2007-2008 トップリーグ 第13節 対 福岡サニックスブルース
2008.02.06
長かった。本当に長かった。
ブラックラムズにとってあまりに色々な事がありすぎた今シーズンは、2008年2月2日、薄曇の空から氷雨が落ちる博多の森球技場でひとまず終焉を迎える。トップリーグ最終節、福岡サニックスブルース戦は29対21で勝利した。
試合後。一般企業の大会議室ほどの会見場に現れたFL伊藤鐘史主将は、この試合を「今シーズンを象徴するゲーム展開」と述懐する。機先を制し、前半だけで5トライを奪うも、後半は守備を修正したブルースにペースを握られてノートライ。逆に3トライを許している。
「後半になるとチーム戦術が浸透しないというか、ゲームをどう組み立てたらいいか(難しい)という展開に……。これが今シーズン、ずぅっと続いてしまったのかな」
後半苦戦した要因は、「エリア獲得が出来なかった」から。
「敵陣でプレーできる時間が短くて。で、自陣に入ったとき、どうエリアを挽回していくかが見えないからキック頼みに。キックの精度が悪ければ、ただ自陣に張り付けになってしまう」
シーズン中も伊藤は言っていた。「イケイケの時はいいけれど……」と。最悪の状況下どう過ごすか、そこが最後まで課題となった。
「"悪いときにどうする"(劣勢時にどう挽回するか)、というのがないと思います」
とはいえ、立ち上がりは攻めに攻めた。この試合、佐藤監督は「今季のベスト、プラス攻撃重視」とFLにエモシ・カウヘンガ、WTBにシュウペリ・ロコツイをそれぞれスタメン起用、結果、2人の突進力が存分に活かされた。ロコツイは2トライ。相手タックラーを引きずり、蹴散らすランニングはスタンドを沸かせていた。
会見時、その猛攻について質問される。
「……変なプレッシャーがなかったからかな」
こう言って、伊藤は笑った。
「会社の皆さん、ファンの皆さんに、お詫びと感謝の気持ちをプレーであらわそう」
最終節に向け、佐藤寿晃監督は選手にこう話していた。しかし、降格は「ボクにとっても選手にとっても初めての経験」。練習の雰囲気は少々どんよりした感はあったという。
「特に鐘史なんかは責任感が強いから、あまりにも強く責任を感じていて……」
LO田沼広之らベテランが率先して声を出し、ぎりぎりの士気を保つ事はできた。しかし、「降格のショックを見事振り払った」などと、美辞麗句では語れない状態であることは確かだった。
それでも、勝った。「今シーズンを象徴するゲーム展開」だった半面、「イケイケのときは取れる」ことも同時に証明できた。「変なプレッシャー」がない状態、つまり素の力はトップリーグにふさわしいレベルにあったのだ。
試合当日のスタンドを見渡せば、一部黒く染まっている部分があった。会見場を出た伊藤は言う。
「すでに降格が決まっているにも関わらず最後まで応援してくれて、熱い思いが伝わった。そういうのをプレーで表現しなきゃなと。それを、前半で感じてくれていれば(笑)」
どんなシーズンだったか、問われる。
「一番長かったです。ホント辛かった。今まで、すべてのシーズンで」
負傷欠場時、努めて口にしていた「外から見ることによって改めて勉強になる」という言葉も本当だが、最終戦直後の「辛かった」も、本当だ。
「一番辛い時期? 長いですね……。怪我をし始めたときくらいからかな」
来季へ向けては、「組織のプレーの精度を高めて、個人の負担を減らす」が課題と見る。
「"15人でどうする"というのを確立しなければと思います。チームの芯をしっかりして、どういうアタック、ディフェンスをするのか。ルール作りとその徹底。あとは練習でいかにクセ付けできるか。頭で理解していても、身体で覚えないと。そういうのが疲れた時に出てくる」
佐藤監督も言っていた。「シーズン中、鐘史が抜けてラインアウトが取れなくなって……」と。今季は15人での実践練習よりも、試合ごとに見つかった課題の克服に時間を割かざるを得なかったという。
だから伊藤も考えている。「もっと15人で練習する時間が増えればいいのかな」と。
前節終了直後にサニックスの試合を皆で「見よう!」と呼びかけたSH後藤崇志も、こう声を揃える。
「皆がもっと言い合いしなくちゃいけない。それで"こういうラグビーがしたい"ということを、はっきりしたところまで同じ方向に……。選手もそうだし、チーム全体としても変わっていく必要があると思います」
ベクトルをさらに一本化して、それを実戦形式の練習で繰り返す。「能力が高い選手が多い」(伊藤)からこそ、さらに一枚岩のチームを目指す。
これが、"1年で昇格"、"古豪復活"への近道となるのか。
しかし、その前に――。
「今まではメンバー外に協力してもらったんだから、来週、しっかり"仮想三洋"をやろう!」
試合直後の集合時、佐藤監督はこう言った。
2月10日、日曜日。13時に砧グラウンドで行われるサテライトリーグ・三洋電機ワイルドナイツ戦こそが、今シーズン最後のゲームなのだ。
(文 ・ 向 風見也)