2008-2009 春 オープン戦 対 近鉄ライナーズ
2008.06.20
ドリンク、菓子がずらりと並ぶ。
2008年6月21日、近鉄花園ラグビー場、地元・近鉄ライナーズとの練習試合を終えた後のロッカールーム。リコーブラックラムズのチームファンクションが始まった。
このイベントを提案したのは新ヘッドコーチ(HC)のトッド・ローデン。チームの一体感づくりを目的としたのだ。集合した全員を前に、こう声を掛ける。
「一番大事なのは、ハードに闘うこと。そしてお互いの存在に感謝すること。(チームファンクションは)できるだけ毎試合やっていきたいと思います。こういう時間は上手く使えば試合について色々学べると思う。チームの公式行事だけどリラックスして、人生を楽しんで、意見交換をしてください――」
6月7日のクボタスピアーズ戦を経て、本格的に指揮を執り始めた。
練習内容は以前にも増してハードに。試合で当たり続ける体力、全体および個々の守備力を高めるべく、多種多様なメニューが一気に課された。
たとえば"コンバットフィットネス"の強化。ショートダッシュの合間に、砂場でボールを持たない1対1のコンタクトを挟み込んだトレーニングが行われた。砂場はこの練習のために急遽掘られたもの。皆、砂だらけになる。
守備面では、1人のボール保持者を2人がかりで潰すダブルタックルを提唱した。1人では止められぬ相手の動きを2人で確実に止め、その他の選手が余裕を持って次の守備に臨める算段だ。
無論、組織守備も落とし込んだ。2人で相手を止めた後の、他選手の立ち位置について指示を出したのだ。ポイントサイド(ボール保持者の周辺)の守備に通常よりも人数をかけるように、と。
このシステムでは、個々のフィットネスがより求められる。タックラーもすぐに起き上がらないと必要な人数が揃わないからだ。反面、数的優位を持って守ればチームは前を向いてボールを奪えるうえ、一転、チャンスが来る。「守備が攻撃に変わる事を理解させたい」。ローデンの狙いはそこにあった。
「練習がきついから早く寝るようにしています」と言う選手も出た。求められるものが多いから、練習時間、運動量が必然的に増えた。しかし、短時間のメニューがリズムよく組み込まれている練習のため、全体の集中力は途切れない。
約2時間半にわたる練習の直後、伊藤鐘史主将は「楽しかったですよ、本音で」と言った。
「厳しいなかでも楽しさ、充実感がある。(ローデンは)僕が求めていた、リコーが求めていたコーチです」
元々ポジティブな言葉を絞り出す方だが、それとはまた違うニュアンスを感じさせた。
近鉄戦は、その折に行われた。
曇り空ながら蒸し暑いなか行われた試合、前半は一進一退だった。
まずは前半5分にリコーが先制する。ゴール前右の近鉄ラインアウトをターンオーバーし、東海大学卒の新人SO津田翔太、関東選抜遠征帰りのCTB金澤良、新外国人のCTBジョエル・ウィルソンとリズム良く展開。この日WTBに入った瓜生靖治がボールを受け、並み居るタックラーを瞬時のステップワークでかわした。スコアは5対0。
25分に同点とされるも、31分にはゴール前左ラインアウトからボールを受けた津田が「トライラインまで短かったから」と自ら突破、サポートに入ったFL後藤慶悟がゴールポスト左横からゴールラインを越えた。コンバージョンも確実に決めて12対5。
リコーは35分にまたも追いつかれたが、直後の38分、ゴール前でウィルソンがグラバーキックをインゴールに蹴り込む。最後はFB小吹祐介が飛び込んだ。19対12。練習で取り組んでいた守備ラインも機能していた。
しかし後半、事態は暗転する。リコーは2分にターンオーバーからの独走から、さらに4分には22メートルエリアでのノックオンをさらわれ、それぞれトライを奪われる。直後にFB小吹祐介のトライで同点としたが、まもなく自陣での短いキックをチャージされ、勝ち越し点を献上。スコアは26対33。この試合でゲーム主将を務めたLO田沼広之も、これらの場面を「相手に与えちゃったトライ。チームとしてももったいなかったかな」と振り返った。
高温高湿のグラウンドコンディションも重なり、後半はフィットネスが低下したという。同時に、まだ取り入れて間もない守備意識がおぼろげになり、「(ダブルタックルができずに)外国人に1対1で突破」(瓜生)され、「(システムは)浸透しているけど、そこの位置にいるかどうか・・・」(田沼)という状態を招く。
結局、スコアは26対47。近鉄ライナーズが勝利した。
しかし、ウォーターボーイとしてこの試合に参画した伊藤は言う。「点差ほどネガティブには考えていません。これからじゃないですか」と。試合内容以前に、それまでの日々へ手応えを感じていた。試合後のチームファンクションについても「トッドのチームのまとめ方、上手いですよね。ああいうのがプレーにも影響すると思います」。ラグビーを知る人の多くは、この意見に同意できるはずだ――。
チームファンクションが終盤に差しかかる。ロッカールームを出る直前、ローデンHCは裏方スタッフをねぎらい、チーム全員の拍手を喚起した。「守備ではフィットネスと戦術理解度をもっと」など、修正点は多数あると認識している。しかし、ポジティブな言葉で試合を振り返るのだった。
「今は10段階あるうちの1段階。将来が楽しみに思える内容でした」
(文 ・ 向 風見也)