2007-2008 トップリーグ 第12節 対 九州電力キューデンヴォルテクス
2008.01.29
ノーサイドから数分後。
雑然とした記者控え室では、まもなく共同会見が行われるところだった。
2008年1月26日、晴天微風の秩父宮ラグビー場。ブラックラムズはトップリーグ第12節、九州電力キューデンヴォルテクス戦に臨んでいた。この試合を負ければ事実上の自動降格を意味する。「今までも本気でやってきたが、それを超えなきゃいけない」(LO遠藤哲)という背水の陣。息つく間もないシーソーゲームだった。
トップリーグの会見は、負けたチームから行うのが通例である。監督、主将が敗戦の弁を述べて、質疑応答を受ける。一通りすんだら勝利チームが同じ事を、という具合である。降格争いとあって、多くの報道陣が集まった会見場。先にやってきた監督と主将は、司会者に「今日の感想」を促され、それぞれこう言った。
「えー、まず、今まで応援してくださったファンの皆さんに深く感謝します。トップリーグ、来年は出れませんので、1年で上がってくるしかないと……。どこが敗因か、冷静に見れば出てくるとは思いますけど、負けたという結果がすべて。それ以上でもそれ以下でもない……」
「ホントに最後の最後まで大勢の方に応援していただいたことを感謝します。とにかく今は、現実を受け入れるまでに、時間をください」
スコアは17対20。
先に共同会見を行ったのは、佐藤寿晃監督と伊藤鐘史主将だった。
「個人個人、能力を持っている選手は確かにいる。ユニットそれぞれの精度も徐々に上がってきてたんです。しかし、15人になった時のかみ合いの部分という部分でまだまだ不完全なチームで……」
会見場。来季への課題を問われた伊藤はこう述べた。確かに今季は、NO8ピーティー・フェレラのハードワークやCTBブライス・ロビンスのステップなど、各人が持ち味を出す場面は多分に見られたものの、勝負どころでのミスで試合を決められてしまうシーンがいくつかあった。
各チームとも守備が統制されたトップリーグでのゲームでは、得点チャンスはごくわずかだ。ルーキーのWTB小松大祐は「(10節の)コーラや九電はチャンスを活かせていた」と述懐していたが、そのわずかなチャンスをいかに決めるか、いかに凌ぐか、これがそのまま勝負の分岐点となる。
この試合でも後半33分。
自陣10メートルエリア右中間のラックからファンブル気味で出されたボールに対し、SO河野好光は「てっきり蹴ってくる」と思って、キックチャージに飛び出してしまう。ところが相手選手は右にパス、ブラインドサイドに数的優位を作られてしまったのだ。
たった一人ラインに余ったCTB金澤良は身動きがとれずにゲインを許し、FB小吹祐介がサポートに回るも、大外に回されるボールに追いつくには距離がありすぎた。
「組織で守るときにああいう事をしちゃうと……」(河野)
WTB吉永将宏のトライを許し、逆転。わずかなほころびを突かれたこのシーンが決勝点となる。
レフリーのホイッスルが試合終了を告げると、黒いジャージのフィフティーンは次々と枯れ芝に崩れ落ちた――。
試合翌日。
秩父宮ラグビー場にはブラックラムズの面々が再度顔を見せていた。次週の対戦相手である福岡サニックスブルースの戦いを観ていたのだ。
チーム総出で敵情視察をするのはごくまれである。しかし敗戦直後のチーム集合時、試合に出ていなかったSH後藤崇志が呼びかけたのだ。「皆で一緒に見ませんか。見ようよ!」と。
同日に熊谷ラグビー場で行われたクボタスピアーズ戦の結果を受けて、ブラックラムズの自動降格は確定した。
しかし、まだあと1試合、トップリーグの試合が行われるのだ。
(文 ・ 向 風見也)