2008-2009 春 オープン戦 対 クボタスピアーズ
2008.06.07
リコーブラックラムズの新ヘッドコーチ(HC)であるトッド・ローデンが、シャープな輪郭に黒いサングラスをかけ、腕組みをしていた。6月7日、千葉県船橋市にあるクボタグラウンドで、クボタスピアーズとの練習試合を見つめた。
チームには4日から合流していたが、その間特に指導を行うでもなく、ある選手曰く「鬼軍曹」のように、じっとトレーニングを観察していたという。クボタ戦のレビューから、本格的な指導を始めるわけだ。
さて、その試合。選手側は、先週行われた九州電力キューデンヴォルテクス(九州電力)戦での反省を活かす意図を持って臨んだ。反省内容を一言で表せば"統一感"か。
大学日本一となった99年の慶應義塾大学、サントリー、そして神戸製鋼に所属し、そこから見出したラグビー観を持って、今季からリコーに刺激を与えているCTB瓜生靖治。ともにラグビーをする仲間との密なコミュニケーションを重要視している。この試合で初めてリコーのジャージに袖を通す好漢は、試合メンバー間の意思統一をミーティングに求めた。伊藤鐘史主将はそれに呼応し、選手をこう方向付けたのだ。
「ブレイクダウン(ボール攻防戦)での精度と激しさ、アタックでの切り替え、基本的な動き・・・。選手の気持ちで変えられる(戦術以外の)部分はしっかりしよう」
今季数多く入った新戦力はこのように、有形無形問わず貢献している。伊藤は続けた。
「たとえば渉さん(SH池田渉、今季三洋電機ワイルドナイツから移籍)が練習中に厳しい声を出したり、グラウンド内外でいい働きをしてくれていますね」
7日の2008-09シーズン第2戦、まずはその新戦力が活躍した。
まずは元オーストラリア代表SO、スティーブン・ラーカムが相手守備をぎりぎりまで引き付け、精度の高いパスを再三、繰り出した。
「みんなにボールを回して、楽しんでもらおう」(ラーカム)という意図を持っていた。結果、後ろから走り込むランナーを積極的に前に出す。ランナーが前向きに相手とぶつかれることで、伊藤が試合のテーマとしていた「ブレイクダウンでの精度」をも際立たせた。
前半6分、優位なフェーズを何度も重ね、相手ゴール前やや左のポイントからボールを受けたラーカムは、大外を走り込んでいたFB小松大祐にパス。先制トライを演出した。ゴールも決めて、スコアは7対0。
前半12分には大卒ルーキーの新戦力、明治大学でエース格だったFB星野将利がトライを奪った。
この日WTBとして出場した星野は、クボタ陣22メートルを越えたあたりでの混戦からボールを持って抜け出す。瞬時のスピードと、相手守備をかわすセンスを見せた。その後は前半17分にクボタに1トライを返されるも、今度はタックラーを力で蹴散らす突破を星野が見せる。前半23分の小松の2トライ目につなげた。
前半30分には、相手ゴール前でボールを受けたラーカムがぽっかりと空いた右のスペースへロングパス、星野が走り込んでトライという形も生まれた。スコアは33対12。リコーは前半、ペースを保ち続けた。
九州電力戦では失速した後半も4分、21分とCTB田中洋平が、27分には途中出場の新加入SH池田渉がそれぞれトライを奪うなどし、統一感を保ち続けた。しかし――。
ノーサイドから約30分後、Tシャツに着替えた伊藤がロッカールームから出てきて、反省の弁を述べた。
「あそこは疲れが出る、気持ちが落ちていく・・・。リコーにとってよくない時間帯ですね」
後半30分を過ぎてから、リコーはクボタに4トライを連続で奪われていた。後半途中から出場したLO井上隆行曰く「(点差が離れて気が緩むという)メンタル」や暑さによるスタミナ切れなどにより、ペースを崩した。
その状況下、伊藤は独走する相手ランナーに後ろからタックルを決めるなど流れを断ち切らんとしたが、チームが集中力を取り戻す事はなかった。それまでの大量リードも相まって54対29と大勝したが、試合終了間際の連続失点を課題として残した。
解決策、およびそれを実行するための手段は。試合を見つめていたローデンHCは、こう振り返った。
「フィットネスと集中力。特にゲームフィットネス(試合用の体力)が足りない。ゲームのシチュエーションの練習を沢山していく必要がある」
フルコンタクトの試合形式練習を数多く取り入れ、単調に走るだけでは身につかない、ラグビーをし続ける体力を、本格的に醸成させようとしている。この試合を通して「いいリーダー」だと確信した伊藤を中心に、普段から試合のような練習をしていくのだ。
――「走る練習が多い」という噂がありますが、本当ですか。
「ハッハッハ・・・」
この笑いが、真実である。
(文 ・ 向 風見也)