い。1歳違いとは思えないです」

 2008年7月12日、試合会場の府中・東芝グラウンドは『東芝ラグビー祭』の只中だった。

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 地域の子どもを対象とした体験ラグビーやグッズの抽選会などが、強い日差しのなか催される。突如、雷を伴う夕立に襲われたがまもなく晴れる。イベントのメインマッチと銘打たれた試合の直前には、元の猛暑となっていた。

雨で湿った芝生の上での厳しい暑さ。ラグビーをするには難しいグラウンドコンディションだった。しかしリコーには、春からこつこつと積み上げた心技体があった。

前半4分に東芝CTB高山国哲のインターセプトから先制点を許すも、その後はリコーがエリアを支配した。前半12分にスティーブン・ラーカムが相手守備陣を切り裂き左隅にトライを決め、スコアを5対7に。まもなく東芝が猛攻を繰り出すも、ボールキャリアに二人がかりで絡みつき攻撃を遅らせる守備で、相手のリズムを鈍らせる。怪我人等の事情で何と先発出場を果たした佐藤コーチも、ターンオーバーのきっかけとなるタックルを繰り出した。

後半先手はリコーだった。前半から機能していた守備からのトライ。6分、ハーフウェーライン付近での東芝の展開に対し、伊藤をはじめとしたバックロー陣が激しいタックルを繰り出す。左中間、2つめのフェーズでターンオーバーを奪い、途中出場のSH湯淺直孝が無人のブラインドサイドへクイックパス。こちらも後半から左WTBに入っていた星野将利が、約40メートルを駆け抜けた。

後半もリコーのフィットネスは落ちなかった。たまらず外へボールを蹴り出そうとする相手に対しては、最低ひとりが果敢にチェイス。それがキックの飛距離を縮めた。昨年からの課題だった後半20分以降も、この日は無失点に抑える。

最終スコアは14対26。個の力に長けた東芝に、前半27、38分、後半13分といずれもラックサイドを突破する形のトライを奪われていたのだ。しかも後半20分以降は、無失点だった代わりに無得点だった。

しかし、ローデンHCは選手をたたえた。試合後のグラウンド、円陣の中央でこう言うのだった。
「タフな状況のなか、よくやった。すごく満足ではないが、それなりに満足している。今はステージ10のうちの2。10まで行ったときにどうなるかを想像してほしい」

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 すっかり日焼けした伊藤も声をそろえる。

「チームとして、相手を凌駕する空気があった。(トップリーグ上位との)差は感じなかったでしょ?」

もちろん課題はある。ローデンHCはこの試合の失点の原因となった「ラックサイドの守備」を掲げ、伊藤は『練習での成果をいかに最大限発揮するか』を気にしていた。「日本選手権では今日のような相手と闘うが」との問いかけに、主将はこう答えていたのだ。

「強いチームになるとプレッシャーがある。そのなかで基本のコアスキルをいかに出せるか。普段の練習から高いレベルでやっていかないと」

ローデンが問題に挙げたラックサイドからの失点も、練習内容をさらに深化させれば、克服できるものかもしれない。軸ができた故に、課題と対策も明確になってきた。あとは、選手個々がぶれずに山を登りきるだけか。一番の要所だ。

最後の円陣を締めとして、伊藤はこんな言葉を選んでいる。

「富士山と同じで、頂上に行く過程で色んな困難がある。それを一歩一歩、乗り越えていこう!」

(文 ・ 向 風見也)

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