2007-2008 トップリーグ 第10節 対 コカ・コーラウエストレッドスパークス
2008.01.15
ラストワンプレー。
4点ビハインドのブラックラムズは、自陣22メーターラインやや後方から最後の反攻に出た。スタンドからは悲鳴。終了ブザーはもう、鳴っていた。
スクラム、展開、ラック、オーバー。
2度3度フェーズを重ね、試合を通じて互角だったブレイクダウンのせめぎ合いから懸命にボールをつなぐ。陣地を10メートルラインまで戻すのだった。
しかし、ターンオーバー。無情にもノーサイドの笛が鳴った――。
2008年1月13日。冬晴れ、強風の秩父宮ラグビー場。
トップリーグ第10節、ブラックラムズはコカコーラウエストレッドスパークスに6対10で敗れた。
リーグ13位対8位。ともに背水の陣だった。終止符が打たれた瞬間、黒いジャージはその場でへたり込み、赤いジャージは喜び、飛び跳ね、抱き合った。いわゆる、“天国と地獄は紙一重の画”である。
試合後の記者会見。ここでの佐藤寿晃監督の言葉を借りれば、「向こうはワンチャンス、ツーチャンスをトライに結びつけ、ウチはチャンスを生かせなかった」一戦だった。
風上の前半、SO武川正敏のPG(14分)とCTBブライス・ロビンスのDG(17分)で6対0とするが、ゴール前まで攻め込んでの反則、ミスなどがいくつかあり、ノートライだった。
後半も懸命な守備で幾度となくターンオーバーを奪っていたが、シンビンで1人少なかった間にSH竹内恵亮のトライを許し(9分)、31分にはCTB徳住茂久に左タッチ際を走られた。
ブラックラムズは“FWで崩してBK勝負”という意思疎通のもと懸命に攻め立て、何度も敵陣ゴール前に侵入した。しかし、紙一重のミスが重なった。
ムードメーカーのLO田沼広之は控え選手に「ごめん!」と頭を下げ、同じくHO岡崎匡秀も渋い表情を見せる。責任感溢れるルーキーSH湯淺直孝は「自分のせい」と目を赤くし、影からBK陣をコントロールするCTB金澤良は「ラックサイドを守ってあげられなくて、湯淺にプレッシャーが……」とかばった。
それぞれがそれぞれの責任を、痛感していた。
会見後のミックスゾーン。
FL伊藤鐘史主将はつとめて前向きに述懐した。「すごいゲームでしたね」と。ボールの奪い合いが続く、切迫したシーソーゲームだったのだ。
この展開の背景には、FWの健闘があった。プランどおりブレイクダウンにこだわる。特にボールを奪われた後の低い守備が光った。後半、風下でありながら敵陣で試合を進めることができた。その要因も「ディフェンスで辛抱できたからでしょう」と伊藤は言う。
「スコット(ロバートソン・スポットコーチ)が来てディフェンスが整備された。組織で守れているから、一人ひとりも活きてくるんです」
守備で基盤を作ったからか。9分のトライで6対5とされた後も集中力を保った。失点直後、主将の指示はこうだった。
「ピーティー(シンビンで一時退場していたNO8・ピーティー・フェレラ)が戻るまでボールセキュリティーをしっかりして凌ごう、と」
その直後、逆にウエストレッドスパークスのLO・ルーク・アンドリュースがシンビンとなり(13分)、3分後にはピーティーが戦列復帰。
「ただ、ゴール前ラインアウトをミスコミュニケーションでターンオーバーされてしまった。後半のターニングポイントだったかもしれないですね……」
しかし、振り返るのはここまでだった。
ファンクション後の集合時、伊藤は選手にこう告げる。
「ああいう試合のあとは、“あの時……”と思いがちやけど、それはもう切ってしまおう!」
実は賛否両論だった試合のレフリングに、自分たちのあともう一歩でのミス。どれもこれも、もう終わったこと。ある意味での開き直りが必要なのか。
「開き直り……とは、ちょっと違うんですけど。今年に入ってから目標を定めているんです。まずは次の相手に集中すると。前の試合を引きずっても効率が悪いから。これが終わったら次の試合。神戸(11節の相手・神戸製鋼コベルコスティーラーズ)に目を向けます」
残り3試合。反省はするけど後悔はしない。こんな時だからこそ決起集会も開く。中5日での次節に向けて、まっすぐ、まっすぐ視線を据える。
(文 ・ 向 風見也)